126話 訓練と緊急事態
ただの案内のはずが、ベルンガ王が突如として言った言葉により、特別訓練を実施することとなり、今はその準備をしている。
今回の特別訓練は、より実戦を想定した実戦形式の訓練だ。ただし、実弾の使用はもちろん禁止だが、気絶レベルの攻撃までならば許可している。弾はゴム弾を使用するし、武器も刃を落としているものを使用することになっている。
そして、その訓練の様子を見るための場所を現在急いで用意している。それは、病院の近くに設置した、約50人は収容できる大型のプレハブ小屋である。その中に、病院内にあるすべての防犯カメラの映像を見ることができる監視カメラ用モニターや椅子、そして病院の地図を並べた机などが置かれたりした。
「まあ、ざっとこんな感じで良いだろう」
そんな感じで準備が着々と進み、訓練開始時刻の10分前となった。
「ベルンガ王、どうぞこちらにお入り下さい」
「な、なんかもうツッコムのが疲れてきたな」
「お父様…春人さんにいちいちツッコミを入れていたらキリがないですよ」
「それもそうだな。エリアの言う通りだ」
そう言ってベルンガ王が笑う。
「2人して、私のことを何だと思っているんですか?」
「ツッコミ多めの諜報員?」
「ツッコミ生産職?」
「アンタらなぁ、親子揃って……まあ良いや。それよりも訓練が始まるからそろそろ中に入ってもらえないだろうか?そこにいたら訓練参加者の通行の邪魔になる」
「そ、そうですね」
「ああ」
2人が中に入り、まずは、今回の訓練内容について説明するべく、病院の地図が並べられたテーブルに集まる。
「では、今回の実践式訓練の訓練内容の説明をしますね」
「普通の訓練とは違うのですか?」
「ああ。この訓練では、まず警備員は銃の使用やその他の武器の使用も許可するが、銃はすべてゴム弾のみとし、刃物なんかは予め刃を落としている物のみしか使用できないようにしているが、一応万が一に備えて、実弾も装備は装備しているが、訓練で使用したならば即拘束対象になるから、そんな馬鹿なことはしないだろう」
「そ、そうなんですね」
そもそもあいつらが私に逆らうなんてほぼ不可能だ。奴らを創る際に必要な擬似魂は、私が殺した者の魂を1人につき、最大8当分にした魂を創造人間に植え込み、足りない分は、私が殺してきた魔物などの魂の忠誠心の部分などのこちらに利益があるところだけを抜き取って補って完成するのが奴ら創造人間だ。もちろん、私が創造した他の警察省に所属する警察官や国防省に所属する軍人なども同じように創られている。
「では、改めて説明に入りましょうか。今回は、病院に冒険者ランクC相当の荒くれ者が複数人、武装して病院を占拠しようとするという内容であり、この際に、エントランスにいた人が人質となってしまうので、この際にどう対処するか、というのが今回の訓練で最も大事なことになります」
「ちなみに、春人殿ならばどうするのだ?もちろん能力なしでの話だが」
「そうですね。私が警備室の室長の立場ならば、まず、1階にいる警備員は、戦力に数えず、上にいる警備員で対処する作戦を考えます。そして、敵もそのことを当然想定しているはずなので、まずは速やかに警察省に襲撃の緊急連絡をしてから行動ですね。そうなると、警察省では人質事案としますので、間違いなくSITが動くでしょうね」
「しっととは何ですか?」
「SITとは、特殊犯捜査係のことで、警察省刑事局に設置されている。主な任務は、身代金目的の誘拐事件や人質立てこもり事件などに対処する。そんな特殊部隊の総称だ」
「そうなんですね」
「だが、場合によってはSATも出てくるかもしれんな。あ、SATというのは、テロ事件やハイジャック事件などに対処する対処するための特殊部隊のことで、さっき言ったSITとは違い、こっちは事件の制圧を最優先としているんだ」
「警察省って凄いんですね」
「まあ、そうだな」
地球の警察官は基本的にリボルバーを使用するが、こっちではオートマチックの自動拳銃を全警察官が装備しているし、特殊部隊の隊員には、普通の警察官よりも良い拳銃や自動小銃を所有している。もちろんスマホなどで調べた限りで、向こうの世界でも最新型の銃であり、私が選び抜いた物だ。
「そして、警察に連絡後、警備員で2階に来た敵を物影から奇襲し、敵を殲滅。2階から人質に当てないように敵を射殺。もし、取り逃した場合には1階にいる警備員や警察官を使って敵を捕縛もしくは射殺します」
「あれ?でもさっき1階の警備員は戦力に数えないって……」
「それはあくまでも最初の時だけだ。だが、もしもこんな作戦が上手くいったならば1階にいる警備員でもできるって話さ」
「やっぱり難しいんですか?」
「この作戦が上手くいくのは、敵が最大で6人までだ。それも、索敵能力がそこまで高くなければの話となる。人数が多かったり、敵に索敵能力が高い者がいれば、その時点でこの作戦は失敗で、人質が殺される可能性は高くなる」
「そうなんですね。あ、そろそろ時間ですね」
壁に掛けてある時計を見ると、確かにエリアの言う通り、予定時刻の午後13時になろうとしていた。あ、ちなみに。今回の襲撃者役は警察省王城区画署所属の警察官達だ。
そして、私はマイクに向かって口を開く。
「これより実践式戦闘訓練を実施する。この訓練は実践に必要な対応力、判断力などを鍛えるためのものである。各員、心してこの訓練に臨め!それでは、訓練開始!!」
マイクのスイッチを切る。監視カメラ用モニターを見ると、早速人質が取られている状態となり、上の階では、重武装の警備員が狙撃準備をしていた。
そして外では、警備室から連絡があったのであろう警察が続々と到着する。その中には、SITはもちろん、SATまでもいた。いつでも制圧ができるように配備したのだろうな。
ちなみにだが、警備員などの無線はすべてここにも聞こえるようにしてある。
ここまでは、まあ、予定通りだな。
そして訓練も順調に進み、襲撃犯達が重装警備員や警察などに捕らえられた。これで訓練もすべて終わったな。
そう思い、マイクのスイッチを入れて終了の合図を出そうとしたその時……。
『緊急事態発生!緊急事態発生!病院裏口にて、重装備兵が複数侵入。至急、付近の警備員は対処に向え!』
『警備室より各員に通達!病院裏口にて、重装備兵が複数侵入。至急、付近の警備員ならびに警察官は対処に向え!』
「これも訓練なのか?」
「いえ、こんな内容は訓練予定にありません。今まさに、あの病院内で本当に起こっている事件に対処しようとしています。つまりこれは実戦です」
「それはかなり危険なのではないか?」
「ええ。防犯カメラの映像から見る限り、敵は銃を所持しています。それも自動小銃つまり、重装警備員などが所持しているのとほぼ同じ銃を敵も所持しているということです」
これはかなりまずいな。防犯カメラの映像内容からおそらく敵は、第3級指名手配にもなっていないレベルの雑兵。それでも警備員には荷が重いはずだ。
「総合指揮より各員に通達。病院の裏口に誰も近づけさせないよう、機動隊を使って通行止めを速やかに実施せよ。また、SATおよびSITの特殊部隊は、いつでも突入ができるよう準備。また、他の警察官もいつでも突入できるようにせよ。そして、警備室は、各重武装警備員を現場に向かわせろ。今、付近にいる警備員をとにかく現場に向かわせて少しでも足止めしろ」
『了解』
そして次にスマホを取り出し連絡を取る。
「私だ。ソーラル、今良いか?」
『どうした?』
「今、我が国の病院で複数の『フェアラート』が暴れている。その多くが3級手配以下の雑兵だが、その中に紛れて、2級手配レベルが紛れているが、全員が戦闘着を着用しているため、顔が見えず判断が不能。護送用に何人かこちらに人員を遣してくれ」
『護送だけで良いのか?まあ、とにかく分かった。至急手配しよう』
「ああ、助かる」
そう言って通話を切る。
そして、再び防犯カメラの映像を見ると、2級手配犯と思わしき者が、重装警備員、普通の警備員関係なく、一発で気絶させていた。
トワにも念話で連絡を取り、ここに来てもらうように連絡をした。
「エリア。私はこれから突入班と一緒に現場に突入する。その間、ここの指揮は、君に任せる。まあ、心配せずとも、さっき、トワに念話で連絡を取ってすぐに来てほしいと連絡をしたから、もう少ししたらここに来るはずだ。だからそれまでは指揮権は君に一時譲渡する。頼んだぞ、エリア」
「はい!お任せください春人さん!」
これでここを気にせず突入ができるな。
『良かった』、『続きが気になる』などと思っていただけたなら、評価やブックマークをしてくださると、とても嬉しいです。投稿日時は土・日の予定ですが、ズレて投稿する場合があります。どうぞこれからもよろしくお願いします。