154話 予想外の再会
今回、ウルメリアに私と同行する事になったのは、アイリス、信女、テレス、エイルの4人である。マリウス達以外の私達は、見つからないように【フラウト】と気配遮断を使う。
「存在を知らなければ、一度目を離しただけで、見えなくなってしまうのですね」
「ええ、それに、気配がまったく感じ取れないというのも凄い技術です」
マリウスと護衛の弟の方のカルロッサがそのような感じで驚く。
「なんだか街の者達の空気が重いな」
「そうですね。以前から暗くはありましたが、この国の支えであった母が表向き病で、サフラン一派の手に落ちてからはより一層このような感じです」
まあ、この国の国民達の心の支えとなっていた正妃を失えば、こうなるのも無理はないか。
そのまま私達は、城に向かって歩きだした。そして、城門前に門番の騎士が2人立っていた。その2人の門番は、マリウス達のことを無視したかと思ったいた。だが……
「いつまでマリウス殿下を無下に扱わなければならないんだよ!」
1人の騎士が小さな声でそう悔しそうな声で言っていた。もう1人の騎士もまた、悔しそうに拳を強く握っていた。この様子から察するに、この騎士達もまた、この城の中で、マリウスの数少ない協力者なのだろう。
そのまま城門を通り過ぎ、マリウス達と共に城内へと入る。
城内にあるホール。その中央にある大階段の一番上にいる人物を見ると、マリウスが一瞬、身体が固まった。マリウスよりも身長が少し高く、痩せ型の体型に逆立てたスポンテニアスなショートヘアの人物に、そのままマリウス達が深々と頭を下げた。
「……只今、ベルンガ王国より帰還しました。兄上」
兄ということは、コイツがフィリップスということか。
「マリウスか。随分と早く戻って来たな。出来損ないのお前にしては珍しいな」
それにしてもコイツ、かなりあ───
「悪趣味な服ね」
「同感です」
私と同じことを思っていたアイリスと信女がそう呟いた。姿は隠せても声は隠せないんだから、思っても口にはできるだけ出さないでほしいんだが……。
2人が言う通り、フィリップスの服装は、全身にラメの入った如何にも高級そうな服に金ピカの靴。指には、様々な宝石が施された指輪に金ピカの腕輪を両腕に装着し、更に首元には、金の装飾が掛けられていた。悪趣味もいいところだ。
フィリップスの後ろには、取り巻きであろう文官が2人、マリウスにニヤニヤと少し気持ち悪い笑顔を浮かべていた。
「それで返事はどうだった?無論良い返事をもらったんだろ?」
「いえ……残念ながら、既にクラウディウス大公爵令嬢には許婚がいるため、縁談はなかった事にしてほしいとの申し出がございました」
「……すまん、よく聞こえなかった。すまんがもう一度言ってくれるか?」
「ですから縁談の件は白紙に───」
すると、マリウスの言葉を最後まで聞かず、バシッ!とフィリップスが思いっきり握りしめた拳でマリウスの左頬を殴った。つかさず、マリウスの護衛騎士の2人が側に駆け寄る。
「断られたんなら、大公爵令嬢を攫って来るなり少しは考えろよ!ここに連れさえすれば『隷属の首輪』をはめさえすればいいだけなんだからよお!」
いったい何を言っているんだ?あのクソガキは。リアを奴隷にするとかふざけているのか?
そう思いつつ、少しだけ殺気を漏らしてしまうと、近くにいた信女とエイルが私を落ち着かせようとする。
「春人殿。お気持ちはわかりますが落ち着いてください」
「春人の気持ちも分かるけど、まあ、バレることはないでしょうけども、見つかる可能性もあるから一旦落ち着きなさい」
2人にそう言われて漏れ出していた殺気を抑える。私としたことが、殺気を漏らしてしまうとはな。
「クソが!こんぐらいの使いもできないとはな。それで?その大公爵令嬢の許婚っていうのは何処のどいつなんだよ?」
「アルマー王国国王、望月春人陛下です」
「アルマー王国……?ああ、あの最近できたっていう成り上がりの国か。そんな成り上がりの国に嫁がせたところでなんの得にもなるはずないのにな」
そう言いながらフィリップスは、面白くなさそうに舌打ちをする。そして、何かよからぬことを思いついたのか、気持ち悪い笑みを浮かべながらマリウスの方を見る。
「マリウス。お前、もう一度ベルンガまで行って噂を流してこい」
「噂……ですか?」
「アルマー国王は大量殺人者で女好きだとな。泣かされた女は数知れず。大公爵令嬢もそんなところに嫁いだら不幸になるのが目に見えてるってな。そうすりゃあ、婚約解消になって、俺のところに話が戻って来るかもしれねえ。どうだ、いいアイデアだろ?」
大量殺人者って点はまったくの嘘でないから否定するつもりはないが、女好きっていうのは冗談もいいところだな。まあ、側から見たら女好きに見えなくないほど、そこそこの人数の婚約者はいたりするから、まったくの否定は難しいと思うが……。
「その噂をベルンガ王国内で吹聴すれば、母に会わせていただけますか?」
「だから言ってるだろ?お前の母親は、病気なんだって。その病に感染しないように隔離してるとな。これも弟を心配する兄心なんだぞ」
うわぁ、すげぇ胡散臭いな。そんなことまったく思ってないだろうに。そして、その言葉にマリウス第二王子がフィリップスに思わず睨んでしまった。
「なんだその目は!!」
その瞬間、激昂したフィリップスの蹴りがマリウスの腹に突き刺さる。そして、更に二発、三発と容赦のない蹴りや踏みつけなどを行い、計八発の暴行を加えた。
「卑しい生まれの分際が自分の立場を弁えろってんだよ!お前は素直に俺の命令を聞いていればいいんだよ!お前みたいな奴を生かしてるだけありがたいと思えよ!そこら辺分かってんのか?あ゛あ゛!?」
いくらなんでも見過ごせないと思った私が、こっそり魔法を発動させようと思った瞬間、階段のところから、派手なドレスを身に纏い、金のネックレスを首に掛け、指には大きな宝石が埋め込まれた指輪を嵌めた、肥満体型で、厚化粧の1人の女性がやって来た。
「フィリップス?そこで何をしているのですか?」
「これは母上。見ての通り、出来損ないの弟に教育をしてやっていたんですよ」
この女が母親なのか?似てなさすぎだろ。いや、いやらしい目や口は似てるいるな。……ちょっと待てよ。フィリップスの母親ということは、コイツがサフラン一派のトップで側妃のサフラン・ハイス・ウルメリアか。
「フィリップス。貴方はもうすぐこの国を背負って立つ身。そんな弟など放っておきなさい。逆にマリウス。貴方と違ってフィリップスは忙しいのです。いい加減身分を弁えなさい。まったくどうしてこんなこともできないのかしら。これも母親が卑しい血のせいかしらね」
おいおい。仮にもお前は側妃だろ。正妃の悪口など言ったら普通ならアウトだぞ。そう思ったが、事実上の正妃がサフランになってしまっているからあんなことも言えるのかとも思えた。
「ああ、イライラするな!」
フィリップスがポケットの中からベルを取り出して、そのベルを鳴らす。すると、奥の方から隷属の首輪を嵌めた少女がやって来た。その少女の顔を見て私は思わず、目を見開いた。
「来るのが遅いんだよ!」
私がその少女に驚いていた一瞬、思考が停止してしまっていた。そして、その少女がフィリップスに駆け寄った瞬間、フィリップスがそのように言ってその少女を殴り、少女が床に倒れ込んだ後、つかさず髪の毛を掴んで頭を持ち上げる。
「イヤッ!」
「ベルが鳴ったらすぐに来いって言っただろうが!」
その少女を再び床に投げるようにして手を離して、その少女の身体に蹴りを入れる。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
その少女は、泣きながらそう叫んだ。
その光景を見ていた私は、殺気が漏れ出した。それも今まで以上に。
「なんだか寒わね」
「ああ、もういいや。母上、こんな奴らなんて放っておいて行きましょう」
「そうね」
2人は、何処かへと行ってしまった。
「春人様、殺気が漏れすぎて温度に変化が出てしまっていますわ」
「春人殿、一旦落ち着いて下さい」
「あの子に対しての暴力は、許せないのは分かるわ。でも今は殺気を抑えた方が良いわ」
4人に説得され、漏れ出した殺気を抑え込んだ。
「すまなかった。とりあえず、マリウス第二王子とあの子の治療を行うから、私はこのまま声を出さないから、2人のことを頼む」
「分かりました」
2人の怪我をエイルの回復魔法で回復させた後、人が立ち入ることのない部屋だという部屋へと案内され、その中にその少女も一緒に中に入る。ちなみに、この時点では、その少女にはマリウスと護衛の2人以外の姿は見えていない。
私が最後に部屋の中に入り、周りに誰もいないのを確認してから扉を閉め、万が一に備えて、遮音結界を部屋に張った。
「ここならば誰も来ませんので、姿を見せても大丈夫です」
マリウスの言葉で、私達は姿を現した。その瞬間、その少女が私を見ると、目には涙が浮かんでいた。
私はその少女を知っている。同時に彼女もまた私のことを知っている。それは何故か?答えは簡単である。その答えとは───
「し、ししょうぅぅぅ!!」
「よく今まで頑張ったな!助けるのが遅れてすまん。そして生きていて良かったよ。シルヴィア」
泣きながら思いっきり抱きついて来た少女の名はシルヴィア。かつての愛弟子の一人であり、同じ愛弟子のローレンスやナカサカと一緒に行動を共にしていた子である。以前ダンバタ砂漠でローレンスとナカサカと再会した時に奴隷となっているとは聞いていたが、まさかこの国にいて、あんな仕打ちを受けていたとは……。
「シルヴィアって、もしかして前に会った春人の弟子の一人っていう?」
「そうだ。奴隷商に売られたところまでは情報を掴んでいたのだが、その後からの行方がまったく分からなくなっていたんだ。まさかこんな所にいたとは私も予想外だった。もっと早く見つけることができていれば、あんな奴にあんなことをされずに済んだ。本当にすまなかったシルヴィア」
私はそう言いながら、抱きついたままシルヴィアの頭を優しく撫でる。私に頭を撫でられたシルヴィアの顔は緩み、嬉しそうな表情を浮かべていた。
私は、シルヴィアの首に装着させられている隷属の首輪を解除して外す。
その外れた隷属の首輪を見て、シルヴィアは再び泣き出した。
やはりあいつらはただ殺すだけではダメだ!徹底的に痛めつけて、地獄すらも生温い方法で、生まれたことを後悔させてやる。
この時の私は怒りが頂点に達しており、殺気が漏れていることにも気付かず、私の殺気に耐性のないマリウスと護衛二人組は失神してしまっていた。
だが、幸いなことに、結界によって部屋の外には殺気が漏れ出すことはなかった。
殺気をなんとか抑え込んだ私は、気絶した3人を起こす。
「すまなかったな」
「いえ、大切な人があんな目にあっていると知ったら、ああなるのも無理はありません」
「そうか」
部屋の外から段々とこの部屋に近づいてくる気配が感じた。
「今こっちに向かって誰かが近づいて来ている。この部屋に近づかれないようにしてくれ」
「分かりました」
3人は部屋から出て行った。
部屋の外で何かを探している様子のフィリップスにマリウスが話しかける。
「どうかなされたのですか?兄上」
「マリウスか。あの後から俺の奴隷が戻って来ないんだ。何処に行ったか知らないか?」
「いいえ。あの後、兄上のところに戻るように行って、兄上が歩いて行った方へと歩いて行ったきり見ておりません」
「どうかされましたか?フィリップス殿下」
フィリップスとマリウスが話していると、奥の方から小太りの男がやって来た。
「エドモンドか。俺の奴隷が戻って来なくて探していたんだよ」
「戻って来るように命令はしたのですか?」
「とっくに命令したさ。だけど戻って来ないんだよ」
「でしたら、そんな面倒で役に立たない奴隷など殺してしまえば解決します。仮にその奴隷の死体が見つかったとしてもこちらの方で処理しておきますので」
「せっかく気に入ってたのにな。それに本格的に遊んでねぇのに。まあ、俺から逃げ出したあの奴隷がすべて悪いんだし、死んでも当然か」
フィリップスがそう言った瞬間に、私の手の上にあった隷属の首輪がグチャっという嫌な音ともに収縮した。もしもこの隷属の首輪があのままシルヴィアの首に装着されたままだったらと考えただけでゾッとする。
それにしてもアイツら、私の弟子をあんな簡単に殺そうとしやがって、ただで済むと思うなよ!!
それにしてもフィリップスとあの宰相、もしかして……少し調べてみるか。
「みんな悪いんだけど、先に城の方に戻っててくれ。私は少し調べたいことがある。それと、シルヴィアの説明なども頼む」
「分かりましたわ」
「それじゃあ、とりあえず【ゲート】を城に繋げるから戻っててちょうだい。【ゲート】」
城に【ゲート】を繋げ、みんなを城へと送った。
その後、私はあることを調べるため、話が終わって別れたフィリップスと宰相のエドモンド。そしてその2人のうち、エドモンドの跡をつけた。
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