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異世界転生術師  作者: 青山春彦
第3章 新たな仲間
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33話 信女の剣

 レクシディア伯爵邸の中庭の片隅(かたすみ)には武道場があり、その武闘場に案内されたとき、私は思わず目を見開いた。

 何故ならどっからどう見ても日本風の剣術道場(けんじゅつどうじょう)だったからである。

 磨かれた板の間に、壁にかけられた数本の日本刀?と木刀。そして、中央には神棚(かみだな)まであった。

 イシュタリカって、そんなところまで日本に似てるのかよ。

 300年近くこの世界にいるんならそこまで驚かなくても良いのでは?と思うかもしれないが、私は残念なことにイシュタリカ神王国は私の管轄外(かんかつがい)に位置しているため1回も行ったことがないのだ。

 日本に似ているところが多い国だとは聞いてはいたがまさか、ここまで似ているとは思わなかった。


「ここは、信重殿が(みずか)ら設計をして、当時の当主であった私の父上が建てた道場でイシュタリカ風に作られている」

「これは、実家の道場にそっくりですね。いや、懐かしや」


 うん。私も懐かしいよ。

 昔は、よくうちの剣士隊の訓練なんかを家の道場で指導していたっけな。

 私も稽古(けいこ)の時に剣術だけでなく、(古流)柔術、柔道、合気道、空手道なんかもやってたけな。本当懐かしい。

 伯爵が台の上に種類が様々ある木刀を数本並べた。


「その中から好きな木刀を選ぶがいい。左から握りが太い順に並んでいる」


 道着に着替えた伯爵が帯を直しながら一本の木刀を手に取る。

 信女を舐めているという訳ではなさそうだな。

 そして信女は、木刀を何本か手に取り、握ってみたり、数回素振りをしながら、そのうちの一本を持って道場の真ん中で伯爵と対峙(たいじ)した。

 信女が取った木刀は普段から使っている刀と一番近い太さのものである。


「お前達の中に回復魔法を使える者はいるか?」

「私とこの子が使えます」


 伯爵の言葉に手を上げて、トリスの方を見た。

 どうやら伯爵は少し本気で怪我をさせてしまうという前提で戦うようだな。

 経験の差から見れば伯爵の方が上かもしれないがはてさて、どっちが勝つのやら?


「遠慮することはないな。それではお互い全力で戦えるというものだ」


 二人の試合の邪魔にならないように端の方にあった席に座る。

 この際だ、信女がどういう戦い方をするのかをもっと詳しく調べることにしようと思い。懐からスマホを取り出してビデオモードにして撮影準備を始めた。


「……何をしているのです、か?」


 まぁ、これを知らなければ疑問を持つのも当然だわな。


「信女の訓練メニーの作成の参考にでもとね」


 そうトリスに答えている間に審判役(しんぱんやく)を買って出たアイリスが二人の間に入り、右腕を上に上げて互いに準備が完了したのを確認し、声を上げる。


「では、はじめ!!」


 その合図と同時に右腕を勢いよく下に下ろした直後凄まじい速度で信女が伯爵へと斬りかかりに行った。

 だが伯爵はその攻撃をすべて木刀で軽く受け流した。

 信女は後ろに飛び下がり、伯爵に向かってじりじりと円を描くように対峙しながら、互いに回りこんでいく。

 しかし、伯爵は一度も信女に攻撃を仕掛けない。

 伯爵が攻撃を仕掛けないその理由は、簡単だ。

 信女の攻撃パターンを確認するためである。


「この勝負、伯爵の勝ちだな」

「え?」

「なるほど。よくわかった」


 伯爵はまだ余裕そうだが、信女の方は息を切らし明らかに体力を消耗(しょうもう)していた。

 信女はもう限界そうだな。


「お前の剣は正直過ぎるほど正直だ。私が習った通りの剣だな」

「……それが悪いと?」

「べつに悪いとは言っておらん。だが、お前はそれ以上上の剣士となることは今のままならばできはせん」


 伯爵との戦い方を見てみて信女は型を実戦で使えるように速くしたという感じで、応用が見られなかった。

 その為、私は伯爵が勝つと思っているし、それにまだ伯爵には奥の手を隠し持っていそうだしな。

 

「では、いくぞ!」


 伯爵が一歩出た瞬間信女の間合いにおりそれを受け止めようと信女は木刀を頭上に掲げた。

 受けようとしてはだめだ信女。そいつは罠だ!

 だが、そんな私の思いは届かず、骨にヒビが入った音を立ててそのまま左脇腹押さえながら倒れ込んだ。

 

「そ、それまで!!」


 アイリスが驚きながら試合終了を告げる。

 もしもこれが真剣だったならば信女は間違いなく胴体を真っ二つにされていたことだろう。

 そして、立ちあがろうとした信女を伯爵が止めた。


「今は動かん方が良い。おそらく肋骨(あばらぼね)が何本か折れている。下手に動くと肺に刺さってしまうぞ。すぐに回復魔法で手当てしてもらえ」


 私は苦痛に苦しむ信女の元へと駆け寄り、回復魔法をかける。

 しばらく回復させていると痛みが引いたようで、信女の表情も(やわ)らいだ。


「……もう大丈夫です。ありがとうございます」

「動くようになったとはいえども一応、骨は回復魔法で繋がったが、これ以上の戦闘はくっついた骨が変形してくっつく恐れがあるから禁止だよ」

「勝負はもうついたので戦うことはありませんよ」


 私にそう言うと、信女は伯爵の所へと行き頭を下げた。


御指南(ごしなん)ありがとうございました」

「お前の剣には技術がない。正しい剣だけでは道場剣術の域は出ることはできぬ。決してそれを悪いとは言わん。強さとは己次第で違うものなのだからだ」


 蛇が獲物を狙うような鋭い眼光で信女を見る。


「お前は剣に一体何を求めそして、なんのために戦うのか、今一度よく考えてみたらどうだ?」


 そう言い残して伯爵は道場を去った。

 

 貴族街から庶民街への移動道中、馬車の中にて。


「えーと、あれですよ。あんまり気にしない方が良いですって!時には負けることだって誰しもあるんですから」

「トワ、それ全然フォローになってないぞ」


 一生懸命(いっしょうけんめい)信女にフォローしようとしているができていないトワの言葉に私はそっとツッコミを入れた。

 この後どうしようか。トワはこのまま私達と一緒に行動することになっているけど信女はどうするんだろう?


「それで信女、これからどうする?私達はアバリアの街に戻るけど、どこか行く所があるのならば途中までなら送ることもできるよ」

「はて、これからどうしましょうか?」


 決めてないのかよ。


「ちなみに、トワは私達と一緒に行くことになってるからこれからはしばらく一人旅になるよ」

「もし行く当てがないんならアバリアに来たら?そして信女もうギルドに入って、んで一緒にパーティを組んでさね!ね、良いでしょ?」


 ここで一人だけにさせるってのも後味悪いし、それに人数が多い方が良い時も多いし。


「トワ殿もそちらの春人殿達と一緒に行くのであればそれも悪くはないのかも知れませんね」

「それを決めるのはトワ自身だ。決して後悔がないような決断をしろよ」

「信女も一緒のパーティで良いでしょ、決定でいいわよね」

「かなり強引だな」

「それにしても世界は広いですね。あのような強いお方がいるとは……拙者もまだまだですね」


 まだあの勝負を引っ張ってるのか。

 結構あの負け方はこたえたんだろうな。


「最後の一撃、あれは一体何が起こったのでしょうか?」


 やっぱり見えてなかったんだな。

 だから、伯爵はわざわざあのような言い方をしたのか。


「もう一度あの太刀筋を見ることができれば……」

「できるよ」

「……え?」


 べつにスマホの存在はバレても扱うことなんてできようがないし、入手経路は適当にアーティファクトとかなんとか言って誤魔化せば良い訳だし。

 それに映像を見せながら解説とかした方が信女の為にもなるだろう。

 そう思い懐からスマホを取り出してさっき録画しておいた試合を、再生する。


「これは一体どうなっているんですか!?」

「これうわあ、なにこれ! 勝手に動いてる! あたしここにいるのに! えっ、これあたしじゃなくてトリス!?どうなってるの!?」

「いい加減落ち着け!」

「「イタッ!?」」


 パニクっている二人に一旦落ち着かせるために、光魔法の応用で少し強い静電気(せいでんき)をくらわせる。

 二人のあたふたしていたのが少し面白かったと思ったのは秘密だ。


「これはこのアーティファクトの機能のひとつで、その時の出来事を記録して、もう一度見れるようにできるというものだ。んで、これを使ってさっきの試合を記録しておいたんだ」

「なんてアーティファクトなの?」

「スマートフォンていうアーティファクトなんだけども、これについての説明は割愛(かつあい)するとして、私は略してスマホって呼んでるからみんなもスマホで覚えてくれればいいよ」

「聞いたことがないアーティファクトですね。まぁ、未発見のダンジョンとかいろいろと入手できるのはありますから知らなくても仕方ないかもしれませんね」


 いや、むしろスマホの存在を君たちが知ってたらかなり困るんだけど!?

 主に私達スターズが……。


「じゃあ信女の戦い方について少し解説していこうと思う。先にやられたところを見たいだろうが少し我慢しててくれ」

「はい」

「まずここのところなんだけども、攻撃が直線的になっているのが分かると思うけれども、ここは下に斬るだけでなくてほらここ。少し間があるからここで上に斬りあげたら伯爵に(かす)った可能性は十分にあった。次に、ここだね。技に応用がかかっていたのは良いんだけども、一撃の技ではなく連撃技(れんげきわざ)ならば良かったよ。少なくとも簡単に受け流すことは出来なかったと思う。最後に信女がやられたところだけどもまず、信女は伯爵がどのように攻撃してきたか覚えてる?」

「上から斬り落とす感じに、こう」


 やっぱり(だま)されてたな。


「信女の正直過ぎるというのはそこなんだよ。応用というかまだ道場剣術の域を出ないというのはね、実戦つまり命のやり取りの差が違うからだ。だからこそ、信女は真っ直ぐな剣術しかできない」

「それはどういう意味ですか?」


 信女が少し怒ったような声で質問してくる。


「簡単に言うと信女は、伯爵の剣に騙されたんだよ。口で言うより直接見たほうが早いだろう」


 スマホの録画映像を信女がやられるほんの数秒前にしてスロー再生をした。


「ここですか?」

「正解だ。普通に目で見たならば確かにあの攻撃は上から下という攻撃だけども実際の攻撃は見ての通りだ」

気闘剣(きとうけん)……」

「なんの攻撃かはわかったようだね。気闘剣……私の流派では無限剣(むげんけん)と呼ぶんだが、この剣は信女が思っている以上に深いものだ。一応信女の無限剣……気闘剣について確認したいんだけども良いかな?」

「気闘剣は、高めた闘気(とうき)を剣とする技であり、(まぼろし)ゆえ実体はない。しかし、気で作られたものであるから気配はある。それゆえ、その存在を思わず認識してしまう、と私は記憶しています」


 ふむ、なるほど。


「大体その認識で合ってるけれども、気で作られているものであってもかなり強い気であったならば実体となることもできる例えば強い殺気などを込めるなんてのが良い例だが、本当の意味で剣を(きわ)めた者ならば気を実体として使うことも可能だ。例えばこんな感じにな」


 そう言って、気だけで作った無限剣を見せた。


「これが本当の気闘剣、なんですね」

「ああ、そうだ。目に見えるものがすべてではないということを覚えておけ。そして、信女も極めればここまでできなくとも伯爵のように(まど)わすくらいならばできるようになるよ」

「信女、トワと一緒に私が稽古をつけようと思うだがどうかな?」

「私は、春人殿や他のみんなと一緒に強くなりたいです!」

「その意気や良し!これからよろしく、信女」

「はい!」


 信女とトワとアイリスがハイタッチをしながら笑いった。

 青春というのも案外良いもんなんだな。

 私の青春時代はもう望月家の仕事尽くしだったからな。少し(うらや)ましく感じるよ。


「私も混ぜてくださいよう……」


 前言撤回(ぜんげんてっかい)。羨ましく思ってたのが御者台(ぎょしゃだい)の方にもう一人いたや。

 なんかごめんよ、トリス。

 決して仲間はずれにしていたわけじゃないからな。そこら辺は誤解しないでくれよ。

 

「まぁ、とりあえず稽古はアバリアの宿に帰ってからにしようか。今はせっかく王都に来たんだからついでに何か買ってこ」

「そうね。せっかくの王都なんだしそれに大公爵様からも結構お金も貰ったしそうしましょっか」

「何を買うのですか?」

「そうね……」


 などといろいろと話しながら馬車は商店街の方へと進んで行った。

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