131話 開国祭の終わり
今日は、開国祭2日目にして、私の放送演説の日である。
今は、自室で演説用の内容を確認している。すると、扉からノックが鳴り、プロキオンが中に入る。どうやらそろそろのようだな。
「失礼します。準備が整いましたので、お願いします」
「ああ、分かった。今行く」
「では、私は一旦失礼します」
そう言って、部屋を出る。
「さて、私もそろそろ行くとするか」
放送演説が行われる部屋へと向かう。放送演説が行われる部屋は、小会議室にあったテーブルなどをどかした感じの部屋だが、放送演説ならば、この部屋でも十分だろう。ちなみに放送に関してだが、映し出すのは、帝国反乱事件でも使った投影の魔法を使って王都中に投影して放送する。ちなみに、撮影用のカメラは本格的な物で、テレビ撮影用のカメラを使用して、撮影担当はサラで、音響担当がカナデに頼んだ。もちろん、事前に使い方を教えてある。
そして、王都中に投影が始まりカメラが回る。
『私は、アルマー王国国王望月春人である。この国は、新興国であり、この国を完全に信用できない者もいるのは当然だ。別に私は、それを咎めるつもりは一切ない。それに、我が国は、積極的に争うつもりもない。この技術力や戦力などは、すべて我が国や我が国の友好国を守るためのものである。だが、ここで勘違いしてほしくないのは、私のことを甘く見ないでほしいということだ。時々、私のことを甘く見る者もいる。この見た目だから勘違いしてしまうのだろうな。だが、もしこの国で犯罪など、我が国に危害を与えるのならば、当然、然るべき処罰を受けてもらう。そして、場合によっては、私の持つすべての権力と武力をもって対処することを覚えていてほしい』
人々は、春人の言葉に固唾を飲みながら聞き続ける。
『だが私とて、やはり勘違いしてほしくないのは、私が権力や武力によって、国を支配しようと思っていないということだ。これだけ言ってもこの放送を聴いている者の中には信じられない者もいるだろう。だが、それをどうこうするつもりは一切ない。それと、この国では住民を募集している。この王都の住民となる者には、この王都で暮らしても問題ないかどうかの試験も行うが、面接だけだから安心してほしい。もちろん住民になった者には、病院での大人の場合は、診察・治療費を半額。子どもの場合は、無料とする。そして、学校に関しては、学校教育費を無料にして、中等部までは給食制度によって学校から無料で昼食を提供する。その他にも様々なサービスがあるが、国民全員に我が国の国民であるという証明書となる身分証を一人一人に渡すが、その身分証には、冒険者ギルドのギルドカードと同じように他の者が触れたりすると、色が変色するし、そもそも身分証には、その持ち主の顔写真があるため、本人のなりすましはまずできない。その仕事によっては身分証の色に差はあるが、すべての身分証に同じような機能を持っている。これだけ話してなんだが、最後に一言だけ言わせてほしい。開国祭2日目であり、最終日でもある今日だが、皆この開国祭を楽しんで行ってほしい。これにて、放送演説を終了する』
カメラの撮影を終了するのと同時に、王都中に投影されていたのが消えた。
王都では、この放送演説が盛り上がっていたが、それを知ることはなかった。
春人は、私服に着替えてバルコニーへと出る。バルコニーから城下を眺めていると、テレスがやって来た。
「お疲れ様でした春人様。先程の放送演説はお見事でした。あの放送演説で、春人様のお気持ちが伝わったと思いますわ」
「そうか?個人的にあれには反省点が幾つかあるよ。でも、私が伝えたいことは、さっきので大体は伝わったと思っているよ。それと、さっきから思っていたんだが、テレスってエリア達と城下に行ったんじゃなかったの?」
「私は、たまたま残っていただけですわ。それで春人様。もし、よろしければご一緒に行きませんか?」
「そうだな。私も様子を見たいから一緒に行こうか。それに城下に行けば他のみんなとも合流できるだろうしな」
「そうですわね」
というわけで、一応変装をし、【ゲート】を城下の人目につかない場所に開いて、露店などが並ぶ道に出た。
ある程度、露店を回ったりしていると、みんなとばったりと会った。それからは、みんなと一緒に店を周った後に、こっちに本店を移したアセドライン商会に向かうことになった。
アセドライン商会に着き、中に入る。そして、アセドラインのところにみんなで行こうとするが、私とトワ以外は、商品を見ていたいそうなので、2人で行くことにした。と、その行く途中で、関係者以外立ち入り禁止の場所に入ろうとする私達を止めに来たであろう従業員が来ると、直ぐに私達だと分かり、謝りながら通してくれた。
そうして、アセドラインがいる商会長室のドアをノックする。
「どうぞ」
中からそう返事があったので、私は部屋の中へと入る。
「アセドライン。今、少し良いか?」
「春人様でしたか!?ご連絡を頂ければお迎えに行きましたのに。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「城下を見るついでに、新しく出来たこのアセドライン商会本店を見てみたくてな。私も実際に中に入って見るのは、今日が初めてなんだよ」
「春人様がこの建物を建てたとお聞きしたのですが?」
「それはそうなのだが、細かい部分などは、また別の者に頼んでいるから、すべてを把握しているわけじゃないんだよ」
「そうだったのですね」
「その他に用事があるとするのならば、私とトワの婚約の承諾をもらいに来たということだな」
「やっとですか。正直、ここまで長かったですね。トワが春人様を異性として好きだと分かっていましたから、私も陰ながら応援していましたが、ようやく婚約をしたのですね。トワ。これからは、春人様の側でしっかりと春人様を支えていきなさい。そして、他の婚約者達や春人様と幸せに生きていきなさい。トワの幸せは、私と今は亡き、お前の母であるチヨの願いなのだからな」
それを聞いた瞬間にトワは、涙を漏らす。
「はい!必ずや幸せになります!!」
「そうか。私も、トワの婚約者として、お前を幸せにするからな」
「私は、春人様といられるだけで幸せです」
「そうか。そう言われると、何だか恥ずかしいな」
そんな感じでトワと話していると、アセドラインが笑みをこぼした。
「あはは。どうやら心配は、いらなかったようですな」
「ああ、私にトワを任せてくれないか?」
「もちろんです。どうか、トワをよろしくお願いします」
それから、アセドラインと色々と話したりして、下に残しているみんなのところへと戻る。それぞれ買い物をしようとしていたので、私が金を出そうとすると、店員からまさかのことを言われる。
「春人様からお金は頂けません!それに商会長からも、春人様がアセドライン商会系列の店で買い物をする際には、すべて無償にするとも言われておりますので」
アセドラインの奴、そんなことをしていたのかよ。誰であろうとも、適正な値段で支払わせるのは、商人としては常識だろうに。いったいあいつは何を考えているんだ?
「分かった。今回は支払いはしないが、アセドラインよ。例え誰であろうとも支払いはさせるべきだ。そうしなくては、そこから大きな信用問題に発展しかねないと、伝えておいてくれ」
「かしこまりました。またのご来店をお待ちしております」
変装をして店を出た後、そのまま城に戻った。
そして夜になり、みんなでベランダへと出る。少し城下を見てみると、まだ明るく活気がある様子だった。すると、開国祭を終了を知らせる花火が打ち上げられる。昨日とは違い、今日は開国祭の終了日だ。だから、昨日よりも花火の数や形も違ったりする。
この日、地図に初めてアルマー王国という国が記されたのだった。そして、この世界が大きく動き出す日にもなったのであった。
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