102話 弟子との再会
ダンバタ王国近くにあるダンバタ砂漠。私達はその上を『武具保管庫』で飛行していた。
「マスター。およそ1.6キロ先から正体不明の飛行物体が接近中。どうする?」
「確か防衛システムがあったよな?」
「あるぜ」
「武装防衛システム機動。敵防衛モードに移行せよ」
「その指示を待ってたぜ。マスター」
そう言って、赤いボタンをフェルが勢いよく押す。
すると、『武具保管庫』の周りに大型の砲撃武器が宙に浮かぶ。
そして、私も【ストレージ】の中から攻撃型ドローンや無人型AH-64Eアパッチガーディアンを外に出して攻撃準備を始める。
こんな高度で飛行しているものなんてこの世界では2種類だけだ。『フェアラート』か『ドランク』かの2択だ。
「マスター。攻撃射程圏内突入。敵の姿のスキャン完了。頭上モニターに出すぜ」
頭上モニターに出てきたその姿は、紛れもなく飛行型中級ドランクだった。
「マスター。これってもしかして……」
「ああ。飛行型ドランクで間違いないだろう。しかも、あの大きさと核の数からして、おそらく中級だな」
「春人さん。あれは一体なんなんですか?」
エリアのそんな質問を遮るようにフェルが報告をする。
「マスター。地上に人がいる。このままじゃやられちまうぞ!」
「なんだと!?分かった。この下だな?」
「ああ」
「私は避難させる。みんな、悪いが手伝ってくれないか?」
「任せてください」
「しょうがないわね」
「もちろんです」
「お手伝いします」
「お任せください」
「行くぞ。【ゲート】」
一方、その地上にいる人物達はというと……。
「チッ。こんな所でドランクと遭遇するなんて。こんなんじゃ、いつになってもシルヴィアを助けに行けねぇじゃねぇか」
「ナカサス。そんなことを言っても仕方ないでしょ!師匠と別れてから段々と弱腰になってきてるんじゃない?」
「あの時までは、師匠がいてくれたから自信を持って戦えたが、最近じゃ戦いにキレがなくなってきたんだよ」
そう言いながらも彼女らは、そのドランクに少しずつではダメージを与えてはいたが回復されてしまう。
もうダメかなと思っていたその時、2人は上空から懐かしいこの時、感じ取っていた。
「信女とトワ、そしてアイリスは、そいつを少しの間だけでもいいから引き付けてくれ!エリアとトリスは、銃での援護射撃を行ってくれ。ただし、間違ってもあの2人には当たるな」
「分かってます」
「もちろんです」
「マリンはこっちの援護を頼む」
「分かったわ」
それぞれが春人の指示で行動を開始した。
「君達、無事か?」
「し、師匠!!」
「お会いできて光栄の極みです。師匠!」
師匠?民間人で尚且つ私が弟子にしたのは3人だけだ。もしかして……。
「お前らまさか、ナカサカとローレンスか?」
「そうです」
「お久しぶりです。師匠」
「お前ら2人だけなのか?シルヴィアは息災か?」
「そのことなのですが……」
「師匠。今はそれよりもこっちが先です」
「だな」
この2人ならば遠くに逃す必要はなさそうだな。
「信女、トワ、アイリスは一旦後退。あとは私に任せろ」
そう3人に指示を出して後退させる。
そして、【ストレージ】の中から長曽祢虎徹を取り出す。ただし、技術課がドランクの欠片を使って製作した特別製の日本刀だ。
「【日火流剣術 五式 烈日陽炎】」
今の攻撃で核が無防備になった隙に止めを刺す。
「【日火流剣術 三式 槍炎火】」
【槍炎火】で2つの核を同時に突いて破壊すると、ドランクは、その形を保てずに崩壊した。
「す、凄い……」
崩れたドランクの破片を全て【ストレージ】に収納する。
そして、2人のところへと歩み寄る。
「ところでさっきの話の続きだが、シルヴィアはどうしたんだ?」
2人に話を聞こうとしたその時、エリア達が話しかけてきた。
「あの春人さん。その方達はどなたですか?お知り合いみたいですが……」
「この2人は私の弟子だ。とはいえ、もう私から独立して10年以上経つか?」
「はい。そうですね」
「まあ、今はそんなことはどうでもいい。それよりも私が聞きたいのは、シルヴィアについてだ。お前達があの後、シルヴィアを1人だけにして別れたとはとても考えにくい。私と別れた後、何があったのか教えてくれないか?」
「分かりました。あの後から何があったかついて」
ナカサカは、私と別れた後に何があったのかを教えてくれた。
世界を巡る旅を始めたこと。冒険者になったこと。様々な人と出会い、人間関係を築いたことなど……。それはもう順風万番な旅を3人でしていたという。だが、そんな楽しい旅はいつまでも続くことは叶わないことを知ることになる。
とある日。彼女らは、いつも通り野宿をすることになった。
「シルヴィア。そっちの魚取ってくれる?」
「はい」
「ありがと」
「なあ、明日はどうする?」
「そうね。明日中にはヴァース帝国領内には入りたいところね。ねぇ、ローレンス。今どの辺か分かる?」
「ちょっと待ってくれ。今地図出すから」
そう言ってローレンスは、リュックの中から地図を出して広げる。
「今いるのが大体この辺りだから明日中にはヴァース内には入れるんじゃないか?」
「シルヴィアはどう思う?」
ナカサカが隣に座っていたシルヴィアにそう尋ねる。
「私もローレンスと同じで、明日中にはヴァースの領内には確実に入れると思うし、このまま順調に進めば、首都にも入れると思うわ」
「なら、今日は早く寝て明日の朝一番に出発ってことで」
「意義なし」
その後少しの間、明日の話をした後にテントに入って眠りにつく。
深夜。ナカサカとシルヴィアが眠るテントに何者かが忍び込む。
その事にいち早く気づいたナカサカはその侵入者達を攻撃する。
「アンタ達は誰!?」
その声にシルヴィアも目が覚める。状況を理解したシルヴィアはすぐさまローレンスを起こしに行く。
「ローレンス起きて!」
「ッん?どうした、シルヴィア?」
「襲撃を受けてるの!今はなんとかナカサカ1人で相手をしてるけども数的に分が悪いわ。だから急いでナカサカの加勢に行ってちょうだい!」
「なんだと!?分かった。急いで向かう!」
ローレンスは横に置いていた師匠の春人から弟子の証として貰ったハイミスリル剣を持ってナカサカに加勢しに行った。
シルヴィアも後を追いかける。
「きゃっ!?」
一瞬、シルヴィアは自分に何が起こったか分からなかった。やっと状況を理解出来る頃には、自分は首元にナイフを突き付けられて敵に捕まっている状態だった。
「動くな!!」
その声に全員が攻撃を止めた。
「この女の命が欲しければ、大人しくしろ!」
「ごめん……2人共。捕まっちゃった……」
シルヴィアにはどうすることも出来なかった。完全に身動きが取れない状態であり、もし首元に突き付けられたナイフから逃れられたとしても、いくら、師匠である春人の下で修行を積んでいたとしてもやられてしまう可能性の方が高かった。
2人は、武器を地面に置いて両手を挙げる。敵意はないと思わせるためだ。
「それで良い。本当ならば、そこの女ももらうつもりだったが、今回は特別にこの女だけで勘弁してやる。お前達がこの場で自由に生きていけるのもこの女が犠牲になるからだ。だからせめてこの女に感謝することだな」
「意味わかんねぇこと抜かしてんじゃねぇぞ!このクソ野郎が」
「今の俺はとても気分がいいからその言葉も聞かなかった事にしておいてやるよ。こいつは上玉だからこいつだけで十分だ。だからお前らは見逃してやる。だが、俺達のことを追いかけて来たり襲って来たならば、こいつ諸共殺してやるからな」
そう言ってその襲撃者達は、シルヴィアを拉致して去って行った。
そして、それから2人は、シルヴィアを取り戻すために旅をすることになった。
「とここまでが師匠と別れてからの私達の出来事です。師匠、どうかしました──」
その時の私は久しぶりにもの凄い怒りに満ちていた。それこそ、普通の人間だったら意識を保つのもやっとなぐらいに。
「落ち着いて下さい!春人様!!」
トワの言葉で我に帰る。
「すまんかったなみんな」
「いえ、春人さんが怒る理由も分かる気がしますので」
「とはいえども、お前達のことだ。なんの手掛かりもなく、闇雲に探していたわけではないだろ?どれぐらいの情報を掴んでいる?」
「あ、はい。現在、ダンバタ王国の奴隷商によって買い取られ、更にそこから何処かに売られたというところまでは分かっているのですが、どの奴隷商なのか?また、何処に売られたのかまでは分かっておりません。ですので、私達はまず、そのシルヴィアが買い取られたという奴隷商に行き、売買契約書を探して何処に売られたのかを特定しようと考えております」
「なるほどな。だが、あそこの奴隷に関する警備はお前達が思っている以上に厳しい。だからこそ絶対に油断はするな。油断をしたら最後、待つのはシルヴィアと同じ奴隷となる未来だけだ。まあ、とは言ったものの、私の方でも探してみるから、お前達は自分の身を最優先にしろ。あと、お前達にはコイツらを護衛に付けるから何かあったらそいつらを介して私に連絡してくれ。また、私の方から連絡をするかも知れないからそのつもりでいてくれ。あとのことはお前らに任せる。なんとしてでも必ずその2人を守れ!」
『はっ』
そして私は【ゲート】を開いて再び『武具保管庫』へと戻り、目的地へと向かうのであった。
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