177話 姉達(神)がやって来た(後編)
【ゲート】を潜り抜けて戦地へとやって来た私達は、まず状況を確認する。【ゲート】を開いた場所は、事前に聞いていた現地に設置されている指令基地である。
その指令基地に他の隊員も一緒に向かう。
「ご苦労様。早速で悪いんだが、現在の状況をできるだけ簡潔に話してくれ」
「し、シリウス様!分かりました」
その指令基地にいた全員が跪こうとしていたが、それをしない方が良いと、その場にいた全員が判断し、私の質問に対して、その指令基地の指揮官のひとりが答える。
「まず、この場で現在指揮をとっている作戦局緊急対策課少佐のリイルと申します。それでは、現在の状況にご説明させていただきます」
リイル少佐が近くにあったホワイトボードを持って来て、説明を始める。
「まず、戦況に関してですが、正直に言って、あまり芳しくありません。最初に到着したアルマー支部の部隊は、ほぼ壊滅状態。その後、応援に来た他支部や本部は、部隊も増援を増やす形で、なんとか現状維持している状態です」
「そうか。ところで、ここの統括指令は君か?」
「私はあくまでも仮です。本部からは、シリウス様もしくは、シリウス様の指名する人物が統括指令に着任するまでは、暫定的に担当せよと命じられております」
「流石、サルガス達だな。私がすることを分かってるな。では、これよりここの統括指令は、ここにいるアルマー支部副支部長補佐官のインディ中佐とする。そして、リイル少佐には、インディ中佐の補佐を命じる。その他は、現状の指揮系統に従え。良いな!」
『ハッ!!』
私は、現場に命じた後、邪魔にならないところに椅子を置き、そこに座る。
すると、私が座ったのと同時に報告が入る。
「報告します!前線にいた第25大隊が壊滅!重傷者多数!!また、シャドウ評議会第4席のアラリ大尉も重傷とのことです!!」
その報告が入った瞬間、周りは騒然となった。なんせ、シャドウ評議会は、スターズ内でも実力者が集まっている存在だ。更に、アラリ大尉は、そのシャドウ評議会の中でも上位席の第4席に位置し、シャドウ評議会の10席までの上位席は、五星使徒の次に実力のある者達なのだ。そんな存在が重傷を負わされたとなれば、この周りの反応も当然のことだと言えるだろう。
アラリ大尉がやられたことで、現場の士気は大幅に下がることが予想される。そうなれば、さらなる被害……それどころか、下手をすれば死者が出る可能性もある。
「私は、一旦アラリ大尉の所へ向かう。その間に何かあり次第、随時インディ中佐経由で私へ報告せよ」
「承知しました」
私が椅子から立ち上がり、そう指示を出すと、そう返事が返って来た。
そして私は、アラリ大尉が運ばれたという救護所へとやって来た。だが、そこには大勢の怪我人で溢れ返っていた。
「シリウス様!!」
「そのまま怪我人の治療に専念しろ!」
衛生隊員が私を見た瞬間に跪こうとしたので、それを止め、怪我人の治療を優先させた。
他の隊員は手が離せなさそうだったので、衛生部隊の指揮官に状況を聞くことにした。
「衛生部隊の総指揮官はいるか?」
「衛生部隊の総指揮官は私です」
「状況の報告を頼む」
「はい。現在の状況としましては、多数の重軽傷者が運ばれて来ており、現在こちらに派遣されている隊員だけでは、手が足りず、*トリアージを付けて治療を行っています」
※トリアージとは、多くの傷病者が発生している状況において、傷病の緊急度や重症度に応じた優先度を決めることであり、救急事故現場において、患者の治療順位、救急搬送の順位、搬送先施設の決定などにおいて用いられる。優先順位としては、高い順から赤→黄→緑→黒となっている。
「一応確認だが、応援は手配したんだよな?」
「もちろん手配しましたが、他のどうやら他のところでも駆り出されているようで、こちらへの応援が滞っているようなのです」
「なるほど。状況は把握した。治療班に関してはこちらで用意しよう。そして、私も重傷者の治療に参加するから、その空いた分を他の負傷者の救護に回してくれ」
「シリウス様自らですか!?」
「人手が足りないんだろ?」
「それはそうですが……」
「なら決定だ。良いな?」
「承知しました」
これだけの負傷者の数は、流石に今いる衛生隊員だけでは足りないし、国防省の衛生部隊と念のために後方支援連隊に対しても、ここに緊急招集命令を出しておくか。
そして私は、スマホを取り出して国防省の国防大臣へと連絡する。
『国防大臣の石原です』
「私だ。至急、国防陸軍の衛生課と第一後方支援連隊をこの電話終了時に送る座標へ派遣するように。これは、国王としての命令である」
『承知致しました』
電話を切り、スマホを仕舞う。とりあえずこれで、人員の確保は出来たな。
「これで、人員の確保は出来た。今は、その者達の到着を待つぞ。あとは、重傷者の治療を行うから場所へ案内を頼む」
「ハッ」
案内をされ、その中に入ると、かなりの数の負傷者がいた。負傷者の身体の傷を診察しながら確かめると、ある共通点があることに気付いた。
「確かにこの者達の傷は深いが、致命傷をギリギリのところで避けるようにして斬られてるな。この時点で、相当な腕前の剣士であることが分かる。そして、その者が使っているのは、傷痕からして、こちら側で売られているような両刃剣や長剣などではなく、イシュタリカ方面の刀のような湾曲したような剣だな」
「傷痕を見ただけで、そこまで分かるものなのですか?」
「意外と分かるものだぞ。まあ、それはどうでも良いから、さっさと治療の方を始めるぞ」
「は、はい!」
負傷者達の治療を始める。ほとんどの者達は、回復魔法で回復させたが、体内に異物が侵入している者に関しては、回復魔法を使わずに緊急手術を行い、治療を行った。
その後、私が国防省の方に派遣するように要請していた部隊が続々と到着し、彼等に引き継ぎをして、その場を後にした。
私が指令基地へと戻ると、既にインディ中佐が指揮を執っていて、その指揮の下、作戦行動が行われていた。
「戦況はどうだ?」
「依然変わらずと言った感じです。それと先程、本部の方から連絡があり、まもなくサルガス特将がこちらに到着なさるそうです。そして到着次第、部隊を下がらせ、2人で拘束もしくは討伐せよとのことでした」
「そうか。分かった」
私がそう返事をした直後、上空の方からプロペラ音が聴こえて、指令基地の天幕から出て、上空を見上げると、3機のチヌークが着陸しようとしていた。
3機のチヌークが着陸し、ハッチが開くと、左右のチヌークからは、完全武装の隊員が出て来て、中央のチヌークからは、ソーラル(サルガス)と付き人と思われる隊員2人が一緒に降りて来た。
「総員整列!」
ソーラルの部隊長がそう指示を出すと、他の隊員が一斉に整列を完了させる。
「待たせたな。シリウス」
「随分と遅かったな。サルガス。それにしても何で、それで来たんだ?普通に転移でこっちに来た方が早かったろうに」
「俺の部隊を運ぶのに丁度良かったし、それにこの周辺を上空から調べておきたかったってのもあるな」
直接上空から現状を調べたかったから、アレで来たってことか……ん?確かソーラルって飛べたよな?
「確かサルガスって飛べなかったっけ?」
「飛ぶこと自体は出来るぞ。でも、俺が1人で飛んで部隊に伝えるよりも、部隊全員で状況を把握した方が指揮における誤解等が発生し難くなるだろ?まあ、そういうことだ。というか、そろそろ中で詳しい情報を知りたいんだが?」
「おっと、すまん。ところでサルガスの後ろにいる2人は何なんだ?」
「そう言えば紹介がまだだったな。この2人は、先日、俺付の補佐官の者達だ」
「五星使徒第1席付補佐官のシンディ特佐と申します」
「同じく特佐のシグナルと申します」
最初に私から見て、ソーラルの左側にいたシンディ特佐が軽く挨拶をし、次にソーラルの右側にいたシグナル特佐がそう軽く挨拶をした。
「さて、それじゃあ中に入って、現在の状況を伝える。と言っても、私自身でも把握出来ていない情報も上がって来てるかもしれんし、そこら辺は説明担当の隊員に聞くことにしよう」
私は、そう言いながら指令基地である天幕の中へと入る。すると、私やソーラルが入って来たと分かった瞬間に一斉にこっちを向き、一礼をする。
「現在の状況報告を頼む」
「では、私から説明をさせていただきます」
「では、頼む」
リイル少佐が説明をすると申し出たので、お願いすることにした。
「先程、シリウス少将には報告しましたが、最初に対応に当たっていたアルマー支部のほとんどが壊滅状態。また、他の支部や本部からの応援部隊で来た部隊で何とか現状維持しているというのは、先程シリウス少将に報告したと思いますが、あれから追加の報告としましては、シリウス少将がアルマー王国国防省へ派遣要請をなさった衛生部隊と支援連隊が到着し、負傷者の手当てなどの後方支援活動に取り掛かったそうです。また、こちらの方がシリウス少将にとって重要だと思いますので報告します。本部からの命により、オブシディアン特佐、オーロラ大佐、アルテミス中佐、スパロー中佐、ルミニア中佐、アズールホーク少佐、スペクトラ少佐、レッドコメット少佐、ファルコン少佐の9名がこちらに招集され、その護衛の者達と共に、既に奥に待機しております」
「すまないが、その9人とは誰だ?生憎とそのコードネームを持つ者達しかも、護衛が付くような存在を私は知らないのだが……」
「それは、春人さんが城から出撃をした後に白夜さんからの出撃命令と今回の任務からコードネームを与えられることになったからです」
そう疑問に思っていたことに対して、奥の方からエリア達と王宮警察の各護衛担当官達がやって来て、みんなを代表してなのか、エリアがそう答えた。
「白夜が本当にそんな命令を出したのか?」
「はい」
「少し白夜に事実確認をするから待っててちょうだい」
そして私は、スマホを取り出して白夜へと連絡を取る。
「あ、私だ。彼女達をこっちに出撃するように命じたそうだが、事実なのか?」
『ええ、その通りです』
「どうして彼女達をこんな危険な任務への出撃を命じたんだ?それにコードネームまで与えるなんて、他の隊員と同じように任務をやらせるつもりなのか?」
『お言葉ですが父上。もうそろそろ皆さんにも任務を行ってもらわなくては、周りへの体裁がつかなくなってしまいます。それに皆さんは、そこら辺の一般隊員に比べれば、実力があると思いますよ。ですので、今回の任務を機に皆さんにコードネームを与える事とし、任務へ向かってもらったという訳です』
「内容については理解したが、何でよりにもよってこんな危険な任務を最初の任務に選んだんだよ!」
『経験を積んでもらうのと、参加実績を残してもらいたかったからです。経験としましては、今回のような重大事件を経験することによってこれからの任務を扱いやすくなると考えたのと、参加実績としては、この任務は、スターズの歴史の中でも類に見ないレベルの大規模事案です。そして、その任務に幹部職員として参加していたとなれば、実績という観点からも周りから軽視されることはなく、命令にも従ってもらいやすくなる。というのが、私の考えです』
まあ、白夜なりの考えはあったみたいだな。
「理由は分かった。それじゃあ、悪いんだが、電話越しでも良いからそれぞれのコードネームと念の為階級も白夜自身から教えてくれ。どうせコードネームは、白夜が付けたんだろうし」
『まあ、正解ですけど……それでは、1人ずつ順番に紹介していきますね。まず、エリアリアさんは、アルテミス。階級は中佐です。次にトワさんは、エターニティー。階級は特佐です。次にエイルさんは、オーロラ。階級は大佐です。次にシルヴィア殿は、ルミニア。階級は中佐です。次にテレスさんは、スパロー。階級は中佐です。次にアイリスさんは、アズールホーク。階級は少佐です。次にトリスさんは、スペクトラ。階級は少佐です。次に信女さんは、レッドコメット。階級は少佐です。最後にアルトリアさんは、ファルコン。階級は少佐です』
白夜が全員のコードネームと階級を言い終える。
そして私は、彼女達について白夜に申し出る。
「彼女達については、私の指揮下に置かせてもらうが、それで構わないよな?」
「はい。それで構いません。それと、まもなく残りの五星使徒メンバーが到着するそうなので、もう少しだけ足止めをお願いします」
「分かった」
私は、そう言った後、電話を切ってから、再びエリア達の方を見る。
「という訳だから、君達は、私の指揮下に入ってもらうから、くれぐれも勝手な行動はしないように。また、これから作戦期間中は、コードネームで呼ぶから、君達も私のことはシリウスと呼ぶように」
「分かりました」
「承知」
各々、私の言葉に反応を示したので、早速指示を出すことにした。
「それじゃあ、早速それぞれに指示を出す。まず、オーロラとスペクトラ。そしてファルコンは、救護所へ向かい、衛生部隊と共に負傷者の手当てを行い、スパローとアズールホーク。そしてレッドコメットは、救護所の警備。また、護衛の王宮警察も護衛任務を行いながら警備を行え。そしてルミニアは、後方の高射部隊の所へ向かい、後方から私の指示があり次第、魔法による攻撃支援を行ってほしい。残りは、この場にて待機!では、各自配置に就け!」
私がそう指示を出すと、それぞれ各自の配置場所へと向かった。
「なあ、シリウス」
「なんだ?」
「他の奴等が来てから敵の所へ行くか?」
「一応、万全を期したいからな。全員揃ってから一斉に向かおう。それまでは、現地にいる者達には悪いが、到着するまで粘ってもらおう」
それから少しした後、他の五星使徒のメンバーが到着し、指令基地の天幕内へと入って来た。
「お待たせしました」
カーラルが入って来た直後にそう言った。
「早速で申し訳ありませんが、状況報告をお願いします」
春奈がそう言って来たので、さっさと状況報告を済ませる。
「───という訳で、状況報告は、これで以上だ。この時点で何か疑問点はあるか?」
「それじゃあ、私の方からいいかしら?」
イレルリカが手を挙げる。
「ああ」
「その対象の2人に対してもっと細かい情報はないのかしら?」
「細かい情報と言うと?」
「例えば、その2人の能力や身体的特徴とか、そう言うのよ」
「ああ、そう言うことね。敵2人は、10代後半から20代前半の姿をしており、1人は、桃色の髪色をしていて、結界を利用した攻防している。もう1人は、黒に近い紫色の髪色をしていて、剣を使っているがその剣技は、剣神級らしい」
「その情報が本当なら、結界の女の方はともかく、剣士の女の方はかなり厄介だぞ」
ソーラルの言う通りだな。剣術が剣神級ともなると、そこら辺の隊員など、一瞬で殺されてもおかしくない。だが、現段階では、重傷者はいるものの誰一人として死者は出ていない。つまり、敵側はこちらを殺す意志はないと言うことになる。いや、こんなことを考えていても仕方ない。我々スターズに対して敵対行動を示しているうえにこれだけの被害が出ている以上、今更話し合いでどうこうできる問題ではなくなった。となれば、やることはひとつだけだ。
「武器の方は、問題ないな?」
それぞれが武器を手に取りながら、首を縦に振る。と、その前に一応、私達が行くことを前線部隊に伝えておくか。
「ちょっと無線借りるぞ」
そう言って私は、机の上に置かれた卓上無線機のマイクを手に持って話す。
「五星使徒第2席少将シリウスより前線部隊総員に告ぐ。これより五星使徒の全戦力にて、敵を叩く。それに伴い、私が命じるのはただ1つ。我々が到着するまでの間、攻撃を弱めることなく徐々に後退せよ。これが私からの命令である」
マイクのスイッチから指を離し、再び机にマイクを置く。
「それでは、私達は前線の方に行ってくるから、何かあり次第、無線で報告せよ」
私は、彼女達に敬礼をすると、彼女達もまた答礼をする。そして私達は、前線へと向かった。
その一方、前線部隊の方では、辺りが硝煙が包まれ、銃撃・砲撃・爆撃による攻撃音が鳴り響いていた。それはまさに、戦争と言って良いほどの光景だった。そして、そんな中で、この無線での通達に対して、心の中で喜びつつも、依然として油断を許さない状態が続いていた。
「隊長、どうしますか?」
「無線にあった通りにしろ。くれぐれも敵にこちらの考えを読み取られるなよ」
「承知しました」
前線部隊の隊長から指示を受けた部下が、春人からの命令を補足する形で、再度他の隊員達に指示を出す。
「五星使徒の方々は、後どれぐらいしたら来ると思いますか?」
「正直分からん。だが、このタイミングで、シリウス少将があのような指示を出されたということは、準備は整ったということ。つまり、あとは五星使徒の方々が到着するまでの間に少しでも敵の体力を消耗させる事が、我々に出来る精一杯だ」
「その通りですね。今はとにかく攻撃の手を緩める事なく、更にその状態で敵に気付かれることなく後退……こうして考えると、やはり難しいですね」
「それでもやるしかない」
そう言って、その2人も銃を敵側に構えて撃つ。
このような状態が数分間続いているが、未だに五星使徒の者達は到着せず、戦況は悪化の一途を辿っていた。
そして今、前線部隊の指揮を任されている隊長である彼は、命令通りこのまま五星使徒の到着を待つか、シリウスの命令に背き、五星使徒の到着を待たず、前線部隊を急いで後退させるかの選択を迫られていた。
「隊長!五星使徒の到着はまだですか!?このままでは此処は長く持たないですよ!!」
「そんな事は分かってる!」
現状を理解しているからこそ、どちらの選択を取ろうとも必ず犠牲は出ることは分かっているが、どちらが最善の選択なのか、今の彼には分かってはいない。
だが、彼がそんな事を頭の中で考えていた時だった……
「マジックブレイズ」
そんな言葉が聞こえた瞬間、その戦場の上空には、無数の魔法で作られた剣が浮かんでおり、それが一斉に絶え間なく敵に向かって放たれる。
「この魔剣……間違いない。やっといらっしゃったのですね……シリウス様。それに他の五星使徒の皆様も」
彼が後ろを振り返りそう言うと、春人を含む五星使徒のメンバーが勢揃いしており、その中で春人が手を上空に翳すと、再び空を埋め尽くすほどの魔剣が生成されていく。
「待たせたな。ここまでよく持ち堪えた。後は私達に任せて、お前は、今残っている前線部隊を連れて速やかに後退しろ。また、動けない者に関しては、動ける者が手を貸して、出来るだけ速やかにこの場から少しでも遠くへ離脱しろ。良いな?」
「はっ」
そうして彼は、春人の命令通りに動ける者が動けない者を連れて出来るだけ遠くへと後退して行った。
「さて、そろそろ敵の正体を確かめるとするか」
私は、そう言った後、攻撃を止めて砂ぼこりが収まるのを待つ。
砂ぼこりが収まり、その2人の姿を私は、そのあまりにも予想外過ぎる人物に思わず絶句する。
「何故……何故!このようなことをしたんですか!?歌恋姉さん……双刃姉さん……」
そこにいたのは、エレナント様の命令でこの世界にやって来ているはずの望月歌恋こと恋愛神のリナリア様と、望月双刃こと剣神のオルナ様だった。
「やあ、久しぶりだね。春人君」
オルナ様が私にそう軽く挨拶をする。
「なあ、確かあの2人ってお前とアリスの結婚式に親族として参列してた人達だよな?」
ソーラルにそう聞かれる。
「ああ、そうだ。でも、私自身どうして姉さん達2人がこんな真似をしたのかについては、本当に知らないんだよ」
事実、2人がこの世界に来るということは、事前にエレナント様から聞いていたことだが、何故スターズと戦闘になっているのかについては、本当に知らない。
「理由はどうであれ、敵対行動をとっている以上、こちらも容赦する必要はない。だが、あの2人は私達が束になっても簡単に勝てる相手ではない。なんせあの2人は、私達とは違い、かなり位の高い神格持ちなんだからな」
『……ッ!?』
そりゃあ、驚くよな。なんせ、神格持ちというのは、この世界には、およそ2人と、限られた人物のみ。だというのに、そんなレベルの存在が目の前に2人もいるのだ。更に、それが、私の表向きとは言え身内なのだから、そんな反応になるのも当然だ。
「私があの2人の相手をするから、お前らは、あの2人の意識が私に向いた一瞬の隙に一斉に四方から攻撃してほしい……」
「それは幾ら何でも危険すぎます!どうか考え直してください!!」
「カプラの言う通りよ。本当にシリウスの言う通り高位の神格持ちだとしたら、それは自殺行為よ。それが例え、貴方だったとしてもね」
「だとしても、シリウスの作戦以外、現段階では思いつかないと言うのも、また事実だ」
私の意見に対して、春奈とイレルリカが反対するのと同時に、ソーラルは、私の意見に賛成する。確かに神格持ちを2人同時に相手すると言うのは、本来であれば自殺行為にも等しいと言える。それに加えて今目の前にいるのは、ただの神格持ちならいざ知らず、本物の神なのだ。正直私でも死ぬことはほぼ確定事項と言える状況だ。
だが、この世界の秩序を乱した罪は、例え神界の神でも許されないということを、その身に刻んでもらうとしよう。
「それじゃあ、私が前に出てあの2人と話すから、その隙にさっき私が話した通りに頼む」
『了解 (です)』
私がそう言って前に出るのと同時に、他の4人は、2人を取り囲む形へと移動する。
「何故、このようなことをしたんですか?貴女方は、あの方の命によりこの世界へ来たはずです。事前に話を聞いた限りでは、スターズ側が敵対意識があるかどうか聞いたところ、貴女方は、その場にいたスターズの指揮官に攻撃を行った。これは、明らかな敵対行動である。更に、これだけの被害を出したのであれば、このままでは、かなり重い刑罰を科されることとなります。ですが、今投降するのであれば、減刑することも可能です」
「へぇ〜。私達を裁く気なんだ」
オルナ様が、そう言った直後に私は、刀を鞘から抜き、構える。
「どうやら、交渉は無駄のよだな。なら、スターズ五星使徒第2席少将シリウスの名において、異界侵入者両名をこの世界への侵略容疑等により、神滅及びこの地への封印・堕神を行う」
「面白いね!!やってみてよ!」
「ちょっと双刃ちゃん!?春人君これには訳が……」
それが冗談に聞こえたのだろうオルナ様が、そう私に挑発する。そして、リナリア様がそんなことを言いかけていたが、この時既に私の耳には届いていなかったし、意味が無いものだった。
「第一限界〜第三限界解除」
その瞬間、私の身体は、額に漆黒の2本の角が生え、牙も伸びる。腕も服がはち切れるほどに筋肉が膨れ上がった。そして背中には、天使のような純白の翼が生えた。更に下半身の筋肉も膨張する。
これが現段階で、私が自我を保った状態で出来る限界解除である。
「!? なんだいその姿は……」
この姿を見たリナリア様は、驚きで声が出ず、オルナ様は、そのような言葉を呟く。
この姿は、神でさえ驚くようだな。まあ、自分でも認識は、しているからとやかく言うつもりはないが、せめてあの子達には、あまりこの異形の姿は見せたくないな。だが、この状態にならなければ、この2人と互角かそれ以上の戦闘は望めないと言うことだ。
「第三限界……聞いてはいたがまさかここまで変化するものだとは思わなかったな」
「ええ、それにあのシリウスが第三限界まで解除しなければならないほどの存在と言うことね」
ソーラルは、変化に対しての感想を言い、イレルリカは、これがどういう状況なのかを改めて認識する。
「【マジックブレイズ・デッドエンド】」
春人がそう唱えると、数多のマジックブレイズが剣の雨となって、2人へと光速の速さで降り注ぐ。それはもう、ほとんどの者から見れば、ただの光が地面へと落ちているようにしか見えないことだろう。
私は、次の魔法の準備をする。
「これで終わりだ。【マジックブレイズ・ラグナロク】」
次の瞬間、上空に2本の巨大な剣が浮かんだ。その大きさは、約300メートル……分かりやすく言えば、横浜ランドマークタワーとほぼ同じ大きさである。
そして、その2本の巨大な剣は、私が手を振り下ろしたのと同時に、数多の剣と一緒に2人の頭上へと隕石のように落下する。
その2本の巨大が落下した後、その衝撃波が来る。
衝撃波が収まり目を開けると、衝撃的な光景が目に映った。それは、オルナ様が私の巨大なマジックブレイズを自身の剣で斬っていたのだ。衝撃波が来たから当たったとばかり思い込んでいたが、どうやらアレは、2人へと降り注ぐ全てのマジックブレイズを斬ったことによって起こったものだったようだ。
この時、私は改めてオルナ様は剣神なんだと理解させられた。
もう、マジックブレイズでは、意味がないと判断した私は、一気にオルナ様の前まで距離を詰める。
そして、振り下ろされた剣が、視界いっぱいに閃光を散らす。
私は、半歩だけ踏み込み、刃を斜めに滑らせた。
甲高い衝突音が鳴り、衝撃が腕を通って骨まで響く。だが、弾ききれない。刃が押し込まれる。
「流石は、剣神だ……」
そう呟いた瞬間、横薙ぎの斬撃が空気を裂いた。私は、身体を捻りながら後ろへ跳ぶ。
その風圧だけで地面が砕けた。
地面に着地した瞬間、私はすぐに踏み込んだ。脚力を爆ぜさせ、一息で間合いを詰める。
剣を逆手に回し、喉元へ突きを放つ。だが、オルナ様の刃は、すでにそこにあった。突きが弾かれる。その刹那、俺の脇腹へと斜めの斬撃が落ちてくる。
速い。
剣聖クラスですら、視認できない速度だ。だが、私は腰を沈め、刃の軌道へ剣を滑り込ませた。そして、剣が弾き合った瞬間、互いに距離を取らない。
むしろ逆だ。私もオルナ様も、同時に踏み込み、剣がぶつかり合う。
そして、瞬きの間に、数十。剣と剣が擦れ、火花が嵐のように舞う。
私は、踏み込みながら上段を打ち下ろす。オルナ様の刃がそれを受け止める。
だが、そのまま力で押さない。剣を滑らせ、手首を返す。
刃が弧を描き、首筋へ走る。
───しかし。
「まだまだ甘いね」
低い声と同時に、視界が歪んだ。そして、オルナ様の剣が消えた。
……いいや、速すぎて見えないだけだ。
次の瞬間、私の肩口に冷たい線が走り、反射で後退する。
私は地面を蹴り、回転しながら斬り上げる。
オルナ様は身体を僅かに傾けただけでそれを避けながら、横一閃に剣を振る。
私は、それを真正面から受け止めると、爆音が鳴る。だが、その瞬間を待っていた。
押し込まれる力を利用し、身体を滑らせ、オルナ様の懐へ潜り込む。そして、至近距離から突き、刃が一直線に胸を狙う。……だが、オルナ様は、突きに合わせて一歩踏み込んで来たことによって、距離が消え、その突きは、伸び切る前に封じられた。
だが、すぐさま嵐のような連撃を叩き込む。しかし、その全てをオルナ様は受け、弾き、流す。
だが、一瞬……ほんの一瞬だけ剣の軌道が、交差した瞬間、今までタイミングを伺っていた他の4人が一斉にオルナ様とリナリア様へと攻撃を仕掛けた。
4人が時間を稼いでくれている間に、私は急いで準備を始める。
【ストレージ】の中から一枚の呪符を取り出す。そして位相から無数のヒトガタが空中に放たれる。ヒトガタが、宙を滑るようにして飛ぶと、オルナ様とリナリア様の2人を中心に配置されていく。
やがて、それぞれが呪力の線で結ばれ、立体的な陣が完成する。
そして詠唱を開始する。
『म स्वर्ग र पृथ्वीको नियमको नाममा घोषणा गर्दछु।हे स्वर्गमा बस्ने, पृथ्वी भर्ने र क्रोधित हुने देवताहरू, मेरो आवाज सुन।तपाईंको शक्तिले संसारको सन्तुलन हल्लाउनेछ।त्यसकारण, अब, प्राचीन करार अनुसार, म तपाईंलाई शब्दहरूको शक्तिले शान्त पार्नेछु।स्वर्गका साङ्लाहरू तल झरून्, र पृथ्वीका फाँटाहरू उठून्,प्रकाशलाई पिंजडा बनून्, र छायालाई पर्खाल बनून्।』
そして、詠唱を唱え終わった次の瞬間、上空と地中から鎖が出現し、2人を拘束する。オルナ様は、その鎖をなとか斬ろうとしているが今までのものとは違い、斬ることができない。それもそのはず、その鎖は、望月家が昔、神の力と技術を利用して作り出した鎖なのだ。そう簡単に斬れる代物ではない。そして、段々と2人の力はその鎖に吸収されていき、最後に2人は、力が抜け落ちて地面へと崩れ落ちた。
そして私達、2人に対して、剣先や銃口などを向けて、私が言う。
「これで終わりです。大人しく投降するのであれば、これ以上攻撃はしない」
「私は、投降するよ。これ以上戦っても意味なさそうだし」
リナリア様は、素直に投降することを告げた。残りは、オルナ様だけだ。
「……分かった。確かにこれ以上戦っても意味がないし、大人しく投降した方が良さそうだね」
オルナ様も投降する意思を見せたため、2人には、先程の術で生み出された鎖を応用して作った手錠を掛けて、スターズ本部の留置所へ連行する準備を行なった。
「第一限界〜第三限界封印」
そして、連行する準備をしている間に、元の姿へと戻る。
そうして、連絡を受けた護送部隊が、2人を連行し、スターズ本部の留置所の中でも1番警備の厳重な場所へと、ひとまず入れることとなった。
こうして、オルナ様とリナリア様との長った戦闘は、一旦、幕を閉じたのだった。
『良かった』『続きが気になる』などと思っていただけたなら、評価やブックマークをしてくださると、とても嬉しいです。投稿日時は不定期となりますが、どうぞこれからもよろしくお願いします。




