170話 星がひとつ消えるとき(後編)
ベッドの中に入って部屋の明かりを消して、眠りにいてから3時間後に突然、転移魔法で部屋の中に入って来た捜索隊の隊員の報告により目を覚ました。
「シリウス様、スピカ様。夜分遅くに申し訳ございません」
私は、眠い目を擦って、ベッドの上から起き上がった。隣では、アリスも私と同じように、眠そうな目を擦りながらベッドの上から起き上がった。
「こんな遅くに何の用だ?」
「至急お二人にご報告したいことがあったため、夜分遅くに失礼させていただきました」
「それで、こんな夜中に私達を叩き起こして報告をするくらいだ。それなりに有益な情報なんだろうな?」
「もちろんです。そのご報告したい内容というのは、カストル大佐の向かったと思われる場所が判明しました」
「なんだと!?」
そいつのその言葉を聞いた瞬間、一気に目が覚めるのと同時に、そう思わず叫ぶ。
「それで、カストルが向かった場所は何処だ!?」
「落ち着いて下さいシリウス様!」
「す、すまん」
感情に流されてしまったことを反省する。だが、襲撃を受けたはずのカストルが向かったという目撃情報に少しだけ疑問を感じたが、変装をした『フェアラート』の者だったとしたら、納得ができるが、何故わざわざ見つかるような真似をしたんだ?まあ、十中八九罠だろうけど、カストルを見つけ出す手掛かりくらいにはなるだろうから、例え罠だろうと乗ってやる。
そんな訳で、その情報を聞く。
「そのカストル大佐が向かった場所は、王都から出て西側の森の奥にある一軒の家だそうです」
「森の中の家?」
「はい。どうやら、その家の家主は数年前に死亡しているようなのですが、ここ数ヶ月の間に、怪しい人物が何人も出入りしているのを見たという目撃情報があり、それを頼りにその家に向かったものと思われます」
「なるほどな。よし分かった。では、この王都内にいる全隊員に対して、日が昇り次第、その森の中の家の捜査を行うと通達せよ」
「承知しました。他に何かございますか?」
「それだけ通達してくれればそれで良い」
「では、これにて失礼します」
そう言ってその隊員は、転移魔法を使って部屋から出て行った。
そして、私達は目が覚めてしまったが、もう一度だけ時間になるまで寝ることにした。
時間が経過し、私達は目を覚ました後、身支度を済ませた後に一階へと降りる。そして、教会の一階の食堂では、教会所属の宗教ギルド職員が既にご飯を食べていた。そしてテーブルには、私達の分と思われる2人分のご飯が用意されていたので、その用意されていた席でご飯を食べた。
ご飯を食べ終わった後、トランの所へと向かった。
「世話になった。感謝する。これは少しばかりの気持ちだから受け取ってほしい」
そう言って私は、あらかじめ用意していた鞄の中から麻袋を取り出した。その麻袋の中には、白金貨80枚が入っている。
「こんなによろしいのですか!?」
「ああ、構わん」
こうして教会などに泊めてもらう場合、宗教ギルド職員は、基本的には無料で宿泊できることにはなってはいるが、こうしてチップ的な感じでお金を支払うのが暗黙の了解となってたりする。しかし、今回渡した金額は、そのチップの量としてはあまりにも多いため、向こうも驚いたのだろう。
まあ、多く渡したのにも理由がある。それは、カストルや私達のことを他に漏らさないでほしいという事だ。
私達は、正規の宗教ギルドの職員ではあるが、それと同時にスターズの者でもある。カストルの情報収集をしているということを『フェアラート』に流れてしまったら最悪の場合、カストルの命が危うい。だからこそ、私達の情報が漏れないようにこうして、少し多めにチップ的なものを渡したのだ。それに、この程度の金額なら、私の給料的にほとんど影響のない金額だからな。
そんな事もありながらも、教会をあとにして、深夜に報告のあった場所に向かうべく、王都を出た。
それから暫く歩き、森の中で捜索隊と合流をする。
「お疲れ様です。シリウス中将、スピカ少将」
「ご苦労。それで、例の建物は何処にあるんだ?」
「それにつきましては、これからご案内致しますので、我々に着いて来て下さい」
その隊員により、森の奥へと案内される。そして森の中を数分間歩いていると、一軒家が見えた。大きさ的には、一般的な平民階級の2階建て民家の大きさとだいたい同じくらいの大きさである。
「では、これより突入を開始するが、まず、私がハンドサインをしたら、アルファ隊は建物裏に。ベータ隊は建物の左側。ガンマ隊は建物の右側をそれぞれ監視・警戒を行い、イプシロン隊は私とスピカとともに建物内に突入する」
私がそう作戦内容を伝えた後、建物の正面出入り口のドア前に集まった。
そして、私がハンドサインを出すのと同時に、さっき伝えた場所にそれぞれの隊員が向かった。
『こちらアルファ隊。配置完了』
『こちらベータ隊。同じく配置完了』
『こちらイプシロン隊。同じく配置完了』
それぞれの隊の報告を無線で受け取った。その後すぐに、突入の準備をする。
まず、ドアが施錠されているかどうかの確認だ。もし施錠されていば、ピッキングをして速やかに開錠するし、もしも施錠されていなければ、そのまま中に突入する。ちなみに、建物内に誰もいない事は、既に確認済みだ。
そして、そのドアを確認すると、施錠されていたため、ピッキングでドアの鍵を開錠した。また、そのドアを開錠したのと同時に、ドアを開けて隊員を中に突入させて、私達もその後に入った。
「状況報告!」
「2階北側寝室クリア!」
「2階物置部屋クリア!」
「1階キッチンクリア!」
「1階トイレクリア!」
「1階物置部屋クリア!」
「オールクリア!」
各部屋の報告の後に隊長がすべて完了したことを意味する言葉を言う。
「各員に通達。隠し扉等がないかを全部屋確認せよ」
『はッ!』
私もそこら辺を調べる。そして、リビングの端に置かれていたテーブルを上に乗っていた花瓶ごと退かす。退かして壁を調べるが特に異常がなく、元に戻そうと思った瞬間、その部分だけ、他の床の硬さと違いがあることに気が付いた。
「アリス。ちょっと来てくれるか?」
「あ、はい!今行きます」
キッチンの方の確認をしていたアリスをこっちへと呼んだ。
「何かありましたか?」
「此処の床なんだけどさ、他の床と硬さが違うと思わないか?」
私がそう言って、アリスが床の硬さの違いを確かめるように足で床を2、3回押す。
「確かに此処だけ違いますね。なんだか此処の床だけ妙に硬いというか。もしかして……」
「とりあえず、この床を調べてみよう。私の推測だと、アリスと多分同じ予想のはずだ」
そんな訳で、床を調べてみると、床に指を掛けられる場所があり、そこを持って上に引っ張り上げると、地下へと続く階段が出てきた。
「地下に続く隠し階段だな。アリス、悪いんだが、他の部屋を捜索中の奴等を此処に呼んで来てくれるか?」
「分かりました」
そう言ってアリスは、他の隊員を呼びに向かい、その間に私は、階段周りを少し調べてみることにした。
そして、少し調べてみて分かったことだが、この隠し階段は、つい最近使われた形跡があった。
「春人さん。他の隊員を連れて来ました」
「ありがとう」
調べ終わって丁度良いタイミングで、アリスと他の隊員達がやって来た。
「私が先に下に降りるから、お前達は私の後に続け。それとアリスは一番最後尾で警戒をしていてくれ」
私は、そう指示を出した後、銃を構えながら階段を警戒しながら降りて行く。
階段を徐々に降りて行くが、既に20m近くは降りている。外の見た目的に、あり得ない構造なので、ほぼ間違いなく『フェアラート』の関連施設だろう。私がそう確信すると、少しだけ開けた場所に出て、その奥には、扉がひとつだけあった。その扉を他の隊員が包囲するように銃を構える。
そして、私がハンドサインを出すのと同時に扉を開けて先に私が部屋の中へと突入する。
「おいおい…なんだよコレ……」
その部屋の中に突入すると、とても悍ましい光景が広がっていた。
その部屋に広がっていた光景というのが、部屋の壁には、元の壁紙がどのようなものなのか分からなくなるくらいの血が、ベッタリと付着しており、床も同じような感じだ。更にそれだけでなく、その部屋の中央部分には、10人以上の死体の山が、積み重なっており、その死体には、身体の何処かしらは、必ず欠損していた。そして、すぐ近くには、切断に使用したと思われる、血がベッタリと付着した、ノコギリなどの刃物類などがあったので、恐らくこの場で殺されたのだろう。
「あの春人さん。この遺体なんですけど、もしかして、王都で行方不明になっている子ども達ではありませんか?」
アリスに指摘され、その死体の数と特徴を調べる。すると、アリスの言う通り、死体の数と行方不明になっている人数の数と一致しているだけでなく、行方不明になっている子どもの特徴と一致する者もいたので、間違いないだろう。
「それにしても、これはかなり気分が悪いですね。いったい何故このような事を……」
そう言ってアリスは、少しだけ怒りを露わにしていた。
部屋の中を少し調べていると、奥に隠し扉を見つけたので、その隠し扉を開けて中に入る。すると、その部屋は、まるで研究室のような部屋だった。その部屋を調べてみると、机の上に置かれた研究資料が目に止まった。
その研究資料を手に持ち、その研究資料に目を通す。
その研究資料を見て分かった事をまとめると、この研究は『フェアラート』の呪特部隊“ツァウバー”の研究チームが主導で行っていた死者蘇生の研究であり、此処はその研究施設だということ。何故、子どもを使ったのかに関してだが、子どもの方がより良い研究結果が出たからという理由だった。そしてその研究資料の最後には、実験体にされた者達の名前が一人ひとり丁寧に記載されていた。そしてその中にカストルの偽名であるカルスの名が記載されていたが、そこの特記の欄に魔法使用不可と脱走の文字が書かれていた。
もしもこれが本当ならば、まだ生きている可能性があるが、急いで見つけ出さなければ、カストルが殺される可能性が出て来た。
私は急いでさっきまでの部屋へと戻る。
「急に戻って来て何かあったのですか?」
「ああ。向こうの隠し部屋にこの実験の研究資料などが置いてあって、その研究資料の中の名簿にカストルと思われる名前が記載されていたが、現在は逃走中らしい」
「それだったら普通に魔法とかで応戦するか転移魔法で逃げるか出来たのでは?」
「それは無理だ。その研究資料によれば、魔法が使用不可能な状態にさせられてから逃走をしたらしい。だからできるだけ早くカストルを探し出さなければならない」
私はそう言いつつ、スマホを取り出してとある人に電話を掛ける。
「あ、私です。至急増援部隊をお願いします。場所は、カルマン王国のコレット大森林周辺です」
そう言って電話を切る。
「今のって、元帥閣下ですか?」
「そうだよ」
「ところで、なんでコレット大森林を調べるのですか?スターズの支部などがある場所とは反対方向ですが……」
「その答えは至って単純だ。スターズの支部よりも近く、尚且つ身を潜めやすい場所と言ったら、この辺りだとコレット大森林だけだ。まあ、カストルならば間違いなくそっちに行くという勘の部分もあるんだけどさ」
「なるほど」
「此処にいても時間の無駄だから急いで向かうぞ。恐らく敵も同じ場所に向かう可能性もある」
「そうですね、急いで行ってカストルさんを助けましょう」
そんな訳で私達は、転移魔法で他の部隊員も連れて、コレット大森林へと向かった。
転移魔法で、コレット大森林の入り口に着いた私達は、手分けをしてカストルを捜索することにした。私は、コレット大森林の奥を調べてみることにして、森の奥へと進んだ。
同時刻、カストル視点。
カストルは、春人の予想通り、コレット大森林で隠れながら過ごしていた。
「まだ遠くに行っていないはずだ!スターズの奴等が嗅ぎつける前に、何としても探し出せ!」
「チッ!まだ探してやがる。傷は応急処置をしたとはいえ、まだ少し痛むな」
実際、応急処置はされているものの、銃創は走った影響で、傷が少しだけ開いてそこから出血し始めていた。
(このままじゃ見つかるのも時間の問題だな。それにしても、やっぱり魔法が使えないってのはかなり厄介だな。だが、あそこを脱走する前にスターズが動いているって話は聞こえて来たし、俺がこの事案で消息を断ったと知れば、多分春人も動くはず。それに春人の探索能力なら、きっとあの場所の事を知って、俺がコレット大森林の中に逃げ込んだと思うはず。ここは、春人が来るまで何としてでも逃げ切るしかない)
俺はそう考えながら、奴等に見つからないように、草むらを出血した部分を無理やり押さえながら這って、奥へと進んだ。そしてそのまま奥へと進むと、人1人分が入れるぐらいの狭さの入り口の洞窟があり、その洞窟の奥へととにかく潜ることにした。
その洞窟は、思ってたよりも奥まで続いていて、更にそこからルートがいくつか分岐していて、一旦隠れるのには、丁度良い場所だった。そして一番奥に左右に分かれた分かれ道があり、俺はどっちに行くべきか迷ったが、右の方から僅かだが、風が吹くのを感じられた。風が感じられるということはつまり、その道の先に外へと繋がる道があるということだ。
だが、現状としては、体力と傷を少しでも回復させなければならない。なので、奴等が来るギリギリまで此処で一休みすることにした。
その休んでいる間に傷の手当てをしながら奴等が近付いて来たとしても、すぐに逃げられるように気配感知を忘れないように注意する。
種族特性を上手く利用して、傷や体力がほとんど回復した後、洞窟の丁度入って来た出入り口辺りで人の気配を感じた。どうやらこの洞窟が見つかってしまったようだ。此処までは少し距離はあるが、見つからないように急いで奥に進み、外まで向かった。
奥へと進んで行って、外の光が見えて外へと出る。だが、その場所は、今の俺の状況を考えれば、最悪な場所へと出てしまった。引き返そうとも考えたが、今戻ったら間違いなく鉢合わせてしまうので、このまま逃げるしか選択肢はない。
「なんでよりにもよって、こんな高原だと奴等に見つかっちまう!とにかく、今は少しでも遠くに逃げて、早く春人と合流しなくちゃな」
「お前が黒鉄の弟子のシリウスの親友とかいう、シャドウ評議会第3席のカストル大佐だな?」
「何者だ!?」
全然気配を感じなかっただと!?いったい何者なんだコイツは?
「これから死に逝く者が知って何の意味があるんだ?それに、俺の正体を知ったところで、絶望するだけだと思うがな」
その男が俺にそう言い放った瞬間、俺の腹部に激痛が走った。そしてその男の右手には拳銃が握られていた。その状況を瞬時に察して、俺は痛みを堪えながら『瞬足』というスキルを使い、全力でその場から逃げる。
「『瞬足』程度のスキルで、この俺から逃げ切れるとでも本気で思っていたのか?だとしたら実に哀れだな……いや、俺の正体を知らなければ逃げ切れると思っても無理はないか」
「グハッ!」
俺は『瞬足』のスキルを使って逃げたが、追いつかれるどころか、俺の前に立ち、俺をそのまま地面へと叩きつけた。
俺は、傷の痛みなどで上手く立ち上がることが出来なかった。そんな俺を見下ろしながらその男はこう言った。
「黒鉄の弟子を誘き出すためにお前を利用したのだが、最後まで現れなかったな。今のお前は、回復魔法も使えず、種族特性の回復機能なども鈍っていて、かなりの痛みがあるはずだ。どうやら黒鉄の弟子は来ないみたいだからお前の役目はここまでだ」
(さっきから気になっていた黒鉄の弟子という言い方……黒鉄様を呼び捨てに出来る存在なんて非常に限られる。更に、春人のことを黒鉄の弟子と言っている。それってつまり……いやまさか!あり得ないだろ!?だとしたらコイツの正体は……!!)
俺はそいつの正体に気付くと、一気に絶望感に苛まれる。
「その表情。どうやら俺の正体に気づいたようだな。そうなるから俺の正体については考えない方が良いと言ったのだがな……まあ良い。その絶望した状態のまま死んでいけ」
その男が、冷酷な口調と目をしながらそう言って俺は諦めそうになった瞬間、その場に一発の銃声が鳴り響いた。
だが、その銃声と同時に被害を受けたのは、俺ではなくその男の方だった。正確に言えば、俺を撃とうとしていた銃が破壊された状態で辺りに飛び散ったのだ。
そしてその男は、狙撃地点と思われる場所を見る。
「バカな!1100ヤードは離れてるぞ!?そんなところから狙撃なんてありえん!」
1100ヤード……フッ、そんな長距離狙撃を出来るのはスターズではアイツくらいだ。
「まったく……来るのが、少し遅いんじゃ、ないか?なあ……春人」
俺はそんな弱々しい声で春人に向かってそう言った。
そして再び春人視点へと戻る。
「まったく……来るのが少し遅いんじゃ、ないか?なあ……春人」
そんな弱々しい声で、カストルは私にそう言った。
「文句を言える余裕はあるようだな。だが、それ以上は喋るな。傷が広がる」
本当はカストルがかなり重症であることは、その傷や回復スピードの遅さから分かってはいる。だが、無駄な心配を掛けさせたくないというカストルの想いを無視することは出来ず、敢えてそう言うことにした。
「さて、随分と私の親友を痛めつけてくれたものですねぇ……白金殿?」
私は、白金に対して、殺気を放ちながらそう言う。
「俺としては、お前が来てくれたことに満足しているよ」
「そんなことのために、カストルをここまでの重症を負わせたんですか?だとすればタダではすみませんよ?」
「そんなことはどうでも良い。俺にとっては、お前を誘い出すエサに丁度良いからコイツを選んだまでに過ぎんからな。まあ、ついでにある実験の実験台にもなってもらったがな」
「お前……ふざけるのも大概にしろよ?」
「コイツにそこまでの利用価値はないと思うんだが?なぜ、そいつをそこまで大切にするのか理解できんな」
「親友だからだ。どうせ貴方には理解できない感情なんでしょうけども」
「そうかもな」
「それで、さっさと本題に入ってくれませんかねぇ?こちらは、あまり時間がないもんで」
「良いだろう。お前をこの事件に巻き込んだ理由は、お前がどのような行動をするのか検証するためさ」
「そんなことのためにカストルを巻き込んだと言うのか!!」
私は、白金のその言葉を聞いて、さっきよりも濃い殺気を放ち、怒りを露わにする。それにカストルの残り時間もかなり少ないという点も理由である。
「ああ、そうさ。俺にとっては、その男の命なんてどうでも良い存在なんだよ」
「もういい……お前はもう死ね」
普通の人間ならばその殺気を受けただけでも即死するレベルの殺気を白金に向けて、私はそう言い放ちながら【ストレージ】の中に仕舞っていた刀を取り出すのと同時に瞬時に斬り掛かる。
だが、白金は私の放ったすべての斬撃を避けて、少し遠くに転移した。
「今お前と戦うつもりはない。俺も忙しいからな。これで俺は帰らせてもらうとするよ」
「逃すと思うか!!」
私は白金にそう強く言い放ちながら、白金に向かって、鋭い斬撃と強靭な魔力糸での攻撃を緻密に行うが、その攻撃が届く直前で、転移魔法を使われそのまま逃げられてしまった。
逃げられてしまった後、すぐにカストルの所まで駆け寄り、回復魔法をカストルに使う。
「【メガヒール】」
「春人…もう良い……」
「カストル……」
カストルの傷を回復魔法で急いで治そうとする私の手を掴みながらそう言い、私は思わずそう呟く。
「もう、俺に…回復魔法を…かける…必要は、ない……」
「今治してやるから、余計なことを喋るな!」
「医師の資格を持つお前なら……俺の今の状態を、診断することは、容易なはず、だろ……?」
ああ、そうだよ!!本当は、私が今使える回復魔法の中で一番上位の回復魔法である【メガヒール】でも、お前の傷を治すことが不可能なことくらい、頭の中では分かってるんだよ!!
頭の中では、そんなことくらい分かっていても納得がいかないこともある。それが人間というものだ。
「なあ、春人……俺のために、ここまでしてくれて、ありがとな……」
「おい、何辛気臭いこと言ってるんだよ!ポラリスやまだ幼い娘を残して死ぬつもりか!!」
「2人には、すまない……そして、今までありがとうと…伝えてくれ……」
「断る!その言葉は私からではなく自分から伝えろ!だからまだ死ぬんじゃない!!」
私はスマホを取り出して、アリスのスマホへと繋げる。
「私だ!急いで救護班を連れて来てくれ!」
私は、切羽詰まった声でアリスにそう伝える。
『場所は既にこちらで把握しています。ただし、ヘリでの移動中のため、後早くても5分掛かります!』
「5分では間に合わない!!少なくとも2分以内に来てくれ!」
『出来るだけ急ぐとしか言いようがありませんが、2分以内に現着出来るようにします!』
「頼む……そうしてくれ」
そう言って私は、アリスとの通話を切った。
「あと少しで救護班も到着する。だからもう少しだけ意識を保て!」
「春…と…最後に頼みが、ある」
「……何だ?」
私は、カストルの時間が本当にあと僅かで、もう延命治療も不可能なことを理解して、カストルの最後の願いを聞くことにした。
「俺を…お前の手で、逝かせて…くれ……」
「なッ!?」
カストルから言われたことは、私にとって、あまりにも衝撃的過ぎる内容だった。
「いったい何を言ってるんだ!私がお前をこの手で殺すだと!?そんな願い聞けるわけがないだろ!!」
最後の願いは聞いてやりたいとは思ったが、そんな願いなんて聞きたくない!!
「もう、時間が…ないんだ!アイツに殺されるよりも、お前に殺された…っていう方が、あの世でも…自慢が…しやすくなる…だろ?」
どっちかというと、白金の方が実力や種族などの立場からしたら上だし、自慢しやすいとは思わなくはないが、カストルにとっては、私に殺された方が自慢になるというのであれば………
私は、ゆっくりと手を振るわせながら、【ストレージ】に仕舞っていた中で、1番の小口径拳銃(ワルサーPPK)を取り出して、その銃口をカストルの頭へと向ける。
私が、カストルに銃口を向けた瞬間、僅かにだが、微笑んでいた。
「何で、微笑んでんだよ……」
「お前の手で死ねるからだよ……逆に、お前以外に殺されるとしたら、ポラリス……“プリムラ”くらいだな。おっと……もう、そろそろ別れの時、みたいだな……」
その言葉で、自分が親友であるカストルを自分の手で殺さなくてはならないことに、改めて動揺というよりも絶望感に近い感情が込み上げてくる。
そして、カストルと今まで過ごしてきた思い出を思い返して、私はカストルを射殺する覚悟を決める。
「カストル。お前と親友になって、私の人生は大きく変わったと言っても良い。もちろん良い意味でだ。だからこそ、この言葉を言わせてくれ……“今までありがとう。そして、私の親友となってくれたこと、嬉しく思う。だからこそ、次の生では、お前と再び会えることを祈っている”とな。……さようならカストル……いや“レオニス”」
「ああ、元気でな。それと、後のことは…頼んだぞ……」
「ああ、任せろ。今までありがとなレオニス」
私は、レオニスが苦しまないで死ねるように確実に即死させることが出来る場所である脳に向かって、銃口を向けて引き金を引く。そして、銃の引き金を引いた瞬間に銃声が高原全体に鳴り響く。
私は、地面へと膝から落ちるのと同時に、一応レオニスの死亡確認をする。
「神聖歴3154年5月27日午前9時40分。死亡、確認……」
死亡確認をした後、笑顔の状態のレオニスの顔を眺める。苦しまずに死んだことを意味していると解釈し、何とかレオニスを自分の手で殺してしまったという罪悪感から少しでも逃れようとしているようだ。
《確認しました。神級回復魔法【アルティメットヒール】の取得条件:【メガヒール】を複数使用し、その対象者が死亡状態となる。を達成しました。これにより【アルティメットヒール】の使用が可能となりました》
シエラのそんな声が聞こえた。
《遅いんだよ!!何でもっと早くに取得が出来ないんだよ!》
《申し訳ありません。ですが、こればかりは取得条件としか言いようがありません》
本当は、ただの八つ当たりでしかないことは分かっている。だが、それでも納得が出来ないことだってある。そんな思いで、アリス達が来るまでその場で絶望感に苛まれながら、ただ単に立ち尽くすのだった。
そして、レオニスの死亡確認をした2分後、CH-47が3機到着し、そのうちの、2機は捜索隊の隊員(本部からの増援含む)が搭乗しており、残りの1機には、救護班とアリスが搭乗していた。
最初は、カストルが見つかったことに喜んでいたようだが、死亡していると分かったとき、全員の顔が一気に曇った。
「は、春人さん……」
アリスが気まずそうに私に声を掛けてくる。ここで私情を挟む訳にはいかないと思ったので、とりあえず隊員達に指示を出すことにした。
「これより指示を出す。支部の者達には悪いが、この場での戦闘の痕跡を始末を頼む。その後、処理が完了次第、支部の方に戻ってもらっても構わない。次に、本部所属の捜索隊は、このまま本部まで搭乗して帰還する。もちろん、カストル大佐の遺体も搭乗してだ。それから、各員搭乗する機体は来るときと変わらずだ。ただし、救護班とアリスが乗って来た機体には、私とカストル大佐の遺体も搭乗する。いいな?」
『はッ!』
その後すぐに、私の指示通りに動き始めた。そして、地面に横倒れている状態のカストルの遺体を、地面から担架の上へと移して、そのままチヌークへと乗せる。
チヌークに乗せた後、他の2機にも隊員達が搭乗する。
『総員搭乗完了しました』
「了解。各機離陸用意」
全員の搭乗が完了したのを確認後すぐに離陸用意を行う。
「離陸用意完了。いつでも離陸可能です。また、他の2機とも同じです」
「了解。各機離陸開始」
「離陸開始」
パイロットにそう指示を出すのと同時に、他のチヌークのパイロットにも無線でそう指示を送る。
「ステルスモード発動。これよりスターズ本部へ帰還する」
「ステルスモード発動。目的地、スターズ本部」
3機とも離陸してある程度の高度までなった後、ステルスモードを発動させるよう、パイロットに指示を出す。そうして周りからこのチヌークが見えないようにして、スターズ本部向かうのであった。
チヌークのワープ機能を使いながらスターズ本部に到着し、そのまま飛行場エリアに着陸態勢に入る。
「はい、分かりました」
アリスは、何処からか電話が来ており、本部に到着する数分前からその相手と会話をしていて、今その話が終わったようで、その人物との電話を切った。
「着陸態勢入ります」
「本機はそのまま上空にて待機。残り2機が先に着陸し、隊員達は儀礼隊列になれ!」
アリスが無線を通じて命じると、そのまま他の2機が先に着陸し、その中から隊員が降りると、そのまま儀礼隊列になり、本機の着陸ポイントから入り口まで並でいる。
そして着陸し、ハッチが開いて、カストルの遺体が乗っている担架の車輪がハッチから地面に着いた瞬間に号令が辺りに響く。
「捧げ銃! 敬礼!」
指揮官のその号令と同時に、銃を両手で握り、銃身を垂直に持ち上げ、その後、銃を高く持ち上げ、カストルの乗る担架へと注目が集まる。
よく見ると、建物内にもいて、恐らくさっきまでアリスが電話していたのはこのためだったのだろうと思った。
すると、建物の中から、カストル……レオニスの妻であるポラリス……プリムラとその娘がやって来た。
「シリウス様……この後、夫の遺体はどうなるのでしょうか?」
いきなりそんな質問を何故して来るのかと思ったが、プリムラの顔をよく見ると、目元がかなり赤く少しだけ腫れ上がっていた。それに目元の皮膚が荒れて、さらに擦った影響により、切れている箇所が小さいが幾つか見受けられた。
「このまま遺体安置室まで運ぶ。その後の対応については、元帥閣下達と協議を行なった末で決める」
「分かりました。突然お止めしてしまい申し訳ありません」
私は、プリムラに対して、今後どうする予定なのかを少しだけ説明すると、プリムラはすぐにそう言って道を開けた。
遺体安置室までの道中には、スターズの職員が並んで敬礼をした状態でいる者が数多くいて、その中には、涙を流す者もいた。この光景を見れば、レオニスがどれだけ慕われていたのかが分かるな。
その後、レオニスの遺体を遺体安置室に収容後、元帥閣下やソーラル達と協議をした結果、レオニスの遺体を一旦、プリムラに引き渡した後、葬式を行なった後に、墓に埋葬することが決定した。
そして、それから3日後、レオニスの葬式の日がやって来た。
「それではこれより、シールズ総隊長兼シャドウ評議会第3席のカストル大佐の葬儀を執り行います」
司会担当者がそのように開催の言葉を述べる。
「続きまして、カストル大佐の御遺体が正面出入り口より参られます。一同、敬礼!」
正面の扉が開くのと同時にレオニスの遺影を両手で持つプリムラが先頭となり、その隣には、2人の娘がおり、2人の後ろには、レオニスの遺体が入った棺桶を持つ6人が続く。
そして棺桶が置かさったのを確認して、司会を進行する。
「では、続きまして、手向けの言葉を五星使徒第2席シリウス中将よりいただきます。シリウス中将お願い致します」
私が手向けの言葉をレオニスに言い、その後、墓地まで行き、レオニスの遺体を埋葬した。
また、プリムラとその娘がレオニスが埋葬された墓を涙ぐみながら観ていたが、暫くの間はそっとしておくことにした。
そして時は再び現在に戻る。
「これが、カストル元大佐…まぁその後、2階級特進をしたので少将ですね。と、父上との昔話ですね」
「春人にそんな過去があったなんて……」
最初は、軽い気持ちで聞いたことだったが、それが自分の思っていた以上に重い話で、アイリスは、自身が軽い気持ちで聞いたことを少し後悔した。
「春人様のあの【アルティメットヒール】は、そんな経緯で手に入れたものだったのですね。大切な親友を失った過去を経て、今の春人様があるんですね」
エイルとしては、聖女という立場柄【アルティメットヒール】の取得条件は知ってはいたが、春人がどのような経緯で手に入れたのかは気になってはいたので、話を聞いてその取得経緯に納得がいった。
その他にも各々考えていたが、突如として白夜達の後ろを見ながら顔を強張らせる。
「あの……急にそんな顔をしてどうしたんですか?まるで自分らの後ろに幽霊でもいるかのような顔をしていますが」
「随分と懐かしい話をしているじゃないか?なあ、白夜、春奈」
「ち、父上!?」
「お、お父さん!?」
白夜がみんなにそんな風に言った瞬間、私は白夜と春奈の後ろからそんな風に声を掛けると、2人ともかなり驚いていた。
「い、いつの間にいらしていたんですか?」
「2分くらい前に部屋のドアの前に転移したんだが、何だか懐かしい話を2人がしているもんだから、姿を消してから部屋の中に転移して今に至るって訳だ」
そんな説明をすると、テレスが質問をして来た。
「ところで春人様は、今まで何処にいらしたんですの?」
「ん?さっきから話しているカストルの遺体が眠る墓と死亡した現場の2ヶ所に墓参りなんかをしてたんだよ」
テレスの質問に対して、私はそう答えを返した。
「あ、では、私達は本部の方に帰りますね」
「おい、ちょっと待て。お前達はここに用があって来たんじゃないのか?」
「あ、そうでした。一旦執務室によったんですが、その時には、執務室にいなかったので、こっちに来たんでした」
「だったらその要件を伝えてくれ」
「分かりました。要件というのは、人事異動に関してでして……」
「人事異動にしては、まだ早くないか?」
人事異動の時期はまだまだ先のはずなのに、急な人事異動にプラスして、この2人が態々私のところに来て伝えるというのは、少し異常なので少し聞くことにした。
「本来人事異動は、来年の春に発表されるはずだろ?それに人事異動の担当は人事局の担当だから、元帥である白夜や五星使徒である春奈が関わるところではないはず。なのに今回、人事に関わっているっていうことは、何か特別な事情もしくは立場の者の所属が変わるってことか?」
「父上の仰る通りです。こちらのアルマー王国支部の副支部長補佐官に新しく着任する者についての報告をしに来たんです。それと、これがその者の資料となります」
そう言って白夜は、その手に持っていた角2封筒を渡しに手渡して、その封筒の中からホチキス留めがされた資料を取り出す。
「随分と薄いんだな」
本来、こういった人事資料というのはアツいものだ。だが、この人事資料は普通のに比べて明らかに枚数が少なかった。
「それは、その者の所属に関係しているためです」
「所属?」
その資料をめくって、現在の所属の欄を確認する。
「スターズ本部情報局特務課特殊諜報官か……なるほど。これなら資料の情報が少ないのにも納得だな」
「あの、それってどういうことなのですか?」
私がそう納得すると、信女がそう聞いて来る。まあ、知らなければそう聞きたくなるかもな。なんせ、情報局の中でも極秘扱いの存在で、知っている者は知っている程度にしか認知されていないからな。
「えっとだな。この情報局特務課特殊諜報官っていうのは、スターズの中でも極秘扱いとなっている存在で、知っている者は知っている存在程度しか認知されていないくらい極秘扱いになっている存在で、その主な活動内容は、スターズ内で発生した事件などの処理や危険人物の監視、完全たる敵国や仮想敵国に対する情報収集や破壊工作そして『フェアラート』などの情報収集などを随時行なっている者達だな。そして、ただの諜報員という訳ではなく、戦闘能力も特殊諜報官の全員が、他の職員よりも遥かに高く、その戦闘能力は、シャドウ評議会の上位席に匹敵するほどの実力を持っていて、階級も最低でも特尉以上の階級の者でなければ着任することが出来ないほど、スターズの中でも優秀な集団何だよ」
信女の質問に対して、私は特殊諜報官について説明をした。
「少し理解が追いつかなかったところもありましたが、だいたいのことは理解出来ました」
そこは全部ではないんだなと、ツッコミを入れたくなったが、今はそれでもいいかとも思ったので、そのままの理解で終わらせることにした。そしてそのその特殊諜報官の話を終わらせる。
「あ、そういえば何ですけども……」
エリアが突如としてそう言う。
「どうしたんだ?」
「さっきまでの白夜さんや春奈さんの話で、春人さんの親友だったカストルさんが既に亡くなっていることは、分かりましたが、実際春人さんの口からカストルさんの話を聞きたいです」
「あ、あたしも聞きたい!」
「私も聞いてみたいですわ」
エリアがそう言うと、アイリスやテレスもそう言って来て、更に他のみんなもカストルの話を聞きたそうな目をしていた。
「ハァ。分かった……話すから。まず何処から聞きたい?」
「春人様とカストルさんの出会いから聞きたいです」
するとシルヴィアがそう言ったので、カストルとの出会いからみんなに話すことにした。
この時の私はまだ知らなかった。何故、スターズの中でも極秘扱いとなっており数少ない情報局特務課所属の特殊諜報官がアルマー支部への移動願いを出し、副支部長補佐官となったのか、その理由を知るのはもう少し後の話である……。
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