115話 昇進と強制
帝国の反乱騒動から2週間がたった。皇帝は私のことをスターズとしてではなく、ベルンガの神級魔術師として称えた。
エリアとテレスの婚約は残念ながら見送りになった。実は領土をもらったあの日にエレン王妃がめでたく懐妊したからである。そのため、ベルンガ王国の国民には、子供の誕生の発表と同時にエリアの婚約の発表するとそうだ。そうなってくると、テレスだけ発表するわけにもいかないということで、結果的に2人の発表が先延ばしとなった。
ちなみにクラディールだが、2つの指輪は闇市で購入したということだった。そしてこれが私達にとって1番有益な情報だったのが『フェアラート』の第1級指名手配されている元作戦局作戦課立案係所属コードネーム「クラウス」そしてシャドウ評議会議員候補の1人だった人物だが、ある日突然スターズに牙を剥き『フェアラート』の幹部になった男ということだった。
それ以上情報を持っていないと判断した私は、速やかにクラディールとその他数名の将校は処刑してもらった。
ちなみにあの指輪はどうしたかというと、こっそり【コピー】で複製した後に王達の目の前で偽物の方を破壊し、本物は1番安全であろう私の【ストレージ】の中に保管している。
「それで、このからどうすんの?」
みんなで朝食を食べている中でアイリスが突如そう言い出した。
「どうするって何が?」
「決まってるじゃない。向こうに城を建てるんでしょ?」
「そうだな。城は私の【創造】で創るか『万能工房』で造る迷ってはいたが、最終的に城のほとんどは『万能工房』で造って、後の細かいのは【創造】で創る予定だよ。既にマリアに相談済みだが、何か希望があったら言ってくれ。でも、朝食を食べ終わってからにしようか」
「そ、そうですね」
エリアが何か言いたかったようだが、食事をしながらでは話す内容でもないからな。後で聞くから少し待っててくれ。
その後、朝食を食べ終わった私達はリビングへと移動した。
リビングでラクアスが持って来た食後の紅茶を飲みながらさっきまでの話を続ける。
「ところでこのお屋敷はどうするのですか?それにこの間の襲撃対処に使ったあれも……」
トワがそう質問してくる。確かにアレは私の許可がなければ起動出来ないようになっているが、その辺の対策はバッチリだ。
「それに関しては問題ない。一応ここはアルマー王国ベルンガ大使館として残すつもりだし、あの警備システムは、今は私の許可がなければ起動しない仕組みになっているが、城が完成して正式にここを大使館にしたら身分証を使って警備システムを操作出来るように設定を変更するつもりだから心配はいらん」
「そ、そうですか……」
「あの、ところで春人殿。プロキオン殿とベテルギウス殿はどうするおつもりなのですか?」
「私としては、アルマー王国支部の支部長と副支部長を任せたいと考えているのだが、今あの2人は本部に行ってるからそろそろ……」
すると、噂をすればなんとやら。彼女達が戻って来た。彼女達は最近私服姿でいることが多い。
「おかえり」
「只今戻りました」
「それで本部には何をしに行っていたんだ?」
「元帥閣下に退職届を私達で提出して来ました」
「……はぁぁぁぁ!?なんで急にそんなことを!?お前達にはアルマー王国支部が完成したら支部長と副支部長の役職に就任してもらうつもりだったのだが……」
「申し訳ありません。ですが私達はシリウス様。いえ、春人様の側にお仕えしたく思い、この度スターズを辞めて参りました」
「ククク。その気持ちならば私も負けてはおりませんよ」
突如そこに現れたのはディアボロスだった。
「私も春人様のお側にお仕えしたく存じます」
「お前もかよ!?」
まあ、ディアボロスはこの前にも似たようなことを言っていたから一応は考えているが、ディアボロスがこれを承諾するかは別問題だ。
「ディアボロス、お前に聞きたい。お前は給仕などの真似事をしても平気か?」
「それが春人様相手ならばなんら問題はございません」
「ならば、お前にはアルマー王国宮廷副執事長兼国王直属執事を任せようと思う。お前と似たような役職で補佐官があるが、そっちは別な者が担当している。役職としての権限レベルは補佐官と同様で宰相よりも少しだけ上だが、ほとんど変わらない。職務内容は、主に私の補佐並びに雑務等だ。やれるか?」
「お任せください」
「ならば良い。すまないが2人の役職は思いつかないから、国での役職が固まり次第任せても良いか」
「私はそれで構いません」
「同じく」
「すまんな」
「いえ。あ、話は変わるのですが、先程元帥閣下からこれを預かっております」
「これは……」
「特に聞いておりません」
封筒の中を開けると、3枚の紙が入っていた。1枚目は私、2枚目トワ、3枚目はテレス以外のみんなへ向けたものだった。
「春人様、なんと書かれておられたのですか?」
「ああ、3枚あってな。1枚目は、私への任命証で少将への昇進というものだ。先の反乱事件で昇進が決定したらしい」
「それはおめでとうございます」
「次はトワへの任命証で、特佐への昇進だ。同じく先の反乱事件で昇進が決定したらしい」
「3枚目は、テレス以外の君らへのスターズに所属させるといった内容だ。民間人でありながら、スターズ幹部と協力関係にあり、先の反乱事件でも大いに貢献したかららしい。すまんが、元帥命令で拒否権はない。もしも断れば無理矢理にでも所属させられかねない。ならば、試験を受けて少しでも上の階級にいく必要がある。下の階級では私やトワみたく特別任務という名ばかりの任務で民間人のように過ごすことが出来ないからな。ちなみに、実力試験は元帥が認めたとして、実力試験は通過したものとして次の筆記試験さえ乗り越えれば、その結果次第で幹部階級まで行くことが出来るかも知れん。ちなみにこの手紙によれば、既に曹長の階級は決まっているらしい。特例が与えられるのは最低でも特尉からだ。それに早めに受けなければ、その階級で決定してしまうから今日中にでも受けた方が良い」
「ちょっと待って!?あたし達筆記試験の内容知らないんだけど!?」
「しかも今日中では、覚えられません!」
「確かにその通りだな。まず筆記試験の試験内容から説明しよう。筆記試験の試験内容は、世界情勢と魔法理論が主だ。その他だったら小問題としてスターズの事とかがあるから多分そこら辺は大丈夫だとは思うが、その他だと君達では難しいと思うから、今回は少しズルをする」
「ズルですか?」
「ああ。私の魔法【メモリーエンチャント】を使って君達の脳にある記憶領域に私の知識を付与する。こうすることによって試験も大体の問題が解けるはずだ」
「春人様……それって大丈夫なのですか?」
プロキオンが質問する。確かにズルだと言われればそれまでだが、試験規定では問題ない。
「問題ない。試験規定では、自分の記憶にあるものでなければならないから問題ない。私はあくまでも彼女達に試験の範囲内容を教えただけだからな」
「試験規定の裏をかくということですか」
「簡単にいえばその通りだな」
「以前の春人様からはとても考えられない行動をしますね?」
「なんとでも言え。私はただ彼女達を少しでもスターズに関わらせないようにするための方法を考えているだけだ」
そろそろ初めてさっさと終わらせよう。
「それじゃあ始めるからそのままじっとしていてくれ。【メモリーエンチャント】」
【メモリーエンチャント】を発動させ、私の記憶から彼女達の記憶へと情報を流し込む。この魔法は下手な者が扱えば、相手の記憶に無理矢理干渉するため、記憶領域が流れ込む情報量に耐えられなくなってしまい、そのまま魔力暴走により脳が破裂して死亡してしまう可能性があるが、私ほどになると、緻密な魔力操作である程度の記憶を段階ごとに流し込んでいくことによって記憶領域が入ってくる情報量に耐えられないということには発生しないのである。
まあ、この事は彼女達には秘密だが。
「これで終わりだ。どうだ?ちゃんと記憶に私が送ったのは入ってるか?」
「はい。今まで知らなかったこともって!?こんな情報まで必要なんですか!?」
「何かは知らんが、試験に出ると予測されるものは大抵スターズでは必要なものなやなってくる。時間もないし、そろそろ行くぞ」
「え!まっ、待って!?」
彼女達には悪いが有無を言わさずに開いた【ゲート】で本部まで向かった。
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