114話 領土とAランクへの昇格
「にしても思ってたよりも何も無いな。まあ、逆に自由に整地したりすることが出来るということなんだが」
見えるのは草原と森。そして丘と遠くに山。近くには川も流れている。土地としてはそれといった特徴はないが、下手な特徴があると整地する時に厄介になるから特徴がないというのはかなり良いんだがな。
それとは別に、人に危害を加える魔物のあらかた駆除した方が良いかも知れんな。
《シエラ。【サーチ】を使用し、領土内にいる人に危害を加える魔物を全て探し出してくれ》
《【サーチ】発動。捜索中……完了しました。スマホのマップにて表示します》
スマホのマップを見てみると、確かに赤いピンが表示されていた。それにしても多くないか?
まあ、北海道とほぼ同じぐらいの広さがあるわけだからこれぐらいが普通なのかも知れんな。
「さて、問題はこの魔物の数だが……どうしたものか……」
「普通に倒してしまうのでは駄目なのですか?」
「いや、確かに信女の言う通り普通に倒してしまうのが1番手っ取り早いんだが、そうしてしまうと、素材となる魔物も一緒に同じように倒してしまうから、それはそれで厄介なんだよ」
「確かに素材となる部分まで攻撃してしまっては意味がないですからねぇ」
「こうなったら面倒だが、対象とした魔物の脳をごく微小の【サンダー】を撃ち込んで殺す方法が1番かも知れんな」
「そんなことが出来るんですか!?」
「出来るよ。ただし、これにはかなりの魔力制御が必要で、ある程度の実力を持った魔術師でなければ難しいだろうね。それこそ魔術階級ならば聖王級レベルの実力でも少し厳しいだろうね。だけど私は、トリスにだったらそれぐらいの実力があると私は思っているんだ」
「聖王級の実力が私にあるのですか?」
「私を誰だと思っているんだ?こう見えても神級魔術師の中でも最強とも言われる『魔剣の魔術師』だぞ?その私が言うことが信じられないかい?」
「いえ、春人さんなら信じられます」
「よろしい。でも、今のままなら難しいだろうから、私の時間が空いている時にでも稽古をつけよう。他にも魔法を教えたいのもいるからその者も一緒だけども良いかな?」
「構いませんよ」
「さてと、そろそろやるとするか。対象を人害魔物に設定。対象に対する魔法を極小【ゲート】にて繋げて攻撃」
《対象全てに対する【ゲート】展開完了。魔法発動を開始して下さい》
「【サンダー】」
私が放った【サンダー】が対象の脳へと繋がる全ての極小【ゲート】に放たれる。
《対象の生体反応を確認してくれ》
《確認完了。全対象の死亡を確認しました。脳以外への外傷確認ならず。また、対象近くに害悪となる人間の存在も確認出来ませんでした》
《指示してなかったのにそこまでやってくれたのか?助かった。ありがとな》
《これが私の務めですので》
まったく、そこは素直に喜んで良いっつうのに。
《シエラ。悪いんだが、今倒した魔物を全て【ゲート】でここに移動させてくれないか?》
《【ゲート】展開。討伐した魔物の転移を開始します》
「わぁ!?な、なんですかこれ!?」
あ、やべ。説明するの忘れた……。
「すまん。さっきので討伐した魔物を【ゲート】で全てこっちに移動してまとめようと思ったんだけど…伝えるの忘れてた」
「もう。驚かさないでちょうだい。びっくりしたじゃないの!で、これどうすんの?流石にあたし達だけじゃ終わらないわよ、これ」
そこにあるのは約5m程の高さと横が3m程の大きさの魔物の死体の山だった。
「私の部下を全員呼んで手伝わせるという方法もなくはないが……あいつら解体とかやったことがない奴が大半だから、下手に任せると素材になる部分まで傷付けそうだし……他のみんなにも手伝ってもらうか」
「シリウス様。私達は魔物の解体経験がありますし、大体の魔物の素材となる部分の場所は把握しております。少しでもお役に立てると思いますが……」
「分かった良いだろう。だが、もうスターズも公の組織……というか国となったわけだから正体を隠しておく必要もない。だからもう普通の服でも良いんだぞ?」
「分かりました。では、失礼」
そう言って彼女達は木陰の方で【ストレージ】仕舞っていたであろう私服に着替える。服装は、血で汚れてもあまり目立たない黒に近い茶色のワンピースだったり、黒ローブを着たりしていた。
「お二人共女性だったのですか!?」
トリスが驚いて声を上げた。アイリスも驚いているといった表情をしていた。
「あの、プロキオンさんとベテルギウスさんの本名って何なんですか?」
「私達には名前はありません。強いて言えば、このコードネームが名前ですね」
そういえば、私直属になった頃からコードネームで呼んでいたからそれで通していたが、まさか2人とも名前が無いのには驚いたな。
「春人様。スターズでは名前が無いことがあるのですか?」
「そうだね。全員ではないが、名無しもいる。そういった者の多くは、スターズの孤児院で物心がつく前から育てられている者が番号が仮の名前だったり、他にはコードネームでしか呼ばれないことにより本名がどうでもよくなった者や他からやって来た者が記憶処理によって名前を消されてコードネームが与えられてそれが名前となる者など様々いるが、確かこの2人よ場合は、1番最初の例だったはずだ」
「そうなんですね」
「それよりも、これを早く片付けないと、食肉になる魔物は腐るかも知れないから早く解体してしまおう」
「そうですね」
「それじゃあ、手伝ってくれそうな人達を集めてくるから待っててくれ。2人とも。その子らを頼んだぞ」
「「お任せください」」
そうして【ゲート】を開き、手伝ってくれそうな人物を探しに一旦屋敷の方に戻った。
そしてそれから数時間後……。
「これで最後だな?」
「はい……これで終わりました」
「皆さんお疲れ様でした。約束通り、自分が解体したのは、自分の金としてしまって構いません。急な誘いに応じてくれてありがとうございました」
今回の誘いに応じてくれたのは、屋敷にいたクリスさん以外の全員と何故か屋敷に来た五星使徒の全員。そして、丁度非番だったアルドーさんとリオン騎士団長にも声をかけて手伝わせた。この2人は遠征などで魔物の解体をしたりして、その腕がかなり良いと聞いたことがあったからだ。
だが、流石にそれぞれ違った魔物をランダムにひたすら剥ぎ取るのはキツイらしくかなり疲れていた。かく言う私も疲れてはいるのだが……。
それにしてもアルドーさんがやけにやる気があったのは何かあったのだろうか?それを聞こうかと思ったが、左手の薬指にはめている指輪大体察することが出来た。
確か、アルドーさんは以前のバルハラン王国への護衛隊として行った時にベルンガ王国との同盟に関する功績によって叙爵された、バルハラン王国外務省所属のマリィ名誉男爵と婚約したんだったな。そうなると、アルドーさんは次男だから家督が継がないから、結婚したら婿養子ということになるのかな。
そして、私の隣にはこういった作業に慣れていない様子だったテレスに剥ぎ取りのコツなどを教えたり時々手伝ったりしていたが、思ったよりも飲み込みが早く、10分もしないうちにほとんど1人で出来るようになっていた。
「お疲れ様。普段こういったことなんて初めてだろ?大変だったろ?」
「はい、確かに大変でしたわ。ですが、こういったものも勉強になりますし、早く春人様達のお役に立ちたいんですの」
「嬉しいことを言ってくれるが、子どもがそんなこと気にしなくても良いんだぞ?」
「子どもって…確かに春人様からしたらそう見えるのかも知れませんが、私は春人様の婚約者なのですから子どもではなく、1人の女性として見てほしいんですの」
「そうだったな。すまん。これからは気をつけるよ」
そう言いながら、私はテレスの頭を撫でる。
「もう。春人様!」
「これは婚約者としてだから良いだろ?」
「それなら、まあ……許しますわ」
さて、これで一先ずはこれで人害の魔物の駆除は終わったが盗賊なんかを【サーチ】で探してみると、いろんなところに拠点があった。縄張りみたいな感じで盗賊団が複数ある感じか?
その話を騎士団のツートップであるアルドーさんとリオン団長にしてみる。
「確かに春人殿がおっしゃられた場所に盗賊団のアジトがあるという噂は聞いたことがありましたが、その信憑性もあまりなかったので、騎士団も動かずにいたんですよ」
「確かかなりの賞金首も何人かいるって噂があったな。非番の我々ならば、その賞金をもらえるはずだぞ」
「春人さん……どうしますか?」
トリスが尋ねてくるが、魔物はともかく盗賊団を野放しにしておくのは悪手過ぎる。それに自国に盗賊団がいるのは、外見的に良くないからさっさと潰してしまうのが1番だな。
「剥ぎ取りを手伝ってもらってあれだが、頼み事をしても良いか?」
「どうせ、その盗賊団を捕まえて来てほしいんだろ?」
「別に私達は今は暇だから構わないわよ」
「悪いが頼む」
私が【サーチ】で見つけた盗賊団のアジトは全部で5ヶ所だ。五星使徒で1人1つを潰せばいい感じだ。
「それじゃあ、私も行ってくるからここで少し待っててくれ」
「あの春人殿。私も一緒に同行しても良いですか?」
「まあ、構いませんよ。それじゃあ行きましょうか。【ゲート】」
【ゲート】でアジトの近くまで移動して、少し歩くのでアルドーに同行した理由を聞いてみた。
「で?私に同行したのは賞金首狙いですか?」
「やっぱりバレてましたか?」
「そりゃあ、あんなに解体作業を一生懸命にやってたし、その素材部位はまあまあの値段で取り引きされるのが多かったですからね」
「それにしても今更ですが、春人殿の話し方ってちょくちょく変わりますよね?何か基準みたいなものでもあるんですか?」
「そうですね。基本的にはこういう感じに話しますが、真面目な時や怒りを感じている時なんかはタメ口だったりになりますね」
「そうなんですね」
「そういうわけだから、そんな深い意味なんてありませんよ。それよりもそろそろ目標が見えて来たので、ここからは極力話さないようにして行きましょう」
「分かりました」
アジトとはいったが、実際はほぼ砦だ。ここら辺は昔、ベルンガ王国のある辺境伯が帝国の国境防衛のために築いた砦らしい。だが、戦争が終わり不可侵条約が結ばれてから辺境伯は別の街に移動となり、そして残された砦が盗賊団に占領されたらしい。
砦の城壁に見張りの弓部隊が7人。門の前に見張りが2人。そして砦の中には40人ぐらいだな。かなりの大規模の盗賊団みたいだな。そのことをアルドーに伝えると……。
「あまりにも数が多すぎますね。本来ならば、騎士団を呼んでも死人がでる規模の盗賊団ですが、春人殿からしたらこの人数、敵でもないのでしょ?」
「まあ、そうだが。それはあくまでも処分するんならという話であって、全員を生け取りにするとするとなると面倒なんですよね。まあ、全員を気絶させる事自体は簡単ですけどね」
「だが、これだけの規模の盗賊団だと、魔法無効化の護符を持っている可能性もある。そうなると、即死級の魔法でなくてはダメージも通らないし、当然、その攻撃を喰らったらその者は死にます。ですので、まずは中に潜入しましょう」
「どうやって潜入するんですか?春人殿のような高位の隠蔽技術は持っていませんよ?」
「それならば心配いりません。私の【インビジブル】という光屈折魔法で姿を見えなくします。これを使えば、余程の実力者が向かうにいない限り気付かれずに潜入して作戦を遂行出来るはずです」
「分かりました。それでいきましょう」
「では、準備は良いですね。【インビジブル】」
姿を見えなくし、砦の中へと入る。砦の中へは、あらかじめ【サーチ】で誰もいないのを確認してから【ゲート】を使って中に潜入した。
私は、アルドーに聞こえるように小さな声で伝える。
「言っておきますが、これはあくまでもただ見えなくなっているだけなので、アルドーさん自身も気をつけて行動して下さい」
「分かっています」
その後、中を調べてみたが、誰も護符を持ってはいなかったので、砦(砦の城壁にいる者達や見張りも含む)に対して魔法を使い全員を気絶させた後に、縄で幾つかに分けて縛り拘束する。
そしてスマホを取り出して他のところにも連絡を取ると、もうとっくに終わっていたそうだ。
そして、さっきまで解体作業をしていた場所まで盗賊共も【ゲート】で移動して、全員を王都までアルドーが連れて行った。
ちなみに盗賊共が溜め込んでいた物は、アルドーに渡すために一旦【ストレージ】に保管している。そしてあの砦なんかは利用価値があるので、私が許可した者以外が入れない特殊結界を張っておいたので、悪用されることはないはずだ。
そしてこれは後にアルドーから聞いたことだが、どうやらあの盗賊共のほとんどが高額な賞金首だったらしく、かなりの大金をゲットしたらしい。だがアルドーは、自分はあんまり活躍していないからと言って私にそのほとんどを渡そうとしてきたが、当然、彼の資金にするために協力したわけだから断った。
そして、その間に他の人達の素材を袋にそれぞれの名前を書いて【ストレージ】に入れる。この量を持って歩くとなると少しキツいだろうからな。必要な時に私に言ってもらえればギルドに持って行って換金して本人にその金額をそのまま渡す予定だ。
そして私達は屋敷に戻り私達の分の換金をしようとギルドへと向かった。ちなみにソーラル達は、盗賊を捕らえて私に引き渡した後、本部に戻ってしまった。
そして、ギルドに行き素材の買い取りをしてもらっている間にテレスの冒険者登録をすることにした。
私は最初、テレスが冒険者登録をするのに反対したのだが……。
「私、春人様のお役に立ちたいのですわ。なので、冒険者登録をすれば、少しでもお役に立てると思いますわ」
ということで、物は試しだと思い、彼女の冒険者登録をすることにした。
「すみません。この子のギルド登録をお願いします。あ、それとベルンガ王国とヴァース帝国の王から通達が来ていると思うんですが」
「確かに来てますけど……あの、帝国での反乱を一人で鎮圧したって本当なんですか?」
「正確には1人ではありませんが、帝都で発生した反乱を鎮圧したのは本当ですよ」
「本当なんですね。神級魔術師ってやっぱりすごい人なんですねえ……」
そうイリスが言う。そして、そのイリスの隣で別の受付嬢からギルドの説明を受けていた。あ、何故彼女の名前を知っているのかというと、以前に彼女から私への指名依頼を受けて、依頼主として名前を教えてもらって、たまにだが名前で呼んだりすることもある。
そして、テレスの双剣の腕前だが、少し模擬戦をしてみたが、それほど悪くはなかった。実力ならばフラーシュとほぼ同じかそれ以上あると思う。魔法に関しては残念ながら属性は持っていなかった。
「では、ギルドカードの提出をお願いします」
カードを差し出すと、いつもとは違うハンコをカードにポンポンッと押していく。
「この度の上位悪魔と下位悪魔複数の討伐が帝国の方で保証されました。アークデーモン討伐の証『デーモンキラー』とレッサーデーモン討伐の証『デーモンスレイヤー』の称号をギルドから贈らせていただきます」
黒竜討伐の証『ドラゴンスレイヤー』と国への貢献の証『カントリーコントリュート』に、アークデーモン討伐の証『デーモンキラー』とレッサーデーモン複数討伐の証『デーモンスレイヤー』か。ギルド指定の称号も増えてきたな。
「これにより春人様は4つのギルド指定の称号を獲得しました。そしてベルンガ王国ならびにヴァース帝国からの推薦により春人様のランクをBランクからAランクとさせていただきます。おめでとうございます」
この件は私も聞いてないぞ?あの2人もしかしてわざと言わなかったな……。
そして戻って来たギルドカードは金色へとなっていた。ベルンガとヴァースの両国から正式にその実力を証明されたんだ。冒険者ギルドとしてもかなり満足がいっていることだろう。
「いや、普通にしていますがこれは凄いことなんですよ!?Aランクの冒険者が出たのは、この国では20年ぶりのことですし、世界的に見てもAランクの冒険者の数は圧倒的に少ないんですからね!」
そんなこと言われてもはっきり言って冒険者の地位にあまりこだわりはない。元々冒険者として活動しようと思ったのは、情報収集に便利だからだ。だからこんなことになるのは正直予想外だったが、思ったよりも悪くないのかもしれないな。
「春人様。登録が終わりましたわ」
登録を終えたテレスが私に黒色のギルドカードを嬉しそうに見せてくる。
「これで私も春人様と同じ冒険者ですわ」
「そうだな。これから頼りにしているぞ、テレス」
「はい!」
彼女が嬉しそうに微笑む。スターズでの生活も悪くはないと思っていたが、今ではこっちの生活の方が楽しく感じる。アリス達が死んでから私は生きる意味を持つことが難しくなっていた。だが、彼女達と出会い婚約までした今、私はもう彼女達を失いたくないし、アリス達の分までこの子達を幸せにしてあげたい。
ああ…アリス、桜見てるかい?私は今とても幸せだ。この子達は私が幸せにする。君達の分まで。だから安心して良いよ。だけどたまにで良いから私の呼びかけにも応じてほしいな。あの術は意外と難しいんだからね。
そうアリスと桜に心の中で言いながら彼女達と屋敷へと帰るのだった。
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