174話 漆身呑炭な者と暗躍する者達
今回は、三人称視点です。
「クソッ!!」
そのフードを深く被った人物は、自身の手に持っていた水晶玉を地面に思いっきり投げて叩き割った。
「だいぶ荒れてるな」
フードを被った人物が、その声のした方を見る。そこには、閉じたドアに寄り掛かりながら立つ男が1人いた。だが、その男はフードを被らず、素顔を晒した状態でいた。
「何の用?もしかして、失敗した私を笑いにでも来たの?」
「いや、そもそもとして、今回の作戦は我々としては、失敗することが前提の作戦だから問題ない」
「失敗するのが分かってたの?お前が、あの2種類の妖だったか?それらは強いと聞いたから、わざわざ召喚の手伝いをしたんだぞ!」
「いや、あの2種類の妖のうち、蜘蛛の方の土蜘蛛は、かなり強い存在だ。だが、あの男にはあまり意味がなかったというだけさ。今回の作戦はあくまでも、戦闘データの採取だから、その目的は達成することができた。これはお前のおかげだから、そこは感謝しているさ」
「私達がこうして協力しているのは、お互い利害の一致があってこそっていうのは分かってる?」
男が感謝を言葉を口にすると、フードを被った人物がそう問い掛ける。
「ああ、分かってるさ。あ、そうそう。それと、先程の話の続きなんだが、お前への用事っていうのは、お前との協力関係はここまでってことを伝えに来た。もう、お前と組むことによる利益がこっちにはほとんどなくなったということさ」
その言葉を聞いた瞬間、そのフードを被った人物は、その男に向けて睨みつける。
「おいおい、そんなに俺を睨みつけるなよ。せっかくの可愛い顔が台無しだぜ?」
「黙れ!!」
可愛い顔とは言っているが、フードを被っている人物は、フードを目深に被っている上に、仮面を付けているので、素顔(表情)は一切分からない状態である。だが彼は、仮面を付けていない状態でその人物と会っているからこそ、そんな風に言ったのだ。
「この場でお前を殺しても良いんだぞ?」
フードを被った人物が、その男に向けて銃を向けながらそう言う。
「それはやめておいた方が良いんじゃないか?この場で俺が殺されたらお前が疑われることになって、今回のこともバレるかもしれないぜ?」
「その心配はない。私はスターズの幹部であり、お前は『フェアラート』の上級幹部。例えお前をこの場で撃ち殺したとしても、スターズ職員が『フェアラート』の幹部を処分したという事実が残るだけ。つまり、この場でお前を殺すことも可能だし、私にはその力があることもお前は知っているだろ?」
「そうだな。まあ今後は、俺達『フェアラート』がお前の復讐に手を貸すことはないってことは伝えておく」
「フンッ」
フードを被った人物は、そう言った後、その男に向けていた銃を自身のホルスター内へと戻した。
「確認だが、その判断はお前よりも上の奴が決めたことなのか?」
「それはどういう意味だ?」
男は、質問された意味が理解できず、フードを被った人物にそう聞き返す。
「なに、私の復讐に本来ならばお前達に協力を依頼するという時点で、かなり問題なのは私自身が理解しているつもりだ。まあ、私が言いたいのはつまり、今回の件から『フェアラート』が手を引くという判断は、お前の個人的判断なのか、それともお前よりも上の存在が決めたことなのかを聞いたんだ」
「ああ、なるほど。そういうことか。そうだ、今回のことを決めたのは、俺ではなく白金様だ」
「今回の件には『フェアラート』のトップも関与していたのか!?」
そこまでの情報は知らなかったフードを被った人物は、その話を聞き驚く。その人物的には、目の前にいる男よりも上の存在が関与していることは分かってはいたが、その上の存在がまさかスターズの敵対組織である『フェアラート』のトップである白金だとは夢にも思っていなかった。
「まさか、そこまでの存在が、今回の件に関わっていたとはな」
「ああ。なんせ、現役のスターズの幹部職員……それもスターズを決して裏切ることがなく、スターズの忠犬とも言われている存在が、俺達『フェアラート』にスターズに所属したまま協力を願い出たんだ。白金様は、そんなお前に対して、そんな理由で興味を持ち、今回の件に関与したってわけだ」
自分の立場を考えれば、そうなるのも頷けた。なんせ、そのフードを被った人物は、スターズでもかなりの発言権を持っている存在だ。そんな人物が接触し、春人への復讐に協力を仰ぐなど前代未聞の事態だ。だからこそ、『フェアラート』のトップもこの事態を重く受け止めて動いたという訳である。
「っつう訳で、そんな感じだから俺達『フェアラート』は、この時を持って、お前との協力関係を終了する。ここからは、俺達のやり方でやらせてもらう」
「分かった。まあ、さっきも言ったが、元々は私個人でやらなければならなかった問題だからな。そもそもお前達に頼ること事態がおかしな話だった。だから、これ以上はお前達に頼ることはないだろう。次に会うときは、私とお前とは敵同士だ」
「そうだな。それじゃあ、俺は精々お前と戦うことがないように祈ることにしよう」
そうしてその男は、扉を開けて夜の闇の中へと消えて行った。
「さて、私もそろそろ怪しまれる前に帰るとしようかな」
フードを被った人物は、そう呟きながら、さっきまでいた男と同じ扉を開けて、夜の闇の中へと消えて行った。
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