37話 気の訓練
宿に帰り次の日、信女とトワの指導を宿の裏でしていた。
「ではこれより戦闘訓練を始める。まずは手始めに、2人まとめてかかってこい」
「ちょっと待ってください春人殿。それはいささか自惚れ過ぎではないですか?」
「信女さん。春人様は、自惚れることなどしません。これはただ単純に私達の連携を見たいということですよね?」
「ああそうだ」
「それに春人様なら私と信女さんそれにアイリスさんとトリスさんとも一緒に戦ったとしても間違いなく私達が負けます」
「トワ殿をそこまで言わせるほど春人殿は強いのですか?」
「はい。私は以前春人様の戦いを間近で見ていますが、私では長くとも10〜20秒程度しか持たないでしょう。つまりは今の信女さんでは間違いなく春人様には勝てないということです」
おい、トワ。それ以上言うと信女の戦意がなくなるから喋らないでくれ。
それにそれ以上言うとなんだか私の秘密も言いそうで怖いわ。
「そろそろ良いかな?」
「はい。こちらはいつでも良いのですが、質問を1つ良いですか?」
「なんだ?信女」
「何故、春人殿は体術用の道着を着ているのですか?」
体術用……もっと正確に言うと柔道着なんだけれどもね。ちなみに帯は元の世界と同じ黒の五段だ。
「ああ、これね。なんか指導をするんならこれが良いかなと思っただけだよ。ほら雰囲気って意外と大事だと思うんだよ……少なくとも私はね」
「春人様ってそういうのを大事にするタイプだったんですね」
「なんか少し引っかかる言い方だと思うのは気のせいかな……。少し、いやかなり長く話し過ぎたがそろそろかかってこい、2人とも」
そう言うと、2人が一斉に攻撃して来たが、それを楽々躱した。
そして少し後ろに下がると、信女の姿はあるがトワの姿が見当たらない。しかも気配も完全に消している。これくらいの技術なら、少し気配を感じられる相手ならばそれでも誤魔化せるが、そういうのに長けた相手だと逆に危険だ。
トワにはこの訓練が終わった後に気配を誤魔化す訓練も追加だな。
なぜ気配を完全に消すとダメなのか……。その理由は、気配がその部分だけ不自然な動きをみせる。
すると、そこに何かあるとすぐにわかってしまうというわけだ。
だから、さっきから背後にある不自然な空気の揺らぎはトワがそこにいるということであり、近づいているから今から攻撃しようとしていることがすぐわかる。
そして、背後からのトワの攻撃を避けてから素早くトワの手の甲に回し蹴りを繰り出して気配遮断が完全に解けた後、トワを素早く気絶させる。
そして残ったのは信女1人となった。
「トワ殿の言う通り本当に強いですね。ですが、私もそう簡単には負けるつもりはありませんよ!」
信女はそう言うと、さっきまでとは段違いに速くそして重い攻撃を繰り出す。
なかなかに良い動きになってきたな。だが、まだ動きが少し大雑把になっている。
信女が大きく刀を振り翳し攻撃しようとして来た瞬間に背負投をした後、拳を信女の顔面に当たる直前で寸止めした。
「これが当たれば信女の顔面は間違いなく潰れていた。剣筋はまだまだだが、攻撃の速さや威力に関してはこのまま鍛錬を怠らなければ、きっと強くなれる。この私が言うんだから心配するな。……それと、トワはいつまで気絶しているフリをしているんだ?」
「ば、バレてましたか……。いつからお気づきだったんですか?」
「お前が地味に指先を動かした時だから……お前が目を覚ましてほぼすぐだったな」
「そんな前からですか!?」
「いやさ、普通目が覚めて体が動かせるようになったら私が信女との戦闘に集中している間にこっそり背後から攻撃してくるかと思ってずっと警戒していたのに
お前は私に全く攻撃しようとして来ないし、それどころか動く素振りもないから一体何を考えているのか全然分からなかったよ」
まぁ、今日の2人の稽古はここまででいいかな。
「今日の戦闘訓練はここまでだ。次は気配隠蔽の訓練だ。この気配隠蔽は、気配を消すのではなく気配を誤魔化すものだ。気配を消すだけなら簡単だが、それなりの実力者には気配を消すだけでは効果があまりないが隠蔽……その他の気配に変える方が気配を消すよりバレにくい。だが、これはかなりの技術が必要になってくる。だから1回私の気配隠蔽を見てみると良い」
そして2人の目の前で気配隠蔽を使う。
「「春人殿(様)が猫に!?」」
猫の気配にしているから気で猫になりすますことが可能というわけだ。
気の使い方次第では、どのような形にもなれる。
「このように気を上手く扱うことが出来れば、相手には自分の姿を偽装する事ができるというわけだ。だが、この技術を知っている信女は覚えられる意外と早く覚えることが出来るかもしれないし、この技術を身に付けたいんだろ?」
「それはどう言う……まさか!」
「そうだ。これは無限……気闘剣の上位バージョンだ。逆に言えば、上位バージョンであるこれを身に付ける事が出来れば下位バージョンである気闘剣も出来るようになると思うぞ」
「春人殿、拙者にも出来ますかね?」
「できるさ。なんせこの私が教えるんだよ。むしろできるようになってもらわなければ私の指導力がないという事になるんだぞ。教育免許を返却するぞ」
「春人様、教育免許も持っていらっしゃったのですね。やっぱり春人様はすごいです!他には何か持っていないのですか?」
「えーと、神級魔術師とか調理師免許とか持ってるぞ」
「「神級魔術師!!」」
と信女とトワが驚く。そういや言ってなかったな。
この世界にある公式資格は全て取得しているわけだし、神級魔術師がいるかいないかで一国の軍事力が大きく変わると言われるほどだし、2人が驚くのも無理はない。
「ああ。だが、この神級魔術師になったのはつい2ヶ月くらい前の話だぞ」
「本当に最近取得したんですね……」
と、トワが少し意外そうに答えた。
あの時には既に取得していたと思っていたのかな。まあそう思われても仕方ないっちゃ仕方ないんだが。
「話がだいぶズレてしまったが、私が言いたいことはつまり、気を上手く扱うことができれば戦闘の幅も広がるし、なにかと便利だってことだよ。とにかく、百聞は一見にしかず。とりあえずやってみろ」
「はい。わかりました」
それから数時間後……。
「春人殿、どうでしょうか?」
「まだ部分的ではあるが、気配隠蔽を扱うことができているぞ。この調子なら気闘剣も使えると思うぞ。もっと練習をすれば、自分の分身を作ったりして相手を混乱させることもできる。少なくともこのまま続けるのもありだと思うぞ、私は」
「拙者一度、気闘剣をやってみたいのですが良いですか?」
「構わないよ。見てるからやってみて」
これは驚いた。
信女にはあまり無限剣(気闘剣)の才能は無いと思っていたがとんだ計算違いだったな。
無限剣を扱うことができているし、ていうかこれほどの使い手、家の家紋の剣士でもそうそういないぞ。
こう言ってはなんだが、この子のことを甘く考えていたようだ。
「信女、成功だ。私が思っていた以上に成長している。以前、私の域までは来れなくともと言ったが、この調子ならば私の域までなら2、3年といったところだな」
「春人殿はその域まで到達するのにどれくらいの時間がかかったのですか?」
「え〜と、4時間くらいかな」
「「はやっ!?」」
それを聞いていたトワも驚いていた。
「ほら、トワも頑張れよ」
「はい!」
信女は、アドバイスはあまり必要じゃ無さそうだな。
次はトワだな。トワの場合、型は良いんだが初めから全身を変えようと余計な部分にまで気をやって失敗しているんだよな。
「トワ、初めからそんな全身に気を纏うんじゃなくて部分的にやっていくんだ。例えば腕からとか、そういう風に慣らしていく方が一番効率が良い方法だ」
「わかりました。まずは腕ですね」
「あくまで例えばだから、別に腕からでなくとも自分がやりやすいところからやっていけば良いさ。特に無いのであれば腕からでも構わないぞ」
トワは私がそう言うと、腕からやり始めた。
意識し始めた途端、その腕の気配が別のものへと変わっていく。
それは段々とはっきりとしてきてそれが蛇だというのがすぐにわかった。
「コツさえ掴めば案外できるようになるものですね」
そう言っている間にも気を纏っていなかった左手も変わったかと思ったら、今度は足その次は胴と、段々と全身に気を纏う。
腕一本からここまで一気にできるとは……。この子の才能はもはや一種の化け物だな。
こうしてみてわかったが、トワはできないのではなく、やり方がわからないだけで、そのやり方さえわかれば大抵のことはできるみたいだな。
……すでに信女よりも気の扱い方が上手いしな。一体どうなってるんだよ、この子の技能吸収能力は?
2人共私が思っていたよりもできているし、これくらいの技術ならばスターズのやつでも本部に所属しているやつくらいしかわからないレベルだぞ、これ。
まさかこの2人にこんな才能があろうとは……。
「よし、今日の稽古はここまで。2人共、私の予想以上の成長で驚いたぞ。これからもしっかりと稽古に励めば、もっと気の扱い方などのレベルが上がってくるだろう。これからの2人の成長を楽しみにしているよ」
「これからも教えられたことを意識して春人殿に追いつけるよう頑張ります」
「私も春人様に近づけるよう頑張ります」
「ああ、頑張れよ。だが、決して無茶だけはするなよ。無理をして何かあったら元も子もないからな」
「充分承知しております」
「あ、そうだ。2人には言い忘れてたんだが、明日は休みにすることになったからもし、依頼を受けたかったら2人で一緒に行くか、私を連れて1つ上のランクの依頼を受けるのも自由だが、本音を言えばゆっくりしたいから行くんなら2人で行ってほしい」
「わかりました。明日依頼を受ける場合は2人で行くことにしますね」
「ああ、悪いがそうしてもらえると助かる」
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