117話 ビトレイ
ここが剣が住む小屋があるという森の中か。
「2人共、すまんがこれを着てくれ」
【ストレージ】の中から戦闘着を取り出し着るように言う。彼女達もスターズなわけだからこれを着る資格がある。
「どうしてですか?」
「私達だけということは、もしも敵だった場合に逃げられた時に私達が襲われてないようにするため…ですか」
「流石だなトワ。私だけならばなんとか対応出来るが、君達のことがバレるのは避けたい」
「でも、それだけじゃないんじゃないですか?」
トワはそう言いながら辺りを見渡す。気づいていたか。
「ああ。なんか数は少ないが、それなりの実力はある。敵でないことを祈りたいが、この感じだと多分無理かも知れんな。だが、向こうから攻撃してくる素振りは一切感じないから、こっちから下手に手を出さなければ今すぐ敵対するということはないだろう。それよりも、さっさと行って帰るぞ」
「分かりました」
2人が戦闘着を着てから剣の所へと向かった。
そして森を歩くこと数分後、1人の男が歩いているのを見つけた。黒のロングコートにそのコートの中には腰に一本の長剣が差しているのが見えるが、胸当てなんかの防具は見当たらなかった。
だが、こんな森の中にいるということは、あの者が剣で間違いないだろう。
「恐らくあれが剣だろうな。君達は余計なことは喋るな。剣との会話は全て私が行う。良いね?」
「はい」
「承知」
木から降りて、剣に対してシリウス時の声で話し掛ける。
「失礼。少し良いか?」
「何でしょうか?」
身分証を懐から取り出し見せる。
「私はスターズ五星使徒の者だ。少々、話を良いだろうか?」
「スターズって最近、帝国反乱事件で活躍したという、国際諜報機関でしたっけ?それに確か五星使徒といえば、スターズの最高幹部のはずでしたよね?そんな方が何故、俺のところに?」
「話すのは確認をしてからだ。お前が剣の勇者で間違いないか?」
「ええ、間違いありません」
「ならば、砲撃の勇者についても知っているな?剣の勇者が砲撃の勇者と何度か接触しているという情報が入っている。これから質問する内容に答えろ」
「分かりました」
「まず、砲撃の勇者とはどういう関係だ?ただ同じ勇者だからといって仲が良いというわけでもないだろ?」
「俺と砲撃…… ヴィントは小さい頃からの幼馴染でした。そして俺達は、14の時に神から勇者としての神託を受けました。ですが、ヴィントが受けた神託の神が違ったようで、それから様子というか、性格が変わっていきましたが、俺との付き合い方は昔とほとんど変わりません」
「そうか」
砲撃に神託を与えたのは恐らく砲撃神だろう。その際に何かしらのことをしたのかも知れないな。突然性格が変わったんならば尚更その可能性が高い。剣は剣神が神託を与えたろうからそういった心配はしないが……念のため事実確認はしておくか。
だが、帰る前にやることが出来たようだな。
そう思った瞬間に無音で銃弾が春人目掛けて飛んで来るが、予め周りに展開していた【シールド】が銃弾を防ぐ。
「サプレッサーか……」
「なんだ!?」
すると2発目は他の所からも一斉に撃ってきたが、周りに結界を張ったおかげで弾丸は、誰一人にも当たってはいない。
銃を取り出し、木の上にいる者を撃ち殺していくが、1人だけはそれを避けて木から降りて来た。
「お前が指揮官だな?」
「そうだ。だが、連れて来た奴らもお前が全員撃ち殺したがな。お前が黒鉄だろ?」
「後継の資格を持っているだけで、正式に後継になってなんぞいない。黒鉄について知っているということは、古参の関係者か?」
「お前相手にこんな者では勝てない。本気で行く!」
奴が銃を地面に捨てた瞬間、糸を袖から出し攻撃する。コイツ糸使いか!それにあれはただの糸じゃないな。魔力を練り込んで作り出した高純度の魔力糸だ。
細かな糸の動きは凄まじかった。コイツはかなりの手馴れだな。
……糸使いで、スターズの敵対者……そして黒鉄の名を知っている……まさか!?
「お前は『フェアラート』最高幹部、十三邪徒第3席であり、白金の弟子でもあるコードネームビトレイ。何故、お前は私を狙う?」
「師匠が五星使徒の黒鉄の後継シリウスを殺せと命じたからそうする」
そう言いながら、ビトレイは狙って来た理由を思い返していた。
「師匠、何のようでしょうか?」
「来たか、ビトレイ。とりあえずそこに座れ」
「失礼します」
ビトレイが椅子に座ると、白金がある資料をビトレイの前に置く。そして、ビトレイがその資料に目を通す。
その資料には、「五星使徒シリウス情報集」と明記されていた。2枚目には、春人の経歴や軍服姿の証明証の証明写真があった。その他のページには、春人の個人情報や身辺情報なども記載されているものだった。
そして白金が話す。
「今回、お前に頼みたいのは、そいつの暗殺だ。だが、そいつは資料にある通り、俺と同格の存在である黒鉄の弟子であり、今では後継となった。だが、まだ正式に後継にはなっていないらしい。だが、後継であるには変わりない。そしてそいつは我々『フェアラート』にとって、今後厄介な存在になるだろう。だから早めに対処しなくてはならないが、そこら辺の1級の者達を向かわせたところで無駄にこちらの戦力を減らすだけだろう。だからこそ、確実にあの黒鉄の後継を始末出来るであろうお前に頼みたい」
「承知しました。師匠のご命令とあらばその任、引き受けさせていただきます」
「ビトレイ……死ぬなよ。お前は我が弟子の中で最も期待しているのだからな」
「もちろん死ぬつもりはありません」
ビトレイは現実に戻る。また、春人もこの時、ビトレイと同時に昔の記憶が頭をよぎっていた。
「春人、お前は昔からかなりの実力がある」
「突然何ですか?師匠」
「だが、今のお前でも白金の弟子はなんとか出来るかも知れないが、白金を倒すのは不可能だ。だから、白金の弟子と相まみえたらその際は撤退しろ。もし弟子がやられたと分かれば白金自身がお前を襲いに行きかねない」
「分かりました。ですが、大切な人が近くにいたならば私は間違いなく戦うことを選びます。先日息子も産まれました。大切な存在がまた一つ増えたんです。逃げるのも時には必要なことかも知れませんが、大切なものを守るために私は戦いたいのです」
黒鉄は少しの間黙り込む。そして口を開く。
「そうか。お前も随分と変わったな」
「そうでしょうか?師匠には全然勝てそうにありませんが」
「実力面で言っているのではない。確かに実力も弟子入りした当初に比べたらかなり強くなったと思うが、今、私が言いたいのはお前自身のことだ」
「私自身……ですか?」
「ああ。あの時に比べて随分と雰囲気が穏やかになったし、性格もかなり丸くなったように感じる。お前が関係を持つもの以外にはかなり冷たくしていたが、今ではその差があまり感じられない。だが、覚えておけ。仕事に感情を持ち込めば後悔することが起こることもある」
「分かっております」
「あと、白金の弟子には呼び名がある。その名はビトレイ。その呼び名は継承されるものだが、その名を持つ者とは戦うな。その名を持つ者は白金の弟子の中で1番の実力者だ。まあ、その時代によって強さも変わるが、戦わないのが1番良い選択肢だ」
春人にとってこの記憶は懐かしいものだった。そして春人は戦う決断をする。
申し訳ありません、師匠。貴方の教えに背くことになりそうです。
「お前達は小屋の所まで下がれ!お前達ではコイツには勝てん!」
2人は首を縦に振り、剣のとともに小屋のところまで下がったら隙を見て【ガッディスブレシング】を小屋を中心に展開した。
「その中から絶対に外に出るな!」
「さあ、白金の弟子よ。来るがいい」
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