132話 婚約の挨拶(信女)
開国祭が終わった次の日、私はというと、執務室の机に山のように置かれている書類と戦っていた。
「いくらなんでもこの数は、多過ぎるだろ……」
「開国の手続きのほとんどは、お父様やヴァース皇帝陛下が行いましたが、それでもまだ必要な手続きはまだまだあるんですからね。私も手伝いますので、一緒に頑張りましょ」
「ありがとうな、エリア」
「春人さんを支えると言った以上、こうした仕事も手伝いますから」
「助かるけど、あまり無理はするなよ」
「分かってますよ」
エリアはそう言って、机からテーブルの方に持って行き、書類に書き込んだりする。
そして数時間が経過すると、やっと書類の山に終わりが見えてきた。ラストだと思い、素早いが丁寧にやって、なんとか今日中に終わらせることができた。
「なんとか今日中に終われたな」
「そうですね」
「今日はもう遅いし、エリアはもう休んでも良いよ」
「では、お言葉に甘えて失礼しますね」
そう言って部屋から出て行った。
そして次の日、今度はイシュタリカ神王国にある、信女の実家へとやって来ていた。ここへ来た目的は、信女との婚約の承諾をもらうためだ。
「ということで、私達は婚約をすることになりました。そのため、私達の婚約を認めてほしく、ここへ来ました」
信女の父親である信重さんと母親である信江さん、そして兄の信弘さんにそう言う。
少しの間、沈黙が続いたが、そんな沈黙の中で信江さんが信重さんに言う。
「やっぱり言った通りだったでしょう?」
「ああ、その通りだったな」
「どういうことですか?」
話が伝わらない信女は、2人にそう尋ねる。
すると、信重さんが信女の疑問に答える。
「実は、お前達が帰った後に、信江からいつかお前達が婚約して、その報告をしに来るかもしれないと言われていたんだ」
「ですが、これほどまで早くに婚約の報告に来るとは思ってませんでしたけどね」
「春人殿にならば、信女を任せられる」
「拙者も、信女の婚約に異論はござらん」
「ありがとうございます!父上、母上、兄上」
全員が婚約を認めてくれた。こう言ってはなんだが、なんだか随分とあっさりと認めてくれたな。こういうのって、もっとこう、父親とか兄とかから『娘(妹)を嫁にしたければ、俺を倒してみせろ』とか言うのだと思ってたが、どうやら違ったようで安心した。そう思っていると、信重さんが私に対して、次のように言った。
「春人殿にならば、確かに安心して任せられる。だが、この工藤家は、代々武家の家柄。ここは、春人殿の実力を見てみたい。どうだ?儂と一手勝負を願えないか?」
「はあ……。別に私は構いませんが」
すると、信弘さんが私に近づき、私の耳元で私にだけ聞こえるくらいの声で言う。
「父上が申し訳ない春人殿。父上は、信女のことを口実に春人殿と戦いたいのです。どうかお許し願いたい」
「私は別に気にしてないので、大丈夫ですよ。それよりも、どれぐらいの時間、信重さんと戦えば良いですか?」
「そんないつでも倒せるみたいに……ああ見えて、父上はかなり強いので、流石の春人殿でも苦戦はすると思いますよ」
そうか。確かこの人達は私の正体を知らないんだったな。ならば、そう判断するのも無理はないか。
そうして、信重さんからの試合を承諾し、普段は門下生も使っている道場で試合をすることとなった。審判は、信女と信弘さんの2人だ。
準備ができ、お互いに構える。
「それでは始め!!」
試合が始まったが、結果を言ってしまうと、私の圧勝だった。試合中、少し加減していたが、それを見抜かれ、手を抜くのならば信女は任せられないというので、少し本気を出したらこの通り、信重さんを一振りで吹き飛ばして気絶させてしまった。信弘さんは、その光景に唖然としていたが、私のに慣れている?信女が宣告する。
「勝負あり。勝者、春人殿!」
信重さんの体を動かそうとしていた信江さんと沙織さんを急いで止める。
「下手に動かさないで!一応急所は攻撃する際に、外しましたが、それでも倒れた時に受け身を取り損ねて頭を打っている可能性もあります。なので、そのまま動かさないで下さい」
「分かりました」
信重さんの近くに歩み寄り、後頭部などを一応確認する。うん、何処にも異常はなさそうだな。
「特に問題ありませんね。骨が少し折れているので、回復魔法で治療しますね。【ハイヒール】」
【ハイヒール】で、骨が折れていた箇所を治療する。すると、気絶していた信重さんが目を覚ました。
「目が覚めたようですね」
信重さんが少し辺りを見渡し、今の状況を察する。
「どうやら負けたようだな」
「ええ。貴方は、私に負けました。これで満足ですか?」
「ああ。ここまで、圧倒的な強さを持っているのならば、娘を任せても問題なさそうだな。信女は、お転婆で大食いで、王様の婚約者としては、難しい場面も多いと思うが、それでも良ければ娘をよろしくお頼み申す」
そう言って信重さんは、頭を下げた。
「分かっています。信女も含め、他の子達と共に人生を歩んでいきます」
「いつか、春人殿の国に行きたいものだな」
「私はいつでも構いませんよ。あ、そうだ。でしたらこちらの魔道具を差し上げます」
私はそう言って、【ストレージ】から開国祭の時に各国の国王に連絡用として渡した、【ゲート】が付与されている「ミラーゲート」という魔道具を信重さんにも渡す。
「これは?」
「これは「ミラーゲート」という魔道具です。ここにあるボタンを押すと、それの対となる「ミラーゲート」に繋がる仕組みになっています。これは、既に我が国の同盟国の国王には渡していますが、信重さんに渡したのは、そういった方達に繋がらず、私にだけ繋がるようにしているので大丈夫ですよ。それで使い方に戻りますが、使い方は簡単で、この対となるのは1番ですので、この1番を押した後に魔力を流すと、こんな感じで、繋がるようになっています」
「これは便利だな!だが、このような物を本当に頂けるのか?」
「差し上げますよ。それに、イシュタリカには私の協力者がいないので、イシュタリカに連絡が取り合える相手がいるというのは、私としても助かるので、両方ともにメリットがあるんですよ」
「それならば、遠慮なく使わせてもらおう。春人殿も何か用があれば、気兼ねなく連絡してくれて構わない」
「もちろんそのつもりですよ」
もうそろそろ、帰らないと夕食に間に合わないな。
「信女、そろそろ」
「もう帰られるのか?」
「ええ。そろそろ向こうに帰らなければならないので」
「そうか。元気にやれよ、信女」
「はい父上!」
「【ゲート】」
私は【ゲート】を開き最後に別れの挨拶をする。
「では、私達はこれで失礼します」
「信女…幸せになりなさい。兄としてそれしか言えないが、信女ならばきっと大丈夫だと思っている。春人殿、信女を頼みます」
「ええ、もちろんです」
「父上、母上、兄上。それでは行って参ります!!」
「ああ、行って来なさい」
【ゲート】を潜り、城に戻り、夕食を済ませ、風呂に入った後、自室に戻り寝た。
明日は、アイリスとトリスのところへの婚約の挨拶だな。あの2人の両親は、盗賊によって殺され、2人は親戚の叔母の家に引き取られたそうだ。2人の話によれば、かなり良い人らしいので、まず婚約の反対はあり得ないと言っていた。まあ、直接会えば良いだけだから、今日はもう寝るとするか。
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