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異世界転生術師  作者: 青山春彦
第17章 ウルメリア王国
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152話 練金塔

 転移した場所を少しだけ見渡す。上空を見上げると、その天井のガラスには、青空が映っていた。どうやら、ベリルベルの施設というのは間違いなさそうだな。

 そうして、転移陣の台から降りた瞬間、ここの管理者と思われる人物が目の前に現れた。


「ここから先は、適合者でなければ入れないの」

「一応、『武具保管庫』のフェルと『万能工房』のマリアと『焼却場』のファーナには既に適合者として認められているのだが?」

「もしかして、レイフェルトとマリアースとファイアナなの?」

「ああ」

「それだったらすごく久しぶりなの」

「ところでなんだが、ここはいったいどういった施設なんだ?」

「あ、うっかりなの。ここは、ベリルベルの『練金塔』なの。実際に見てみた方が良いと思うの」


 『練金塔』だったのか。ここも使い道は、ありそうだし、地上ではあまり出来なさそうな実験も出来そうだな。


「ここが、薬や薬品などを保管しておくための場所なの」


 その棚には、薬や薬品がビッシリと置かれていたが、種類別に置かれていたので、分かりやすくはなっている。


「そしてここが、薬品などの調合を行ったりするための場所なの」

「ここでは、どのようなものが作ることが出来るんだ?」

「主なのはポーションなの。体力、魔力回復用など様々なの。その他だったら、毒薬だったり自白剤、病気に効く薬もなんかもなの」

「かなりのものがあるんだな。……それで本題なのだが、ここの試練を教えてくれないか?他のベリルベルでは試練があったが、ここだけないとは思えなくてな」

「第一と第二試練は既に合格なの」

「どういう意味だ?」

「転移陣の部屋の前には、守護者がいたはずなの。それを倒していることと、転移陣は全属性持ちでなければ起動することはないはずなの。だから、ここに来れているということは、少なくとも2つの試練はクリアなの」

「それで、第三試練の内容を教えてくれ」

「一緒に着いて来てなの」


 その管理者について行く。道中で彼女の名前を尋ねる。


「そういえば、お前の名は何というんだ?」

「名乗ってなかったなの?」

「名乗ってないぞ」

「忘れたの。改めて私は、この『練金塔』の管理者のミレニアムなの。よろしくなの」

「ああ、よろしくな」


 そのまま歩き進むと、部屋にたどり着いた。


「ここは実験室なの。最終試練は、ここでのある薬の製薬なの。作るのはこの薬なの」

「その薬はいったい何なんだ?」

「この薬は、魔力欠乏症に対する薬なの。この薬を製薬するにあたって、ここにある材料はすべて自由に使っても良いの。ただし、スキルや魔法などによる製作の禁止や違う薬にならない用にすることが条件なの。また、制限時間は10分で、この制限時間を過ぎてもダメなの。準備は良いの?」


 テーブルの前に立つ。


「いつでも良いぞ」

「よーい、スタートなの!」


 スタートの合図と同時に棚の前に行き、魔力欠乏症の薬の材料となる、マナリーフと呼ばれる魔力が多く含まれる葉を2枚と適量の水、それと魔力が一番身体に馴染みやすい水属性の魔石を1個テーブルの上に用意する。マナリーフは、細切れにし、水属性の魔石は半分に切断し、そのうちの半分を砂粒と以上に細かく砕く。いくら細かく砕いたとしても、体内に魔石を入れるのは大丈夫なのかと思うだろうが、これだけ細かく砕かれれば、胃液には耐えられず、消化されてしまう。また、魔石は身体には悪影響を及ぼすことはほとんどないので、こういった魔力関連の薬に使用されることも多々あるのだ。

 そんなこんなで、魔力欠乏症薬が完成した。ちなみに製薬時間は、5分37秒である。


「終わったぞ」

「もう終わったなの!?」

「魔力欠乏症の薬は、薬の中で最も簡単に製作できる部類だろ?」

「そうだったとしても、こんなすぐには出来ないの!」

「私は医師でもある。それもこの時代の医師の中で最高位の医師免許を所有しているからな。だから、薬の製薬も可能というわけだ。」

「そういうことなの……?」


 ミレニアムが、腑に落ちないような声でそう呟いた。


「とりあえず、試練はこれですべて終了ってことで良いんだよな?」

「これで終了なの。そして試験も合格なの」

「そうか」

「マスター登録をしたいから、一緒に来てほしいの」


 ミレニアムに連れられて管理室に入。


「他のを手に入れているのなら知ってるかもしれないけど、ここに手を置くと、この装置が自動で遺伝子情報が採取出来る程度の皮膚を剥がし取り、それをこの装置がそのまま遺伝子情報を保管したら、マスター登録が完了なの」

「では、早く済ませてしまおう」


 管理装置に手を置き、マスター登録を済ませる。


「登録完了なの。これより機体No.35。個体名ミレニアムは、マスターである望月春人様に譲渡されたの」

「そういえば、ミレニアムのことは何と呼べばいい?他の奴等は皆、愛称呼びだから、お前もそういった呼び名があるんだろ?」

「私のことは、ミレアと呼んでほしいの」

「分かった。それじゃあミレア。地上に私の仲間達がいるんだが、今ここに連れて来ても良いか?」

「構わないの」


 一応許可を得てから【ゲート】を開き、みんなを呼んだ。その中には、エドガーもいた。


「エドガー。私は、この『練金塔』のマスターとなった。改めて言いたい。私の下に来てほしい」

「約束もあるしな。『練金塔』の管理者よ。俺はベリルベル博士に恩があるし、守護者という役割もそれほど悪いものではなかった。だが、今後はこいつと一緒にいたいと思う。だから、守護者の任を解いてはもらえないだろうか?」

「分かったの。守護者の任をこれにて解くの」

「感謝する」

「エドガー、少し良いか?」

「どうした?」

「少し、一緒に来てくれないか?あとすまないが、ミレアは、その子達にこの施設の案内を頼めないか?」

「またなの!?」

「すまんな」


 ミレアにそう謝って、私とエドガーは、少しだけ離れた場所へと行った。


「それで、何のようなんだ?」

「あの子達には、まだ言えないことだからな……なぜ私がお前を仲間にしたか分かるか?」

「戦力の補充とかじゃあないのか?」

「まあ、その意味合いもあるが、ドランクの話をしていた時のお前から、私と似たものを感じたんだ」

「似たもの?」


 エドガーが私にそう聞き返す。


「私の妻と次女を支配級2体によって殺されたんだ。それも私の目の前でな……」

「!?」


 私の話を聞いたエドガーが目を見開く。


「今から2年と半年前に大規模なドランクの襲撃が起こった。私達は、民間人に見つかる前にドランクを処理しなければならない。だからこそ、当時の最大戦力を投入した。だが、それでも上級ドランク相手に苦戦していた。私は当時、スターズの元帥……つまりスターズの最高司令官だったが、突如として、支配級が出現した。そのため、現場があまりにも危険と判断し、本部にいた仲間の制止を振り切って、現場へと向かって2人の援護を行なっていた。だが、支配級の攻撃が次女の急所を貫通していた。その動揺した一瞬の隙に、今度は妻が同じように殺された。その後支配級は、歪みの中へと逃走し、追跡は出来なかった。2人の葬式を行った後、遺体を専用墓地に埋葬してから暫くした後、私はその件で仕事に支障をきたすようになり、元帥からの降格処分を受けることになったが、その後に任務などでの活躍により、今の階級と役職になっている」

「つまりお前は、俺に何を言いたいんだ?」


 私は、本題の方に入った。


「ここ近年、ドランクの出現が増えている。約2年前の事件がその極端な例だ。そして我々スターズは、3年以内にさっきのような……もしくはそれ以上の規模のドランクの襲撃が起こると予想している。その中には、私の妻と次女を殺したドランクやお前の戦友達を殺したドランクがいるかもしれない。私の仇は、女型のドランク2体で、お前の仇とは違う相手だが、同じ支配級だ。もしかしたら一緒に現れるかもしれない」

「まさか……!?」

「そうだ。お前はお前の仇を。私は私の仇を()る。だから、その際にお互いに協力しないかということだ」

「それは悪くない提案だな。だが、なんであの嬢ちゃん達には聞かれたくないんだ?お前の婚約者なんだろ?」

「そうだが、本当に聞かれたくないのはここからなんだよ」

「どういうことだ?」


 そりゃあ聞き返すよな。なんせ、さっきので話は終わりだと思ったのだから。


「私の最終的な目標は、2人の蘇生だ」

「蘇生…‥だと!?そんなこと不可能だろ。死んでから2年以上経っているし、アンデットになっていなければ、魂はまた別な生命(いのち)となる」

「確かにその通りだ。だが、遺体は魔法で身体を当時の状態で傷などを完全に治して保存し、魂を現世へと戻す方法があったとしたら?」

「確かにそれなら、蘇生も不可能ではないと思うが……それは死者に対する冒涜(ぼうとく)なのではないか?」


 私達、術師の技で魂を扱うものもあるが、その中には『禁術』と呼ばれるものがある。その代表となるのが、死亡してから暫く経った後の蘇生や死者と生者の転魂などだ。その他にもあるのだが、今はこれぐらいにしておこう。


「そう感じるのも理解できるし、私のやろうとしていることは、その状況によっては禁術になってしまうギリギリのところなんだ。そういうのもあって、あの子達には話すことができない。だから、こうやってお前にだけ伝えたんだ」

「確かに俺は仲間の仇を取りたい。だが、死んで逝った者達を生き返らせようとは考えていない。俺はただ、仲間達を安らかに眠らせてやりたいんだよ」

「そうか。もしも、お前が自分の仇を取ることができた時には、私の下を去ってくれても構わない。私とお前との関係は、一時的な協力関係であるのと同時に条件主従契約なのだからな」

「そうだったな」

「春人さま〜」


 すると、奥の方からトワ達が手を振ってこっちに来るのが見えた。私は、彼女達に手を振り返す。


「あの子達には、こういったことを知ってほしくないんだよ。できれば表の……綺麗な世界の方にいてほしい。でも、私といる限りそれは難しい。けど、少なくすることはできる。私のしようとしていることは、あの子達には知られてはいけないんだ」

「俺はただ見てることしかできねぇかもだけど、まあ、あの嬢ちゃん達のあの笑顔は、守りたいとは思うわな」


 話している間にみんなが私達のところへと着いた。


「お二人とも何を話していたんですか?」

「今後、うちの城で働かないかって話だ」


 エリアに聞かれた質問に対して、私は咄嗟に嘘をついた。


「俺は、別に問題ないから良いって返事をしたが、俺をどこに配属させるかは、まだ決めてなかったらしい」


 エドガーが、思いもよらない助け舟を出してくれた。


「それで帰ったら決めることにしたんだ。なんせこいつは、アンデット系上位種族のデスナイトロードだからな」

「エドガー殿。もし城で暮らしてくださるのであれば、拙者の訓練相手になってほしいです」

(わたくし)もお願いしますわ」


 信女とテレスがエドガーに剣の修行の相手をお願いしていた。私も忙しくて、最近は剣の相手をしてあげられていなかったから、丁度良かったのかもしれないな。

 そろそろ、他のベリルベルと合体させて、城に戻るとするか。


「ミレア、進路を西に変更。目的地をアルマー城」

「進路を西に変更なの」


 時々、進路のズレなどが生じた場合は、変更しながら、アルマー城(我が家)へと向かった。

 アルマー城へ到着後、すぐに他のベリルベルと連結を行った。

 それらの作業を終わらせた後、エドガーを私の執務室へと連れて行った。その際、そのままの姿だと、すぐに人間ではないことが分かってしまうので、エドガーには、エドガーが保有していたスキルで、人間だった頃の姿になってもらった。ちなみに執務室の中には、エリア達とサラ(プロキオン)とカナデ(ベテルギウス)、そして何故かマリンとディアボロスまでいた。


「……マリンはともかく、なんでディアボロスまでいるんだ?」

「私は、春人様の直属執事ですので、なんら問題はないかと。それにその者が暴れたら、この辺りは一溜まりもないでしょうし」

「なあ春人。この執事何者なんだ?お前のことだから、この執事も只者でないのは見た目から想像できるが、なんかお前よりもヤバそうな気配がするんだが」


 エドガーが私に小声でそう質問をしてきた。


「まあ、その、なんだ。ディアボロスは……世界に7体しか存在しない『原初の七大悪魔』の一柱であり、闇系統を司るシュバルツだ」

「おいおい冗談だろ?なんでそんなドランクよりも危険なヤツがお前の執事をしてるんだよ」

「まあ、昔に色々とあったんだよ……さて、そろそろお前の役職の件について話そうか」


 エドガーの話を逸らして、本題の方に入る。


「ここに来る途中までに考えた結果、エドガーには、アルマー王国王宮警察本部所属王家武術指南役とし、階級を警部補とする」

「なんだかよく分からないが、階級の感じからして一番下というわけではなかろう?他の奴らが快く思わないんじゃないか?」

「それについては問題ない。王宮警察本部の本部長と副本部長であるこの2人からは既に許可をもらっているし、お前はスターズを引退して、採用をしたということにしてある」

「無駄に設定が凝ってるな!?」


 エドガーがそんなツッコミを入れる。


「そうでもしなければ、普通の奴には不審がられるかもしれないからな」

「それもそうだな」

「とりあえず、これが身分証だから無くすなよ」

「ああ、分かった」


 エドガーに渡した身分証は、他のと変わらない警察手帳のような形で、身分証の階級部分のところには、警部補の階級が書かれている。本当は、王家武術指南役も入れたかったのだが、スペース的に入らなかったので断念した。


「改めて、これからよろしく頼む。エドガー」

「こちらこそ宜しく」


 互いに握手をしあう。


「これからエドガーに城の案内をしてくるから、君達は仕事に戻るなりしていてくれ」


 私とエドガーの2人は、部屋の外へと出て、私はエドガーに、城の案内を行った。

 城の案内が終わった後、エドガーが暮らすことになる、王宮警察の宿舎に案内し、そこにある設備などについての説明などもして、執務室へと戻った。案内などで3時間以上もかかってしまい、今日分の仕事が終わっていなかったので、途中夕食を挟みながら、仕事を終わらせて、寝室へと行き、その日はそれで眠りについたのだった。

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