138話 死霊術師(ネクロマンサー)
【ゲート】で、フェイラーン王国に着いた私達は、アンデッドドラゴンのいるところへと向かった。
アンデッドドラゴンは、フェイラーン王国の西側の森の開けた場所を住処にしているようだ。
その住処へと向かう。道中、アンデッド化した魔物が複数現れたが、そこら辺は、特に問題なく進むことができた。
そして私達は、例のアンデッドドラゴンの住処へとやって来た。
「とりあえず、あのアンデッドドラゴンを拘束するか」
これぐらいのレベルのアンデッドならば、あれで拘束できるか。
「【ホーリーチェーン】」
アンデッドドラゴンに光の鎖が絡まり、アンデッドドラゴンは、動けなくなったが一応ダメージを与えておくか。
「【ホーリーブレイズ】」
小さな【ホーリーブレイズ】は、鎖の隙間から地面に深く刺さり、より強固に固定し、普通の剣サイズの【ホーリーブレイズ】は、アンデッドドラゴンの身体に刺さる。
「……ふむ。やはりか」
「何がやはりなのですか?」
シャーリーさんが、そのように私に聞く。だが、先に私の質問に答えてもらおう。
「シャーリーさん」
「はい?」
「この付近の村や町の被害状況や冒険者の大体の失踪数を教えて下さい」
「えーと、確かこの付近の村は、全滅しており、襲われた村には、家畜を含めてすべての生物が消失しました。恐らくは、あのアンデッドドラゴンに骨すらも食べられてしまったのではないかと思います。また、この辺りで失踪してる冒険者の数ですが、現在ギルドで把握しているのは、37名ですね。いずれも、依頼遂行中に行方不明になっています」
「シャーリーさん。これから先は、貴方を護りながら戦うことが難しくなるかもしれません」
「それはどういう……」
シャーリーさんが言い終わる前にみんなに指示を出す。
「アイリスと信女とトワは、シャーリーさんをアンデッドから護れ」
「分かったわ」
「分かりました」
「承知しました」
「そして、エリアとテレスとトリスは、アンデッドどもをこちら側に近づけさせるな」
「「「(はい)分かりました」」」
次に、一緒に来ていた、ビエラとコハクとヤト&ユカリに指示を出す。
「ビエラとコハクとヤト&ユカリは、エリア達3人の援護にまわってくれ」
「お任せください」
「御意」
「任せてちょうだい」
「承知しました」
それぞれが返答すると、それぞれ本来の姿になり、エリア達の前に出る。
「さて。アンデッドドラゴンは、この通り拘束した。いい加減に隠れてないで出てきたらどうだ?」
すると、木陰から亜神級のローブを纏った男が出てきた。
「なぜ、分かった?」
「簡単なことだ。まず、普通のアンデッドドラゴンは、その状態から完全に動けなくなるか、身体が消滅でもしない限り、暴れ続ける。そして何より、基本的にアンデッドはまず、住処なんて持たない。それこそ、アンデッドキングやヴァンパイアなどの最上位クラスのアンデッドでもない限りな」
「なるほど。だが、それだけでは、俺……人間が操っているとはわからないんじゃねぇか?」
「死霊術師がいると確信したのは、ここに来る道中で人間のアンデッドもいたことと、シャーリーさんに聞いた話と合致するものがあったからこそだな」
「人間のアンデットなんていましたの?」
テレスが私にそう聞く。
「君達に気付かれないように、先に処分しておいたのさ。ところで聞きたいことがあるのだが、良いか?」
「なんだ?」
「お前、何人殺した?」
こいつからは、普通ならばありえない程の死の気配を感じる。十数人なんてものじゃない!これだけの気配は、百から千人以上殺していなければ感じることができないはずのものである。
「それがなんの関係があるんだ?」
「お前からは、死の気配が感じ過ぎる。それは、千人以上殺していなければ無理なものだ。お前は、なぜこのようなことをしているんだ?」
これだけのアンデッドを生み出しているんだ。何かしらの思惑があってやっているはずだ。
「俺は、死霊術師として、史上初めての神級魔術師になって、俺を散々コケにしてきた奴等を見返して、この俺、ケイオス・クセルの名を世に知らしめてやる為だ!!」
「そんなことの為に、無関係な者達を殺したと言うのか!?」
「そんなことの為……だと?ふざけるな!!お前に俺の気持ちが分かるものか!」
「お前の気持ちなんて知るわけないというか知りたいとも思わない!だが、これだけは、はっきり言おう。お前のやり方は、間違っている!」
「ならば、お前らを殺して、俺の兵士の一部にしてやろう」
その瞬間、私は限界を迎えそうになった。そして、ドスの効いた声で話してしまう。
「シャーリーさん」
「は、はい!」
「あの者をギルドとしては、どうしたい?生け取りにしたいか?」
「冒険者ギルドとしては、できるならば、生け取りにしたいですが、もしも逃げられて、被害がこれ以上大きくなるのであれば、この場で殺してしまうのもありではないかと思います」
ならば、さっきから隠れている奴等に拘束させるか。
「五星使徒第2席シリウスの名において命ずる!敵亜神級魔術師の死霊術師、ケイオス・クセルを拘束せよ!!」
その瞬間、機動総隊と軽装備の捜査官が一斉に奴を取り囲み、銃口を向ける。
そして、1人の指揮官らしきものとフル装備の隊員2人がこちらに向かって来た。
「お初にお目にかかります。シリウス様」
身分証を取り出し、私に見せながら、自己紹介をする。
「私は、フェイラーン王国支部特任捜査課課長補佐のリンクス中佐です」
そして、右後ろにいた奴が自己紹介をする。
「私は、フェイラーン王国支部機動総隊総隊長のメドルサム少佐です」
次に、その隣に立っている奴が自己紹介をする。
「私は、フェイラーン王国支部機動衛生総隊隊長のエァホォーレン少佐です」
なんで、こんな時に自己紹介なんてしているんだ。まあ、それを黙って聞いていた私も私なんだがな……。
すると、無視されていることに腹を立てたのか、私達に向かって怒鳴りつける。
「おい!俺を無視してんじゃねぇよ!!」
「別にお前のことを無視していたわけではない」
「俺のことをことをここまでコケにするとは、いい度胸じゃねぇか。こっちにはな、アンデッドドラゴン以外にも、とっておきがいるんだよ!出て来い!俺の最高傑作よ!!」
その男がそう叫んだ瞬間。男の目の前に魔法陣が出現した。
「まずい!その男を殺して魔法陣に流れる魔力を絶て!!」
そう叫んだ時には既に遅かった。魔法陣から出てきたのは、あの男が言っていた通り、アンデッドドラゴン以上の脅威になり得る者だった。
「あの紋章と武器……間違いない」
「春人殿、あの御仁を知っているのですか?」
「直接は会ったことはないから、詳しいことは知らないが、間違いないと言えることはある。あれは……双剣の勇者だ」
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