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異世界転生術師  作者: 青山春彦
第18章 漆身呑炭
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169話 星のひとつが消えるとき(中編)

 【ワープ】によって、カルマン王国の王都近くの人目につかない場所に、私とアリスの2人で転移した。ちなみにその場所は、王都が見える森の出口近くの茂みだった。


「上手く転移できたみたいだな」

「それじゃあ、とりあえず王都の中に入って、カストルさんについての情報収集をしてみましょうか」

「そうだな。そういえば、まだアリスには言ってなかったが、一足先に捜索部隊が王都入りしていて、今夜合流して情報共有を行う予定だ。まぁとりあえず、私達にしかできない情報収集方法で調べてみよう」


 そんな訳で、私達はその森の茂みから抜け出して、王都の入り口の列に並ぶ。ちなみに宗教ギルドの制服(神官着)の上に目立たなく尚且つ、違和感のないローブを身に纏っている状態だ。

 列に並んでから数分が経った頃、やっと私達の番が回ってきた。


「身分証をお願いします」


 門番の男にそう言われ、私達は身分証をその門番の男に見せる。


「なッ!!?」


 私達の身分証を見た、門番の男が一瞬だけ、そのように驚いた声を漏らしたが、その門番の男は、どうやら気が利くタイプだったようで、私達の格好を見て、深く詮索することなく通してくれた。

 ちなみに、何故あの門番の男が、それほどまでに驚いたのかと言うと、私達の階級が枢機卿級と大司教級宗教ギルド職員だからだろう。私達のこのふたつの階級は、宗教ギルドでは、上位幹部に区分されていて、その権限は、伯爵位の貴族程度までならば拘束や処分を下したり、国政にも多少ではあるが、口出しをすることが可能なのだ。だからこそ、あのように驚きの表情を見せるのも仕方のないことなのだ。

 まあ、そんなこんなで、王都の中に入った私達はまず、カストルの情報を集めるために、カストルが例の事件で聞き込みをしたであろう孤児院へ行ってみることにした。

 その孤児院の扉の前まで着き、その孤児院の扉をコンコンコンとノックする。


「はい、どちら様でしょうか?」


 扉を開け出て来たのは、この孤児院の院長のアンナ・ソレイユだった。見た目的には40代後半の女性だ。


「失礼。私達はこういう者だ」


 私はそう言って、私とアリスは宗教ギルドの身分証を見せる。


「宗教ギルドのお偉いさんが、このような孤児院にどのようなご用件で?」

「この王都で発生していた、子どもの連続失踪事件の捜査を行っていた、宗教ギルド本部所属のカトル大司教級宗教ギルド職員が数日前から連絡が取れないため、私達が彼の足取りを追っており、此処に来たのも、彼ならば此処に来ている可能性が高いと考えたからなのだが、覚えていないだろうか?」


 カトルとは、カストルの表向きの偽名である。


「私は記憶にありませんが、娘のクレアならもしかしたら知っているかも知れないので呼びますね」


 アンナはそう言って、娘のクレアを呼びに行った。

 この孤児院は規模的には、小規模孤児院であり、先程のアンナと娘のクレアの2人でこの孤児院を運営しているらしい。


「お待たせしました。この孤児院の院長のアンナの娘のクレア・ソレイユと申します。もしよろしければ、立ち話も何ですので、中でお話を聞きませんか?」


 私は、アリスの方へ目をやると、こくりと頷いたので、孤児院の中で話を聞くことにした。


「では、お言葉に甘えるとしよう」

「では、こちらにどうぞ」


 クレアによって、孤児院の応接室へと案内される。

 そして、クレアと私達が対目になるようにする。


「あ、どうぞお掛けください」


 クレアにそう促されて、私達はソファに座る。すると、応接室のドアが開くと、お盆に2つの紅茶の入ったティーカップを持って、アンナが入って来て、私達の目の前にそれぞれティーカップを置くと、そのままドアを閉めてからクレアの隣に座った。


「先程、そちらの院長のアンナさんには話を聞いたのだが、この王都で発生していた、子どもの連続失踪事件の捜査を行っていた、宗教ギルド本部所属のカトル大司教級宗教ギルド職員が数日前から連絡が取れないため、私達が彼の足取りを追っており、此処に来たのも、彼ならば此処に来ている可能性が高いと考えたからなのだが、覚えていないだろうか?」

「そうですねぇ……」


 そう言いながら、彼女は少し考え込む。


「そういえば最近、名前までは正直覚えていないのですが、宗教ギルド本部からいらっしゃった方ならばいますね。この孤児院に来客が来ること自体が珍しい事なので覚えています」


 扉の奥でこの孤児院の子ども達が聞き耳を立てているのもそのせいだろうか。それに孤児院の中に入ってこの応接室までの間で、物珍しい様子で見ていたのにも納得がいった。


「それで、その宗教ギルド職員とはどんな会話を?」

「ええと、確か……うちの孤児院で失踪した子どもについての情報と、他の孤児院などで失踪した子ども達との関係性などについても聞かれましたね。その他でしたら、失踪した子どもの特徴などの一般的?な質問くらいです」


 拉致された子どもに関しての関連性はないのに、いったいどうしてカストルは、そんなことを聞いたんだ?


「アンナさん。捜査へのご協力ありがとうございました。では、私達はこれにて失礼します。それじゃあ行きましょうか。春人さん」

「そうだな。では、我々はこれで失礼する。それと、捜査への協力に感謝する」


 そうして、私達は孤児院を出て、王国所属の暗部(諜報機関)のエルダリアに直接会って話を聞くことにした。だがその前に、アポを取るためにエルダリアの者達がそういったことに利用する酒場の地下へと向かう。

 その地下へ来た私達は、そのカウンターに座っていたひとりの男の隣へと座る。


「マスター。シークレットイグゼィスト・エルダリアを頼む」

「承知致しました」


 私がマスターにそう言うと、店の奥へと行った。 

 今言った言葉は「自分達はエルダリアに用があるが、自分達は特殊な存在であり、存在を知られたくないから席を外してほしい」という合言葉のようなものである。


「その言葉を他所の国の奴が知っているっていうのは珍しいな。見たところ、そのローブの中に着てある服からして、かなり高位の宗教ギルド職員なんだろうが……」

「此処に来ている時点で、言葉を知っていても不思議ではなかろう?それはそうと、お前がエルダリアとの仲介者だな?」

「そうだとしたら?」


 私の質問に対して、その男はそう返してきた。


「私達は、スターズの五星使徒(ペンタグラム)の者だ」

「スターズに依頼しているという話は聞いていたが、まさかスターズの最高戦力とも言える五星使徒(ペンタグラム)が2人も動くとは思っていなかった」

「すまないが、今回はその件とは少し別件で動いている」

「別件?」

「ああ。今回我々が動いているのは、その事件を捜査していた、シャドウ評議会第3席のカストル大佐が捜査中に消息を絶ったからだ」

「この事件には、スターズの上位幹部までもが動く何かがあるということか?」

「我々にも守秘義務があるから、これ以上のことがあまり言えないが、言えるとしたら、我々と敵対する組織が関わっている可能性が出てきているということだ。とにかく、そのカストル大佐がエルダリアの諜報員と接触している可能性があると思って、こうして来たのだ」

「なるほど。俺は心当たりはないが、直接接触してる可能性もあるか……分かった。確認取って来るから少し待っててくれ」


 そう言ってその男は、席から立ち上がり、壁に仕掛けられた隠し扉を開けて、中へと入って行って、その隠し扉は元の壁へと戻った。


「なあ、アリス。カストルはエルダリアの諜報員と接触してると思うか?」

「どうでしょうか?カストルさんでしたら直接接触をしていてもおかしくはないと思いますが、何とも言えませんね」


 そんな感じで、私とアリスはそんな会話をしばらくしていると、隠し扉が開き、あの男が戻って来た。


「待たせてしまってすまない。今、エルダリアの奴に確認を取ったら、お前達と会いたいそうだ。場所を案内するから俺に着いて来てくれ」

「分かった」


 私はそう返事をして、椅子から立ち上がり、私達はその男の後ろを着いて行った。

 そして着いた先は、この国の諜報機関であるエルダリアの本部であり、その本部内へと案内された。王宮の中に本部が無いことは知っていたが、まさかこんなところに本部を設置しているとは思わなかったな。

 そして私とアリスは、諜報員にカストルの写真を見せて聞くことにした。



「すまない。私は、スターズ五星使徒(ペンタグラム)のシリウスだ。この男について見覚えはないだろうか?」

五星使徒(ペンタグラム)!?……それで、この男性は?」

「最近発生している連続失踪事件について捜査をしていた、スターズの幹部職員だ」

「申し訳ありませんが、その男性には見覚えがありません」

「そうか。協力に感謝する」


 そんな感じで、話を聞いたのだが、カストルを知っている人物は誰一人としていなかった。そして時間も時間なので、アリスと合流することにした。


「アリス。そっちは収穫あったか?」


 私がそうアリスに聞くと、首を横に振った。


「いいえ。残念ながらこちらで聞いた人達は、誰一人として、カストルさんのことを知りませんでした」

「そうか……こっちもカストルについての収穫はゼロだったよ」

「その様子だと、欲しい情報は得られなかったようだな」


 私達が少しだけ残念に思っていると、此処へと案内をしてくれた男が、私達にそう言って話し掛けて来た。


「まあ、そうだな。だが逆に、エルダリアの諜報員と接触をしていないことが分かったのは、ある意味で収穫だった」

「それは確かにそうですね」

「意外と前向きなんだな」

「そうしなければ、必要のない情報を掴むために時間を無駄にしてしまうかも知れないからな」

「なるほどな。それでこれからどうするんだ?」

「この街で少し情報収集を行おうと思う」

「分かった。こっちで協力ができることがあれば、協力させてほしい」

「ああ。その時はよろしく頼む」


 そう言った後、私達はエルダリアの本部を後にし、地上へと出た。

 地上へと出ると、既に夕暮れ時となっていた。どうやら思っていたよりも時間が経っていたようだな。


「随分と時間が経っていたようですね」

「そうだな。アリス。悪いが、泊まる所を先に見つけて来てもらえないか?」

「わ、分かりました。泊まる所が決まったらスマホで連絡をすれば良いんですよね?」

「ああ、頼む。それじゃあ私は、やることがあるから頼んだ」


 そんな訳で、私達は一旦、少しの間だけ別々に行動をすることになった。

 アリスと別れてから、私はとある路地裏の中へと入って行った。

 奥へと行くと、既に他の隊員達が集まっていた。集まっているのは全員ではなく、あくまでも分隊長級からの者達だ。


「待たせたな。それでは、各分隊の情報を報告してくれ。まずカストル大佐の移動について」

「はい。カストル大佐がこの王都に入ったのは、今から2週間前に入り、3日程この王都内で情報収集を行っていたようですが、王都を出たであろう12日前以降の足取りは現在捜査中です」

「うむ。では次に、集めていた情報については?」

「カストル大佐が集めていた情報についてですが、拉致された子どもの関連性やその子どもの最後の目撃地点とその時間。その他でしたら王都の出入りについてなども調べていることが分かりました」

「ご苦労」


 カストル。その3日の間で、お前はいったい何を調べて、何に気付いたんだよ……。


「他に何かあるか?」


 私がそう質問をするが、誰も反応することは無かった。


「では引き続き、カストル大佐の捜索を行え」


 私がそう言った後、他の奴等は瞬時に散り散りとなって捜索に戻って行った。

 そして他の奴等が戻って行った後すぐに、スマホが鳴る。スマホの画面を確認するとアリスからだった。


「泊まる場所の確保ができたみたいだな」

『その私達の宿泊場所に関してなのですが、少し調べたところ、カストルさんが泊まった宗教ギルドが管理する教会に宿泊するのが良いと思うのですが……』


 宿泊場所で何か見つかるかも知れないし、他の宿屋とかに泊まるよりも情報を得られる可能性はあるか。


「分かった。その教会に宿泊しよう。宿泊の手続きは頼んで良いか?」

『分かりました』


 一応私の方でも、もう少し調べてみるか。

 それから色々と調べてみたが、それといった情報は得られず、気が付けば、もう既に20時になっていたので、そこら辺の店に寄り道をしてから、その教会へと向かった。

 教会の前に着くと、教会の入り口前にアリスがいた。


「入り口前にいるなんてどうしたんだ?」

「迎えに行こうと思っていたところ、春人さんがこちらに向かって来ていたので、待っていたんです」

「そうだったんだな」


 教会の中へと入り、この教会の管理者へと挨拶をする。


「宿泊場所の提供に感謝する。私は、宗教ギルド本部所属枢機卿級宗教ギルド職員の望月春人だ。そして、隣にいるのが宗教ギルド本部所属大司教級宗教ギルド職員のアリスロード・クリステルだ」

「この教会の管理を任されております。宗教ギルド本部所属司祭級宗教ギルド職員のトランと申します」

「早速で悪いのだが、既に彼女から聞いているとは思うのだが、カトル宗教ギルド本部所属大司教級宗教ギルド職員の行方を探している関係で、この教会に宿泊していることが分かってはいるのだが、その泊まっていた部屋を調べさせてほしい」

「畏まりました」


 カストルが泊まっていた部屋へと案内される。


「こちらが宿泊なされていたお部屋です」

「この部屋は、当時のままか?」

「いえ。清掃などを行っていますので、完全にそのままという訳ではありません」

「なるほど。では、この部屋の家具の配置などは他の部屋と変わりはあるか?」

「配置に関しては違いがあったりはしますが、ほとんど違いはありません」

「そうか。では、予定通りこの部屋を少し調べさせてもらうが構わないな?」

「どうぞ」

 

 そんな訳で、私とアリスはこの部屋を調べ始めた。


「【サーチ】」


 【サーチ】を使い、この部屋に残っているかも知れないカストルの痕跡を探す。

 すると、入り口側の壁……というかほぼ床の端の方に僅かだが、血痕を見つけた。


「アリス。ちょっと……」


 アリスを呼び寄せて、その血痕を見せる。


「この血痕どう思う?」

「この血痕の付着の仕方からして、飛沫血痕(ひまたつけっこん)だと思います。しかも、ナイフなどではなく、銃のような武器を使用したものだと思います」

「やはりアリスもそう思うか。予想はあったが、やはり『フェアラート』が関与していることは間違いなさそうだな」


 銃を持っているとしたら我々スターズと『フェアラート』くらいだろう。まあ、最近はその『フェアラート』の下部組織の『プロディティオ』もかなり古いタイプではあるが、銃を装備し始めているという報告もあるが、カストルが『プロディテイオー』程度に負けるとは考えられんし、今回ばかりは関係ないだろうな。


「出血量は少なく見えるが、損傷部位によっては危険だな」

「そうですね。探すのにも今日は流石に時間が遅いですし、また明日にして、今日は休みましょうか」

「そうだな……」


 この飛沫血痕の状態を見れば、かなりの至近距離で撃たれたことに間違いはないだろう。


「そういえば気になっていたんだが、この部屋に宿泊をして、この教会を出たのは本当にカルス宗教ギルド本部所属大司教級宗教ギルド職員だったのか?」

「ええ。出入りしていたのは同じ方だったので間違いないはずです」

「そうか」


 恐らく、この部屋に入ったのが本物のカストルで、この部屋を出たのがカストルに変装をした『フェアラート』の構成員だろう。そして本物のカストルはこの窓から連れ出したといったところだろう。その証拠に僅かだが、窓の外側の内側から見て右下の方に小さな血痕が残っていたから間違いないはずだ。

 まあ、カストルには利用価値があることは、向こうも分かっているはずだからそう簡単に殺しはしないだろ。今、先を急いで、何かしら間違ってしまったらカストルの死に繋がる可能性が高い。だからこそ、今日は休んで朝イチで捜査を行えば良い。

 

「では、我々は休ませてもらうとしよう。私達が泊まる部屋は何処だ?」

「こちらです」


 そのまま私達が泊まる部屋に案内されるが、その部屋は、さっきの部屋の左隣だった。


「では、何か御用がございましたら、下の司祭室におりますのでお声掛けください」

 

 そう言ってトランは、下の階へと降りて行った。

 私達は、その部屋に入った後、すぐに部屋の鍵をかけるのと同時に遮音結界を部屋の中に展開する。これで、この部屋の中の会話が部屋の外に漏れる心配はない。

 そして私達はそのまま体を休めるべく、ベッドの中に入って部屋の明かりを消して、眠りにつく。だが、それから3時間後に突然、転移魔法で部屋の中に入って来た捜索隊の隊員の報告により目を覚ますことになる。

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