134話 ユークトとの出会いとドランクについて
早速私はギルドに着くと、ギルドの受付に向かった。
「そうこそ冒険者ギルドへ。ご依頼の方でしょうか?」
私は受付嬢に冒険者カードを見せる。
「え、Aランクの方がどのようなご用件でしょうか?当ギルドには生憎、Aランクの方に向けた依頼は、現在ございません」
「依頼を受けに来たわけではない。私がここに来たのは、ルッカ村のコラーダ農園からこれから届くであろう、ビッグモウルの調査依頼を到着次第、掲示せずに処分してほしい」
「か、かしこまりまた」
ひとまず、ギルド内に併設されている酒場で食べ物を購入した後、空いているテーブルの方で寛ぐ。購入した串焼きを食べていると、ギルドに1人の男が入って来た。見た目は普通の青年だが、かなりの強者だということは、歩き方を見てすぐに分かった。だが、私が違和感を持ったのは、彼から感じる気配が、この世界の人間とは違った気配だったことにもしかしてと思い、このギルド周辺に認識阻害と防護の効果のある結界を張った。それと同時に、私と彼以外の人間を【クロノスロック】で時を止める。
彼が受付嬢に声をかけるも返事が返って来ないことに不思議に思い、周りを見渡す。だが、他の冒険者も時が止まっているため、ピクリとも動かない。その時、私も他のと同様に止まったフリをしていた。再び受付嬢の方に振り返ったタイミングで、私は彼に瞬時に近づいて声をかける。
「異世界人というのは貴方ですね?」
私の方へ振り返ろうとするのを止める。
「おっと、そのまま受付の方を見たままにして下さい。決してこちら方を見ないように」
彼はコクリと頷く。
「それで結構。今から私が尋ねる質問のみに答えて下さい」
コクリと頷く。
「貴方は、ここで何をしていましたか?」
「冒険者ギルドでの依頼を受けようとしていたところだよ」
「次に、貴方はこの世界とは異なる者で間違いありませんね?」
「間違いないね」
「では次に、貴方のこの世界に来た目的を教えて下さい」
「僕がこの世界に来た目的は、君に言っても分からないかもしれないけれども、ドランクの王を見つけ出すことだよ」
こいつ今、ドランクの王と言ったか?つまりこいつは、私達よりもドランクについて詳しいはず……もっとこいつから情報がほしいところだな。
「何故、ドランクのことを知っているのですか?」
「なんだか声の雰囲気が変わったね」
「いいから質問に答えなさい」
「別に素で話して大丈夫だよ。それよりも、なんでドランクについて知りたいんだったよね。僕も話せることと話せないことがあるけど、良いよね?」
「仕方ない。ここは妥協することにしよう」
「うん。まずは、世界について話そうか。世界というのは様々存在していてね。そして、その世界には特徴があったりする。そしてそんな世界を守るために世界と次元の間には強弱はあれども、異物がその世界に入らないようにする為の結界が存在している。もちろんこの世界にもね。それよりも、ずっと立ちながら話すのも疲れるから座りながら話しても良いかい?」
それぐらいならば良いか。
「分かった。座っても良いが、妙なことだけはするなよ。妙な動きをした瞬間にこれをお前の身体に撃ち込む。世界を渡り歩く存在ならば当然、これの存在だって知っているだろ?」
「僕は、君のいう敵ではないから安心してほしいんだけども、簡単には信じてはもらえなさそうだけどね」
「当たり前だ。座るのならば、さっさと座れ」
そう言って、彼を座らせる。
「それで、さっきの続きだけどね。世界の結界というのは、本来異物が世界に入らないようにする為にあるんだけども、それに綻びが生じてしまうことによって異物が世界に入ってしまうんだよ」
「つまり、お前が言いたいのは、その異物がドランクだと?」
「まあ、そういうことだね。それにしても、なんで君は、世界についてそんなにも詳しいんだい?」
「私は、この世界をドランクから守るためのスターズという組織に所属する最高幹部の一柱だからな。お前が最近この世界に来た時に銃を持った奴らが接触して来たことがあったはずだ」
「確かにそんなこともあったね」
「あれは、スターズの初動部隊だ。次元に歪みなんかが発生した際に迅速に現場に急行し、民間人に発見される前に対処するというのが主な任務内容だな」
「その初動部隊がなんで僕に銃を向けて来たんだい?」
「君が次元の歪みから現れたところに、初動部隊が駆けつけたというわけだ。そして、君はその初動部隊から逃げたことにより、現在スターズによって指名手配されている」
「は!?なんで僕が指名手配されてるんだよ!?」
「だから、それはさっき説明しただろうが」
お前が逃げなければ指名手配なんてされなかったんだよ。まあ、急に銃を向けられたら逃げたくなる気持ちも普通の人間ならば分からなくでもないがな。
「君があの場から逃走しなければ、指名手配されることもなかったんだよ。それで、君の目的は何なんだい?」
「さっきも言ったけれども、ドランクの王を見つけ出すことだよ」
「ドランクの王……だと」
こいつはいったい、ドランクについてどこまで知っているんだろうか?
「ドランクの王なんて聞いたことがないぞ。なんで君は、そんなことまで知っているんだ」
「悪いけど、これ以上のことはまだ、話すことはできないな」
そう言って彼は、席から立ち上がり、ギルドの出入り口扉に近づいて開けようとする瞬間に、私は、彼を引き止めて最後に質問をする。
「最後に1つだけ良いか?」
「なんだい?」
「君は『次元の旅人』で間違いないか?」
「そうだね。僕は『次元の旅人』で間違いないよ。それじゃあ、僕は行くね」
「あ、ちょっと待ってくれ!」
「今度は何?」
【ストレージ】から一枚の紙を取り出す。
「君は、暫くこの世界にいるんだろ?」
「そうだね。暫くはこの世界にいる予定だよ」
「ならば、この申請書にサインをしてくれ。そうすれば、この世界でスターズに追われる心配もないし、指名手配も取り消すことができる。もちろん、君がこの世界で何かしらの犯罪行為等をしなければの話だけどな」
「そんなことしないよ」
彼は私が渡したペンでサインをする。
「確かに。それじゃあ申請は私の方でしておくよ」
「よろしく。それじゃあ僕は、そろそろ行かなくちゃならないから」
彼はそう言って、ギルドから出て行った。
「私も行かなくちゃな」
私もギルドから出る。そしてギルドから出た後に【クロノスロック】を解除する。
その解除した後のギルド内では、私とユークト(サインした時に書かれていた名前から分かった)が突如いなくなったことが、暫くの間、噂になっていたという。
そして私は、【ゲート】を使い、ビッグモウルが出るという畑の場所まで来ていた。
「さてと、駆除を始めるとするか。まずは、ビッグモウルを見つけ出すところからだな。【サーチ】」
【サーチ】で、畑の土中にいるビッグモウルの数などを調べる。
「数は全部で58匹か。……この数は流石に異常過ぎるな。そもそもビッグモウルは、もっと南側に生息している魔物のはずだ。なのになんでそんな魔物が北側、しかもこんな大量の群れでこの畑にいるんだ?とりあえず、コイツらを駆除するとするか」
土中にいるビッグモウルすべてを一撃で倒す為に土中に向かって、高密度の魔力の波のようなものを流し込んだ。
そして再び【サーチ】を使うと、ビッグモウルの生体反応はなくなっていた。上手くいったようだな。
ビッグモウルの死体を【ゲート】を使って、土中からすべて回収した。
「一応、研究室で調べてみるか。調べたら異常発生の原因が少しでも分かるかもしれないからな。後は、畑に害があるのと悪意がある者が入って来れないように結界でも張っておくか」
結界を張り、害が出そうな存在が中に入れないようにした。
「これで一先ずは大丈夫だな。さてと、戻るとするか」
ピニャの家へと戻った。
「春人さん。お帰りなさい」
「ただいま」
「それで春人さん。ビッグモウルの件はどうなりましたか?」
「無事に駆除完了したよ。一応、結界も張っておいたから、畑に侵入する泥棒対策にもなると思うよ」
「わざわざありがとうございます。今後は、泥棒の心配をしないで済みそうです」
「あくまでも対策の一環だし、その頼まれた畑にしか張っていないから、他のところは注意が必要なことに変わりはないからな」
「はい、分かりました」
さてと、そろそろ時間だし、城に帰らなくちゃな。
「アイリス、トリス。そろそろ時間だし、城の方に帰ろうか」
「もうそんな時間?」
「本当に時間みたいですね。もう夕方ですか」
「それじゃあ、そろそろ帰ろうか。ピニャ、今後は会う機会が増えるかもしれないから、その時はまたよろしくな。それに、子ども達も」
「はい。いつでも歓迎しますよ」
「ばいばい兄ちゃん!」
「じゃあね!」
「さようなら」
【ゲート】を城に開く。
「それじゃあ、またいつか」
「またね、叔母さん」
「元気でいてね」
【ゲート】を潜り、城へと帰った。これで、一応全員の親への婚約の挨拶は済んだな。
さて、明日は何をしようか。
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