38話 リバーシとミルクレープ
今日は、昨日言った通り休みにしたわけだが、どっちみち今日は休むしかなかっただろうな。
なんせ、外は雨が降っており、これではまともに仕事をすることができない。だが、この雨の中、買い物に行った子たちがそろそろ戻ってくる時間だ。
「ただいまー。まさか、傘をさしてもこんなに濡れるとは思わなかったわ」
「まったくです。行く時に比べて帰る時の方が降ってくるのは予想外でした」
「それぐらい予想してから行けばいいのに。はい、これで拭きな。そのままじゃ風邪引くかもしれないから早めに拭きなよ」
そう言って私は【ストレージ】から取り出した2枚のタオルをそれぞれ2人にわたす。
「ありがと」
「助かります、春人殿」
そして、テーブルの方に行くと今度は、ライオネルさんとこの街の唯一の武器屋の店主であるバイオルさんが私がアセドラインに頼んで作ってもらったリバーシ(オセロ)を買ってくれたのは良いのだが、それ以来ずっとこの調子である。
「またやってるんですか?そろそろ仕事に戻らないと、またヒナタさんに怒られますよ」
「この雨じゃ客なんて来やしないよ。それよりも春人さん、これもう1セットもらえないか?」
「あれ、たしかもう既に1セット持ってませんでしたっけ?」
アセドラインのところで作って販売してもらったこのリバーシを試しに部屋に持ち帰ってこっそりと式のひとりとやっていたのだが、私の部屋に入ってきたアイリスがまず注目したのは、やっぱり私の式の方だった。
「ねえ、春人。その女の人誰?」
「ああ、私の友人だよ。前にここの【テレポート】用の座標を手紙で送ったことがあって、それでたまたまこっちら辺に用事があった雪奈が【テレポート】でこの部屋に直接来て、そのままたまたまアセドラインから完成したばかりのこれを2人でやってたってわけだ」
「初めまして。雪奈と申します」
「そうなんだ」
本当は式札から呼び出した、なんて言えるわけがない。
「ところでその黒白のやつ何?」
2人でやっていたのだが、雪奈は白私は黒と現状私の方が勝っている。
「これはリバーシっていう娯楽品のひとつだよ。ルールは簡単だから試しに雪奈とアイリスの二人でやってみたら?やり方はその都度説明した方がアイリスは分かりやすいだろ」
「ええ、そうね」
その後、2人で戦ったが、経験の差で雪奈が勝利した。
負けはしたが、これを気に入ったアイリスはもう1セットないか?と聞いてきたので【ストレージ】に入っていたのをアイリスに渡した。
そして部屋へと戻ったアイリスはたまたま部屋の近くにいたトリスを半ば無理矢理自分の部屋へと入れ、さっそくやったという。
……というってのは、あとからトリスに聞いたからである。
そしてさらに、部屋へと来たヒナタさんもやった結果、案の定気に入り、私のところにもう一セットないかと聞かれたが、さすがに持っていなかったのでと言うしかなかった。
「そんなに気に入ったのなら買って来たらどうですか?平民用なら銀貨1枚程度で買えるはずですから」
「そんなに安いの!?だったら昼休みにでも買ってくるわ。ところでこのリバーシ?ってどこで売ってるの?」
「アセドライン商会で売ってますよ」
といった感じに段々とリバーシを気に入る人が段々と増え、今では貴族の間でも話題の娯楽品となっているのと同時に持っているのがステータスのひとつとなりつつある。
……ただの暇つぶし用に作ってもらったのが正直こんなに人気が出るとは思わなかった。
そんなこんなで現在、ご覧の通りである。
「ちょっとお父さんたち、いい加減仕事に戻ってよ」
「すまん、あともう1回、もう1回だけ」
「もう、しょうがないわね。あと1回だけだよ」
呆れ顔で言うヒナタさんとは反対にライオネルさんとバイオルさんがハイタッチをして勝負に戻る。
まあ、こんな2人だがさすがに雨が降っていない日中はやってはいないのだが、今は雨を言い訳にしてやっている。
今は確かに客もいない状況なのでヒナタさんも強くは言えないのだ。
そういえば、2人が買ってきたのはアーロンの新作菓子のミルクレープである。
※ミルクレープの作り方【約20cm】
(材料)
砂糖……30g、卵……2個、牛乳……300cc、薄力粉……100g、塩……ひとつまみ、溶かしバター(無塩)……15g、サラダ油……適量
(生クリーム)
生クリーム……200cc、砂糖40g
(手順)
1 ボウルに卵を割り入れて溶きほぐす。
2 牛乳を加えて混ぜる。
3 薄力粉、砂糖(30g)をふるい入れて混ぜる。塩、溶かしバターを加えてさらに混ぜ、こし器でこす。
4 冷蔵庫で20分ほど冷やして、再度混ぜる。(冷蔵庫がこの世界には存在しないので、代わりに氷魔法で冷やす)
5 フライパンにサラダ油を薄く敷き、中火で温めたら弱火にして生地を入れる。(フライパンを傾けて生地の厚さを平等にする)
6 まわりが焼けてきたらひっくり返し、15秒後ほどたったら取り出す。
7 ボウルに生クリーム、砂糖(40g)を入れてハンドミキサーでピンとツノが立つまで泡立てる。(ハンドミキサーも冷蔵庫と同じく無いため、代わりにホイッパーでかき混ぜる)
8 生地が冷めたら生クリームと交互に重ねる。
9 完成。
なぜ、ミルクレープかというと、単純に久しぶりに食べたくなったからだ。
それでそれを聞いた2人がさっそく買いに行っていたというわけだ。
ちなみにトリスは部屋にいるし、トワはアセドラインのところに行っている。トワももうそろそろ帰ってくると思うんだが、2人が勝ってきた量は明らかに多かった。
「ねえ、これなんだか少し多い気がするが……。まずアイリス、信女、私、トワ、トリス……あとの残りはどうするの?もしかしてこれも食べるとか?」
「違うわよ。この残りの分は大公爵様のところ用よ。それと、これ春人が届けてちょうだい」
「なんでまた……」
「いろいろとお世話になったんだからこれくらい当たり前でしょう?それに、ここから短時間で大公爵様のところまで行けるのは転移魔法が使える春人ぐらいでしょ」
「まあ、確かにそうだけども……」
「それじゃ、よろしくね。あ、ちゃんと春人の分は残しておくから安心しなさい」
仕方ない。それじゃ行ってくるか。
こういったのはやっぱり早めに食べてもらった方がいいな。
それにそろそろクリス様の定期診察の頃合いだし、ついでと思えば良いのか、な……?
そういえば、こないだ王都にこっそり行った時に大公爵がリバーシをかなり気に入って、文字通り日が暮れるまでだかろか、日が暮れてからも付き合わされたな。
今日も付き合わされるのか?
はぁー。と、心の中で一人ため息を吐く。
そして私は、ミルクレープのは入った箱を袋に入れた後【ストレージ】に仕舞い、【ゲート】を大公爵邸の門の陰に開いて向かった。
「美味しい!これすごく美味しいです!」
「はしたないですよ、リア。ですが、本当に美味しいわね。このミルクレープ?というのは」
リアとクリス様は大喜びで食べていた。リアに至っては、ミルクレープを半分に切り分けたと思うと、その半分を一気に口に運び食べる。
あんまり一気に入れると咽せるぞ?
「それにしても、やっと安定してきたクリスにこんなに甘いのを食べさせても大丈夫なのかい?」
「ええ、問題ありませんよ。それにやっとと言っても、もう前回の定期診察でですので、かなりの期間が空いているので大丈夫ですよ。それに病の影響でクリスにはかなりのストレスが溜まっています。少しでも甘いものを食べればそれが和らぐと思いますよ」
まあ、本当のところは、アイリスに言われて渡しに来たのだが……けど、クリス様自身はあまり気づいていないのかもしれないが、長い期間によってストレスが溜まっている。甘いものだったりを食べたりしたらしたらストレスが少しでも和らぐはずだ(個人差による)。
「いや、にしてもこれをいつでも食べられるアバリアの人々が羨ましいよ。君のように長距離転移魔法を使えば迷わず買いに行くのだが」
「よろしければ、レシピと作り方を屋敷の料理人に教えますよ。これを店にメニュー提供したのはこの私ですから。一応これでも調理師免許(宮廷)を持ってますから」
「これを毎日食べられるのですか?」
「さすがに毎日食べてたら太ってしまうから1週間おきにしておきなさい」
それぐらいの間ならちょうど良いのか?
正直言って、種族進化してからまったく太らない体質になったからその感覚がわからないんだよなぁ。
「まったく、本当に君は多才だね。正直君が羨ましいよ」
「そう言えば、ここに来たのは大公爵に用事があったからでもあるんです」
「用事とはなんだい?」
「以前話した件について新しい情報が入ったのでそれを伝えたく……」
「わかった、ここではなんだし、場所を移そう」
話す内容もアレなので、場所を一旦移動して話を続ける。
「以前からお話していた国王陛下の暗殺計画ですが、その捜査に進展があり、暗殺しようとしているのはおよそ8日後に行われる、『両国親善協議会』で毒を盛る計画を立てているそうです。使用する毒はおそらくバルハランでしか作られていない毒のため、バルハランの大使による犯行だと思わせることが狙いでしょうから十分気をつけてください。一応ベルンガ城の担当者があらかじめ潜入捜査をしているので多分大丈夫だとは思いますが、ベルンガ支部のほとんどは、これからその犯行の証拠固めをするので、国王陛下の方が少し疎かになってしまいますので、注意して下さい」
「ああ、わかった。城の者にも伝えよう」
「この事は他の者には一切伝えないで下さい」
「なぜだ?」
「こんな大それた計画をたった侯爵一人にできるとは到底思えません。城の中にも彼の協力者がいると考えるべきです」
「つまり、その協力者も一緒に捕まえようというわけか?」
「その通りです」
「開催2日前ら辺から私の部下も2名ほど潜入させますのでよほどのことがない限り、毒を服用する可能性はないと思います」
「そうか、それなら良かった。ところで話は変わるのだが、この後予定はあるかね?」
「ないですけど……」
この流れはもしかしたらやっぱりアレかな?
「それなら良かった。ちょうどリバーシをやる相手がいなくてね。どうだい?」
そりゃあ、あんなに強かったら相手もかなり限定されるよ。
その後、さっきまでいた部屋に戻ると部屋のテーブルの上にはなぜか既に、大公爵家の執事であるジアスがリバーシを置いていた。
いや、準備良すぎだろ!!
最初からこうなるとわかってたな。あの若干諦めた様な顔は……。
その後、何時間にも亙ってリバーシをやり続けたのは言うまでもないだろう。
リバーシの勝負は99勝1敗で私の勝ちだった。本来なら全て勝てたのだが、あのままでは絶対に解放されないと思い、あえて負けた結果この様な結果となり解放された。
そして、やっと帰れると思い玄関のドアを開けると、もうすっかり日が暮れ、夜になっていた。
懐にしまってある懐中時計を見てみると、もう九時近くになっていた。
あれ、確か私がここに来たのは午後の1時ちょい過ぎ当たりだから、大体9時間近くここにいたことになるぞ!しかもそのほとんどはリバーシの時間だったし……。
「なんだかリバーシが夢に出てきそう……」
と思いながら警備が少なくなった入り口付近から宿屋「宋花」の裏庭に【ゲート】を開き、そのゲートを潜り帰る。
その後みんなから届けるだけなのになんでこんなに遅くなったのか聞かれたので、リバーシに付き合わされたと説明すると、みんな納得したようで、私に哀れむ様な目で見られた。
頼むからそんな目で見ないでくれ!なんだか私自身も哀れに思えてくるから!!
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