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異世界転生術師  作者: 青山春彦
第13章 建国
120/176

120話 城砦の幽霊とその領主

 その城砦のあった所にはかつて帝国で2番目に栄えていた都市あった。そしてその城砦にはその都市を治めていた領主が住んでいたという。その領主は、善政を敷き、領民に慕われ、当時の皇帝にも気に入られており、帝国内ではそれなりに有名な領主だった。

 だが、ある時を境に領主の雰囲気や性格の何から何まで変わることとなる。領主の最愛の妻が死亡してしまったのだ。それからというもの、領主は自室に閉じこもるようになった。やがてその領地では不可思議な事件が起こり始める。領民や領地内にいた旅人が次々と行方不明になったのである。そしてそんなある日、領民の1人の男が自分の娘が領主に拉致される様子を目撃してしまった。

 自分の娘を今すぐにでも助けたいが、1人で城砦に乗り込むなんて現実的でないし、他の人にもこのことをつたえなければならないと思い、その男は他の領民にこのことを伝えた。

 そのことが真実なのか確認するべく領民達は、領主の城砦へと向かった。

 ところが城砦に向かうと、本来ならば門番がいるはずがいなかったのである。不思議に思いながら門を開けて中へとはいる。中に入るも中には使用人や警備兵などの本来ならばいなければならないはずの人達が1人も見当たらなかった。これは何かあると思った領民達は中を探索してあるひとつの部屋に辿り着いた。その部屋の中を見た領民達は思わず絶句した。領民達が見たものは、打ち捨てられた死体の山だった。領主が行ったのは最愛の妻を蘇らせるための「死者蘇生」の研究だった。死者を蘇生させる方法にはいくつか種類が存在する。だが、領主は禁忌とされる生きた人間を利用する方法を選んでしまった。最初に中にいた者達が犠牲になり、中にいた者達がいなくなると今度は目についた適当な領民を拉致して「死者蘇生」の研究を続けていた。

 何人か領主によって捕まりながらも命かながらなんとか逃げ出した領民達は、このことをすぐさま帝都の騎士団に訴えた。騎士団はすぐにそのことを皇帝に伝えた結果、騎士団に対して、すぐに領主のいる城砦に向かい、証拠があった場合その場で拘束しても構わないという許可を出し、騎士団を派遣した。城砦に着いた騎士団が中に突入すると、領主が死体の前にいるのを見つけその場で大量殺人の罪と禁忌の「死者蘇生」の研究を行った罪によって捕まった。そしてしばらくの間尋問を受けた後、処刑された。

 これで終わりかと思われたが、ここで話は終わらなかった。新領主がその赴任(ふにん)して来たのだが、赴任して半年で病で亡くなり、2人目に赴任して来た領主は、冤罪によって処刑され、3人目の領主は、侵入して来た盗賊によって殺され、次々と新しく赴任して来る領主が亡くなってしまう。このことに誰が言い始めたのか、最初の領主が妻の蘇生研究を邪魔した罰として呪いをかけたのではないかという噂が流れるようになった。そして4人目の領主となった者は、そこに住むのを頑なに嫌がったため、城砦は廃城となった。

 当然、領民達もこのままでは領主だけでなく自分達も呪い殺されるのではないかと恐れた領民達は、次第に都市から別な所へと行き、その都市には人が寄り付かなくなった。そうなれば、当然この城砦は盗賊などの住処として目をつけられるようになった。だが、そこに住み続ける者は誰一人としていなかった。捕らえられた盗賊達は口を揃えてこう言った。

“あそこには霊が棲みついている”と。


「これが大体100年程前のお話ですわ」

「確かにそんな事件もあったな……」

「ご存知なんですか!?」

「知っているとなにも、その事件には私も直接関与しているんだよ」

「その事件に関わっていたんですか!?」

「さっきの話であった領主がある領民の娘が領主に拉致されたという話があったろ?その時の領主って実は変装していた私なんだよ。ちなみにその娘は、幻影魔法で映しただけの偽物だよ」

「何でそんなことをしたんです?それにその人の本当の娘さんはどうしたんですか?」

「2つの質問を同時にしないでくれ。まずは、本当の娘に関して説明するか。結論から言えば、その娘は領主によって既に拉致されて殺されていたよ。それに1番遅く死亡したのがその娘だったから1番都合が良いと思って拉致されるところを目撃させる相手として選んだんだよ。だけどその目撃者がその娘の父親だったのは私としても予想外の出来事だった。だが、そのおかげで予想よりも早く領民達が行動してくれたおかげで領主を国に捕えさせることが出来たんだよ」

「そういう事だったんですね」

「ああ。それにしても昔はあんなにも栄えていた都だったというのに、今では人が一人も住んでいない場所だとはな。だが、気になるのはこの城が呪われているという話だ。それにその盗賊共が言っていた霊が出るという話も気になる。あの後この城一帯は除霊を行ったのだがな……。何でそんなことになったのやら……」


 あの時確かに私はこの城に閉じ込められていた霊を全て除霊したし、そんな話が出ることなんてないはずなんだが……。


「なら、何でそんな噂が立ったのかしら」

「可能性なら幾つかある。1つ目、盗賊共がこの城を拠点にするために流した偽情報。2つ目、盗賊共が拠点にするよりも先に何者かが住んでおり、後から来た盗賊共を追い出すために行ったものがそういうことになってしまった。3つ目、本当に霊もしくはアンデットが棲みついている。4つ目、歴史的な流れから噂に尾ひれが付いてしまった。これらが今考えられる可能性だが、3つ目の可能性はほぼないと思う」

「何故そう言い切れるのですか?」

「今、少しだけ気配を探ってみたが、霊((あやかし))の気配は感じられなかったからそう思っただけだが、私が感じ取れないぐらいに微弱な気配ならば直接探すしかないな。少し待っててくれ」


 懐から式札を取り出す。


《召命───天狐》


「天狐、すまないがあの建物内に何かいないか調べてくれ。どんな小さな気配も残さず調べろ」

「コンコン!」


 天狐が調べ始めた。そして数秒して調べ終わったようでこっちを見るが、天狐は首を横に振った。どうやら妖関係ではないらしいな。


「ご苦労だった。もう戻って良いぞ」


 天狐を戻す。


「時々気になっていたんですが、それって何なんですか?」

「すまんが、今は喋ることが出来ないが、いずれ必ず話すからその時まで待っててくれ」

「……分かりました。必ず話して下さいね。春人さんのこと、もっと知りたいんですから」

「ああ、いつか必ず話すさ。さて、そろそろ中に入ろうか」

「本当に入るの?」


 アイリスが恐る恐る聞いてくる。


「アイリス、どうかしたのか?」

「べ、別に何でもないわよ!」

「? そうか、なら良いんだが。とりあえず二手に別れて行動しよう。まず南側をエリア、トリス、信女、トワ、テレス、コハク、ヤト&ユカリそしてビエラ。アイリスは私と一緒に北側を調べようと思う。それじゃ、行動開始」


 建物の中に入り少しすると、外が段々と曇り始め、次第には雨が降り始めそれが段々と強くなっていった。それになんだか妙な気配が出始めたな。なんだか嫌な予感がする。


「他のみんなと離したから聞くけどさ、アイリスは幽霊が苦手なのか?」

「そ、そんなことないわよ!なにを言ってるんのよ!?幽霊なんて怖くなんてないわ!」

「それじゃあ、後ろにいる黒っぽい人影が……」

「いやああああああああっ!?」


 悲鳴をあげながらアイリスが私に思いっきり抱きつく。その抱きつきは痛みがあった。なんでこんなに抱きつく力強いわけ!?人間の力じゃないだろこれ!?


「あ、アイリスさん……痛いから、離して……!」

「だ、だって!」


 アイリスはより一層力を入れて抱きつく。私でもこれはかなりキツいんだがどういうこと!?


「冗談、冗談だから!お願いだから離して!!」

「……冗談?」


 アイリスの力が一瞬弱まった隙にアイリスから少し離れる。


「まさかここまで怖がるとは思わず……すまん。それにしてもやっぱり苦手なんだな。どうしてそんなに怖がるんだ?」

「そ、それは……」


 目をあちこちに向けながら、口をパクパクさせる。どうやら言い訳を考えているみたいだな。

 そして、言い訳が見つかったようで言う。


「……誰にだって怖いもんのひとつやふたつあるでしょう?」

「まあ、確かにそうかも知れないが、私としてはこういうのにアイリスが苦手なのが意外だと思ったてな」

「だって、殴れない相手だとその……あれなのよ!」


 そう言ってそのまま再び口を閉ざした。苦手な理由が彼女らしいというかなんというか。

 そんな彼女の手を握る。


「きゃっ!?」

「これなら怖くないだろ?安心しろ、私がいる限り君が怪我を負うことはない。それに君達のことは婚約者となったあの時から責任を持って護ると決めたからな。自分へのその誓いくらいは守るさ」

「うん……」


 アイリスが顔を赤らめて頷く。


「ねえ、春人。ところで北側には何があるの?春人がこっちに来たってことは何かあるんでしょう?それにトリス達を南側にやって更にはコハク達まで過剰戦力と言えるレベルで向かわせるということはあまり少人数で歩き回らない方が良いっていうことでしょう?」

「アイリスって変なところで感が良いな。南側は大丈夫だとは思うが念のために霊などにも攻撃することが出来るコハクなんかの神獣をだったりビエラもいるから大丈夫だとは思うが、問題はこの北側なんだよ」

「それ以上聞きたくないんだけど……!?」

「後で分かったらもっと恐怖心が出てくると思うから今から知ってた方がまだ恐怖心は緩むと思うぞ?」

「そ、それならまあ……」

「あの話の中にあった死体が打ち捨てられていた部屋っていう話があっただろ?あの部屋がある地下っていうのがこの北側にあって、今私達はそこに向かってる」

「やっぱり聞きたくなかった!!というか、今向かってるって言ったよね!?別に行くことなくない?」


 恐怖のあまり少しパニックってる様子だった。


「落ち着け」

「あいたっ!?」


 アイリスの頭に軽くチョップをする。


「アイリスの心情からしたらパニくるのも仕方ないのも分かる。だが、確かめたいことがあるんだよ。そんなに怖いんならもう1人呼ぶから少し待ってなさい」

「もう1人?」


 アイリスが知っていそうなのだったらあいつかな。


《召命───雪奈》


「お久しぶりです。春人様」

「久しぶりだな、雪奈。今日呼び出したのは彼女の護衛を頼みたいからだよ」

「この方は確か以前にもお会いした……」

「アイリスだよ。アイリス、雪奈を覚えているか?」

「ええ、覚えているわよ。まさか、人間じゃなかったなんてね」


 以前と違って、雪奈は今は本来の姿……つまり雪鬼という雪女にツノを生やした美少女の姿をしている。


「ああ、アイリスさんですか!お久しぶりです」

「久しぶりね。雪奈」

「アイリスを含めて現在6人と婚約している。だからこそ、アイリスにも馴染みがある雪奈を選んだ。アイリスの護衛は任せたぞ。雪奈」

「お任せください春人様。この身に変えましてもアイリスさんをお護りいたします」

「ああ。では行こうか」

「う、うん」


 乗り気ではない様子のアイリスだが、このまま待たされるよりかは雪奈が一緒にいるとはいえ、私と一緒にいた方が安全だと思ったらしく文句を言いながらも付いて来る。

 そして、地下へと続く扉を開けて地下へと下りる。そして例の部屋の扉の前で止まる。


「中に入るけど良いね?」

「う、うん」


 扉を開けると、中は窓ひとつ無く、あるのはこのドアだけたった。

 中に入ると、明らかに異様な気配を感じた。気配を探っていた時には感じなかったが突如感じたのは気配を自然に存在するような霊脈の気配に隠していたからだろう。そして、この部屋にはまだ殺された者達の血痕(けっこん)の跡が床に染み込んでいた。


「春人、用事が済んだんなら早く出ましょ!なんだかここ嫌な感じがするんだけど!」

「春人様、アイリス様をこのままこの部屋に居させるのはよろしくないと思います」

「それもそうだな。この部屋に「戻ってくる」前に出た方が良さそうだな」

「ど、どういうこと?」

「戻りながら説明する」


 一旦私達は部屋から出て地上に戻る。


「でさっきの話はなんだったの?なんだか戻って来るとか言ってたけど……」

「そうだな。今の外の天気はどうなってる?」

「見て分かるでしょ?かなりの大雨よ」

「そうだな。だが、この雨は恐らくこの城砦だけ降っているはずだ」

「なんでそう言い切れるの?」

「あの奥側は雲の様子から晴れているのは間違いない。それにこの雨はただの雨ではなく、霊気が集まって起こる雨なんだよ。こういったのはそこそこ力のある霊や妖でなければ起こらない」

「つまり、さっき戻って来るって言ったのは……」

「ああ、この城に棲みついている当時の領主の亡霊だ」


 それを聞いたアイリスが一気に青ざめる。


「あのまま居続けたらどうなってたの?」


 アイリスが私に恐る恐る聞く。


「そうだな。私はともかく、アイリスは()かれてた可能性はあるな。まあ、そうなったらちゃんと私が(はら)うから心配はいらないが、霊に対する力を持っていないアイリスが近づくのはあまり得策ではない」

「あたしだって嫌よ!」

「とにかく、この城での幽霊騒ぎの正体だが、さっきのと合わせて2つ可能性がある」

「2つ?」

「ひとつはさっきの領主の亡霊、そしてもうひとつは……」


 そのもう1つ正体を言いかけた瞬間に廊下の置かれていた鎧が一斉に動き出して攻撃してきた。

 咄嗟に刀で防御してから鎧を斬り刻む。思ったよりも殺意が高いな。


「なんなの今の!?」

「今のはさっき言ったもう1つの正体だ。そしてその正体はこの部屋にある」


 ある大きな部屋……領主の執務室にあるのは、人形(ひとがた)を城中に飛ばした時に確認済みだ。そして部屋の中に入る。

 部屋の中に入ると、部屋の奥には1枚の女性の肖像画が飾られていた。


「この肖像画こそが幽霊騒ぎの正体だ」

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