32話 伯爵邸への訪問にて
「君たちには本当に世話になった。娘だけではなく半ば諦めていた妻までも助けてくれて感謝してもし足りないほどだ。だが、これだけは言わせてほしい……本当に、本当にありがとう」
クラウディウス大公爵がそう言って深々(ふかぶか)と頭を下げた。
この人は、貴族最高位の位に就いているのにこんなにも人ができているとは……他の貴族もこんなやつばかりだと、余計な仕事が増えることがなくて助かるのだがな。
だが、貴族としてはもう少し威厳を保った方が良いのは確かだな。
「べつに気にしなくても良いんですよ。お2人が助かったという結果だけあればそれで十分ではありませんか」
「そんなわけにもいかん。これは一人の父親や夫としてというだけでなく、貴族としてもきちんと礼をさせてもらいたい。ジアス、あれを頼む」
「かしこまりました」
そう言われたジアスは一旦部屋を出て行って、少しすると銀色のシャトートレーに何かを乗せて戻ってきた。
「まずこれは、娘を襲撃犯から守ってくれたのと我が家までの護衛費、そして妻の手術費の分だ。せめてこれらだけは受け取ってほしい」
「そう言うことならば……」
そう思って受け取った瞬間一瞬手が下に下がった。
一体いくら入ってるんだよ!
「その中には白金貨で百枚入っている」
「「「「「!?」」」」」
「いくらなんでもこれは流石にもらい過ぎですよ!」
「本当ならばもっと受け取ってほしいくらいだが、これ以上やったら逆に君たちに迷惑がかかるかも知れないからな。冒険者としての活動資金としてならばかなりの装備も購入出来るはずだ」
確かにな。あらかじめ持ってきた大金を使うよりだったらこうしたところから貰った金を使った方がまだ良いだろう。
それにあの人の性格からして絶対に返金を受け付けないだろう。
こうなったらありがたく貰っておくか。
「それとこれも受け取ってほしい」
そう言ってテーブルに五枚のオリハルコンのカードを並べた。
中心に剣がありその左右には、獅子がそれぞれ向かいあっているレリーフが刻まれていた。確かこの紋章はクラウディウス大公爵家の……。
「それと、それは我が大公爵家のオリハルコンカードだ。これがあれば国内の検問所を素通りすることも、貴族しか利用できない施設なんかも利用することが可能となる。そして我が大公爵家が君たちの後ろ盾となるという証でもあるし、何よりの身分証代わりにもなる」
このカードは元々、大公爵家御用達の商人などに与えられるものらしい。
そして、そのカードひとつひとつに私たちの名前が刻み込まれており、紛失した場合に悪用されるのを防ぐため、同じものはひとつもないという。
金の方は20枚ずつに分けてもらった。
さすがにこのまま持っているのは怖いとみんな言うので、3枚だけ残してあとの分は、私以外は大公爵経由でギルドに預けてもらうことにした。
あ、そうだ。大公爵に話すことがあったんだった。
「大公爵、後で内密なお話がありますので出来るだけ2人きりになれるところでお話をよろしいでしょうか?」
「私たちもその話を聞いたらダメなのですか?」
「すまんな。大公爵にしか話せないことなんだ」
すると、大公爵の顔が真面目というか仕事モードに入ったのか、先程に比べて顔つきが良くなった。
「わかった。少し着いてきてくれ」
そうして案内されたのは、とあるひとつの部屋だった。
「ここならば、2人きりで話をすることができる。それで、その話とは一体なんなんだい?」
「それは、リアの襲撃の実行犯に命令を出していた者についてです」
「なに?」
「おそらくその実行犯に命令を出していたのは、『ブラン侯爵』の関係者かその本人ではないかと思います」
「どうしてそこで、ブラン侯爵の名が出てくるんだ?」
「ブラン侯爵やその親族も根っからの獣人差別派ですし、実はその屋敷から実行犯らしき人物が出てきたという目撃もあるそうで、可能性はかなり高いと思います」
「なぜ君は、そんな情報を持っているんだ?」
「すみませんが、今はお話しをすることができません」
「そうか」
「それと、警告がひとつ、国王陛下に対して暗殺しようと計画している者がいます。近日行われるバルハラン王国の大使との親交会での食事などには十分に気をつけるようにと警備担当や国王陛下らにお伝えください」
少し話し過ぎたかな。
「君は一体何者なんだい?」
「……ダークロード」
「そ、その二つ名は……!?」
私は人差し指を自分の口に当てながら騒ぐなと言う合図を出す。
すると大公爵も理解したようで口を大声を出しそうになっていた声を手で塞いだ
「それ以上言わない方が得策というものですよ、クラウディウス大公爵」
とりあえずそろそろおいとましようと、玄関に向かうとリアとクリス様が見送りに出てきてくれていた。
クリス様はできれば、体を動かさないでほしいんだけどな。
「クリス様。今度、体調を伺いに何度か来ますけど今の状態ならば多分、再発する可能性は低いと思いますので安心して大丈夫だと思いますよ。ですが今はあまり体を動かさないでくださいね。それと、栄養のあるものをしっかりと食べて体力をつけてください。それでは」
「また遊びに来てくださいね!!」
私たちは大公爵邸を出てそのまま馬車でレクシディア伯爵の屋敷へと向かった。
「依頼の手紙の相手というのは、レクシディア伯爵だったのですか?」
あれ?トワと信女にそこら辺の説明してなかったけな?
「2人は知ってるの?」
「前に話した、父上に昔剣術の指導しどうを受けたという方というのがレクシディア伯爵殿なのですよ」
世間は広いようで意外と狭いな。
ガタゴトと揺られながら、街並みを走り、やがて大公爵にあらかじめ教えてもらった、レクシディア伯爵家に到着した。
門番にアセドラインの名前レクシディア伯爵に面会してもらえるように話した。そして、しばらくすると屋敷内に通されて、執事が応接間に案内してくれた。
「私がジャック・ド・レクシディアだ。お前達がアセドラインからの使いの者か?」
「ええ。この手紙を渡すように依頼を受けて参りました。それにより出来るだけ早く返事をいただくようにとも言付かっております」
アセドラインから渡された手紙を渡すとその場で小型ナイフを使って封を切って中身を取り出した。
「手紙の返事を書くため、少し待て」
それから二分ほどが経ってレクシディア伯爵が戻ってきた。
「待たせたな。これをアセドラインに渡しておいてくれ。それとすこしきになったのだが……」
そう言うと伯爵は信女の方へと視線を向けた。
「そこのお前、名はなんという」
「工藤信女と申します。レクシディア伯爵の剣の師、工藤信重の娘です」
「クドウ……まさかあの工藤か!そうか、お前が信重殿の娘か!まだ赤ん坊だったあの娘がこんなに大きくなって再び我が家に訪れるとは……。確かに若い頃の信江殿に瓜ふたつだな」
そう言って愉快そう膝を叩きながら笑う伯爵。
「あの、失礼ながら信女とは一体どういう……?」
「ん?ああ、この子の父上である信重殿は、我がレクシディア家の剣術指南役だったのだ。私がまだ若い鼻垂れ小僧だったとき、こっぴどくしごかれたもんだ。いやはや、あれは実に厳しかったものだ。もうあれから15年も前になるのか」
「父上が言うには、今までで一番鍛えがいがあったと言っておりました」
「あの師がそんなことを……世辞でも嬉しいものだな」
と言いながらもまんざらでもなさそうで、にまにまと笑顔を浮かべた。
そんな昔話を終えた瞬間、信女は真剣な顔になり話しを続けた。
「父上から、もし伯爵と会う機会があったならばぜひ一手指南していただけとも申しておりました」
そう言われた伯爵はなぜか、面白そうに目を細めた。
やっぱりこういうのって戦う流れになるよね。
自分の師の娘がどれほどのものかみたいというのは、その弟子として思うのも当たり前のことだからな。
私も昔、スターズに入ってからしばらく経った時に似たような事があったからなんとなくだが、今の伯爵の気持ちは理解できる。
「良かろう。着いてこい」
そう言われて全員中庭の方へと案内された。
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