140話 神の降臨
いつものように、城の執務室で書類の山から、一枚一枚丁寧に内容を確認して、サインなどを行う。最近の書類の内容は主に、新しい住民の移住届の受理だったり、その移住して来た人の家の建築許可証の発行などである。また、この街では、移住するのに審査がある。移住するためには、その審査の前の審査内容の条件のすべてを満たす必要があり、その条件を満たしていない者は、書類審査の時点で、不合格となる。逆に、書類審査に合格した者は、面接がある。この面接に立ち会うのは、私とエリア、リース、昌信。周りには、私とエリアの警護担当の王宮警察官が何人かいる上に、物陰には、『忍』潜んでいて、何かあった際には、即時、対処が可能な状態である。まあ、そんなことはどうでもいいか。
そんなこんなで、事務作業をしているとコンコンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼しますわ春人様」
扉を開けたのは、テレスだった。
「どうしたの?」
「たった今、『忍』から報告が入りましたわ。その内容は、この王都内にランス教国の使者の方々が入ったそうですわ。王城までの到着予想は、今から20分ほどだと思いますわ」
「ランス教国の使者の数などは分かるか?」
「はい。報告によると、ランス教国の使者の方々は3名で、そのうち2名は、大司教だったそうですわ」
「もう一人は?」
「えーと……その……なんと言いましょうか……」
「時間がない。教えてくれ」
「その……聖女様だったそうですわ」
「聖女だと!?」
聖女は、宗教ギルドでも特別な存在であり、女性職員の中でも、選ばれた者しかなることができず、もしも仮に、宗教ギルドが聖女と認めた者以外が聖女と名乗れば、その名乗った聖女およびその宗教には、厳しい罰則が科せられる。よほどの馬鹿とかでなければ、聖女を名乗ったり、名乗らせたりはしないだろう。
「一応確認だが、本当にその者は、聖女だったのか?」
「それは、審査のときに宗教ギルド職員証によって確認がとれていますわ」
「そ、そうか。ならば良い」
「それよりも、こちらに謁見用のお洋服を準備しましたので、急いで着替えてくださいまし」
「ああ」
急いで謁見用の服に着替えて、謁見の間へと向かった。
使者達が来る前に謁見の間に入り、玉座に座って、入室して来るまでの間、待機する。
そして、私が玉座に座り数分が経過すると、使者達が王城内に入ったという報告がくる。
そして、使者達が謁見の間の扉の前へと止まる。因みにだが、謁見の間の扉の前には、両側にライフル銃などの装備を銃器を装備している王宮警察官が配備されている。そして、謁見の間には、さらに同じような王宮警察官が両壁側に一列に隙間無く、配備されている。初見ならば間違いなく目を見張るものだろう。
「ランス教国の使者の方々が入室します」
その声とともに、謁見の間の両開きの正面扉が開かれ、中に入り、手前で止まった後、跪く。
「面をあげよ」
3人が頭を上げる。今更だが、聖女がいるのに護衛?が2人だけというのはおかしくないか?まあ、そんなことは、今はどうでもいい。
そして、宰相の昌信さんが3人に対して挨拶をする。
「ランス教国の使者の方々。遠路はるばる我が国にお越しくださり感謝いたします」
「とんでもございません。急に来たのはこちらですのに、我々を迎えてくださり、アルマー国王陛下には、感謝しております」
そう答えたのは、聖女だった。
「其方……すまんが、まだ名前を聞いてないから名前を教えてはもらえんか?」
「失礼致しました。それでは紹介をさせていただきます。まず、私の右にいるのは、大司教のエリザベート・コレットと、更に奥にいるのが、同じく大司教のキャメロン・モーガン。そして私が聖女のエイル・アレーネと申します」
聖女の名前を聞いて驚く。何故ならその名前は、神級魔術師の中で数少ない死者の完全なる蘇生が可能と言われる、回復系の魔術師の中でもトップの『治癒の魔術師』の名前であり、攻撃系トップの神級魔術師の『魔剣の魔術師』と呼ばれる私と同レベルの存在である。つまり、この場には、攻撃と回復の神級魔術師のトップがこの場にいることになる。
「聖女殿。もしかしてだが、其方は『治癒の魔術師』か?」
「その通りです。そういう陛下は『魔剣の魔術師』でしたね」
「噂には聞いてたが、まさか本当にランス教国の聖女が『治癒の魔術師』だったとは……」
すると、隣にいた昌信が「ゴホン!」と咳払いをする。
「話がそれてしまったな。此度は、どのような件で我が国に?」
「それに関しましては、キャメロンが説明致します」
「はい。この度、アルマー王国にご訪問させていただいたのは、アルマー王国にて、ランス教を国教としていただきたいのです」
やはりか。
「して?仮にランス教を我が国の国教とした際のこちらの利点は何か教えてもらえるか?」
「ランス教を国教としていただけましたら、我が国は、アルマー王国に何かあった際には、保護対象として聖騎士を派遣いたしますし、教会を建設していただけましたら、聖騎士を駐在させ、この国の治安維持に協力致します」
悩むまでもないな。
「ありがたい申し出だが、我が国が攻められる事態となったとしても、我が国は、西方同盟加盟国であり、同盟国の援軍もあるし、そもそも我が国には、他国を容易に全滅できる兵力が既に存在しているどころか、他国に派遣できるほどには、十分に戦力はある。そして、其方らもこの城までの道中で見たと思うが、我が国には、様々な治安維持組織が存在しているうえに、一人ひとりの戦力は、一般的な冒険者は、軽く制圧できる実力がある」
すると、今度は今まで一言も喋らずに、静観をしていたエリザベートが、私にひとつの質問をする。
「陛下は、神を信じておられないのですか?」
この質問に対しての答えは、私の中では、決まっている。
「私ほど神を信じている者は少ないと思うぞ。ただ、ランス教を国教にする意味が私にはない」
「ランス教は、唯一神であらせらるランス様を信仰しています。神を信仰しているのであれば、問題ないのでは?」
「君達は、神がそのランス神ただひとりだと思っているのかい?だったら、他の神はいないのか?」
「ランス様は、数多いる神々の最高神様なのです。そのランス様を祀ることによって、我々は、この世界を生きることができるのです!」
私の質問に答えたのは、キャメロンだった。随分と信仰心があるようだな。
「この国では、既に宗教法という法律によって、国教を設置を禁止する代わりに、宗教の自由を認めている。つまり、この国では、どのような宗教や神も認めるということだ。ただし、人に危害を加えるようなものだったり、国などに害がある宗教に関しては、禁止にしているがな」
「では陛下にとって、神とはどのような存在なのですか?」
少し悩んだ末、答える。
「そうだな。あの神は、基本的に忙しい神だからな。特別な能力だったりがあるだけで、思考回路なんかは、意外と我々人類と変わることのない存在だと思うぞ」
「どうやら陛下は、邪悪な神によって洗脳されているようですな。ですが、すぐにでも浄化してもらいますので安心しt」
奴が言い終わる前に指を鳴らした直後に、隠れていた「暗黒群」によって、地面に押さえつけられた後、そのツルピカのハゲ頭に銃(グロック17)を4人で突きつけるのと同時に、両壁側にいた、王宮警察部隊もライフルを一斉に構える。
「さっきからいい加減にしろよ。お前が何の神を信仰しようと、私がとやかく言うことはしない。だが!あの神のことを侮辱するような発言は許さん!それと、お前達よりも神を信仰しているのは確かだ。これならば分かりやすいだろ?」
玉座から立ち上がり、近づいた私は、奴の近くまで行き【ストレージ】から宗教ギルドのギルドカードを取り出す。
「そ、そんな……」
「改めて名乗ろう。私は、宗教ギルド本部所属枢機卿級宗教ギルド職員の望月春人だ」
ランス教は、宗教ギルド登録のSランク宗教に指定されているものの、基本的に宗教ギルド本部の管理下にあるため、本部所属の職員の階級よりも下の場合がある。例えば、同じ枢機卿だとしても、本部の枢機卿はそのままだが、宗教の枢機卿は、枢機卿の良くて一つ下の身分になる。まあ、これはあくまでも、ランス教の例だが。
つまりこのハゲは、本社の上層部の人間だと知らないで、その人の前で、会長を侮辱をするようなものである。
因みにだが、聖女はどの宗教ランクだったとしても、本部階級の権限は、変わることはなく、基本的に聖女は、本部の大司教から枢機卿と同程度の権限を持っている。その聖女の選ばれ方は、特別なものであり、現職の枢機卿全員から認められた後に、本部の総帥……つまり、宗教ギルド本部所属教皇級ギルド職員であり、この位を持つ人物は、この世界に1人だけであり、神級魔術師と同等の権限を持つ存在である。枢機卿級の全員から認められたとしても、この教皇級に認められなければ、聖女とは認められない。だが、その枢機卿級もかなり高位であることには間違いなく、およそ1億人の宗教ギルド本部の所属の聖職者の中で選ばれる枢機卿の数は、たったの7人(現在は5人しかおらず、2席分空席状態である)だけである。
「宗教ギルド本部所属の枢機卿様だとは知らず、大変申し訳ありませんでした!!」
「お前は、話が終わるまで、貴賓室にて待機していろ。おい、コイツを貴賓室まで案内し、見張りを付けろ」
「は」
キャメロンを貴賓室まで連れて行ってもらってから、話を続ける。
「アルマー国王陛下。この度は、私の配下が申し訳ありませんでした」
少しだけ補足すると、何故この聖女が、宗教ギルドでは同等の権力を持っているのにも関わらず、私よりも下の扱いになっているのかというと、私は、枢機卿級の中でも上位に君臨できるのは、私がスターズの最高幹部の一柱であることと、神級魔術師であることが関係している。では、何故スターズが宗教ギルドに、関係するのかというと、宗教ギルドの初代総帥は、スターズの黒鉄(私の師匠)に助けられた。その際にあまりの神々しさから思わず、当時でも珍しい『鑑定眼』で鑑定をし、その人物が神の称号を持つことを知る。更に、その彼が束ねるスターズもまた、人間からしたら上位種が多く、そのため、スターズと宗教ギルドは、現在でも協力関係にあり、宗教ギルドの上層部は、この事実を隠してはいるが、スターズの者であれば、同じ階級でも、優遇できるようにそれとなく取り計っている。そのため、他の枢機卿に比べて私の権限は高く、聖女などの高位の存在ならば、私がどれほどの立場なのかということを知っているため、このような感じになっているのだ。
「君達が謝罪する必要はない」
だが、少しため息が聞こえ、隣の方を見ると、昌信がやってしまいましたね……と言わんばかりの顔をしていた。
「あの、陛下。少しよろしいでしょうか?」
そう尋ねたのは、エリザベートだった。
「何だ?」
「先程、陛下は神のことをあの神とおっしゃりました。それはつまり、陛下は神と会ったことがおありだということですよね?」
私は、彼女らに気付かれないように、この城の敷地内を【クロノスロック】で、彼女達2人以外の時間を止める。これ以上他の奴等に聞かれるのはまずい。
「正直、私は神が本当にいるのか分からないんです。だから、もしいるのであれば、その神のことを知りたいのです!」
その言葉を聞いた私は、覚悟を決めて話すことにした。
「ああ。君の言う通り、私は神と会ったことがあるし、現在でもたまにだが、会ったり、話したりしている。どうせ、この光景も観ていると思う」
そんな冗談混じりなことを言った次の瞬間、この静止した空間内に、別な高位の存在の気配が現れた。まさか、本当に観ているとは……。
「どうやら、君のその疑問は、早くに片付きそうだ」
「それはどういう……」
次の瞬間、玉座の近くの上から金色に輝く空間が出現し、その空間の裂け目の中から神々しい姿でエレナント様が現れた。
「お久しぶりですね。春人さん」
「お久しぶりです。エレナント様」
黄金色の威圧感を纏ったエレナント様が地上へと降りて来たのだった。
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