表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生術師  作者: 青山春彦
第14章 日常?3
133/176

133話 アイリスとトリスの里帰りと再会

 今日は、アイリスとトリス、そして私の3人で、2人の叔母の家へと向かっている。2人は両親の死後、2人の叔母が2人を引き取って、2人が家を出るまでは叔母の家で叔母の子ども達と一緒に暮らしていたという。

 その道中で、2人からその人達の話を聞いたりした。


「叔母さんの家は、広大な農地を持つ農家なんです。様々な種類の野菜や果物なんかを育てているんです。それに今は、私達2人が出て行ったのですが、5人の子供が残っていて、以前は私とお姉ちゃんも面倒を見ていたのですが、今は叔母さんと叔父さんの2人で面倒を見ている状態なんです」

「そうそう。あの子達ってまだ10歳にもならない子達だから色々とやらかすのよ。だから叔母さん達が畑仕事でいない間は、あたし達で面倒を見てたのよ。あ、でも、叔母さんの子供で1番の年長者のマリヤって子は、あたし達に協力して、下の子達の面倒を見てたっけな」

「そうなんだな。でも、本当にこの辺りにあるのか?」


 辺り一帯草原しか見えないので、本当にこの辺りに2人の叔母さんの家があるのか心配になり、2人に聞いてみる。


「ええ。というか、既に叔母さん達の家の敷地内に入っているんですよ」

「そうだったのか!広過ぎるだろ!?」

「まあ、初めて来た人なら驚くのも分かるわ。ちなみに敷地の区切りは、さっき通って来る時にあった木の柵よ」


 自分の記憶を思い返す。


「あの柵か!!いや、あんな柵だと分かりにくいわ!元々何かに使われていたかと思うぐらいに壊れてたぞあれ!」

「この辺りは、牛の放牧地ね。時々牛をこの辺りに放したりしてるのよ」

「牛も育ててるのかよ!畜産もやっているとか、夫婦2人だけでやるのって凄すぎないか?」

「子ども達も時々手伝ってるわよ」

「だとしてもだろ。まあ、この話はこれぐらいで良いか。それよりも君達の叔母さんと叔父さんってどういう人なんだ?」

「そうですね。叔母さんは、優しくて、子どもの面倒見が良くて、強い人ですね。叔父さんは──」

「ちょっと待った」

「なんですか?」

「叔母さんが強いってどういうこと?」


 今のこの子達からしたら普通の人は、強いとは感じないはずだ。なのに、その状態で強いと言わせるということは、それ程の強さを持っているのだろう。


「え?ああ。叔母さんは、農家の子供であると同時に1年間だけ冒険者だった過去を持っています。ランクは、Cランクだったそうです」


 農業が本職でありながら、副職である冒険者をたった1年だけで、Cランクまで行けたってことは、当時はかなりの実力者だったということだろう。


「話を戻しますね。叔父さんは、優しくて、叔母さんや子供のことを大切にして、いざという時には頼りになって、口調は、基本的に誰であろうともタメ口ですが、それでも十分に尊敬に値する人だと思います」

「なるほどな。アイリスもトリスと同じ感じにその2人のことを思っているのか?」

「そうね。こうして叔母さん達の話を聞いてたら早く会いたくなってきたわ。もうそろそろ家が見えてくるはずよ。ほら!」


 少し坂を下ると、一軒の二階建ての家が見えた。坂を下り、家に近づくと、1人の男性が(くわ)で畑を(たがや)していた。

 そんな男性を見るや、アイリスとトリスがその男性に近づきながら大声で声をかける。


「「叔父さーん!!ただいま──!!」」


 その声に気付いた男性は、作業をやめて、アイリスとトリスに声をかけた。


「よく帰って来たな!!オーイ!アイリスとトリスが帰って来たぞ!!」


 畑に着き、2人の叔父さんと思われる人物がそう叫ぶと、家の中から子ども達がぞろぞろと出て来た。


「お帰り!!アイリス姉ちゃん!トリス姉ちゃん!」

「お帰り、アイリス姉、トリス姉」

「アイリスお姉ちゃん、トリスお姉ちゃんお帰り」


 子ども達がその後も迎えの挨拶をすると、家の中からひとりの女性が出て来た。


「お帰り。アイリス、トリス」

「「ただいま。叔母さん」」

「それにしても、まさか手紙で読んでまさかとは思っていたけども、本当に春人さんだったとはね。それにあの頃と姿も変わってないようですし」

「それはこっちのセリフだよ。まさかピニャ、君が2人の叔母だったとはな。まったく、世間は広いようで狭いな」

「え、2人って知り合いなの?」

「まあな。あれからどのぐらい経つっけな?」

「あれから17年です」

「よく覚えてたな」

「春人さんのことを忘れた日なんてありませんよ」

「なんで、2人は知り合いなんですか?」

「それはな、少し昔の話なんだが───」


 少しだけ、どういう経緯で知り合ったのかを話すことにした。



 17年前───


「アリス。久しぶりに休みが取れたし、何処かに行かないか?」

「ですが、急な仕事が入って来るかも知れませんからそう遠くには行けないですよ。それに春人さんは」

「そこら辺は心配しなくても良い。元帥と言っても、仕事はほぼ事務仕事で、それらは昨日の内にとっくに終わらせたし、それにアリスの勤務記録を見たが、最近働き過ぎだし、有給がかなり余っているんだぞ。まあ、私もそうなんだが……まあ、そういうのもあるから、有給の消化をしなくちゃならないから、5日間は仕事をしなくても良い。というか仕事を休めという感じだな」

「そうなんですね。そう言われてみれば、有給休暇をあまり使ったことがなかったですね」

「正直、私もあまり有給を取ったことがなかったからな。ところでアリスは、何処か行きたいところがあるか?」

「そうですね……私は特にありませんが春人さんは、行きたいところがあったりしないのですか?」

「そうだな。私は、元の世界と似たような文化を持つというイシュタリカ神王国にも興味があるし、新鮮な海産物などで有名なアース王国にも興味がある。そして、私がこの2カ国のうち、今最も行きたいのは、アース王国だな。アリスはそれでも良いかな?」

「ええ、私は別に構いませんよ」

「なら行こうか。【テレポート】」


 【テレポート】を使い、アース王国の国境付近まで向かった。

 そうして着くと、辺りは草原だった。地図的には確かこの道を真っ直ぐに進んで行くと王都に行けるはず。


「アリス。ここから王都まで歩いて向かうけど良いかな?」

「時間はあるんですから問題ありませんよ」

「なら行こうか」


 王都まで真っ直ぐに進んで行く。道中に白夜達も誘えば良かったなどと話していたが、残念ながらあいつらは3人共、特別任務で1ヶ月間、ヴァース帝国に潜入捜査を行っている為、暫く本部に帰って来ることはない。理由は、最近ヴァース帝国で精神世界から上位デーモンを召喚して、契約しようと計画しているという情報を入手したからだ。そしてそれは、またベルンガ王国への侵攻の準備なのではないかと考えた五星使徒(ペンタグラム)は、3人を潜入させることにした。何かあっても3人ならば即座に対応できると判断されたからである。まあ、そんな訳であいつらを誘うことはできなかったという訳だ。

 そうして話しながら歩くこと2時間後、王都の検問所へと着いた。

 この時はまだ、冒険者でも神級魔術師でもなかった私は、身分証として宗教ギルドのギルドカード(枢機卿級)を提示して、アリスも同じく宗教ギルドのギルドカード(大司教級)を提示すると、検問所の警備兵は声は出さないものの、驚きの表情を見せながら中へと通してくれた。

 中へ入り、とりあえず今日泊まる宿を探すことにした。せっかくの休みで2人きりだから少しは贅沢しても良いかと思い、王都の中でも高級宿で有名な「ヴァルナー」に4泊5日で宿泊することにした。


「いらっしゃいませ。ようこそ「ヴァルナー」へ。失礼ながらこちらでは、一定以上の身分の者かその紹介でなければ宿泊できない決まりとなっております。その為、失礼ながら、お客様の身分証もしくは、身分を証明できる物をご提示下さい」


 検問所同様に、宗教ギルドのギルドカードを見せる。


「はい、確認しました。宗教ギルドの枢機卿級と大司教級の宗教ギルド職員ですね。問題なく宿泊が可能です」


 この宿泊に関する身分制について受付に聞いてみる。


「さっきから気になっていたのだが、何故ここでは身分によって宿泊ができるかどうかを決めているんだ?」

「この身分による宿泊制度には理由がございます。まず1つ目は、ここには貴族や場合によっては他国の王族の方が宿泊される場合がございます。もしも宿泊に身分制度がなければ、何か仕掛けていたりする場合がございます。一応警備の者もおりますが、一定以上の身分の方であれば、そういったことを考えられると判断し、国の方でもそのような対応となっております。2つ目は、これはあまりよろしくないのですが……やはり貴族の方の中には平民嫌いの方が一定数おります。そういった貴族は、私共も正直苦手なのですが、もし宿泊を断られたりすると、当宿の信用問題に発展しかねないのです。以上の2つの理由から当宿は、宿泊における身分制度を導入しております。決して単なる身分差別で行っている訳ではございません」


 なるほどな。確かにその理由ならば納得がいくな。


「そうか。急に変なことを聞いてすまなかったな」

「いえいえ。そのようなことを聞かれるお客様は、初めてですから私もついつい話してしまいました。それでその……今話したことは誰にも言わないでもらえると助かるのですが……」

「もちろんだとも。私はどちらかというとそういった平民嫌いの貴族は好きではないからな」

「そうなんですね。それでは、こちらがお客様のお部屋の鍵となります。外出時には受付にお預け下さい。それではごゆっくりどうぞ」


 私達は、あらかじめ【ストレージ】から取り出しておいたダミーの旅行用のバッグを持ち部屋へと向かった。

 部屋に着くと、やはり王都の中でも最高級と言われる宿なだけあって、部屋がかなり豪華な作りとなっていた。

 とりあえず荷物を置き、部屋を一通り見た後に私とアリスは、2人でソファーに並んで座る。


「こうして仕事を忘れてゆっくりとするのも悪くないもんだな」

「そうですね。こうしてゆっくりするのも悪くないですね。ですが、あの子達には悪いことをしてしまいましたね」

「確かにそうかもな。だが、あいつらだって仕事があるし、それにもう私達がいなくても十分にやっていける歳だ。あいつらが産まれてからこうやって2人で何処かに出かけなのは、新婚旅行ぐらいだぞ。だからたまには、こうして仕事を忘れて、2人で何処かに旅行に行くのもありなんじゃないかと思うぞ?」

「たまには、息抜きにこうして春人さんと2人で旅行をするのも良いですね。それで、今日はどうしますか?」

「そうだな。今日は着いたばかりだし、宿でゆっくり休んで、明日アース王国を観光するとしようか」

「そうですね。そうしましょうか」


 そういう訳で、その日は宿で過ごして翌日観光することとなった。


 次の日───


 朝、目が覚めて隣を見ると、アリスはまだ眠っていた。昨日は、寝る前に激しくやり過ぎたせいで疲れているんだろうな。桜が産まれてからずっと、アリスと“夜戦”をしていなかったし、それに久々なのに激しくし過ぎて、体力が持たなかったのだろうな。その為、私とアリスは、両方とも服を着ていない状態だ。

 アリスを起こさないようにベッドから起きて服を着る。そして、スマホの時間を見ると、既に8時になっていた。

 そろそろ起きないと、レストランの朝食に間に合わないので、アリスを急いで起こす。


「アリス起きて!」


 少し大きな声で呼び、体を揺らしながら起こす。


「あ、春人さん。おはようございます」


 アリスが眠たそうな目を擦りながら起きる。


「どうかしたんですか?」

「そろそろレストランに行かないと朝食の時間に間に合わなくなる。だから急いで服を着てレストランに行くぞ」

「は、はい!」


 アリスは、急いで服を着る。そして着終えたら少し急いでレストランへと向かった。

 この宿のレストランは、バイキング形式だ。普段はあまり食べることの出来ない、新鮮な生魚料理(刺身等)や魚料理、が多く並んでいた。もちろん肉料理もあるし、果物もある。それにしてもパンの種類がこんなにも多く用意されているのは珍しいな。

 とりあえず、パンと刺身や肉料理そしてサラダを取り、テーブルに持って食べる。料理の味は、問題なく美味しかった。生魚に関しては寄生虫なんかが心配で一応確認したが、寄生虫はいなかった。ここのやつはどうやら安心して食べられる場所のようだな。まあ、貴族や王族も食べる可能性もあるのだから、食品管理を徹底しているのは当たり前か。


「どうかしたんですか?」


 考え込んでいた私に、アリスが顔を近づけながらそう問いかけてきた。


「いや、食品管理が徹底しているなと思ってな」

「まあ、どうせ春人さんのことですからそんなことだとは思いましたけど、休みの食事の時ぐらい、普通に食事をしたらどうですか?」

「それもそうだな。それで話は変わるが、今日の予定はどうする?一応私が立てた予定では、朝食を済ませた後に観光をしようかと思っているのだが」

「良いですね。昨日はあのまま宿にいましたしね。それに昨夜は、その……激しかったですから……」


 アリスは、喋りながら段々と顔を赤らめる。その表情から私までもが顔を赤らめてしまい、少しフリーズしてしまった。お互いに恥ずかしくなってしまい、それを紛らわせる為朝食を食べることに集中して、食事を済ませて部屋に戻った。


「必要な物は、持ったよね」

「持ちましたよ。春人さんの方はちゃんと持ちましたか?」

「財布なんかは、内ポケットに入れてあるし、銃はこの通り仕舞ってある。その他は【ストレージ】の中からすぐに取り出せるから心配いらない」

「なら、行きましょうか」


 鍵を受付に預けて、観光に出掛けた。

 最初は、王都を観光して、その後に【テレポート】を使ったり地方の方でも観光していると、盗賊の集団に襲われている、3人組の冒険者と思われるパーティを目撃してしまった。


「あれ、どう見ても襲われてるよな……」

「襲われてますね」

「助かるか?」

「助けましょう」

「今回は、民間人相手だ。銃は、決して使用するなよ」

「それは春人さんの方では?私は銃を使った戦闘はしませんよ」

「そ、そうだったな……」


 忘れてたなんて口が裂けても言えない……。


「盗賊は、できるだけ生け取りにするが、それが困難な相手でもあまり殺すなよ」

「分かってますよ」

「なら、行くぞ」


 一方、その襲われてる冒険者パーティは……


「なんなんですか貴方達は!!」

「俺らは泣く子も黙る「毒蛇」だ!死にたくなけりゃ、大人しく有り金全部出しな」


 冒険者パーティは、大人しく有り金を全部出す。


「これで本当に全部か?本当に全部出したか体の方も確かめないとなぁ」


 盗賊の男は、そう言いながら舌舐めずりをする。


「お前ら最初からそれが目的で!!」


 冒険者の男性がその盗賊に向かってそう叫ぶ。すると、女性冒険者も我慢の限界を迎えたようで、武器に手をかけようとした瞬間、一瞬日の光が薄くなり、全員が上を見上げる。すると、2人の男女がその冒険者パーティの前に現れた。


「大丈夫か?」

「あ、ああ」


 すると、盗賊の男がその男女(春人とアリス)に声を荒げながら言う。


「なんだテメェーら!!」

「そこの嬢ちゃんよぉ。こっちに来れば良いことしてやるぜぇ」

「黙りなさい。薄汚い貴方達なんか興味なんてありません」

「盗賊として、こんな若い冒険者パーティを襲った挙句に私の妻にまで手を出そうとするとは、いい度胸じゃねぇか!!あ゛あ゛ァ?」


 春人は【ストレージ】から刀を取り出す。そしてアリスは、魔力で作った鎖付きの武器を手に持つ。その大きさは、アリスには似合わなそうな武器だが、かなり強力な武器である。


「行くぞアリス」

「ええ。そっちの半分は春人さんに任せますね」

「じゃあ残りの半分は、アリスに任せるが殺すなよ?」

「そっちこそ殺さないで下さいね」

「ごちゃごちゃうるせぇ!お前ら「毒蛇」の力を見せてやれ!」


 盗賊は、2人に一斉に襲いかかったが、数秒で肩がついた。

 盗賊を縄でまとめて拘束する。


「助けてくださり、ありがとうございます」

「君達は、ここでいったい何をしていたんだ?」

「ギルドの依頼で、魔物討伐をしに来たんだ。そこをそこにいる盗賊に襲われて、そんな時にお前らが助けてくれたんだよ」

「あ、名乗るのが遅れましたね。私は、拳闘士のピニャ・コラーダです」

「俺は、一応このパーティのリーダーをしている剣士のフーガ・ノベールだ。そして、こっちにいるのが俺の妻のベル・ノベールだ。そしてピニャは、ベルの実の妹でもある」


 フーガに紹介されたベルが小さくお辞儀をする。


「私は、望月春人。宗教ギルド本部所属枢機卿級宗教ギルド職員だ。そしてこっちが私の妻であり、同じく宗教ギルド本部所属大司教級宗教ギルド職員の望月アリスだ」


 互いに挨拶をしていると、突然ベルが具合が悪そうに蹲った。


「おいどうしたベル!?」

「春人さん」

「分かってるよ。ちょっと失礼するよ」 


 私は、ベルと同じ目線になるように膝立ちで話しかける。


「今、どんな感じで気分が悪いか教えてくれるか?」

「いくら宗教ギルド職員でもここで病気の診察なんて出来ないんじゃないか?」

「心配いりませんよ、フーガさん。春人さんは、宮廷級の医師免許を取得している医師でもあります。ある程度の診察ならばこの場でも可能ですよ」


《シエラ》

《はい》

《ベルに対して、スキル『鑑定』を発動。尚『鑑定』は、精密検査で頼む》

《了。速やかに実行します》


「何処が苦しいまたは、どんな症状が今感じられるか教えてくれ」

「はい。下腹部が痛みがあって、なんだか吐き気もするし、あと、頭痛もして……」


 この症状ってもしかして……。


「もしかしてだけど、今みたいな症状って最近起こり始めたの?」

「そうですね。先週辺りからですね」

「もしかしてだけど、他にも腰に痛みが生じたり、最近、生理がきてなかったりしているんじゃないか?」

「なんでそんなことまで知ってるんですか!?」


 その話を聞いていたアリスは、なんとなく気付いたようだ。


「春人さんもしかしてそれって……!?」


 すると、シエラに頼んでいた鑑定が終了したようだ。


《『鑑定』が終了しました。鑑定結果は、現在マスターがご想像の通りです》

《そうか。助かった》


「原因を伝えるから心して聞いてくれ」

「そんなにまずいんですか!?」

「落ち着いて。今言うから。それにそんなに心配しなくても良いし、寧ろ君達には結果だと思うぞ」

「「「?」」」


 この3人は、妊娠経験がないから気付かないのだろうな。アリスは、3回経験しているからある程度は、予想がついていたんだろうな。


「診察の結果は……おめでたです」

「………」


 見事に黙り込んじゃったよ。


「それっていったい……」

「ベルのお腹の中にはフーガ、君達の子供が宿ってるよ」

「…………よっしゃぁぁぁ!!!やったなベル!」

「やっと子供を身籠ることが出来ましたね」

「もうひとつ朗報がある」

「なんだ?」

「そのお腹の中にいる子供は双子だ。まだ、性別ははっきりとは分からないが、産まれて来るのは同性の双子だろう」

「おい聞いたか!?双子だとよ!」

「こんなにも嬉しいことがあるなんて……」


 双子の妊娠を聞いたベルは、嬉し泣きをし、フーガはそのベルのお腹にそっと耳を近づけながら、聞こえるはずのないその双子に話しかける。


「うちに来てくれてありがとうな」


 その光景がなんだか微笑ましく見えているなか、ピニャが私の元へと近づいて尋ねる。


「どうして妊娠しているって分かったのですか?」

「まず、さっきベルが言っていた症状って全て妊娠中の女性に当てはまる症状なんだ。そして私の無属性魔法も使ったりして診察したら、双子を妊娠しているって分かったんだよ」

「なるほど。大変勉強になりました」

「あ、そうそう。ベル、君は今後激しい運動は控えるように。特に冒険者として活動していくのならば、なるべく戦闘行為はしないこと。そうしなければお腹の中の赤ちゃんに影響が出るし、下手をすると流産になってしまう可能性もある。それと、食事は栄養のあるものをしっかりと食べて、規則正しい生活を送ること。さっき激しい運動は、控えるようにとは言ったが、流石に動かなければ体力不足で出産時に大変になるから、軽い運動程度ならば問題ない。例えば、散歩だったり本当に体にそれほど負担のかからない筋トレならば問題ないよ」

「何から何までありがとな」


 確か【ストレージ】の中に妊娠中にするべき、または、した方が良いことなどが書かれている本があったはずだよな……そうして【ストレージ】から取り出したのは、ざっと300ページはある、辞書のような本だった。

 この本は、見た目こそあれだが、中身はそう大して難しいことは書いていない。なんせ、あの本は誰でも理解出来るように一つひとつイラスト付きで丁寧に説明してある。


「その本はあげるから、もし、分からなくなったらその本を見ると良い。大体のことは説明文とそれに関する絵が一緒に載っているから分かりやすいはずだ。存分に役立ててくれ」

「ああ。ありがとな」

「ありがとうございます」


 すると、ピニャも礼をする。


「春人さん。フーガとベル姉さんのためにここまでのことをしてくれて、ありがとうございます」

「気にするな。私は、医者として今できる最善のことをしただけだ。これから先、あの2人だけだと困ることもきっと出てくるだろう。そんな時には、君もあの2人の支えになってやってやれ」

「もちろんです。私は、これからも一緒にいる予定ですから」

「そうか。それじゃあ、私はそろそろ失礼するよ。アリス、行こうか」


 3人に後ろから手を振って見送られながら、王都から離れるのだった。


 17年後、現在───


「というのが、ピニャと出会った時の出来事だな。そして、アリスとの最後の旅行になった出来事でもあった」

「春人さんって、宗教ギルド職員だったんですか?」

「そうだぞ。あれ、言ってなかったか?」

「初耳です」

「そうか、それはすまんかったな。それにしてもまさか、あの時ベルが妊娠していた双子が、アイリスとトリスだったとはな。話しているうちに、ノベールという家名で思い出すことが出来たよ。そうか、君達が生まれてくる前に一度、君達に会っていたとはな……」


 なんともまあ、不思議なこともあるもんだな。だが、生まれてくる前に会っていた子どもと婚約を結ぶって、倫理観的にどうなんだ?これ……。


「あ、そうだ春人さん。少しそこで待っていてもらえますか?」

「別に構わないがどうしたんだ?」


 私が聞いている最中に家の中へと、走って入って行った。それから数秒でまた戻って来た。そしてその手には、あの時フーガ達に渡した本を持っていた。


「これ、ベル姉さんやフーガが使わなくなった後、私も拝読しましたが、とても子育ての参考になりました。これは、春人さんにお返しします」

「別に返さなくても良いんだぞ」

「私もこの年齢ですし、それに子供もこんなにもいます。それに、この本が必要なのは春人さん達でしょうからね」

「つまり、私達の婚約を認めてくれるのか?」

「最初から反対なんてするつもりなんてありませんでしたからね。それに2人からの手紙で春人さんのことは、知っていましたし、2人がどれほど春人さんに好意を持っているのかも知っていましたので」

「そ、それは言わないでって書いてたのに!」


 ピニャの発言に2人が顔を赤らめる。


「そうだ。ただ認めてもらうっていうのもあれだし、私に何かできることはないか?」

「そうですね……」

「なあ、兄ちゃんって強い?」


 ピニャに何かしてほしいことはないかと尋ねると、ピニャの子供の1人である、三男のドランがそう尋ねてきた。


「そうだな。私は、魔術師の中で最も強くて偉い神級魔術師の1人だし、武術もそこら辺の魔物なんて瞬殺くらいはできる」

「だったらさ、最近この辺に出るビッグモウルを倒してよ。そいつらが畑を荒らすんだよ」

「そうなのか?」


 ピニャに尋ねる。


「本当です。現在、冒険者ギルドに調査依頼と、そのまま倒せるのならば、倒した分だけの追加料金を支払うという依頼を出しました。ついこの間出したばかりなので、まだギルドに依頼書は到着していないはずです」

「そうか。ならばその依頼は私が無料で引き受けよう。だから私は今からギルドに行ってその依頼書は、回収もしくは破棄するように頼んでおくよ」

「よろしくお願いします」


 私はそう言って、ギルドに近い場所に【テレポート】を使って向かった。

『良かった』、『続きが気になる』などと思っていただけたなら、評価やブックマークをしてくださると、とても嬉しいです。投稿日時は土・日の予定ですが、ズレて投稿する場合があります。どうぞこれからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ