158話 ウルメリア新国王即位式作戦、前日会議
ウルメリア城内へと入った私は、ウルメリア王が自室へと入ったタイミングで、室内に【サイレント】を掛け、部屋の外に音が漏れないようにする。
「動くな」
私は、ウルメリア王の背後に立ち、首元にナイフを当てる。
「そのまま後ろを振り向くな」
「いったい何が目的だ?余の命か?」
「お前の命に興味はない」
「だったらいったい何が目的なんだ?」
「スターズ五星使徒のシリウスと言えば分かるだろ?」
「ッ!?」
ウルメリア王家は、代々スターズと協力関係を築いている。だから、スターズ支部を設置出来なくとも、王家や“諜報貴族”がいるため、スターズ支部の設置をそれほど考えなくても良かった。だが、今のこの国の状態では、支部の設置を真剣に考える必要がありそうだな。
そろそろ、冗談はこの辺にしておくか。
そう考え、ウルメリア王の首元に当てていたナイフを首元から離す。
「冗談はこれくらいにしよう。ここへ来たのは、ウルメリア王に話があったからだ」
「とりあえず、そちらにおかけ下さい」
ウルメリア王が、部屋に設置されていたソファーに座るよう促す。
私とウルメリア王が、テーブルを挟む形で対面に設置されたソファーに座る。
「ところで、五星使徒の一柱であらせられるシリウス様が何故、態々いらっしゃったのでしょうか?」
「それだけスターズ本部では、現在ウルメリア王国で起こっている問題を重要視しているということだ。だが、私がここへ来たのは、ただスターズ本部の指示で来たわけではない」
「と、言いますと?」
「私は、マリウス王子からアルマー王国国王としての私に正式な救援を要請した。なお、今作戦は、スターズの他、西方諸国同盟全加盟国の承認を得ており、マリウス王子は、我がアルマー王国を含めた西方諸国同盟全加盟の後ろ盾を得ている」
「それが本当ならば、いくらサフラン一派でも手を出しにくくなる」
「確かに後ろ盾は得ているが、その証拠があるわけではないし、表向きに発表したわけではないから、サフラン一派からの扱いが変わることはないと思う」
「そうですか……」
ウルメリア王はその言葉を聞いた瞬間に、先程まで期待に満ちた顔は、一気に落胆したような顔へと変わった。
「ウルメリア王に見せたいものがある」
私はそう言ってスマホを取り出して、空中に以前に撮影をしたサフランとエドモンドの会話の映像を投影する。
録画していた映像が終わった後、更にフィリップスとウルメリア王との親子関係に関するDNAデータを表示し、それも踏まえて、私はウルメリア王に今後、私が考えている計画の説明をする。
「この映像やDNAデータを見て分かる通り、ウルメリア王とフィリップスとの親子関係は、認められなかった。だが、現ウルメリア宰相であるエドモンドとの親子関係は認められた」
「つまり、私は自分の息子だと思っていたやつの尻拭いをしていたということか……」
「結果的に言えばそうなるだろうな。だが、その尻拭いもそろそろ終わりだ」
「それはいったいどういう?」
「サフランは、一刻も早くフィリップスにウルメリア王国の国王に即位してほしいと考えている。もしかしたら近日中にフィリップスを国王へ即位させてほしいと言ってくるだろう」
「もしそうだとしたら、私は恐らく素直に従うかもしれません」
「それは、ソフィア正妃がエドモンドによって人質にされているからか?」
ウルメリア王は、ソフィア正妃が人質にされていることを私に知られていることに驚いているようだった。
「そこら辺は安心して良い。既にソフィア正妃は、我々が救出した」
「それは本当ですか!?」
「本当だ。だが、今はまだウルメリア王が知っていることは隠しておいた方が良いだろうな」
「それはどうしてでしょうか?」
「もし、ソフィア正妃が救出されたと知られたら、今度はどんな手を使ってくるか分からん。もしもの時に備えて、ウルメリア王国の領海にスターズの第一艦隊が待機中。それに加え、スターズの私の直属部隊のひとつである“シールズ”の第一から第六中隊と私のもうひとつの直属部隊である“暗黒群”が既にこの国に入国しており、いつでもこの王都を制圧できる段階まで進んでいる。更に今回は、国際問題にも関わる可能性があることから、国際警察も動くことになり、国際警察もスターズと同じくこの王都に潜伏しており、私の指示があればすぐさま行動が可能になっている」
「それならば、そちらで動いてしまった方が早いのでは?」
まあ、確かにその通りなのではあるが、そうなると少し問題があるため、ウルメリア国王が直接、後継者を指名する必要があるのだ。
「では、即位式を行う時のシナリオの打ち合わせでもしようか」
「そうですね」
その後、深夜2時頃まで即位式のシナリオ作りとその練習を行ったりした。
それが終わって城の自室に戻って、ベットに寝転ぶと、すぐに眠りに落ちてしまった。
それから1週間後、ウルメリア王から事前に渡していた手紙を転送する魔導具から1通の手紙が転送されて来た。その手紙の内容は、サフランとエドモンドがフィリップスを国王へ即位させろと言ってきたらしい。そしてその即位式を明日執り行うこととなった。という内容だった。
「ということで、明日ウルメリア王国新国王の即位式が行われる」
「そうなったら本当にあのバカ王子が王様になっちゃうわよ」
「分かっているさ。そのためにもこちらで手は打ってある。即位式は、謁見の間にて執り行われる。私達は、その即位式に直接乗り込む。謁見の間に入るタイミングは、事前にウルメリア王と打ち合わせをしてある」
それにしても、予想よりも遅かったな。私の予想ならあの日から2日ぐらいで即位式を行うようにウルメリア王に言ってくると思ったが、思ったよりも慎重に動いているみたいだな。
「春人さん。今回も前回までと同じメンバーが行くのですか?」
エリアが私にそう質問をする。
「いや、今回はメンバーを少し変えることにした。今回、一緒に来てもらうのは、アイリス、信女、トワ。その他として、ビエラとコハクを連れて行く」
「今回、私はお留守番なのですね」
「ああ。今回の作戦でエイルが必要な事態になるとは思えないからな。それに今回は、謁見の間だから戦闘を行うにしてもエイルだと不利だからな。だから今回は留守番だ」
「分かりました」
納得してくれたようだな。
「それにしても、今回も私達はお留守番なのですね」
エリアがそう不満気に呟く。
「君達は、こういった戦闘向きではないだろ。それにエイルと同様に君達もまた、後方支援がメインの戦闘スタイルでしょうが」
「その理屈でしたら、私は近接戦が得意ですわ」
「テレスには今回、ある2人の出迎えを任せる」
「ある2人?ですか」
「君の元護衛だった第四皇女専属護衛騎士、第ニ階級騎士のフラーシュ・キャロルと第四皇女専属護衛騎士兼諜報騎士、第ニ階級騎士のメリッサ・メルカートの2人だ。この2人がヴァース帝国から婚約の間、ヴァース帝国から派遣という形で君の護衛となる。そして、私達の結婚後は、彼女らはヴァース帝国騎士団を引退し、正式に我が国所属となる予定だ。今回は、その2人からそれについての説明ががあるらしいから、君は私と来ることができないんだよ」
「そうだったのですの!?それについては初耳ですわ!」
「言っていなかったからな」
まあ、私もまさか本当に来るとは思っていなかったがな。
「それじゃあ、アイリス、信女、トワ、ビエラ、コハクは私と一緒に来てくれ」
私達は、第2会議室へと移動する。テーブルの上には、人数分の作戦計画書が置かれていた。まあ、コハクは紙を捲るのが無理だろうから、ビエラと一緒に見ることになってしまうが……。
「では、ウルメリア王国新国王即位式における、作戦会議を始める。作戦計画書の2ページを開いてくれ。その図は、ウルメリア城内部の設計図だ。そして、所々にある赤い点は“暗黒群”の配置予定地点だ。3ページ目にあるのは、その配置予定地点に関する説明となっている。次に、4ページを開いてくれ。そこにある図は、本作戦の最も重要な場所となる、ウルメリア城謁見の間だ。その謁見の間の両側には、私の直属部隊である“シールズ”の第一大隊第一中隊の精鋭100人が左右一列に並び、私が指を鳴らしたら、それを合図として、一斉に装備に付与された【インビジブル】を解除して、完全に包囲されていると思わせると同時に、相手の戦意を損失させることが目的でもある」
「確かに重武装の兵が謁見の間の両側一面にビッシリと配置されていれば、相当な恐怖を味合わせることが可能でしょう。ですが、この作戦計画書を見る限り、私達国際警察はどのように動くのかが書かれていないのですが?」
トワからそのようなことを言われた。正直な話をすれば、既に戦力は過剰戦力と言えるほどだ。既に陸と海はスターズが抑えているとなれば、国際警察には空を任せてみるか。
「国際警察には、ウルメリア城上空の警戒に当たってもらいたい」
「ウルメリア城上空ですか?ですがどうやって警戒をすればよろしいのでしょうか?」
「アース支部の航空部隊を向かわせる」
「アース支部は、陸海どちらの航空部隊を向かわせますか?」
「さっきは、ウルメリア城と言ったが、王都全体も監視してもらいたいから、陸海どちらも向かわせてほしい。沿岸警備隊の航空部隊から10機。陸の国際警察からは30機頼みたい」
「承知しました」
「それとなんだが、一応スターズの第一艦隊が既にウルメリア王国領海に入り、いつでも攻撃を仕掛けられる段階とはいえ、何かあった時のために、国際警察には、沿岸警備隊にスターズとの協力を頼みたい。既に第一艦隊提督のカルム中将には連絡済みだ」
「分かりました。会議が終わり次第、沿岸警備隊を第一艦隊と合流させるように手配します。それに従って、第一艦隊の現在位置を後ほどお願いします」
「ああ」
これで国際警察も仕事を割り振ることができたな。
「それでは、最後に私達が謁見の間に入るタイミングについてだが、6ページ目を開いてほしい。ウルメリア王による合図によって入室することとなる。その際の言葉は『アルマー王。例のものを』だ」
「例のもの……ですか?」
「それは当日のお楽しみだ。だが、あいつらを確実に犯罪者にできる証拠とだけは言っておこう」
さて、作戦計画書の内容は大体終わったかな。
「最後に何か質問等はあるか?」
すると、ビエラが挙手した。
「どうしたビエラ?」
「私とコハク様はどうすればよろしいのでしょうか?」
「そういえば説明をしていなかったな。まずビエラは人型の状態で一緒に同行。コハクは、本来の姿で一緒に同行してくれ」
「「承知しました」」
コハクとビエラがそう返事をした。
「他に質問等はあるか?」
誰も挙手しない。
「質問等がないようなので、これにてウルメリア王国新国王即位式における、作戦会議を終了する」
そして、会議室から全員退室する。
さて、明日が作戦当日だ。恐らくヴァースの帝国反乱事件とまでいかずとも、かなり大規模な作戦になることは間違いないだろうな。もしも私の作戦が失敗したら、スターズによる第一艦隊による海上からの攻撃に加え、航空機による爆撃によってウルメリア王国の王都は更地になってしまう。それだけは絶対に防がなくてはならない。だからこそ、明日の作戦は、何がなんでも絶対に成功させてみせる。ウルメリア王国存続のために。
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