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異世界転生術師  作者: 青山春彦
第17章 ウルメリア王国
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160話 災厄の呪物

「その呪物の名は……『絶滅牢の人形』!」


 私は、その呪物の名称を口にする。


「その呪物っていうのは何なの?!」

「呪物っていうのは、呪力というのを持っていて、人間などを含めた動物やその土地に対して禍福(かふく)をもたらす存在のことだ。そしてあの『絶滅牢の人形』は、災いをもたらす方の呪物であり、我々術師の中でも、禁術指定される程の非人道的て史上最悪とも呼ばれた災厄の呪物だ。その効果は、この国程度ならば半日もあれば全ての生物が死滅する死の土地と化す危険な代物なんだ。そしてアレには厄介な点がある。それは、物理攻撃が通じない点。そしてもう一つは、あの身体の中にその被害にあった人間の魂が閉じ込められているという点だ」

「だったら助かるってこと?」

「いや、あの身体には様々な人間の身体が混ざってしまっているし、もし仮に魂をその本来の身体の持ち主の魂だけを戻したとしても、様々な人の身体が繋がれた状態によって身体に拒絶反応が起こってすぐに死んでしまうだろう」

「そんな……」


 アレは、犠牲になった人数が多い程、強力な呪物となる。一応【鑑定】でも調べてみたが、犠牲になったのは、主体となる第2王子の他に19人もいた。そうなっては、どうやっても助かる方法はない。私に出来るのは、出来るだけ苦しませずに成仏させてやることだけなのだ。


「元に戻すことはできないが、出来るだけ苦しませずに成仏させることならば可能だ。だが、当然抵抗されるだろう。だから戦闘にはどうしてもなる」

「だったら、あたし達も戦うわ!」


 アイリスの言葉を聞いた他の子達も首を縦に振る。どうやら、アイリスと同じ考えなようだ。


「……分かった。ただし、私の言う約束を守れればの話だが、それでも良いか?駄目ならば、この部屋から強制的にでも出て行ってもらう」


 私がそう言うと、彼女達は無言で首を縦に振った。


「まず絶対条件として、この結界外へ出ないこと。この結界は、どんな呪力的攻撃などから身を守ることが出来る。だから攻撃は、その結界内で行えるもののみとする」

「それでしたら、拙者やアイリス殿はどのようにして戦えば?」

「近距離戦闘型の君達は、直接戦うことは普通ならば出来ないだろう。最近は君達の稽古に付き合ってやれていないが、それでも私の弟子だ。そして、私が教えた技を君達はもう使えるようになったとエドガーから聞いているぞ」

「もしかして、あの技のこと?でもあの技はまだ未完成で……」

「付け焼き刃で上等だ。これから私は、結界の外に出て、アレに攻撃を仕掛ける。そして、ある程度したら、私はある技を使うが、その技を放つには、少しだけ無防備になる。だからその際に私が指示があるから、その指示があり次第、攻撃を頼む」

『了解!』


 とりあえずこれであの子達は、問題ないだろう。

 そして私は結界の外へと出る。


「結界から出たわ!さっさとあいつを殺しなさい!」


 私が結界の外へと出た瞬間に、サフランがチャンスだと思ったのか、『絶滅牢の人形』にそう命じる。すると『絶滅牢の人形』は、私に向かって攻撃を仕掛けてくる。その攻撃は、一撃でも喰らえば耐性のない者であれば、その強力な呪詛(呪力)とシンプルな物理攻撃で、即死するレベルのものだった。

 私は、その攻撃の隙間を縫うようにして近づく。そして、懐から取り出した札を取り出して技を放つ。


「『妖火の術式 鬼火の術』」


 鬼火の術が『絶滅牢の人形』に直撃する。だが、ダメージが入っている様子はまるで無かった。

 

「クソ。やはり鬼火の術程度ではダメージが入らないか」

 

 ならば、高威力の技を喰らわせるのみだ。


「『火炎の術式 炎心八熱地獄の術』」


 更にもう一つの技を放つ。


「『雪氷の術式、霧氷八寒地獄の術』」


 この二つの技を超高度による熱変化攻撃によって、術にプラスで発生する攻撃によってかなりダメージを与えられるはずだ。

 私の予想通り、かなりのダメージを与えられたが、そのダメージは、『絶滅牢の人形』の犠牲になった人間の中に再生に近いスキル持ちがいたのだろう。ダメージを負った傷が段々と再生していき、そして元の状態へと戻ってしまった。


「ここまでやってダメなのかよ……」

「見たか!これこそがコイツの力だ!!コイツがあれば、この大陸は我々のものだ!」

「ふざけるのも大概にしろ!その『絶滅牢の人形』は、そのような欲を満たすための道具ではない!今はまだ制御できているが、いずれ制御ができなくなり、やがて周りだけでなく、その動かしている術者自身であるお前達さえも殺す呪物なんだ!だから制御が可能な今のうちにそいつを止めなければ、お前達も死ぬぞ!」

「そんな脅しが効くわけないだろ。それに、私達が作ったものをお前が知るはずがない」

「脅しなんかではない!それにそいつのことは、お前達よりも知っている」


 こいつらは、『絶滅牢の人形』を止める気はまったくないようだな。ならば先に、アイツらを黙らせるしかなさそうだな。


「アイリス!信女!今だ!!」


 私が、後ろの結界の中に向かって2人の名前を叫ぶ。そしてその声を合図に、アイリスと信女が、結界内から攻撃を仕掛けた。


「粉砕破拳!」

「空間斬鉄!」


 アイリスの『粉砕破拳』は、その拳の波動が当たれば、その箇所を粉砕することができるという、打撃攻撃の奥義に近い技で、この技を習得すること自体が、拳闘士の最終目標とも言える技である。そして信女の『空間斬鉄』は、次元ごと斬り裂く『次元斬』の下位互換の技とはいえ、それでもこの『空間斬鉄』の習得も相当の鍛錬を積まなければ習得することができない技だ。だからこそ、付け焼き刃レベルでもこの2人が、短期間で『粉砕破拳』と『空間斬鉄』を発動させられたことは、普通に凄いことなのだ。


「今、解放してやるからな」


 そして、2人が『絶滅牢の人形』に攻撃をして、時間を稼いでくれている間に、私は【ストレージ】から一枚の呪符を取り出し、『絶滅牢の人形』に囚われた、霊魂を解放するための術の詠唱を行う。


『मृत्युको दयनीय श्रापमा फसेका आत्माहरू। मेरो आवाज सुन्नुहोस् र स्वर्गमा फर्कनुहोस्। आत्मा प्रविधि: आत्मा पठाउने प्रविधि』


 術の詠唱を始めると、位相の中から数多の呪符が出て、『絶滅牢の人形』を取り囲むようにして展開する。

 その光景を見ていた、サフラン、エドモンド、フィリップスの3人は、唖然とした表情で見ることしかできなかった。

 そして『絶滅牢の人形』が、徐々にその形を崩していった。その崩壊した『絶滅牢の人形』から、光の粒のようなものが数個出て、こっちに向かって来た。その光の粒がこっちに来て私の前で止まると、その光の粒は人の姿へと変えた。


『私達を助けてくださりありがとうございました。皆を代表して礼を致します。またこの度は、このようなご迷惑をお掛けし申し訳ありませんでした』


 そう言って、本当の第2王子であるジェイコブ・ハイス・ウルメリアを始めとした全員が頭を下げて謝罪した。その行動に私は少し驚いた。なんせ、この王子は産まれた時から奴らによって実験体にされてきたはずなのに、教養のあるような言葉遣いや謝罪を行っている。本来ならば喋ることさえ不可能なはずなのに凄いものだと、思わず感心してしまった。

 それにもう一つ疑問があった。それは、この魂送りの術で、昇天することがなかったということだ。本来この術を行使された相手は、世界に魂を固定することが困難となり、その身体から魂が抜けてあの世へと逝くという奥義級の技なのだ。なのに、こうして魂がこの世に残っているのがおかしいことだが、ひとつだけこの術の効果を妨げた可能性のあるものはある。それは、あの『絶滅牢の人形』だ。あれは無理矢理、魂を固定しているので、もしかしたらその影響によって、術の妨げになったのかもしれないな。

 それは今はいいか。それよりも先に、謝罪の必要がないことを伝えるか。


「謝罪の必要はない。君達は、あの者達に操られていただけの被害者なのだ。それに、今回の件での死亡した犠牲者は君達子どもの方が多いのだ。だから、他の者達の心配をする必要はない。あと、君達には酷な話だが、君達の身体の一部がさっきまで君達が操られていたアレに取り付けられた影響によって、蘇生ができなくなった。できたとしても身体の一部がなかったりして、寿命が大幅に削られるだろう。それよりだったら、私の術……魔法みたいなもので、あの世まで送り届けることができるし、来世にも期待が持てるはずだ」

「つまり私達は、この世には存在してはならない存在ということですね」

「聡いというのも考えものだな」


 ここまでの彼の様子から判断して、ギフテッドの可能性が高いな。


※ギフテッドとは、平均より著しく高い知的能力を指す用語。また、ギフテッドの定義は多様であり、総合的な高い能力を基準とするものもあれば、特定の分野で発揮される高い能力を基準とするものもある。また特徴として、知能・創造性・特定の学問・芸術性・運動能力・リーダーシップの6つの領域において、突出した得意分野があることが特徴的である。更に、ギフテッドと呼ばれるそのほとんどがIQ130以上である。


 もしもアイツらみたいな奴らに利用されさえしなければ、マリウス王子の補佐役として、この国にとって素晴らしい働きをみせただろうに……とても残念だ。


「私としても、できれば君達を蘇生してあげたかったが、それもできない。だが、せめて苦しませずにあの世へと逝かせることは可能だ」


 この子達は、何の罪を犯していないし、逆に犯罪の被害に遭った子達だ。だから、私にできることはしたい。


《召命───悠乃鬼(ゆうのおに)


 この妖は心優しく、死者の魂を優しく導く鬼の妖だ。見た目は、10代後半くらいの銀髪ロングヘア。それに和服を着用している女性。そして(ひたい)には、純白の角が2本生えている。また、彼女の武装は、鉄扇と断魂刀という魂を切断したりすることが可能な妖刀の一種である。


「お久しぶりです。春人様」

「久しいな。ユウ」


 ユウというのは、この悠乃鬼の名前だ。安直な名付けだったなと今でも思うが、本人はそれなりに気に入ってたりする。


「本日は、どのようなご用件でしょうか?」

「この子達のことを頼みたくて呼んだんだが、頼めるか?」


 そしてユウは、その子達を観察するように見る。


「分かりました。あの世へ導くことは可能です。魂を私の力で保護し、あの世へと導きましょう」

「ならば私は、魂送りの術で、より確実にあの世へと送ろう」


 ユウがそれぞれに触れると、その身体を守るようにして、光が覆った。 


「準備完了しました」

「ご苦労様。さて、そろそろお別れの時間だ」

「本当にありがとうございました」

「こちらこそ、君達を生きているうちに助けることができずに申し訳なかった」

「いえ。あの人達は気付かれないように実験を行っていました。ですので、貴方が謝罪する必要はありません」

「そうか」


 すると、彼らの身体(魂)が、段々と上空へと浮かび上がるのと同時に、天井に光が輝いていた。その天井の光は、霊界への入り口だった。


「どうか、君達の来世に幸多くあらんことを」


 私は、そう願いながら、霊界へと旅立つ彼らの魂を見送るのだった。

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