110話 召喚と召命
「では主。先程お話した通り、主が召喚陣を展開次第、主の魔力に私の霊力を混ぜます。そうして主が召喚呪文を唱えることで、玄武を呼び出すことが可能のはずです」
「そうか。ならば早速やるか。あまり時間は掛けられないからな」
「はい」
万が一の事態に備えて、コハクが本来の姿に戻っていた。
召喚陣を展開し、私が魔力わ召喚陣に流し込むのと同時にコハクが召喚陣に霊力を流し込む。これで準備は完全に整ったな。
「【北方と水を司りし神獣玄武よ。我が声に応じ、現世へと顕現せよ】」
コハクに言われた通りの召喚用呪文を唱える。すると、魔法陣が光るのと同時に黒い霧が魔法陣内部に充満していき、その黒い霧が晴れると、その姿を見えた。
見た目はコハクと同じく、地球の神獣の姿となんら変わらない亀に蛇が巻きついているような姿をしていた。
『む?やはり白虎の霊力であったか。久しぶりの気配に思わず反応してしまったわ』
『久しぶりですね、白虎。元気そうでなによりです』
『久しぶりだな。玄武』
コハクと玄武がその後も少し他愛もない話をした後にやっと私のことに触れてくれた。
『それで、我らを呼び出したのはそこの人間か?』
『そうだ。こちらの方が我が主であらせられる望月春人様だ』
『人間が主とは随分と白虎の名も落ちたものですね』
『なんとでも言うが良い。これからお前達も主を主と認めざるおえないだろうからな』
『白虎もそんな戯言を言うんですね』
『ほぉ?面白い。人間が我に勝てると思っているのか?』
「勝てなくとも、力を見せつけることぐらいはできるつもりだ。だからこそ、お前らには私を主と認めてほしい」
『ならば、契約試験として我らと戦い、我らと契約出来るだけの素質があると判断したならば、契約してやろう』
「それで構わない。それで、この戦いのルールはなんだ?」
『ルールはありません。貴方の全力を持って我らにかかって来てください』
「分かった」
その条件で闘うことにした私は召喚陣の中へと入る。
召喚陣で呼び出されたものは、召喚陣から外に出ることは出来ない。それは神獣とて例外ではないのだ。ただし、召喚陣の外から中へと入ることは出来るので、こちら側から行くしかないのだ。
「では、審判は僭越ながらこの私、エンシェントケルベロスのコルビエラが務めさせていただきます」
「ビエラ……いたのか?」
「先程からおりました」
「そ、そうか。審判が決まったことだし、そろそろ始めよう」
『そうですね』
「それでは、はじめ!!」
先に私が動き、ホルスターから銃を抜き、瞬時に撃ち込む。だが、神獣の中で最も防御力と体力値が高い玄武には、対ドランク用特殊徹甲弾でさえ、傷ひとつ付けることが出来なかった。
「なら、これならばどうだ。【ダークブレイズ】」
一本の【ダークブレイズ】ではなく、空中に無数に出現させた【ダークブレイズ】だ。これならば効果はあるはずだ。
【ダークブレイズ】を玄武へと一斉に落とす。この際に全ての【ダークブレイズ】に【マジックブースト】と【ゲイル】を【エンチャント】しているので、かなりの威力がある。中級のドランクならば余裕で木っ端微塵に出来るほどの威力がある。最近私が新しく考え出した方法である。
『なかなかやるではないか。これは流石の我も肝が冷えたぞ』
「無傷の状態で何を言うか。これでも駄目ならばこれを使わせてもらおう。【闇の永久牢獄】」
【闇の永久牢獄】とは、『魔剣の魔術師』の本質とも言える技だ。『魔剣の魔術師』の魔剣はあくまでも使っている魔法の象徴にすぎない。だが、【闇の永久牢獄】は、神級魔法の域にある。神級魔法ではあるが、この魔法は、ほぼ私専用の魔法と言っても良いだろう。他の闇系統の魔法の神級魔術師が使おうとしても発動することが出来ない。それだけ、この【闇の永久牢獄】は特別な魔法なのだ。
『な、なんだこれは!?』
【闇の永久牢獄】に閉じ込められた玄武はそのように叫ぶ。今の声からして蛇の方が叫んでいるようだな。
すると、【闇の永久牢獄】が崩れていった。おいおい冗談だろ?いくら神獣でもそう簡単には破れないはずなんだがな……。
『やっと抜け出せたわ。これで終わりか?』
「舐めるでないわ」
《召命───牛鬼》
《召命───鬼神》
『召喚陣の中でさらに召喚を行っただと!?』
「厳密には召喚ではないんだが。まあいい。お前ら悪いが、時間を稼いでくれ」
牛鬼と鬼神が分かったというように首を縦に短く振った。
その間に魔法はあまり効果はなさそうなので、術の展開を始めようとしたが、玄武が口から地面が溶けるぐらいの高温度の熱光線を撃ってきて私の邪魔をしてきたので、軽い術で少し反撃する。
「『妖火の術式、鬼火の術』『土の術式、要石の術』」
鬼火の術で玄武を少し熱した後に注連縄が巻かれた巨大な岩を落とす。
「これで終いだ」
《召命───雷獣》
雷獣による雷撃は、水を司る玄武からしたら厳しいものになるだろう。そして仕上げに。
「『雷電の術式、雷神の術』」
雷神の術をトドメに食らった玄武はそのまま気絶してしまった。
「勝者、春人様!」
それから少しして、玄武が目を覚ましたところで、契約について聞く。
『我らの負けだ。貴方様を我らが主として認め、ここに主従の契約を』
「ああ。コハクと同じ契約の仕方で問題ないか?」
『問題ありません』
「ならいくぞ。【我が名は望月春人。ここに主従の契約を結びし種族は神獣玄武。我が契約獣となりし汝らの名は……ヤト。ユカリ!】」
『確かにヤトの名。拝命しました』
『ユカリの名。ありがたく承らせていただきます』
蛇の方にはヤトの名を。そして亀の方にはユカリの名を与えた。
「お前達にやってもらいたいのは、知能がそれなりにある人型の魔物の召喚だ。玄武の眷属が1番多いと聞いたからな。任せても良いか?」
『はい。問題ございません。それで数はいかほどに?』
「数は大体リザードマンが50、リザードナイトが30ぐらいで構わない。その他の戦力はこちらで用意しているから、その助力程度で構わないし、当日になったらお前らにも出撃してもらう予定だからそのつもりでいてくれ。あと、今のコハクのように小さくなってもらえないか?出番の時にはその姿でも構わないが、常時その姿だと、ここにいる屋敷の者達が驚いてしまうからな」
『承知しました』
そう言って、玄武……ヤトとユカリは両手になんとか収まるぐらいのサイズまで小さくなった。
「では、私の指示があるまではコハクとともに待機していていてくれ」
「了解です」
さてと、次はベルンガ王のところに行って、今回のことについて説明しなくてはな。
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