29話 侍娘との出会いとトワとの再会
ギルドの依頼はいろいろある。魔獣討伐から、採取、調査、変わったところだと子守りなんてのもあった。
何回かギルドの依頼をこなしていた僕らは、昨日ギルドランクが上がった。カードがEランクの証である紫色になっていたのである。
これでボードに貼られている依頼書のうち、FとE、どちらでも大丈夫だというわけだ。
まぁ、油断してたら失敗するかもしれないしそこら辺は気をつけなければならない。
と、思っていたらアイリスが面白そうな依頼を見つけて来た。
「これは?王都への手紙配送。交通費支給。報酬は銀貨7枚。どうかしら?」
「銀貨7枚か……3人で割れないな」
「別に残りはみんなでなにかに使えばいいじゃない」
それもそうだな。
アイリスが見せてきた依頼書を確認してみる。依頼主は、アセドライン・ゼンフォートだった……。
私がこの依頼に興味を持ったのはこのアセドラインの名前を見つけたからである。
「王都ってここから馬車でどれぐらいかかる?」
「そうですね、五日くらい、でしょうか?」
「それじゃあこの依頼にしようか」
アイリスが依頼書を引っぺがし、受付に持って行った。受付を済ましたアイリスが言うには、細かい依頼内容は直接依頼人に聞くように、とのことだった。
それじゃあ久しぶりに会いに行くか。
というわけで、アセドライン商会に来ている。
早速中に入る。
「いらっしゃいませ。本日は、どのようなご用件でしょうか?」
あれ?私を見てもなんの反応もないや。
ていうかよく見ると、見たことがない人だからおそらく新人だろうか?もし新人ならば私のことを知らなくても当然だ。
私は【ストレージ】からオリハルコンのカードを取り出すと、奥にいたひとりの従業員が驚いた顔をして走ってこっちまでやって来た。
「一体何をやっているのですか!申し訳ありません春人様。至急、商会長に連絡しますので少々お待ちください」
アイリス達の方をふと見ると2人ともポカンとした顔になっていた。
あ、そういえばこの2人にはアセドラインとの関係を全然してなかったな。
「どうぞ、こちらです。春人様。失礼ですが、後ろのお二方もご一緒でよろしいでしょうか?」
「ああ、そうだ」
「失礼いたしました」
階段を登る途中で謝罪をしてきた。
「申し訳ありません春人様。今回は私の教育不足による影響ですので、彼女への処罰はご勘弁下さい」
「べつに処罰なんてしないから安心しろ。それに、新人ならば見たことのない私のことを知らないのも当然だからな」
「はい。ありがとうございます」
それからも少し話をしていたら部屋に着いた。
彼女は、部屋の扉をノックし、中に入る。
「商会長、失礼します。春人様御一行がいらっしゃいました」
「通してくれ」
「はい。皆様、どうぞ」
「入るぞ、アセドライン」
「ちょっと、春人!?」
「お久しぶりです春人様。それとお連れの方々もどうぞそちらにお座り下さい。あ、それとこれ、新作のお菓子なのですが、よろしければどうぞ」
「ああ。それじゃあ、いただくよ」
最初にそのクッキーを食べたのはトリスだった。
「美味しいです。甘いはずなのに、しつこくない甘さなので食べやすくて美味しいです」
「春人様、もしよろしければ『鑑定眼』で、値段をお願いできませんか?」
「やっぱりな。まぁ、良いけどさ」
「春人って『魔眼』なんて持ってたの」
そっか、魔眼のことも話してなかったな。
「ああ。今使うのは、『鑑定眼』という魔眼の一種でこれと似た魔法で鑑定というのがあるんだが、このふたつは少し違っててな。鑑定眼は鑑定では調べられない物の価値を値段として鑑定することができる魔眼なんだ。これは、ぼったくり防止なんかに便利なんだよね」
「確かに、それは便利ね」
鑑定眼を発動させて一袋どれぐらいの価値があるのかを調べる。
「一袋金貨1枚だな。見た目や質なんかが値段を高くしているポイントだ。ところで、これの量産体制はどうなっている」
「既に整っております」
「これならばすぐに量産体制に入っても問題ないだろう」
「わかりました。すぐに量産に移ります」
「そういえば、ここにきた目的をすっかり忘れてたな」
「ああ、そういえばそうでしたね。それで、本日はどのようなご用件で?」
「お前が冒険者ギルドに出した手紙の配送依頼あったろ?それ、私達が引き受けることになったから」
「そんな。春人様にそのような雑用まがいなことをさせるなど恐れ多い。それにあれは確かEランクの依頼ですよ」
「私達Fランクなんで」
「春人様がFランク!?そんなご冗談を。春人様ならば、Aランクでも普通におかしくない実力なのになんでFランクなんですか!」
「そんなこと言われたって、この間登録したばかりなんだから仕方ないだろ?とりあえず一旦落ち着け」
「そうでしたか。大声を出してしまい、申し訳ありません」
「あの、春人さんとアセドラインさんは、どのようなが関係なのですか?」
突然、トリスがそんな質問をしてきた。
「それは……」
「春人様、それについては私がご説明します」
私は念話でアセドラインに話しかける。
《アセドライン。わかっているとは思うが、私がスターズの人間だということや助けたのが任務の帰りとかいうのは絶対に話すなよ》
《わかっております春人様。たまたま通りかかったということにしますのでご安心下さい》
《頼んだぞ》
「あれは、いまから7年前のことです。私は当時店もまだ小さかった頃、馬車で娘とともに店に帰る途中で魔物の群れに襲われた際にたまたま通りかかった春人様が50近くいた魔物をたったお一人で殲滅してくださり、私達の命の恩人にお礼をしたいと思い半ば無理矢理店に連れて行きました」
「そうだな。私はたまたま通りかかっただけだからお礼なんていらないと言ったのだが、コイツ全然話を聞かなくてな。なにがなんでも礼をすると言いながら馬車に乗せられてそのままこいつの店に行ったんだが、あまりにも経営難の状況だったからまずは物の値段をその商品の適正価格にして、その後は、私が探して厳選した従業員も新たに増やしたりして経営難を脱出させて、気が付いたら大商会なんて呼ばれるようになってた……」
「ですので、私達アセドライン商会は春人様には頭が上がらないのです」
「そんな凄いことをしたんなら、この人たちから敬意をはらわれてもおかしくないわね」
そろそろ話を戻さなくてはな。
「そろそろ本題に入るぞ。お前が届けてほしいという手紙はなんなんだ?」
アセドラインがテーブルに一枚の短い筒に入った手紙をテーブルの上に置いた。蝋かなにかで封がされ、印章が押されている。
「この手紙をレクシディア伯爵に届けてもらいたいのです」
「ほぉ〜、レクシディア伯爵か。お前、レクシディア伯爵との繋がりがあったのか」
「ええ」
「ご存じなのですか?」
「レクシディア伯爵はこの国で一番と言われている剣士で、戦場のが場では戦鬼と恐れられており、一人で盗賊団を殲滅したという噂もあるが、その程度の噂ははっきりと言ってどうでもいいことだ」
「その程度って、春人さんは盗賊団を一人で殲滅出来るのですか!?」
「可能だ。ていうか既に9つの盗賊団は殲滅したな。アセドラインと会ったのも、盗賊団のアジトを壊滅させた後に帰る際に、他のやつが逃げていないか調べるのも兼ねて、転移魔法で帰らずそのまま帰っていたらそこでこいつらが魔物の群れに襲われていたから助けたというわけだ」
「おかげで私達は助かりましたけどね」
「あ、それとこれが交通費です」
「べつに交通費なら心配いらないんだけどな」
「ちょっと春人、流石にお金が無ければ困るんだけど」
「まぁ、春人様の額に比べればこの程度、端金ですもんね。春人様の保有額はこの商会の財産よりも多いですからね」
「「えーーー!!」」
二人がかなり驚いていた。なんか酷いな。
「そんなに貧乏に見える?」
「そういう意味じゃなくて!私達が驚いているのはこのアセドライン商会の保有額よりも個人財産の方が多いってことについてよ!!」
「まあまあ、そこは一体置いてといて、とりあえずそろそろ行こっか」
「わかりました」
「あ、そうだアセドライン。あの子は元気にしてるか?」
「えぇ、おそらくは。春人様に助けてもらったあの日からあの子は私も春人様のように強くなりたいです!と言って、春人様が商会から去った時にあの子も自分を強くするために旅に出ました。ですのでもし、この先あの子と会うことがありましたら少しだけでも良いので稽古をつけてあげてください」
「そうだな。あの時はただ馬車の中で守られているだけだった子が今どれほどまでに強くなっているのかは興味があるからもし会った時には、稽古くらいならば全然構わないよ」
「ありがとうございます。きっと春人様ならば喜んでくれるでしょう」
「二人ともそろそろ行こうか」
思わずつい長居してしまったが、手紙と交通費を受け取って商会を出ると、早速旅の準備に取り掛かった。と言ってもあまり準備する物もないんだがな。
アイリスは宿に戻ってて必要な道具を持ち出して、トリスは旅の間の食糧の買い出しをしに行き、私は馬車をストレージから取り出し馬車の整備と点検などをし、ちょっと悪いところは改良したりとし、準備をした。
1時間後、二人が戻ってきた。
「え〜と、何?この馬車……」
「え?馬車だけど」
「こんな高い馬車をわざわざ借りてきたの?」
「いや、元々アセドラインに貰ってた馬車を【ストレージ】にしまってあったからそれを取り出しただけだよ。まぁ、一時間少し暇だったからその間に、馬車の改良なんかをしてたらつい調子に乗ってしまって、気がついたらこんなになってた」
私が馬車の扉を開けると、二人とも唖然としてしまった。
まあ今回は、我ながら少しやり過ぎたという自覚はある。
「これは……、広すぎませんか?」
「自分でもそう思う……」
「あれ?この馬なんか変じゃない?」
「お、気づいたか。それは本物の馬じゃなくて魔道馬といって、本物の馬よりも機動力が高く、そして扱いやすいんだよ」
「へぇ、そんなのまであるんだ」
「まぁ、これは私が作った物だからどこにも売ってないし、本物にかなり近いから気づかれにくいんだよ」
「確かに、これなら本物に見えるわね」
「本物に近いぶん扱い方は本物とほぼ同じだから馬を扱った人でないと扱うのは難しいと思うけど。そういえば2人は、馬って扱ったことある?」
「ええ、親戚の人が農場を経営しているからあたしもトリスも子供の頃から馬の扱いには慣れているのよ」
「なら、交代とかしても大丈夫そうだね」
馬車は順調に街道を進み、時折りすれ違う他の馬車に挨拶をしながら、王都へと向かう。
最初はゲートでも良かったのだが、やはりそのまま【ゲート】で行くよりも普通に行ったほうが良いなと思い直し、【ゲート】を使わずに行くことにした。
アバリアの街を出発して、小さな町をふたつほど素通りし、アランの街に到着した時、もう夕方近くになっていた。
今日はこの街で宿を取ることにしよう。
そう思って宿を取ったら「宋花」よりも少しグレードの高い宿を取ることが出来た。
部屋割りは私と彼女たち2人の2部屋。私の方は普通の大きさだが、彼女たちは二人なため、少し大きい部屋だ。
宿が決まったので、馬車を預け、みんなで食事に出かける。宿の親父さんがいうには、ここは麺類が美味いんだそうだ。蕎麦とかないのかな。
どこか手頃な店に入ろうと町中を散策していたとき、道端から争う声が聞こえてきた。野次馬が集まり、なにやら騒ぎが起きているようだな。
「何があったんですか?」
「ほら、あれだよ」
興味を持った私達は、人込みをかきわけ、騒ぎの中心に辿り着く。そこには数人の男たちに取り囲まれた異国の少女がいた。
「……変わった格好をしていますね……」
「……あれは、侍だな」
「サムライ?」
「こっちでいう剣士みたいなものだな。イシュタリカでは侍と言うこともある」
トリスの疑問に答える。
薄紫色の着物に紺色の袴 に白い足袋に黒鼻緒の草履。 そして腰には大小の刀。流れるような黒髪は眉の上で切り揃えられていた。後ろは青いリボンでポニーテールに結わえられて、その先も肩の上で真っ直ぐ切り揃えられている。控えめな簪がよく似合っていた。
その侍の子を取り囲むように、10人近い数の男たちが、剣呑な視線を向けている。すでに剣やナイフを抜いている者もいた。
あの子1人で大丈夫だろうか?
そう思っていると、なんだか見覚えのある子がいた。
「うちのやつらが随分と世話になったようだな。そのお礼をしに来てやったぞ」
「……拙者は世話などした覚えは無いのですが」
「ふざけんじゃねぇぞ!よくもやっきは俺の子分をやってくれたな」
「……ん?あ、思い出しました。あれはどう考えてもお主らの方が悪い。昼間から酒飲んで他のお客さんたちや周りの人に迷惑をかけるからです」
「貴方達のような人がいるから昼にゆっくり酒を飲みたい人も自由に飲むことが出来なくなるんですよ?」
「あれ?そっち派なのですか!?」
「だって、その理屈だと昼に働いて夜ゆっくりと出来る人だけが飲んで良いということになります。逆に言えば、夜働いて昼に休む人はゆっくりと酒を飲むことが出来ないのですよ?だから私は、べつに他人に迷惑をかけずに飲むのであれ問題ないと思うのですが」
「ですが、今回は迷惑をかけているのでアウトだと思います」
「そうですね」
「テメェら調子に乗ってるんじゃねぇぞ!おい、やれ!」
そう言って男たちが一斉に襲いかかる。侍の子はひらりひらりとそれを躱し、男の1人の腕を取って、軽い感じでくるりと投げた。背中から叩きつけられた男は悶絶して動けなくなる。
相手の勢いを流し、体勢を崩して、投げる。四方投げか?あ、若干柔道の動きも混ざっているな。
なかなかに面白い子だな。
そして、もう一人の方も見てみると急所を的確に攻撃をし、一撃で気絶させていた。
あの二人、相当な熟練度があるな。もっと鍛えればもっと良くなるだろうな。
まったく、5年でここまで成長するとはな。
そう思っていると突然2人の動きが鈍くなった。
このままだとまずいな。仕方ない。助けに行くか。
「すまないが2人はここで待っててくれ」
2人にそう言い残してやつらの相手をしに行く。
「おいおい、なんだ兄ちゃん?痛い目に会いたくなきゃ大人しくすっこんでな」
その時あの子が顔を見上げてて喋る。
「春人様!?」
「5年前よりも随分と成長したようだが、肝心な時に力がなくなるとはな」
「また、貴方に助けてもらうことになってしまうとは、面目ありません」
「いやいいよ。なかなかの動きだった。あとは全部私に任せなさい」
「はい」
「随分と舐めてくれるじゃねぇか?お望み通りやってやるよ。やれ!」
こんな雑魚ども相手になるのかな?
「これでも食らうや」
その振り翳した無駄にデカい剣のの上に立ちその剣を踏み台にして相手の顔面に膝蹴りを入れ、さらにそいつの顔面を踏み台に周りにいた奴らを2人を蹴り飛ばし、地面に着地したところで襲い掛かってきたやつには背負い投げをし、さらには内股でもう1人も地面に倒した後に裸絞で一瞬で落とした。
「あの姉ちゃん達も凄かったが、あの兄ちゃんもかなり強いな」
「なんなんだあの3人」
「凄すぎだろ」
などといったのが聞こえてくる。
「警備兵だお前達そこで何をやっている」
「実は……」
私は、やってきた警備兵にことの顛末を説明をして、後のことを任せて、現場を離れた。
「ご助勢、感謝します。拙者は、工藤信女と申します。あ、ノブメが名前でクドウが家名です」
「私は、トワ・ゼンフォートです」
「私は、望月春人。春人が名前で望月が家名だよ。もしかして信女ってイシュタリカ出身?」
「そうですよ。私はイシュタリカの第二首都とも呼ばれるエドというところから来ました。そう言う春人殿もイシュタリカの出身ですよね」
「2歳の頃までね。今はもうイシュタリカにも行ったりしてもいないから、イシュタリカ出身というのも自分でも疑問に感じてるんだよね。だから、これ以上はこのことについて詮索しないでくれると助かる」
「わかりました」
そして、あの子……トワに話しかける。
「5年ぶりだねトワ。元気そうで何よりだ」
「この子がトワなの?」
「でもなぜ、春人様がここにいるのですか?」
「君のお父さんから冒険者の依頼として王都に手紙を届けるという依頼の途中なんだよ」
「そうなんですね。実は私達も……」
と、言いかけていた時に信女とトワの方からぐうぅぅうぅう。と、お腹が盛大に鳴った。彼女ら顔を真っ赤にして肩を小さくしている。
「お腹空いてるのか?」
「はい。お恥ずかしい話なのですが、実はここに来る道中で路銀を落としてしまいまして……」
「トワがそんなミスをするとはな」
「それが、信女さんに管理してもっていたのですが、私が甘く考えていたようで、半分以上を落としていたようでして」
これも何かの縁か。
「なら一緒にご飯食べないか?2人は良いかな?」
「べつに良いわよ」
「私も構いません、よ」
「それじゃ決まりだね。なら行こうか」
そうして、新たに2人連れて近くのレストランに入った。
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