113話 6人目の婚約者と2カ国の建国宣言
生き残ったクラディールに加担した帝国兵は全て捕えられ、帝城の地下牢へと幽閉された。当たり前だが、身分は剥奪され、財産等は全て没収となった。ちなみに、その財産は被害の受けた建物などの修理費に当てるそうだ。
そして、幽閉されている元帝国兵は現在、罪状などの確認を行い、罪の重さを決めている最中だという。ただし、降伏勧告を受けて投降した者に関しては、宣言通り罪を軽くするようだ。だが、一部の反乱の扇動者は、死刑は免れたもののそれなりの判決は受けたらしい。
ちなみに、今回帝国軍が反乱を起こしたといっても、その全てが反乱を起こした訳ではない。それならば、とっくにこの国は終わっていただろう。そして、軍属で反乱を起こさなかったのは、以前から悪魔による進軍に反対していた第一軍団と第五軍団だけだった。とはいえ、その数は優に200を超える人数が在籍している。帝国からしたらそれだけの人数の軍人が残ってくれたのはありがたかったことだろう。
そして、無事に帝国の重臣達も救出した。宮廷医師もその中には捕らえられていたのだが、何故かその宮廷医師も含めて私が検診を行うことになった。
その後、第一軍団長のレーヴァンス将軍が保護していた王太子が城にやって来た時には驚いた。なんせ、あの時助けた騎士だと思っていた人物が実はその国の王太子だったなんて知ったら普通驚くだろ?まあ、向こうの方も私に驚いてはいたが……。
「まさか君が帝国の王太子だったとはな……」
「あの時は危ないところを助けていただきありがとうございました」
「春人様、お兄様をご存知なのですか?」
「知ってるもなにも、私が城に向かっていた途中で偶然反乱兵に襲われているのを見かけて、反乱兵を片付けた後に回復魔法で傷を治してから近くにあった建物の中にとりあえず見つからないようにしたんだよ。そうか、無事に逃げられたようで安心したよ」
「今ここにいられるのも貴方のおかげです。本当にありがとうございます」
そう言って王太子は頭を下げる。
こう言っては失礼だが、なんだか気配が薄いんだよな。まるで常時、隠密系の魔法なんかをかけているみたいに薄いんよ。でも、民のことを考え、それなりに優秀で人柄の良い人物らしいんだがな。
スターズが撤退したのを確認後、私達は帝城内の貴賓室で、話し合いをしていた。
「この度は本当に世話になった。春人殿は余の命だけでなく余の子らの命も救ってくれた。それだけではなく、反乱を終息させた帝国の恩人とも言える。何か礼をしたいが、望みはあるだろうか?」
「ありませんね。寧ろ、30年前にことが解決させられていれば30年前の戦争も防ぐことが出来ましたし、それにクラディールの計画にもっと早く対処していれば民間人への被害は出なかったと思います。なので、ここで欲を言ってしまったら私自身がそれを許さないと思います。ですので、私から望むことはありません」
皇帝の申し出に断りを入れる。本来ならば防げていたかも知れない事件なんだ。ここで、私が欲を出してしまってはいけない。それにそもそも私自身がそんな皇帝に望んでまで欲しいものなんてないんだよな。
「春人殿は相変わらずだな。ベルンガで春人殿に助けてもらった時にもお礼として何か望みを叶えてやろうと思ったのだが、その前に色々とあってそれを言えなかったですが、結局、礼として金と家を受け取ってもらえただけでしたな。まああの時、魔眼のせいで結婚相手に悩んでいた娘からの希望で春人殿がその要望を聞き受けて、娘をもらってくれたのが一番嬉しかったですがね」
「なるほど、その手があったか!では余からもテレスフィーナをもらってはもらえないか?ベルンガとヴァースの両国の姫と婚約したとなれば、これほど良い同盟の象徴はない」
「あのですね……。そもそもベルンガとヴァースでは同盟なんて結んでないでしょ?」
「いや、春人殿がスターズの者達と後片付けをしている間に両国との同盟を結んだのだ。あ、ちなみにこれが同盟書だ」
そう言ってベルンガ王が同盟書を見せてくる。確かに直筆のサインと両国の王家の印が押されており、それが正規の同盟書だと証明していた。
「分かってもらえたか?それと今後はヴァースも三ヶ国同盟に加えて西方同盟と改名して新たに同盟を結びたいと考えている」
それは正直助かるな。西方同盟国内ならばスターズも自由に捜査をすることが可能だ。同盟国としてまとまってくれた方が私的には助かる。
「話を戻すが、テレスフィーナをもらってはくれないか?」
「私は仕事の邪魔をしないのであれば、好きにしてもらって構いません」
半ば諦めた声でそう答える。
「よし、言質は取ったぞ。テレスフィーナもそれで良いか?」
「はい!こんなに嬉しいことはありませんわ!喜んで春人様のところへお嫁に行きます!」
「ところで今更なんだが、君達はテレスが私の婚約者になることについての賛否を聞かせてもらえないか?」
そこでエリアが一目散に手を上げる。
「私はテレスフィーナ皇女が私達と同じく、春人さんの婚約者となることに賛成します。それに関しては事前にテレスフィーナ皇女とも皆さんも交えて話し合っていたのですが、満場一致で春人さんの婚約者となることに賛成していました。それにこの話は両国の友好のため、良い縁ではないかと私は思います」
いつの間にそんな話し合いをしていたんだよ!?というか、なんで婚約者となる私はその話し合いに交ぜてもらえなかったんだよ。まあ、今更言っても仕方ないか。
「そういう訳だから、あたしも賛成」
「私も、賛成です」
「拙者も賛成です」
「私は、春人様を心から想ってくださる方ならば構わないと思っています。それが、春人様の幸せにもなると思いますし」
もうこれじゃあ断れないなと思いため息を吐くと、テレスが赤い顔で涙目になりながらこっちを見る。すると、後ろからいつの間にか私が繋げたままにしていた【ゲート】からこっちに来ていたレオナルド将軍が私の肩を叩きながら言う。
「もう5人も6人もそう大して変わらないだろ。何をそう躊躇う必要があるんだ?」
ほんと、この人は相変わらずだな。確かに人数的にはそう大して変わらないが権力とかそういう問題がだな……。
「いったいどうしてこうなったんだか……」
そう呟くと、アルドーが苦笑いをしながら私の呟きに答える。
「それはきっと春人殿の権力と力のせいですね」
「どういう意味だ?」
「今回の件で改めて分かりましたが、春人殿の力はあまりにも規格外です。単純な力だけでなく、強大な組織の指揮も行い尚且つその事を世間に公表しました。なのに、そんな力を持った人物が一国だけに肩入れしてしまってはベルンガが他国から危険視されてしまう可能性があります。ですが、帝国の姫君をエリアリア姫と同じ婚約者としたとなれば、ベルンガだけに特別扱いをしてないという言い訳ができる。という考え方が出来るわけです」
「私としてはベルンガだけに肩入れしているつもりは全くないんだがな」
「それはそうかも知れませんが、何も知らなければそう見えてしまうものですよ」
「なるほど。それなら逆に春人殿を変に帝国の政治的取り引きに利用しようと思うという発想自体がなくなり、ベルンガとヴァースが対等に同盟を結べるというわけですね」
「ええ、その通りです」
「確かにアルドーさんの言う通り、何も知らなければ私は恐怖の対象になる。私自身はそれで構わないが、ベルンガまで危険視されるのは厄介ですね。それならばテレスと婚約をすれば問題はそんな問題は起こらないというわけか……あまりこういった政略結婚じみたものは好きではないが、テレスが私との婚約を望んでいるのであれば、それを叶えてやりたい」
私は改めてテレスに問いかける。
「テレス。今の私は君を恋いている訳ではない。それに私といるということは今回の反乱事件以上に危険な目に遭うかも知れない。それでも私の婚約者となり一緒にいる覚悟が本当に君にはあるのかい?」
「春人さん、その言い方は!」
「エリア、今は少しだけ黙っていてもらえるかな?これはとても重大なことだ。これだけは私も譲れない。ここでその覚悟がなければ、この先に待っているのは恐らく恐怖という人生のみになるだろう。だからこそ、今一度彼女にその覚悟を問いかけている。それだけは分かってほしい」
そういうと、エリアは黙り込む。すると、テレスが口を開き私にはっきりと宣言する。
「私は、春人様の伴侶の一人として生涯を共にする覚悟を持っているつもりですわ!それに私はそれなりに戦えますので、多少はお役にたてると思いますわ」
「だが、あの時は反乱兵に殺されかけていたが?」
「私が得意とするのは双剣ですわ。体術もそれなりには出来ますが、現役軍人程ではありませんわ。ですが、それでも春人様のお側で一生を添い遂げたいのですの!今一度お願いしますわ。私との婚約を受け入れてはもらえませんか?」
そう言ってテレスは私に頭を下げる。流石にそこまでの覚悟があるのであれば止めることは野暮だな。
「分かった。それほどの覚悟があるのであれば私が止めることはもうない。これからよろしくな、テレス」
「はい!よろしくお願いしますわ、春人様!」
私との婚約を結ぶことができたテレスは、きゃーっ、とはしゃぎながらエリア達の輪に加わっていった。仲良くなるの早すぎないか!?
まあ、覚悟がなんだとかんだと言ったのは、あの子の人生を思ってのことだったが……その必要はあの様子から見るになかったのかも知れないな。
「そうだ。この際だから、エリアとテレスフィーナ皇女との婚約も国内外に正式に発表してはどうかと思うのだが、そうなると春人殿の身分が必要となってくる。もちろん神級魔術師の身分だけでもかなりのものだし、スターズの五星使徒の一柱ということでも十分な身分だとは思うが、両国の姫の婚約者がスターズの構成員の身分だと不安に思う者も多いだろうし、神級魔術師でもその存在がどう影響することになるのかは私達にも正直分からん。そこでヴァース皇帝との協議をした結果、春人殿にヴァース帝国からは今回の件の謝礼、そして我がベルンガ王国からそれぞれの両国の領地を分割譲渡することが決定した」
「領地の分割譲渡って、私にはスターズの仕事もあるんですよ!?」
「別に良いじゃありませんか」
私がそうツッコミを入れると、突如貴賓室に【テレポート】でやって来た白夜がそう言い返す。
「失礼だがその者は?」
ベルンガ王がそう尋ねる。
「この人は、望月白夜。スターズの元帥……つまり私達スターズのトップです」
この場にいた全員が口を開けながら驚く。
「それでなぜ、こっちに?」
「なんだか面白そうな話をしていたのでつい……」
「あの、先程望月と言っておられましたが、春人さんとは上司と部下以外の関係があるのですか?」
「それはですね……」
「いや、白夜。ここは私が話そう。白夜は私の息子だ」
『えぇぇぇぇぇっ!?』
かなり驚かれてしまったな。
「春人殿、子どもがいるってことは結婚しているのか!?」
「そういえば、ベルンガ王には話していませんでしたっけ?一応私は結婚をしていましたが、ある事件で妻と死別したことにより、今は独身の身ですね。一応エリア達という婚約者はいますけど……」
「なんかすまん」
「いえ、もうだいぶ落ち着きましたので」
「母上が殺された時の父上の姿は見るに耐えなかったので、今これだけ明るくなっているのが嬉しいのです。皆さん、どうか父上を支えてあげて下さい。父上は自分の気持ちを素直に伝えることができずに遠回しに聞くところがありますので」
「ああ、さっきのはそういうことですか」
「白夜殿と申したか」
「なんでしょうか?ヴァース皇帝」
「スターズを正式に国家として世界に広めるつもりはないだろうか?」
「それはありかも知れんぞ、白夜。もうスターズは世界に存在を知られることになる。ならばいっそのこと国として独立権行使すれば、余計な国から自国だと主張されることもない。これは悪くない考えかも知れんぞ?」
「父上がそこまで言うのは珍しいですが、私の独断で決めても良いことでは……」
私は急いで五星使徒の全員にメッセージを送ると、すぐに全員から返信が返って来た。
「どうやら問題ないみたいだぞ」
「どういうことですか?」
「五星使徒の総意で独立国としてスターズを公表することもありだということだ」
「ああ!もう分かりました!!スターズはこれから独立国として世界に公表しますが、国の場所は明かせませんがよろしいですね」
「構わん。では、スターズを国として認め、ヴァース帝国とベルンガ王国が建国の後ろ盾となろう」
「ならば白夜、スターズだけじゃ国名ぽくないから、国名を例えば、武装諜報国家スターズとかにしてみればどうだ?」
「良いですね。国名はそれにしましょう」
「では、春人殿の国の国名も教えてもらえるか?」
「そうですね。アルマー……アルマー王国なんてどうでしょう?」
「アルマー王国か、悪くない。では、ベルンガ王国は武装諜報国家スターズならびにアルマー王国の建国を支持し、同盟国として承認する」
「ヴァース帝国も同じく」
「ところで、その分割譲渡される場所は何処なんですか?」
「春人殿。すまんが地図を出してくれるか?」
「分かりました」
地図を空中に投影する。
「場所は大体この辺りだ」
示された場所は、ベルンガ王国とヴァース帝国の丁度国境線の中央付近だった。
「少し狭い国だが、住むのは春人殿の関係者のみだろうから多分このぐらいの広さで事足りると思うのだが……」
確かにそれならば、この広さだけでも事足りるかも知れないが、どうせなら今までやれなかったこともやってみたいし、もう少し広げる許可をもらうか。
「すみませんが、この辺からこの辺までアルマー王国の国境を広げてもよろしいでしょうか?もちろんタダでとは言いません。【ストレージ】」
【ストレージ】から金の入ったケースを何個か取り出す。
「このケース1つに王金貨1万枚入っています。更にそのケースを両国にそれぞれ2ケース分で購入させては頂けませんか?」
「これだけの量の王金貨、春人殿に売ったとしても釣りが出る量だぞ?」
「それは建国へと御礼金ということで」
そう言って皇帝の方を見ながら言うと、皇帝は本当の目的を理解したのか、小さく頭を下げた。その様子を見て、他のみんなも何も言わないが本当の目的を理解した様子だった。
今購入した土地と合わせてどのぐらいなのか見るためにこっそりスマホで面積を調べてみると、約83500㎢あることが分かった。おいおい、北海道とほぼ同じぐらいの広さがあるのかよ……思ってたよりも広かったな。
《これで戦力が独自に増やすことが出来ますね》
《ああ。スターズでは難しかったが、これで思うように戦力を増やすことが出来る。ドランクへの対応がしやすくなるし、今回の反乱事件で車や航空機などは民間人にも見られたわけだから、これで自由に生産も可能になったし普通に運用もすることが可能というわけだ》
まあ、でもあそこら辺は何にも整地されていない荒野だからまずは土地の整地から始めなくちゃならないし、魔獣の対処だったりそれに領土内には確かかなりの規模の盗賊団のアジトがあると聞いたことがあるから、それも潰さなくちゃならないし……建国するのも結構大変なんだな……。
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