156話 2人の計画
シルヴィアが食事をしているのと同時刻。
宰相のエドモンドの後をつけていると、ある部屋へと入る。私は、エドモンドに気付かれないように、扉が閉まるギリギリ前に室内へと侵入した。
室内へ侵入すると、そこは宰相の執務室のようだった。そしてその執務室の中には何故か、側妃であるサフランがいた。
何故、側妃のサフランがここに居るんだ?まあ、同じ派閥のトップとその幹部ならばそんな不思議なことではないが……。
「エドモンド。準備はどんな感じかしら?」
「順調に進んでいる」
ん?エドモンドのやつ、サフランと普通にタメ口で話しているが、やはり私の予想は当たっていたのか。
そう思った私は、気付かれないようにスマホのビデオで録画を開始する。
「それじゃあ、次の段階として、コレをマリウスに渡して、サンマリアン王国に行ってもらうとしよう」
「今更だけど、それを持たせても途中で捨てたりしないかしら」
「その心配はないさ。ソフィア正妃を人質に取っている以上、マリウスは従うしかないし、それでもダメなら、ソフィア正妃を殺すとでも脅せば、国王も素直に従うだろう。そして更にフィリップスを国王にさえしてしまえば、私達の新しい王家の誕生だ」
なるほどな。ソフィア正妃の人質で身動きが取れないのは、マリウスだけでなく、ウルメリア国王もだったということか。だが、この映像があれば、王家乗っ取りの証拠にもなる。あとは、あの2人とフィリップスの親子証明のDNAデータが欲しいし、とりあえずこの場にいる2人から髪の毛を一本ずつ拝借するか。
一旦、スマホでの録画を終了してから、髪の毛を拝借する。その際に気付かれないように痛みを感じさせず、髪の毛を毛根鞘ごと抜き、小型のジップロックにそれぞれ別けて入れる。
その後、廊下に誰もいないことを【サーチ】で確認してから【ワープ】で部屋の外へと出た。そしてその後は、さっきと同じように気付かれないよう痛みを感じさせず、髪の毛を一本、毛根鞘ごと抜き、小型のジップロックにそれぞれ別けて入れてその場を去った。
一応、ウルメリア王のDNAもあった方がいいだろうが、フィリップスからエドモンドとの親子関係を証明するDNAが出れば、フィリップスはウルメリア王と親子関係にはないことになり、それはつまりフィリップスがウルメリア王家の人間ではないということになる。
とりあえずこのサンプルを城に持ち帰って調べれば分かることだろう。まあ、結果は分かりきってるが。
【ワープ】を使って城へと戻る。因みにマリウスには一旦城に戻ることは伝えてある。連絡手段も確立してあるので問題ない。
「お帰りなさい。春人さん」
「ただいま。2人はまだいたんだな……白夜、春奈」
そう言って、白夜と春奈の顔を見る。
「はい。シリウス少将」
白夜のその口調から、今目の前にいるのは、元帥としての白夜なのだと理解した。
「私にどのようなご用件ですか?元帥閣下」
「シリウス少将でしたらご存知かと思いますが、現在ウルメリア王国は、隣国サンマリアン王国へ軍事侵攻を行おうと画策しており、その証拠として、ここ2年近くになってから軍事予算等がその前年までと比べて明らかに多くなっています」
「私も最高幹部である五星使徒の一柱ですので、スターズの上層部がどのようなことを考えているなんてことは分かります。ですが、トワ特佐らに話した通り、私の要請がない限り、そちらから動くことはしないでいただきたい」
これはお願いではなく命令だということを白夜と春奈は理解しているだろう。
「……シリウス少将の事情は理解しています。ですが、我々は組織です。ですので、我々は組織として動かなければなりません」
理解はしているが、それでもスターズとして押し切るつもりか。それならば、組織としての考えを聞かせてもらうとしよう。
「でしたら、スターズとしての作戦を聞かせてもらえますか?」
「分かりました。我々は3つの作戦を考案しており、それぞれの作戦名をアルファ作戦、ベータ作戦、ガンマ作戦と呼称しており、アルファ作戦は、ウルメリア城にある武器をすべてスターズの方で密かに押収をする作戦。このアルファ作戦が失敗した場合は、ベータ作戦として、スターズの職員が側妃サフラン、宰相エドモンド、第一王子フィリップスの3人を暗殺します。それでも戦争を行うサフラン一派の生き残りがいた場合は、ガンマ作戦として、ウルメリア城そのものを爆撃し、破壊する作戦となっています」
作戦としては悪くないな。
「作戦としては悪くないですね。ですが、あの3人の処罰は私が決定します。それ以外のことに関してはそちら側で処理して下さって構いません。ですので、あの3人に関しては、すべてを私に一任して下さい」
「……分かりました。側妃サフラン、第一王子フィリップス、宰相エドモンドの3人に関してはシリウス少将にすべてを一任します」
「ご配慮に感謝致します」
半ば脅迫じみてしまったが構わんだろう。とにかく、元帥である白夜から正式に許可を得ることができたので、これで独自に動くことができるな。
「さて、ここからは親子としての時間だ」
「はい」
「春奈、シルヴィアは今何処にいる?」
「現在、ラナメイド長に医務室に連れて行ってもらって治療を終わらせ、今は浴室にて入浴中だよ」
「そうか。2人とも、大至急シルヴィアをアルマー城にて保護したと連絡をしてくれないか?」
「お父さんが連絡するんじゃないの?」
「そうしたいのは山々なんだが、生憎と調べなければならないことがあって、少しの間『練金塔』にいることになる。だから頼めないか?」
『練金塔』のことは、スターズには報告していないが、家族としてはこの2人に伝えてある。
「分かった。ナカサカ殿とローレンス殿に連絡を取り、こちらに来てもらうようにしてもらいます」
「頼んだ」
そして私は【テレポート】で『練金塔』まで向かった。
「マスター、今日は何のようなの?」
「遺伝子情報鑑定をする機械ってあるか?」
「少し待っててほしいの」
ミレアに言われた通り少しだけ待つ。すると奥の方からミレアが戻って来た。
「待たせたの。ついて来てほしいの」
黙ってミレアについて行く。
「これがマスターの要望通りの遺伝子鑑定機なの」
私が知っているのよりも少し大きい気がするが、元の世界にある機器とさほど見た目は変わっていなかった。やはりアバロント文明の技術力は凄まじいな。
そしてその機械で調べた結果、私の予想通りの結果となった。その調査結果のデータをスマホに保存する。そうなると、あとの問題は、ソフィア正妃の救出ぐらいか。
「ミレア。この紙に書いてある薬を製薬してほしいのだが、頼めるか?」
ポケットに入れていたとある薬の名称とその製薬方法などを書いた紙をミレアに渡す。
「了解なの。4時間くらいでできるの」
「頼んだ」
来た時と同じように【テレポート】を使って、城の方に戻った。
城に戻ると、シルヴィアがみんなと話をしていた。
「調べものはどうなりましたか?」
「私の予想通りだった。それよりもシルヴィア、さっきまでと比べて調子はどうだ?」
「おかげさまで大丈夫です」
「そうか。あの2人には連絡を取ってくれたか?」
「はい。今大急ぎでこちらに向かうと言っていました」
何処から来るかは分からないが、早くとも来るのは明日以降になるかもな。
私がそう思った瞬間、誰かが扉をノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
私が一言そう言うと、入って来たのは、ディアボロスだった。ディアボロスが来るのは珍しいな。
「春人様にお客様がいらっしゃっておりますが、如何なされますか?」
「その客人の名前は?」
「ナカサカ殿とローレンス殿と名乗っておりました」
偶々近くにいたのか?
「思ったよりも早かったな。その2人をここに通してくれ」
「畏まりました」
そう言って、ディアボロスは扉を閉め、2人を呼びに行った。
「それにしても来るのが早いですね」
「やっぱり白夜もそう思うか。偶々この近くにいたという可能性もあるから、そこまでの驚きはないが、さっき連絡したにしては早い到着だな」
「師匠。少しよろしいですか?」
「シルヴィア。もうお前は、私の弟子ではなく独立した身だ。だから、もう私のことを師匠と呼ぶ必要はないのだぞ」
「弟子を卒業しても、私は師匠の弟子ですので」
「そうか。それでどうしたんだ?」
まったく。弟子を卒業してもまだ私のことを師匠と呼んでくれるとはな。
「ウルメリア王国のサフラン王妃らなのですが、マリウス王子が死亡後、ソフィア王妃を暗殺した後に現国王をも暗殺し、ウルメリア国……ウルス大陸すべてを手に入れようとしています」
「そこまでしようしていたとは……」
白夜達も少しだけ予想外だったようで、そんな言葉を漏らす。
「別におかしなことではないだろう。ウルメリア王国を手に入れてしまえば、国王とソフィア正妃とマリウス王子は邪魔にしかならないからな。殺すのは容易に想像がつく。むしろお前達がこの程度のことを予想していなかったことに驚きなのだが?」
「申し訳ありません。ただ、王が変わったとしてもその国が安定するまでは、命はとらないと思っておりましたので」
「そんなことを考える連中だと思うか?」
「愚問でした」
「だろうな。シルヴィア、他に何か情報を掴んではいないか?」
「申し訳ありません」
「そうか。そんな計画を企てていることを知れただけでも十分だ」
すると、再び扉をノックする音が聞こえた。どうやら来たようだな。
「いいぞ」
「失礼します。お客様をお連れ致しました」
ディアボロスの後ろから、ナカサカとローレンスの2人が部屋に入って来た。
「「シルヴィア!!」」
部屋に入り、シルヴィアを見るや否や、シルヴィアへと駆け寄り、嬉し泣きしながら抱き合っていた。
「無事で、本当に良かった……」
「2人共、私を探してくれてありがとう」
それから3人が落ち着くまで待った。
「3人共落ち着いたか?」
「「「は、はい……」」」
落ち着いたのは良いが、どうやら3人共、私の前であのように泣いてしまったことに対して、少し恥ずかしさが出たらしく、少しだけ目元だけでなく顔も赤くなっていた。
「ナカサカとローレンスをこの場に呼んだのは、シルヴィアを保護したという知らせの他にもある。……3人でこの国で暮らす気はあるか?」
「それはいったいどういう……」
「最近、私の直属の騎士団を設立しようと考えていてな。その団長と副団長を誰にしようか決めかねていたんだよ」
「まさか……」
「ああ、そのまさかさ。お前達には、任せたい仕事がある」
「何でしょうか?」
「私はこれから、マリウス第二王子と合流後、彼が最も信頼しているという、前宰相のドルヴァイン・オーシャンハート公爵の所へと向かい、今後の方針を伝えた後、ソフィア正妃を救出する。このソフィア正妃の救出の際、2人には、ダークリー邸から私兵が逃げした場合の対処を願いたい。一応、スターズの者達も監視には着くが、頼めるか?」
「お任せください」
「承知しました」
スターズの監視の者に関しては、『暗黒群』を使えば良いか。
「それじゃあ、私はマリウス第二王子と合流する。私の指示があるまではこの場で待機。それとトワ。『暗黒群』に出撃準備をするように伝えてくれ」
「分かりました」
「【ゲート】」
【ゲート】でウルメリアのマリウスのところへと向かって合流した後、一旦城に戻って、信女、アイリス、エイル。そしてナカサカ、ローレンス及び『暗黒群』の部隊を連れて、オーシャンハート公爵のところへと向かった。
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