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異世界転生術師  作者: 青山春彦
特別編1
167/176

167 閑話 スターズのクリスマスパーティー(後編)

 祝!10万PV突破!!

 皆様のおかげで、この度10万PVを突破することが出来ました。これも偏に、この作品をご愛読下さる読者の皆様のおかげです。これからもどうかこの作品をご愛読下さると嬉しいです。

 神聖歴3254年12月24日午後19時2分。レーン海域にて、国際警察沿岸警備隊アース支部所属警備艇「やまぎく」が、『フェアラート』艦隊に対して、電光掲示板での進路変更の掲示を行う。


同日、午後19時04分。レーン海域にて、警備艇「やまぎく」が『フェアラート』の艦隊に所属する駆逐艦より主砲一発が発射。


 同日、午後19時17分。『フェアラート』第8艦隊旗艦「プテラノドン」からの対談の申し込み受諾により、警備艇「やまぎく」艦長ライサンダー警視正が旗艦「プテラノドン」に乗艦。


 同日、午後19時58分。対談終了近くにて、『フェアラート』艦隊所属の巡洋艦一隻が命令を無視し、警備艇「やまぎく」に対して、主砲一発が発射されるも、駆逐艦の時同様、ギリギリで攻撃を回避。


 同日、午後19時59分。国際警察沿岸警備隊統括本部は、対談の中止命令をライサンダー警視正に発令。それと同時に、沿岸警備隊アース支部にスターズへの応援を要請。


 同日、午後20時01分。スターズのスクランブル発進による戦闘機による攻撃が開始。


 同日、午後20時05分。沿岸警備隊警備艇応援、レーン海域に到着。


 同日、午後20時18分。スターズ第一艦隊、第二艦隊、第五艦隊。レーン海域到着。同時に沿岸警備隊に負傷者の救出後、撤退命令が発令。救出が完了後、沿岸警備隊レーン海域離脱。


 同日、午後20時20分。本格攻撃開始。



「戦闘が始まったようだな。あの者達ならば、私が直接指示を出すことは少ないだろう」


 私は、戦闘の様子が映し出されているモニターを見る。


「それにしても、あんなに必要だったのですか?第一艦隊のみでも、あの『フェアラート』の艦隊には、十分な戦力だと思うのですが」

「確かにお前が言う通り、倒すだけならば、第一艦隊だけでも十分事足りる。だが、今回の任務はあくまでも無力化だ。そうなれば、倍の戦力が必要となるため、即席ではあるが、連合艦隊を結成し、レーン海域に向かわせたんだ」

「なるほど。そういうことだったんですね」

「ああ。だが、思っていたよりも沿岸警備隊の方でやってくれたおかげで、少しだけ楽にいきそうだ」


 『フェアラート』の被害としては、潜水艦一隻と駆逐艦一隻だ。特に潜水艦をやってくれたのは正直助かる。いくら高性能なレーダーを搭載していたとしても、海の中にいる潜水艦というのは、行動を把握するのが難しいのだ。だから早々に潜水艦を撃破してくれたのは正直助かった。まあ、流石に沿岸警備隊が潜水艦を撃沈させるとは思ってなかったが……。

 この戦力差ならば、『フェアラート』の艦隊を何隻か鹵獲(ろかく)することぐらい出来るだろう。まあ、少なくとも、空母と戦艦は鹵獲して欲しいし、幹部を何人か拘束してほしいものだ。

 そう思いながら、モニターに映る映像を再び見る。モニターに映し出されている映像には、戦闘機やミサイル、主砲弾が飛び交っている様子が映し出されている。だが、映像を見ている限りでは、こちらの方がかなり優位な状況だった。なんせ───


『こちら第一艦隊より通信司令本部』

「こちら通信司令本部」

『敵駆逐艦および巡洋艦の無力化に成功。続いて、戦艦および空母の無力化に移る。そのため、第五艦隊から突入部隊を編成し、編成が完了次第、戦艦および空母に侵入し、無力化を試みる』

「了解。ただし、対潜警戒は怠るな。それと、突入部隊は、第五艦隊だけではなく、第一艦隊と第二艦隊からも選出し、突入せよ」

『了解。突入部隊の編成が完了次第、突入を行う』


 私は、そう指示を出して、カルムとの通話を終了する。

 第五艦隊の突入部隊だけでは、流石に心許ないからな。それに大型艦には、人数がそれなりにいた方が効率も良いしな。

 やっぱり、これだけの艦隊規模にも関わらず、潜水艦一隻だけっていうのが、妙に気になるな。よし、哨戒機に確かめさせるか。


「哨戒機聞こえるか?」

『こちらイーグルワン。どうぞ』

『こちらイーグルツー。どうぞ』

「イーグルワンは、そのまま連合艦隊付近の監視の索敵。イーグルツーは、敵艦隊の奥の索敵を行え」

『こちらイーグルワン。了解』

『こちらイーグルツー。了解』


 これが、私の杞憂(きゆう)ならば良いんだが……。だが、この索敵によって、これが杞憂ではないことを知ることになる。


『こちらイーグルツーより通信司令本部』

「こちら通信司令本部どうぞ」

『連合艦隊に向かって巡航中の潜水艦を2隻捕捉。規模から巡航ミサイル潜水艦と弾道ミサイル潜水艦と思われる』

「チッ。よりにもよって、その二隻かよ……」


 哨戒機からの報告に、舌打ちをしながらそう呟いた。


『至急至急!イーグルツーより通信司令本部!』

「何事だ」

『航空機17機が本部へ向かって進行中!航空機のうち3機は大型機である可能大!』


 潜水艦ばかりを意識し過ぎてたな。まさかここに来て航空戦力が新たに出てくるとは……いや待てよ。レーダーで大型機だと判断出来るのだとしたら、それだけ大きいということだ。となれば、考えられるのは、大型輸送機だろうな。その他は、戦闘機とかだろう。


「航空機の特定を急げ」

『了解』

『こちらイーグルワンより通信司令本部』

「こちら通信司令本部」


 イーグルツーに指示を出した直後にイーグルワンから無線が入る。


『残っていた巡洋艦、戦艦等艦艇より航空機発艦』

「救出活動か?」

『いいえ、違います。発艦したヘリは、UH-60にAH-64Dの武装を装備したような攻撃ヘリです』


 イーグルワンから、ヘリに関しての報告が入る。


「なんつ無茶な改造しやがる。そんな重武装をすれば、ヘリの機動性を失うことになるし、救助活動に支障が……いや、奴らひょっとしなくても、味方を助けるつもりがなくて、攻撃さえ出来れば良いということか」


 機動性を下げる代わりに火力を上げてくるとはな。


『こちらイーグルツーより通信指令本部。先程の航空機の特定完了。C-2が3機、FB-22が5機、F-15が3機、F-2が6機』

「了解。連合艦隊聞こえるか?」

『こちら第一艦隊提督』

「今出せる発艦数は分かるか?」

『約100機程ならば、即時発艦可能』

「了解。本部から戦闘機の追加支援は必要か?」

『こちらだけで対処可能と思われる』

「各艦隊所属の航空部隊へ命ずる。敵機をすべて殲滅(せんめつ)せよ。また、FB-22、F-15とF-2、C-2の順で撃墜せよ」

『了解』


 航空部隊に敵機の撃墜命令を出し、無線を終了する。

 こうした優先順位を設定したのにも理由がある。まずFB-22は、戦闘爆撃機として使用される機体だ。いくら結界を張っていたとしても、その搭載している爆弾によっては、周りへの被害が分からないため、第一優先目標とした。次にF-15とF-2だ。この2種類の機体は、どちらとも戦闘機として使用される機体だ。爆撃機の次に厄介なのがこの2種類だから同時に第二優先目標とした。そして最後にC-2だ。この機体は、輸送機として使用される機体だ。輸送機と言っても、状況から察するに、輸送しているのは物資ではなく、空挺部隊の隊員だろう。だが、空挺部隊ならば、仮に本部に侵入されても、イベント広間までになんとかすることが出来るため問題ないし、そもそも降りて来るまでに数は大分減らされるだろうから優先順位が最も低くなっている。

 まあ、このC-2の機内の中身がすべて高威力の爆弾で、そのまま勢いよく特攻して来れば、流石にあの結界でも建物などへの被害が出るだろうから、出来れば本部に来る前までに撃墜してくれれば助かるのには間違いない。


『こちら第一艦隊提督より通信司令本部。各艦隊空母の発艦準備完了。これより、敵機殲滅における発艦を行う』

「通信司令本部。了解」


 モニターで、各艦隊の空母から戦闘機が発艦して行く映像を見る。ちなみに、今次々と発艦している機体は、F-35Cである。


「特佐。空挺部隊だった時のことを想定し、施設警備課に連絡。イベント広間に近いすべての出入り口および通路に警備課の隊員を配備」

「承知しました。通信司令本部より施設警備課に連絡。敵の接近に伴い、イベント広間周辺の出入り口および通路に人員を配備。イベント広間に敵を近づけさせるな」

『こちら施設警備課第3警備部隊了解。正面出入り口へ向かう』

「通信司令本部、了解」


 すると、警備課だろう無線のやり取りが入って来る。


『第3警備部隊は、そのまま正面出入り口へ向かえ。第4警備部隊も正面出入り口を担当せよ。第1警備部隊と第2警備部隊は、イベント広間への通路を固めろ。何としても敵をイベント広間へ通すな。警備狙撃部隊は、建物に近づく敵を狙撃し、他部隊の援護に回れ』

『こちら第3警備部隊。まもなく配置完了』

『こちら第4警備部隊。至急急行する』

『こちら第1警備部隊。イベント広間通路を固める』

『こちら第2警備部隊。至急向かう』

『こちら警備狙撃部隊。他部隊の狙撃支援可能ポイントへ急行する』


 この無線の声的に、警備課の警備部隊の指揮をしているのは、施設局局長のポラリスだろう。


『こちら第3警備部隊。配置完了』

『こちら第1警備部隊。イベント広間前通路封鎖完了』

『こちら第2警備部隊。同じく完了』

『こちら第4警備部隊。配置完了』

『こちら警備狙撃部隊。狙撃支援可能ポイントへの配置完了。いつでも狙撃可能』

『了解。各部隊、指示があるまで待機せよ。ただし、緊急時のみ指示の前に攻撃を許可するが、こちらへの報告は厳守とする』

『了解』


 各部隊が配置に着いたことを報告し、ポラリスがそう指示を出すと、各部隊長と思われる4人が同時にそう返事を無線でポラリスに返した。


「これで、もし空挺部隊が本部に侵入しようとしても対処が可能となったな」

「ですがシリウス少将。念のために他の職員へも通達だけはした方が良いのでは?他の出入り口や窓から侵入されるかもしれません。そうなっては、イベント広間への影響が少なからずあると推測されます」

「第1・第2警備部隊が通路を封鎖しているし、入り口前にも2人程警備がいる。それに、もしも仮にイベント広間に侵入されたとしても、イベント広間内には、数多くのスターズ職員がいるし、その中には、私以外のスターズの最高幹部であり、最高戦力の五星使徒(ペンタグラム)がいる。だからそう心配することはない」


 まあ、あのイベント広間の中には、スターズ職員以外にもこの世界の重鎮である、宗教ギルド総帥(グランドマスター)や魔法協会会長。その他にも国家元首などもいるが、あの場にいる者達は皆優秀だから、仮に侵入されたとしても特に問題はないだろう。


「楽観視し過ぎでは?」

「そうか?私は、客観的事実を言ったと思ったんだがな」

「客観的に見れば、そう言えなくもありません。それに、イベント広間にいるスターズ職員ならば対処が可能でしょう。ですが、あの場に居るのは、世界にとっての重鎮もいます。もしもそんな人物に何かあれば、スターズの責任問題になります。そうなってからでは遅いですし、そうなってしまえば『フェアラート』の思惑通りになってしまいます」

「アズールドレイク特佐。お前は前提を忘れているのではないか?」

「前提……ですか?」

「そうだ。まず、空挺部隊に対処するのは、施設局の警備部隊だけではない。その前に連合艦隊の戦闘機が対応に当たり、撃ち漏らしがあったとしても、本部の戦闘機が直ちに出撃できる準備が整っているし、高射部隊が迎撃ミサイルの発射を速やかに行うことが可能だ。つまり、配置した警備部隊はあくまでも保険であり、メインは、今言った通りだからな」

「確かにそれならば、シリウス少将が言う通り問題はないとは思います。ですが少なくとも、五星使徒(ペンタグラム)の方々には、現状の報告は必要かと思われます」

  

 どうやら納得はしてくれた様だな。まったく……これ以上言われたら少し困るところだったぞ。まあ、言いたいことは理解できるから、心配する気持ちも分からんでもないがな。


「そうだな。では、五星使徒(ペンタグラム)と元帥への連絡を頼む」

「承知しました」


 再びモニターを見ると、航空戦が始まっていた。その映像を見ると、F-2を2機とFB-22を1機を撃墜していたが、スターズ側のF-35Cも3機撃墜されていた。


「予想はしていたが、やはりこっち側にも被害は出ているみたいだな」

「あれだけの数で攻めれば、味方への誤射によって撃墜している機体もあるかもしれません」

「考えたくはないが、今こちらが出している機体は、撃墜された機体を合わせて30機。敵機の数よりも多いし、その可能性も完全には否定できんが、仮に味方だったとしたら、味方の練度が足らないのもあるし、その時点で観察聴取を行う必要がある」

「そういえば、少将は監察課の課長でもありましたね」

「まあ、名前だけ置いて、監察課の仕事はほとんどしていないんだがな」


 これまで監察課長の仕事をほとんどしていない。それに、そろそろ新しい課長が決まりそうな話があるから、このまま監察課から外れたいものだ。そもそも私は、作戦局の人間なのに人事局にも所属するというのがそもそもおかしな話なのだ。まあ、今はそんな事はどうでも良いか。


「そんな事はどうでも良い。それよりも、五星使徒(ペンタグラム)には連絡を入れたか?」

「はい。こちらの心配は必要ないとの事です。それと、こちらに1人向かわせたそうです」

「誰を遣した?」

「さあ?そこまでは教えてくださらなかったので……」

「なんだかすごく嫌な予感がする……」


 そんな話をしていると、出入り口のドアが開き、そっちの方を振り返る。するとそこにいたのは、トワだった。

 チッ。嫌な予感が当たっちまったよ……。


「トワ!どうしてここにいる!?というかどうやってこの場所を!?」

「あ、それはですね。春奈さんを途中まで送り届けるついでに案内していただきました」

「何をやっているんだよあいつは……」


 案内するんじゃなくて止めてくれよ。とりあえず春奈は後で説教でもするとしよう。


「やっぱり、敵が来ていたのですね」

「どこで知った?」

「これです」


 そう言ってトワは、耳を隠していた髪を後ろに寄せて、耳に付けたイヤホンを指で、トントンと軽く叩く。


「もしかして最初から聴いていたのか!?」

「そうですよ、春人様。せめて私にくらい教えて下さってもよろしかったのではないですか?」

「いや、言えるわけないだろ」

「何でですか?私は、五星使徒(ペンタグラム)第2席付特別補佐官という役職なんですよ。でしたら、春人様が行おうとしていることをしていることを知る権利くらいあると思うのですが?」

「それは……」


 確かにトワの言っていることは間違っていない。


「少将。諦めた方が良さそうですよ」

「そうかもな。分かった。君達に内緒でやっていたことは認める。でもこれは、君達には対処ができないと判断したからだ」

「どうしてですか?」

「では逆に問うが、もしこの状況下で、指示を出すことができるか?それにもし何かあった場合、それを速やかに対応することができるか?」

「それは……」


 トワが口を(つぐ)む。


「できないだろ?君達に足りないのは経験と知識だ。実際、スターズにどのような部隊が存在し、どのような装備があるのか知らないだろ?」

「確かにその通りです」

「だろう?それに君達がいると他の者達の仕事の邪魔になる可能性があることを考えて伝えなかったんだ」


 本当は、純粋にこのパーティーを楽しんでほしかっただけなんて、今更言えるわけがないし、言うつもりはないかから言うことはないんだけどさ。


「だが、トワの階級的に指揮の能力は必要だから、指揮の見学という点では、この通信司令本部は最適な場所だろう。だから見るだけならば構わん。ただし、他の通信司令員の仕事の邪魔をしないのが条件だが守れるか?」

「はい。もちろんです」

「なら、私の隣に座ると良い。【ストレージ】」


 【ストレージ】の中から取り出したパイプを隣に置いて、そこにトワを座らせる。ここならば邪魔になることはないだろう。

 すると、室内に警報音が鳴り響く。


「何事だ!?」

「敵潜水艦からロックオンされました!また、敵潜水艦から弾道ミサイルと思わしき物が発射された模様!」

「おいおい。上空には、味方の機体だっているのにお構いなしかよ……まあ、そんなことどうでも良い。弾道ミサイルの着弾予想時間は?」

「約12分後です」


 私は無線で連絡を取る。


「金剛。聞こえるか?」

『こちら金剛』

「敵潜水艦より弾道ミサイルと思わしき物が発射された模様。弾頭の種類に関しては不明のため、即座に迎撃を行え」

『了解。これより迎撃ミサイルにて、迎撃を試みる』


 すると、約2秒後に金剛から迎撃ミサイルが発射された。


「金剛より迎撃ミサイル発射。弾道ミサイルへの迎撃コースです」


 モニターがレーン海域の映像から弾道ミサイルと迎撃ミサイルの位置情報図に切り替わる。

 そして、弾道ミサイルと迎撃ミサイルの表示が合わさった瞬間に消えた。


「迎撃成功しました」

「良し。弾道ミサイルを発射した潜水艦の方はどうなった?」

「現在交戦中……いえ。たった今撃沈したそうです」

「そうか。もうひとつの方は?」

「そちらは今、対応中です」

「そうか。では、各艦隊に通達せよ。これ以上被害が大きくなると判断した場合は、敵艦隊に最後通告を行った後、ハープーンにて撃沈せよ」

「……っ!了解。通信司令本部より各艦隊に達す。これ以上、被害が拡大すると判断した場合、敵艦隊に最後通告を行った後、ハープーンにて撃沈せよ」

『こちら第一艦隊。了解』

『こちら第二艦隊。了解』

『こちら第五艦隊。了解』


 あんな近距離でハープーンを撃たれれば、間違いなく迎撃することは不可能だろうし、戦艦級でも一発で撃沈可能だ。乗組員は何人か生きているだろうが、そのほとんどは海の藻屑(もくず)となることだろう。だが、敵が弾道ミサイルを発射した時点で、もう容赦する必要なんてない。そういえば、あの弾道ミサイルの弾頭は結局何だったんだ?


「こちら通信司令本部より金剛」

『こちら金剛』

「敵弾道ミサイルの弾頭の種類の特定はできているか?」

『今、比叡が解析中です』

「了解した。比叡」

『こちら比叡』

「弾頭の種類の特定はできているか?」

『完了しております。使用された弾頭には、膨大な魔力エネルギーが観測され、高威力のものであり、その点から判断するに、魔力核弾頭と推測されます』

「魔力核弾頭か……」


 通信司令本部内でも、その言葉を聞いた瞬間にヒソヒソと話し声が聞こえる。まあ、そうなるのも無理はないだろうな。


「あの、春人様。その魔力核弾頭とは何なんですか?」

「魔力核弾頭っていうのは、ミサイルの弾頭に火属性の魔石を埋め込み、更にその魔石に爆発するギリギリまで魔力を注ぎ込み、その魔石に大きな衝撃が加わると、神級魔法クラスの威力のある爆発力を引き起こすという物だ」


 魔力核弾頭を含め、危険なミサイル弾頭は存在する。この魔力核弾頭は、通常の核弾頭の5倍の威力がある。この魔力核のメリットは、通常の核とは違って、あくまでも膨大な魔力に伴う爆発であるため放射線物質を放出しないという点だろう。それ以外は、本当に危険なため、上空で上手く爆破できてホッとしている。なんせ、ここに張っている結界は、魔力核に耐えられる程、強固ではないからだ。

 それにしても奴等、今年は随分と本気だな。


「少将。今年の『フェアラート』って、随分と本気だと思いませんか?」

「ああ。私もそれはそう思っていた」


 今までもクリスマスのパーティー開催時に本部を襲撃して来ることは何度もあったが、ここまで本気で攻めて来ることは今までなかった。いったい奴等にどんな心境の変化があったんだ?


「そういえば、沿岸警備隊の方から『フェアラート』が何かあるって聞いたな。一応聞いてみるか」


 スマホを取り出し、沿岸警備隊アース支部の通信指令室に連絡を取る。


『沿岸警備隊アース支部通信指令室です』

「スターズのシリウスだ」

『どうなさいましたか?』

「警備艇「やまぎく」艦長に繋いでもらえるか?」

『承知しました。警備艇「やまぎく」艦長のライサンダー警視正に繋ぎます』

「頼む」


 そして、沿岸警備隊のアース支部の通信指令室に連絡をし、ライサンダー警視正に繋いでもらう。


『国際警察沿岸警備隊アース支部所属警備艇「やまぎく」艦長警視正のライサンダーです』

「スターズ五星使徒(ペンタグラム)第2席少将のシリウスだ。君が報告したという『フェアラート』側の裏切りということについて聞かせてくれないか?」

『上の方は、その話を真剣に聞いてもらえなかったのですが?』

「今は時間がないから率直に聞くが、報告の内容は事実か?」

『……事実です。『フェアラート』の旗艦に乗艦した際に待機命令を無視し、艦隊所属の巡洋艦が「やまぎく」に向かって、主砲を一発発射しました。主砲弾は、ギリギリのところで回避しましたが、最終的には、『フェアラート』側と敵対することとなりました。ですが、向こう側としては、スターズ以外への被害は出さないことを決めているようでした』

「なるほどな……」


 ライサンダー警視正の言うことが事実だとすれば、魔力核弾頭の弾道ミサイルをこのスターズ本部に落とすのは、奴等の言っていることに反する。なんせこのスターズ本部に今いるのは、スターズの者以外にも、宗教ギルドや魔法協会の幹部もクリスマスパーティーに参加しているのだ。そんなところにあんな危険な物を撃てばどうなるかぐらい分かるはずだ。


『あの巡洋艦以外にも裏切り者がいたのですか?』


 ライサンダーが私にそう聞く。


「君が言う通りだとすればその可能性が高い。もしくはその逆で、その旗艦側の方が『フェアラート』にとっての裏切り者という可能性もある。まあ、君の話は参考になった。では、これにて失礼する」


 そう言ってスマホの通話を切った。


「とにかくこれで確定したな。奴等の中の敵を狩る」

「いや、狩るってどうやってやるんですか!?」

「先に攻撃して来た艦艇を中心にやる。そうすれば狩ることができるはずだ」

「そう上手くいきますかね?」

「やらないよりはマシなはずだ」

「それはそうですが……」

「あの……」


 突然トワが手を挙げる。


「どうした?」

「春人様が所有している無人機を使って一回試してみてはどうでしょうか?それならば、被害は最小限で済むと思うのですが……」


 真の敵を炙り出すのが今の目的だ。だが、それが何なのかが分からない。詳しく調べるためにも調査は必要だ。だがそうなって来ると、調査員の命が危なくなる。そこでトワは、無人機での調査を提案したという訳だな。


「無人戦闘機の離陸用意!」

「無人戦闘機離陸用意」


 通信司令員に無人戦闘機の離陸用意を命じる。


「無人戦闘機3機、離陸用意完了」

「離陸せよ」

「了解。離陸開始。繰り返す。離陸開始」


 その指示に従い、無人戦闘機が3機離陸した。

 あの無人戦闘機は、真の敵を探ることが目的のため、識別信号をスターズのものから沿岸警備隊の識別信号へと変更している。何とか上手くいってくれればいいのだが。

 結果的に言えば、この作戦は上手くいき、無人戦闘機に積極的に攻撃して来る艦艇と威嚇射撃程度の艦艇の2種類に分けられた。これはつまり、積極的に攻撃をして来ている艦艇が『フェアラート』の裏切り者達だな。逆に旗艦と何隻かの艦艇は威嚇射撃程度なので問題にすることはないだろう。

 とりあえず、その攻撃して来た艦艇を攻撃する様に艦隊に命じた。

 それから暫く時間が経過すると、レーン海域での戦闘が沈静化していった。また、敵機もすべて撃墜した。ちなみに戦闘での被害は、駆逐艦4隻中破。巡洋艦2隻中破・3隻小破。戦艦2隻小破。潜水艦3隻中破。艦載機15機撃墜。無人戦闘機2機撃墜である。

 この結果から、こちら側もまあまあの被害を受けてしまったことが分かった。やはり、戦闘機の発艦数はもう少し減らすべきだったな。

 この言葉から分かる通り、味方同士での被害もあったことが確認された。よって、航空戦の訓練を増やすことが決定され、誤って味方機を攻撃してしまった者達には、監察課の方で処分を受けることが決定された。


『こちら旗艦突入班。艦隊の無力化完了。また、旗艦艦長および群司令を拘束。更に、その他の幹部クラスも拘束。』

「了解。残っている艦隊をすべて回収。また、撃沈された艦艇に関しては、後日回収するものとする。また、自立航行できない艦艇に関しては、曳航(えいこう)するよう命ずる」

『了解』


 これでやっと『フェアラート』との戦闘も終わったな。

 そろそろ戻らないとマズイか。


「では、後のことは任せても構わんか?」

「もちろんです。事後処理に関しては、すべてお任せください」

「頼んだぞ。それじゃあトワ。戻ろうか」

「はい」


 私達は、椅子から立ち上がり、トワの座っていたパイプ椅子を【ストレージ】の中に戻す。そして、部屋から出てイベント広間へと戻った。


「2人とも何処に行ってたのよ?」


 アイリスが呆れた声でそう聞いて来た。


「少し春奈の介抱をしていただけだ」

「そうなの?それなら別に良いわよ」


 何だか落ち着きがないみたいだが、どうしたんだ?特にエイルなんて分かりやすいくらいだ。


「なあエイル。ちょっと良いか?」

「ど、どうなさいましたか?春人様」

「私がいなかった間に何かあったのか?」

「えぇと、それはですね……春人様がこの部屋から出て行かれて少し経った頃から何だか少し慌ただしく感じて、アラリさんに聞いても特に心配ないの一言だけで……それで何かあったのではないかと皆さんと一緒に少し心配になってしまったという感じです」

「なるほどな。まあ実際のところ何も起こっていないんだから問題ないんじゃないか?」


 そんな話をしていると、白夜が私のところへと来て話し掛ける。


「父上。今お話をよろしいでしょうか?」

「構わんが」

「今夜は、皆さんと一緒にこちらに泊まって行かれるのですか?」

「どうしてだ?」

「時間的にそう思ったのですが……違いましたか?」


 そう言われて、広間の壁に飾られている時計を見ると、既に22時を過ぎていた。


「もうこんな時間になっていたのか。すまんが、私達は城の方に帰らせてもらうよ」

「そうですか」

「みんな。もう夜遅いし、そろそろ帰ろうか?」

「もう帰るのですか?」

「信女……きみはいつまで食事をしているだ?というか、良くそんなに食べられるな」

「ここの料理がすごく美味しいのでつい……」

「それ食べ終わったら帰るよ」

「あ、はい。分かりました」

「他のみんなはもう帰れる?」


 そう聞くとみんなは帰る準備を始めていた。

 そして信女が食べ終わったのを確認してから【ゲート】を城へと繋げた。


「それじゃあ、また」


 私は2人にそう言い残して、みんなと共に城へと戻った。


「スターズでのクリスマスパーティー、すごく楽しかったですね」

「特にあの料理の数々。どれも絶品でしたわ。レシピを聞いて来たので、今度試しに作ってみたいので、信女さんには、試食をお願いしたいですわ」

「良いのですか!では、その時には是非」


 テレスに良いように言いくるめられてないか?あれ……。まあ、本人が気にしてないんなら良いんだと思うけどさ。あ、でも信女に味見を頼むのは、ただ信女が食いしん坊というのが理由ではなく、調味料なんかに関しては、何が足りなかったり多かったりするのを的確に言って来るので、味見担当としては、何気に的確な人選だったりする。


「ほら、疲れてるだろうから、歯磨きしたら寝なよ」

「そうですね。ではおやすみなさい。春人さん」

『おやすみ(なさい)』


 未成年組が先に部屋から出ると、こっそり成人組だけは残る。


「それじゃあ、また深夜にね」

「分かってるわ」

「3人の驚く顔が少し楽しみです」

「春人様がご用意なさったプレゼントを喜んでくれたら良いですね」

「春人様が3人の記憶の中から欲しいものを見たという話は、聖女としてはまだ許していませんからね?」

「頼むからもう許してくれよ」

「ですが、喜んでもらえるのであれば、許すことを考えないわけではありませんから、成功させてくださいね」

「もちろんだ」


 そんなわけで、深夜まで待つことになった。

 そして深夜となり、城の中は警備の者以外のほとんどは寝静まっている。そんな城の王族専用区画……つまりそれぞれの寝室のある区画の中でまず、エリアの部屋へと向かった。

 

《シエラ。エリアは眠っているか?》

《確認中……エリアさんは、ノンレム睡眠状態であり、部屋に入っても起きないものと推測されます》


 それじゃあ、サクッと部屋の中に侵入して、枕元にクリスマスプレゼントを置くとするか。

 【テレポート】で、部屋の内側へと侵入して、枕元まで近づく。


「よっぽど疲れてたんだな。さて、明日起きてプレゼントを見たときの反応が今から楽しみだな。【ストレージ】」


 そう言って【ストレージ】の中から、エリアが欲しがっていた高級コンディショナーをプレゼントようにラッピングされ、見えないようになっている状態の袋を枕元にそっと置く。

 これで後は、リアとテレスの2人だな。

 そんなわけで、エリアと同じようにして、リアとテレスの2人にも枕元にクリスマスプレゼントを置いた。ちなみに、リアのプレゼントの中身は、猫と犬のぬいぐるみで、テレスのプレゼントの中身は、スターズ支援局公式レシピ本である。この内容は、支援局で出している料理やデザートなどのレシピ500品をまとめて掲載している本である。

 そんなわけで無事、3人にクリスマスプレゼントを渡すことに成功した。

 そして、自分の寝室に戻ると、バルコニーでは既に、テーブルなどが用意されており、白夜や春奈。それにトワ、アイリス、トリス、信女、エイル、シルヴィアが揃っていた。


「もうみんな揃っていたのか」

「だって、ああいうパーティーも良いけど、どうしても気を使うじゃない?だから身内でやる方がどうしても楽しいんだもん」

「いやいや、今年のお前は身内での時とそう変わらなかっただろうが……」

「白夜の言う通りだぞ?あんな大勢のところであんな醜態を晒すなんて……」

「でもそのおかげで、あの広間から離れる言い訳ができたのでは?」

「それはそうだが……」


 もしかしてアレは(わざ)となのか?いや、アレはどう見ても素だったな。言い訳をしているのはそっちだろうに。だが、春奈のおかげでイベント広間を離れる口実ができたのも事実なので、これ以上は追求するのを諦めた。


「ねぇ、お父さん」

「どうした?」

「そういえば、クリスマスプレゼントって、ただ枕元に置いて来たの?」

「普通に置いて来ただけだが、それがどうかしたのか?」

「いや、そのまま置いて置いたら、お父さんが置いたってすぐにバレるんじゃないかって思って」

「ああ、そういうことか。それなら心配いらないぞ。なんせ、このクリスマスでスターズ関係者の未成年者には、その子が欲しいものがそのクリスマスの次の日の朝、枕元にプレゼントとして置かれるっていう話を事前にしているから、そう簡単にバレないと思うぞ。少なくともリアは簡単に信じていたから、リアにバレる可能性は一番低いと思う」

「そう?それなら私から言うことは特にないけど。一応バレた時の言い訳は考えた方が良いんじゃない?」

「そうかもしれませんね。3人とも妙ところで勘がいいので、言い訳は考えた方が良いかもしれませんよ」


 春奈だけでなくシルヴィアもそう思うのか。シルヴィアは、彼女達と1番短い期間しか一緒にいないが、そういったところはもう既に分かっているんだな。

 ちなみに、トワがアセドライン商会経由で、クリスマスとクリスマスプレゼントを西方諸国同盟国内で流行らせたのは、また別の話である。


「そうだな。言い訳程度は考えた方が良いのかもしれんな」


 こればっかりは、バレないように祈ることしかできそうにないな。神様どうか、バレませんように。

 そう心の中で祈ると、何だかエレナント様が「私、関係ないですよ」という言葉が聞こえて来たような気がした。


「さて、そろそろ始めましょう」

「そうだエイル。今夜は聖夜と呼ばれる特別な夜だ。だから、エイルの歌を聴かせてくれないか?」

「私の歌でよろしければ」


 そう言って、エイルの良く透き通るような歌声が響き渡る。

 そして歌い終わると、エイルは静かにお辞儀をして、私達はエイルに拍手を送った。


「上手かったぞ、エイル」

「ありがとうございます。春人様」


 私が歌を褒めると、エイルは少しだけ恥ずかしそうにそう応えた。


「それじゃあ、身内だけのクリスマスパーティーを始めようか」


 私がそう言うと、それぞれワインの入ったグラスを持つ。


「では、乾杯!」

『乾杯!』


 それから長いようで短い、私達だけの聖夜が始まるのだった。

 やっとこのクリスマス回が終わったよ!!もう気が付けば2月過ぎてるし!!ごほん。正直な話をしますと、自分でもここまで長くなるとは思ってもいませんでした。最初のクリスマス回は、もう少し短い内容だったのですが、これもこれもと内容を追加して行って、自分でも気が付かないうちに、ここまでズルズルと書いて持って来てしまいました。自分でもよくここまで書いたなと思いました。

 さて、ここまでクリスマス回をご愛読ありがとうございました。次回からは本編に戻りたいと考えていましたが、クリスマス回とは別の閑話が書きたくなってしまい、現在その閑話を制作中です。閑話にもう少しお付き合い下さると嬉しいです。

 

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