155話 逆鱗に触れた愚者
春人達がウルメリア王国へと行っている頃、アルマー王国に2人の来客がやって来ていた。その二人とは、春人の息子にして、スターズ元帥の望月白夜と、同じく春人の娘にして、スターズ五星使徒第5席コードネーム:カプラこと望月春奈の2人である。
そして、その2人の来客担当をしているのは、エリアとトリス。そしてエリアから連絡を受けて、国際警察本部から城へと戻って来たトワの3人である。
「ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件でしょうか?白夜様、春奈様」
2人にそう挨拶をしたのはトワだった。
「トワさん。本日こちらにやって来た理由についての説明の前に、ここへは、スターズ職員としてやって来たことを先にお伝えします」
「分かりました」
「では改めまして、本日こちらに来た目的は、五星使徒第2席シリウス少将から既にお聞きかと思いますが、ウルメリア王国での件で参りました」
白夜がそう言って、テーブルに置かれた紅茶の入ったティーカップを持ち、一口飲む。そして、ティーカップを戻して再度話をする。
「早急に言いますと、現在ウルメリア王国は、戦争の準備を始めています」
『!?』
白夜のそのセリフに対して、3人は驚く。
「そのことを春人さんに伝えるために態々やって来たのですか?」
「いいえ。この内容だけ伝えるのならば、電話だけで可能です」
エリアの質問に対して、白夜はあっさりと否定する。
「では、どうして態々やって来たのでしょうか?」
「それについてですが」
「私が説明します」
トリスの質問に白夜が答えようとすると、春奈が割って入った。
「本来、この内容はシリウス少将に話すべきものなのですが、一応皆さんもスターズの幹部職員ではありますので、お伝えしますが、シリウス少将がこちらにお帰りになりましたら、お伝え下さるようお願い致します」
「承知しました」
そして本題に入る。
「現在、ウルメリア王国は、側妃のサフラン・ハイス・ウルメリアと宰相のエドモンド・ダークリーの2人によって、国を我が物にしようと画策しようとしています」
「それだけではなく、ここ2年近くになってから軍事予算等が、その前年までと比べて明らかに多くなっています」
「まさか!?」
春奈の話に白夜が付け加える。その白夜が付け加えた内容の意味に気付いたトワがそんな声をあげた。
「ご想像の通り、サフランとエドモンドは戦争を仕掛けようとしています。戦争を起こそうとした目的は、ウルス大陸をすべて統治下に置くこと。その手始めとして、ウルメリア王国の隣国であり、ウルス大陸の中で最も小さな国であるサンマリアン王国に戦争を仕掛けようと準備を進めており、このままですと、早くて1週間、長くて1ヶ月以内に戦争準備が完了します」
「そんな……」
トリスがそんな言葉を漏らす。今更だが、春人がこの3人に白夜と春奈の相手をさせたのかというと、エリアとトリスにスターズ職員としての覚悟と自分と一緒にいる意味を教えるためである。そしてトワの場合は、その2人のフォローのためである。
「その戦争を回避する方法は、見つかっているのですか?」
「いくつかの作戦は、既に考えてあります」
エリアがそのような質問をすると、白夜がそんなエリアの質問に答える。
「まずアルファ作戦は、ウルメリア城にある武器をすべてスターズの方で密かに押収をする作戦。このアルファ作戦が失敗した場合は、ベータ作戦として、スターズの職員が側妃サフラン、宰相エドモンド、第一王子フィリップスの3人を暗殺します。それでも戦争を行うサフラン一派の生き残りがいた場合は、ガンマ作戦として、ウルメリア城そのものを爆撃し、破壊します」
「最後の作戦内容は、スターズが行う作戦とは思えないのですが?」
「あくまでガンマ作戦は最終手段ですので、実行する可能性は限りなくゼロに等しいですよ」
トリスの質問に白夜が安心させるようにそう言った。
「そうですか。それと元帥閣下。アルファ作戦等の作戦実行に関してお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」
エリアが白夜に質問をする。
「何でしょうか?」
「作戦実行の際には、私達も動くことになるのでしょうか?」
「そうですね……一応、本部所属の幹部階級ではありますが、実戦経験がなく、指揮階級の者が現場に出てしまうと、現場が混乱してしまう可能性があるため、エリアリア中佐およびトリス少佐に関しては、今回の作戦に参加を強制されることはないと思いますが、トワ特佐に関しては、実戦経験もあり、シリウス少将と行動を共にしていたこともあるので、指揮能力もあると判断され、作戦に参加してもらうことになるかもしれません」
エリアの質問に関して白夜は、少しだけ考えた後にそう答えた。
「ですが、シリウス少将……いえ、父上がすべて解決する可能性の方が高いので、我々がアルファ作戦さえ実行する前に終わってしまいそうで、なんだか考えるのが、少しだけ馬鹿馬鹿しく感じてしまいますがね」
付け加えるかのように白夜は、呆れながらそう言った。
「それ分かります!私達が色々と考えたとしても、春人さんがすべて解決してしまうので、私達がいることの意味が分からないときがあります」
エリアが、白夜に共感するかのように、椅子から立ち上がりそう言った。
「確かに、私達の必要性が感じないときはありますね」
「ですが、トワさんはまだ良い方じゃありませんか」
トワもそのように答えると、トリスがトワの言葉を否定するようにそう一言言った。
「確かにトリスさんの言う通りではありますが、トワさんは、春人さんから私達よりも信用というかされてますし、特にスターズ関係に関しては、私達よりも権限が春人さんから与えられているように感じます」
トリスに続いて、エリアまでそう言った。その2人の言葉に思わずトワは、戸惑ってしまった。
「まあまあ、お二人とも。少し落ち着いて下さい」
「「春奈さんは少し黙っていて下さい!!」」
「なんで!?」
2人から返ってきた予想外の言葉に驚く。なんせ、立場的には、2人よりも上の立場にいるため、本来ならばこのようなことはありえないのだが、春人の子供であるため、このようなことになっても問題はない。それに、春奈自身も春人の婚約者達のことを気に入っており、本当にたまにであるが、少しだけ甘えることがあるのだ。
白夜と春奈がお互いに顔を見合わせて、その3人を見ながら少しだけ笑みを浮かべた。
それから数分の間、3人は話し合い?をしていたが、無事にその問題が解決し、ティーカップに入っていた紅茶を飲んだ直後、突如として【ゲート】が開かれた。その場にいた全員が春人達が戻って来たのだと思った。
「ただいま」
開かれた【ゲート】からアイリス、信女、テレス、エイルの順に出てくる。
「大丈夫ですので、私達と一緒に来て下さい」
エイルが【ゲート】の向こう側にいる人物を半ば無理矢理、城の方に連れて来る。
「「シルヴィア殿!?」」
白夜と春奈が、シルヴィアの姿を見た直後にそんな驚きの声を上げた。なんせ、春人の愛弟子であり、春人自身がスターズの情報網などを使って探していた人物でもある。シルヴィア達3人とは、まだ春人の弟子時代だった頃に会っており、仲が良かった。そんな春人の愛弟子の一人であるシルヴィアの予想外の登場につい驚いてしまった。
「シルヴィア殿が何故こちらにいらっしゃるのですか?それに、その格好はいったい……」
「それについては、私が春人様に代わり、ご説明させていただきます」
白夜の質問に対して、エイルがどういう経緯でここに来たのか。そして、どういう状況だったのかなどを説明する。
「なるほど……」
「許せない……」
殺気を漏らしながらそう呟く。このとき、この場にいたみんなが察した。あのバカ王子達は、決して手を出してはいけない者に手を出してしまったことを……。
「春奈。空挺部隊と戦車部隊はどのくらい準備できる?」
「空挺部隊は、今すぐ動かすのであれば200。1日貰えるのであれば600全ての隊員を現地に派遣可能です。戦車部隊は、400ぐらいならば送り込むことが可能です」
「なら次に、艦艇については?」
「ウルメリア王国付近海域にて、第一艦隊が航行中です」
「第一艦隊の編成はどうなっていたっけ?」
「空母信濃を旗艦とし、空母信濃、大鳳。戦艦金剛、榛名、敷島、長門、陸奥。駆逐艦吹雪、時雨、夕立、春雨、島風。潜水艦望潮、迅鯨の以上です」
「現在空母に着艦している戦闘機は何機ある?」
「少し待ってください」
白夜の質問に春奈がスマホを取り出して、信濃と大鳳の2隻にどれだけの戦闘機があるのかを確認する。
「信濃に56機。大鳳に53機です」
「それだけあれば十分そうだな」
「スターズ本部に弾道ミサイルがありますが、使用準備は行いますか?」
「もちろんだ」
二人の会話についていけないが、このままだとまずいと直感したテレスは、二人の説得をする。
「お二人とも落ち着いて下さい!!」
その叫び声に二人の会話が止まり、テレスの方を見た。
「先程から言おうと思っておりましたが、春人様からの伝言を預かっていますので、お伝えしますわ。『私の愛弟子に手を出したのだ。私の命令がない限り動かさないようにしろ』と、殺気を放ちながら言っていましたわ」
もちろんこれは、この場を落ち着かせるためのテレスの嘘である。だが、まったくの嘘でもないので、多少は問題ないはすだ。
「分かりました。でしたら私達はこのままお父さんが帰って来るまで待つことにします。兄さんはそれでも良いわよね?」
「そうだな。久しぶりに父上にも会いたいですし、今後の作戦についても話し合いを行いたいので待つことにします」
「そ、そうですか……」
このとき、みんなが帰って欲しいと思っていたのは言うまでもないとは思う。そして、シルヴィアのことを放置した状態だったのを思い出したエイル達がシルヴィアのことを始めに医務室の淡雪に診察してもらった後、中等度の栄養失調であったため、シルヴィアが食べやすく尚且つ栄養価の高い食事をテレスと宮廷料理長であるクリスが作ってシルヴィアに提供すると、シルヴィアは涙を流しながら美味しそうに食べていた。
そしてシルヴィアのことを知らない彼女達もまた、バカ王子どもに対して怒りや殺意などを覚えたのだった。
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