145話 裁きの時間
これは、エイル達が再びアルマー王国へ来る、少し前の話である。
拘束されたランス教国の聖職者が宗教ギルド本部法務局の留置所へ移動されていた。
そして今日は、その者達の裁判の日である。また、今回の裁判では、普段の異端審問などの裁判では、使用されることのない裁判用の物が用意されていた。その名は“断罪の天秤”という、宗教ギルドが所有する神器のひとつである。その為、元聖職者達の処遇については、この“断罪の天秤”によって決められ、その判決をもとにして、枢機卿級会議でランス教とともに正式に処分が下されることになっている。春人の場合は、枢機卿から昇格しているので、枢機卿級会議には、本来参加しないが、今回の場合は、春人が枢機卿級から法王級になる出来事でもあるし、かなりの大規模事案になってしまっている為、枢機卿級以上の階級の者も参加した方が良いということになり、枢機卿級会議の議長として、会議出席することとなった。そして現在、“断罪の天秤”を使用した、裁判が開廷しようとしていた。
「これより、元ランス教聖職者による事件の裁判を開廷する」
因みにこの世界での裁判では、基本的に新たな証拠が出ない限り、再審をすることはもちろん出来ないし、控訴や上告をすることも不可能である。つまり、裁判で判決が決まったら、基本的にその判決を覆すことは、ほぼ不可能なのである。
そして今回の裁判は、“断罪の天秤”を使用する為、通常の裁判とはやり方が異なる。
「まずは、アミエル元宗教ギルド本部所属大司教級宗教ギルド職員の裁判を行う。法務局側(地球での検察側)は、天秤の私から見て左手側に証拠品を置いてください。また、弁護側は、その反対側に証拠品を置いてください」
それぞれが、天秤に証拠品を置いていく。因みに私は、傍聴席で様子を見ている。何故なら、この裁判は、法務局の管轄である為、裁判に直接又は間接的にでも介入することがほぼ不可能なのである。何故、宗教ギルドで二番目の階級であるにも関わらず、少しも介入することができないのかというと、この法務局が、宗教ギルドの中で唯一、完全に独立した機関だからである。
そして“断罪の天秤”が、法務局側の証拠品の方が、弁護側よりも遥かに下がった。つまり、弁護側よりも法務局側の方が証拠品として成り立つということである。そしてその“断罪の天秤”の上に予め登録されている罪状とその刑罰について書かれていた。
「判決を言い渡す。被告人アミエル。其方を殺人未遂並びに浄水毒物等混入の教唆、監禁、脱税、横領、公文及び私文書偽造の罪で、有罪とする。被告人は、これらの罪を複数回に亘って行っており、反省の様子が見らず、その内容も極めて悪質なものである。よって、被告人を犯罪奴隷の刑に処す」
「この私が、犯罪奴隷……」
アミエルは、絶望的な表情を見せていた。そしてアミエルは、裁判長に対して罵詈雑言を言ったり、法廷内で暴れたりした。その為、アミエルには、先程の罪にプラスして、裁判長に対する罵詈雑言での法廷侮辱罪と法廷内で暴れてそれを止めようとした聖騎士に対する公務執行妨害と暴行罪が付け足された。
その次にカルミアの裁判が行われた。結果を先に言うと、犯罪奴隷の刑であった。
因みにこの世界で、犯罪奴隷の刑というのは、死刑よりも重い刑罰になっている。
「被告人カルミア。其方を殺人未遂の教唆、監禁、脱税、横領、詐欺、私文書偽造、恐喝、脅迫の罪で有罪とする。被告人は、これらの罪を複数回に亘って行っており、反省の様子が見られず、その内容も極めて悪質なものである。よって被告人を犯罪奴隷の刑に処す」
カルミアは、さっきのアミエルのを見て抵抗するだけ無駄であり、逆に罪が重くなること分かったようで、抵抗することなく、大人しく聖騎士に連行されて行った。
そして次にオダマキの裁判となったが、オダマキもまた、先程までの二人のように犯罪奴隷の刑となった。
「被告人オダマキ。其方を殺人未遂の教唆、脱税、横領、詐欺、公文及び私文書偽、恐喝、脅迫の罪で有罪とする。被告人は、これらの罪を複数回に亘って行っており、反省の様子が見られず、その内容も極めて悪質なものである。よって被告人を犯罪奴隷の刑に処す」
オダマキもまた、カルミア同様、抵抗する様子を一切見せることなく、聖騎士によって連行されて行った。
次は、キャメロンの裁判となった。
「被告人キャメロン・ローガン。其方を脱税、横領、詐欺、恐喝、脅迫の罪により有罪とする。被告人は、これらの罪を複数回に亘って行っており、反省の様子が見られず、その内容も極めて悪質なものである。よって被告人を懲役67年とする。また、被告人が起こした事案は、我々宗教ギルドではなくスターズが担当していたものである為、被告人をスターズの監獄島へ収監するものとする」
キャメロンは、他の2人と違い、犯罪奴隷にはならなかったものの、スターズの管轄下の監獄島へと収監されることとなった。本人は、自身が犯罪奴隷にならなくてホッとしているようだが、監獄島への収監は、下手をすれば犯罪奴隷よりもキツイ状態となる。まあ、67年程度の収監ならば、そこまで酷い状態になることはないだろう。
その後、元聖騎士達の裁判も行われた。そしてそのほとんどが、約30年の懲役刑を言い渡され、宗教ギルド本部の地下牢へ収容さることとなったが、元聖騎士達の中には、スターズが捜査を行っていた者も数人混じっていたようで、その者達は、キャメロンと一緒にスターズの監獄島へ収監されることとなった。
「これにて、元ランス教聖職者による事件の裁判を閉廷する」
裁判長を含めた異端審問官である裁判官達が、法廷から退室した。
私は、その裁判長に挨拶をしに行った。
「久しぶりですね。ミッドレイ宗教ギルド本部所属大司教級宗教ギルド職員……いや、アラリ大尉」
「お久しぶりです。春人……シリウス少将殿」
その裁判長は、アラリであった。久しぶりに会ったので、思わず挨拶をしてしまったのだ。
「シリウス少将会ったのは、シリウス少将とアリスロード…スピカ大将との結婚式以来でしたね」
「そうですね。今更ですが、シャドウ評議会入りおめでとうございます」
「シャドウ評議会入りできたのは、シリウス少将が裏で手をまわしていたおかげでは?」
「やはり気付かれていましたね。ですが、アラリ大尉がシャドウ評議会のメンバーに相応しい実力が持っているのは、私が保証します」
「あ、ありがとうございます」
「では、私はこれで失礼しますね」
「何か用件があったのでは?」
「あ、いえ。ただ挨拶をしに来ただけで、これといった用はないですよ」
「そうでしたか。では、失礼します」
お互い別れて行った。因みに他の裁判官達もアラリ大尉が、スターズの者だということは知っているし、スターズの協力者でもある為、あまり重大な内容でなければ、スターズのことを聞かれてもまったく問題ないのだ。
その後、私は枢機卿級会議に出席するべく、会議室へと向かった。
「待たせてしまったようですまない」
会議室の扉を開け、私は一言そう言った。
「いえ、予定の時間よりも早目の到着ですので、問題ありません。春人枢機卿級職員ではなく、法王級職員殿」
そう答えたのは、マルコ・フランコ宗教ギルド本部所属枢機卿級宗教ギルド職員だった。
そして私は、椅子に座る。
「全員揃っているようだし、少し予定の時間より早いが、これより、ランス教国で発生した、事件の臨時枢機卿級会議を始める」
今回の会議は、ランス教をどうするかというものであり、この会議の結果によっては、ランス教が宗教国家として、活動することが出来なくなることもありある。まあ、今回の事件は、一部の者が暴走したことによるものだし、その可能性は、限りなくないだろう。
「ゲルトルーデ枢機卿級職員は、今回の件について、どう思われているのですか?」
ゲルトルーデ教皇に尋ねたのは、ニコレッタ・アンナベル宗教ギルド本部所属枢機卿級宗教ギルド職員だった。
「今回の件に関しましては、私の監督不足によって発生致しました。つきましては、宗教ギルド職員としての身分剥奪や懲役刑も覚悟しております」
「なるほど。部下の責任は、上司であるゲルトルーデ枢機卿職員が責任を取るということですかな?」
「その通りです。ニコレッタ枢機卿級職員」
ニコレッタが少し嫌味な感じで言うと、ゲルトルーデ教皇は、静かに答えた。
「ならば、ゲルトルーデ枢機卿級職員の処分は、決まりでしょう。ゲルトルーデ枢機卿級職員を宗教ギルドから永久追放処分とし、ランス教の教皇を別の者に委ねましょう!如何ですか?春人法王級殿」
「確かにルチャーノ・ガブリエーレ宗教ギルド本部所属枢機卿級宗教ギルド職員の言う処分内容を完全に否定するつもりはないが、流石に被害者でもあるゲルトルーデ宗教ギルド本部所属枢機卿級宗教ギルド職員にそのような処分は、流石に重すぎる」
「そうですか?私は、至って妥当だと思いますが?」
「彼女は、毒を盛られて殺される寸前だった。そのような者に対して、除名処分は流石に思いと思わないか?」
「そ、それは……」
私がそのように言うと、ルチャーノは、何も言い返せないことに悔しさを覚えたようだ。
「では、春人法王級殿は、どのような処分ならば、妥当だとお考えなのですか?」
そう私に質問をしたのは、ベアトリーチェ・カルボーニ宗教ギルド本部所属枢機卿級宗教ギルド職員だった。
「私ならば、ゲルトルーデ宗教ギルド本部所属枢機卿級宗教ギルド職員を枢機卿級第3席から末席への降席処分および、ランス教には、1年7ヶ月間の宗教活動停止処分が妥当だと私は考えます」
「春人法王級にしては、随分と甘い処分内容ですね」
「そうか?私としては妥当な処分内容だと思うのだが」
「……分かりました。春人法王級殿がそこまでおっしゃるのであれば、私は、これ以上言いません」
「では、ゲルトルーデ宗教ギルド本部所属枢機卿級宗教ギルド職員以外の4人に問う。この処分内容に反対の者は、挙手を願う」
誰も手を挙げなかった。どうやら、反対の者はさっきので、いなくなったようだな。
「では、この処分内容でゲルトルーデ宗教ギルド本部所属枢機卿級宗教ギルド職員およびランス教処分を下すものとする。以上で、ランス教国に関する臨時枢機卿級会議を終了とする。続いて、枢機卿級への昇格会議を始める」
「昇格会議と言っても、誰を枢機卿級に昇格なされるのですか?」
「それは、この2人だ」
私がそう言った瞬間に会議室よの扉が開き、中へと入る。エイル・アレーネとエリザベート・コレットであった。
「聖女ともう一人は、どなたですか?」
「エリザベート・コレット宗教ギルドランス支部所属司教級宗教ギルド職員兼ランス教大司教だ。私は、この二人を空席の枢機卿級に推薦したいと思うのだが、構わないか?」
「否定しても、どうせ枢機卿級にするんだろうから、私は構わん」
「私は、最初から反対するつもりはありません」
「同じく」
「反対しません」
「では、二人を宗教ギルド本部所属枢機卿級宗教ギルド職員に昇格することを私の名の下に宣言する」
この2人のことは、会議が終わってから、直ぐ格宗教ギルドに通達された。なんせ、この階級に昇格したのは、一番最近でも20年前のことであり、しかも、二人同時に昇格するというのは、宗教ギルドの歴史の中でも異例のことでもあり、この話は、あっという間に広まった。
何はともあれ、これで宗教ギルドの最高幹部である宗教ギルド本部所属枢機卿級宗教ギルド職員が7人となり、すべての席が埋まったことになる。
そして、すべての会議の議題を終了した私達は、会議室を退室した後、私は、宗教ギルド本部から城へと【ゲート】で戻ったのだった。
『良かった』、『続きが気になる』などと思っていただけたなら、評価やブックマークをしてくださると、とても嬉しいです。投稿日時は土・日の予定ですが、ズレて投稿する場合があります。どうぞこれからもよろしくお願いします。