108話 皇帝の救出
「全員その場を動くな!」
銃を構えてそう叫ぶ。
そこにいたのは、軍服から判断して、尉官が3人、佐官が7人、そして将官が1人。そして、明らかに死亡しているのが分かる警護の騎士の死体。
その騎士に護られるようにして転がっていたのは、間違いなくヴァース帝国皇帝だった。
「騎士団の者ではないな?いったい何者だ?外には強力な結界がいくつも張ってあったはずなんだが…一体どうやって入った?」
「あの程度の結界、神級魔術師である私にとっては無意味に等しいものだったよ」
「何故、神級魔術師がこのようなところにおるのだ?」
「それは──」
その途中でプロキオンが本部から来た内容を伝える。
「シリウス様!本部より緊急連絡です。現時刻をもって元帥及びシリウス様を覗いた五星使徒ならびにシャドウ評議会の名の下に本事案に対して公開捜査とすることが決定されました。なお、本事案に対する記憶処理は一切行わないものとするとのことです」
「なんだと!?公開捜査をしたら監察室のジジイ共が黙ってないだろ」
「元帥閣下やサルガス様によりますと、我々の存在を明かす時が来た。とのことです」
「なるほど……そういうことか」
そして、会話をしていると、我慢の限界を迎えた敵は、攻撃を仕掛ける。
「【炎よ集え、我が声に応じ敵を撃て、ファイヤーボール】」
「【炎よ集え、我が求めしは炎の槍、ファイアーランス】」
「【水よ来れ、我が求めしは衝撃の水爆、バブルボム】」
そして何人かの軍人は、魔法が使えないようで、剣で襲いかかって来る。
「無駄だ」
そう言って【マジックシールド】で魔法を防ぎ、襲いかかって来たものは、銃で射殺する。
「クラディール将軍!こんなことをして気でも狂いましたか!?」
「無詠唱で結界を展開するとは……どうやら神級魔術師なのは本当のようだな」
「信じてもらえたようで何よりだ。だが先程、本部より公開捜査が認められたため、改めて名乗ろう。私はスターズ五星使徒が一柱。コードネームはシリウスだ」
「春人さんがあのスターズの……!?」
私がスターズだと驚いていたのはメリッサだった。諜報騎士とか言っていたし、彼女ならばスターズのことを知っていたのも不思議ではない。
「メリッサ。スターズとはいったい何なんですの?」
「スターズとは、世界最高峰の諜報機関とも呼ばれながら、何処の国にも属さず、世界の平和と秩序を守る為ならば暗殺も厭わない組織です」
「まあ、大体は彼女の説明の通りだ。それよりもクラディール将軍だったな?一応今回の反乱を起こした理由について聞かせてくれ。内容次第では本事案から我々は手を引く」
「良いだろう。皇帝陛下は病に伏せられてから、以前までの覇気は無くなり、ベルンガと良好関係を結ぼうと考えていた。しかし、あの戦争はまだ終わっていないのだ。だからこそ、今度は我々でベルンガ…いや、世界を帝国の物にする」
「そんなことをしても、30年前の時と違って、現在ベルンガ王国は、バルハラン王国やアース王国と同盟を結んでいる。そんな状態でも本気で勝てるとでも思っているのか?それに、戦争になるのであればスターズだって黙ってはいない。分かったら、そんな戯言を言うのはやめて大人しく投降しろ」
「勝てるさ。我々があの時から何の準備をしていないとでも思っていたのか?」
そう言ってクラディールは、窓の方へ右手をかざし、魔力を集中させ始めた。それにしてもこの負の魔力……まさか!?
「【闇よ来れ、我が求むは上位悪魔、アークデーモン」
壁一面の窓が吹き飛び、辺りが光に包まれる。そこに現れたのは巨大なアークデーモンだった。
チッ!やっぱりデーモンの召喚だったか。
「あれほどの悪魔と契約するにはどれだけの代償が必要になるか……それに存在を維持するための魔力だって一体何処から……」
そのようなことをその小さな体をガクガクと震わせながらテレスフィーナ皇女が呟く。お世辞にも奴からはあの悪魔が現世に長期間存在を保てるだけの魔力があるとは言えない。だったらその出所はいったい……!!もしかして……。
「悪魔との契約は簡単だ。そう、生贄だ。この帝都中にいる全ての罪人を生贄として捧げたのさ。皇帝陛下の他にも何人かの将官も反対していたがな。だが、上位の悪魔を一体契約さえ出来れば、それよりも下位の悪魔を自由に呼び出すことが可能だ。後は、同じように生贄を与えれば良い。このやり方を繰り返すことで、悪魔の軍隊を召喚出来る。足りなくなったら敵兵から捕らえたやつを生贄にすれば良い。そして」
クラディールは自身の右手を挙げる。中指に指輪はめられた指輪を私達に見せつける。アレは!?
「これはある所で購入した「吸魔の指輪」といって、他人から魔力を吸い取る効果がある。この場にいる全員が魔力を少しずつ吸い取られ、あのアークデーモンの糧となっているのさ。それに、この悪魔の特性である魔法の無効化によって魔法攻撃は一切効かないのさ……おっと、少し話し過ぎたようだな」
魔法が効かないんならばこれならどうだ。そう考えながら撃つ。
「飛び道具の類か?魔法が効かないならば物理攻撃なら効くとでも思ったか?だが、「吸魔の指輪」とセットで売っていた「鉄壁の指輪」によって物理攻撃も完全無効。これさえあれば、私は無敵だ」
厄介だな。そう思いながら辺りを見ると、皇帝の指が微かに動いた。まだ生きていたのか!なら急いで屋敷まで【ゲート】で逃すか。
《シエラ。合図を出し次第、【ゲート】でテレスフィーナ皇女、皇帝、フラーシュそしてメリッサを屋敷の庭に強制転移してくれ》
《了解》
《召命───鎌鼬》
「プロキオン、ベテルギウス、鎌鼬。10秒時間を稼げ」
『了解』
シエラがどれだけ早く出来るか……。
《準備完了》
「屋敷に対処者を強制転移」
《了解。【ゲート】展開……強制転移を開始します》
対処者は、屋敷に繋がる【ゲート】で逃した。
「貴様。転移魔法の使い手だったのか!」
「ああ、そうだ。今は一旦引かせてもらう。だが、必ずここへ我々は戻って来る」
私はそう言い残し、【ゲート】で屋敷に戻るのだった。
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