100話 五星使徒の緊急会議
日が昇りベランダに出て外を見る。昨日の夜の光景が嘘のように綺麗になっていた。まあ、私が【デリート】で綺麗に消したんだけれども。
後日談だが、襲撃しに来た者達は、ベルンガ国王の逆鱗に触れたことにより死刑が決定し、斬首刑となったらしい。
「随分と綺麗になりましたね」
「そうだね。でもその前に少し良いかな?」
「はい。何でしょう」
「なんでエリアが私の横に普通にいるのかな?」
「夫婦が同じ部屋にいておかしいことはないと思いますが?それとも入られて困るようなことでもあるのですか?」
「あるよ。この部屋には防犯対策として、あらゆる攻撃装置が配置されてたり、その他にも危険物なんかも置いてたりするからあまり入らない方が良い。私はともかくとして、普通の人間がそんなのを間違っても触れてしまうと、皮膚どころか骨すらも溶けたりするからあまり私の部屋の中の物に無闇に触れないほうがいい」
「き、気をつけます……」
「それで、何をしに来たの?」
「あ、そうでした。朝食の用意が出来たそうなので呼びに来たんでした」
「そうか。なら一緒に行こうか」
「はい」
その後、朝食を済ませて居間でみんなとくつろいでいると、ソーラルから電話が鳴った。せっかくのんびりしてたところなのに。
「もしもし」
「昨日は大変だったみたいだな」
「冷やかしなら切るぞ?」
「待て待て!冷やかしとかじゃねぇよ。ただそっちも大変だったんだなって言いたかっただけだ」
「ん?今、そっちもって言ったか?ということは、そっちでも何かあったのか?」
「ああ、この前こっちに来た時あったろ?」
「行ったな」
「お前が帰ってすぐに歪みが発生した。そこからはドランクとは違う周波数がいくつか検知された。だからその場にいた春人を除く五星使徒全員でそこに行ったんだよ」
「それでどうなったんだ?」
「その件で話があるんだよ」
「その話っていうのはなんなんだ?」
「さっき、お前の屋敷の地下にある会議室で五星使徒の緊急会議を開くことになった」
「なんで家でやることになったんだよ?べつに本部の会議室でやっても良いだろうに」
「理由は幾つかあるが、まず1つ目は、現在五星使徒の全員がベルンガ王国内にいるということ。2つ目は、本部の会議室よりも設備が充実しているということ。この2つの観点からそっちでやることになった」
ここの会議室でしか出来ないことといえば……。
「もしかして、データ共有と世界各国のリアルタイム映像か?」
「そうだ。あ、ちなみに俺達はもう会議室状態にして待ってるから早く来てくれよ」
そう言ってソーラルが通話を切る。
「ったく。切りやがった」
「どうかしたのですか?」
「地下の会議室に他の五星使徒の全員がもう集結してるって電話があって、これから行くことになった」
「それって、私も参加しては駄目なのですか?」
「聞いているだけならたぶん問題ないだろ。トワもスターズの構成員なわけだしな」
「トワさんいつの間にスターズに所属していたんですか!?」
「大体1ヶ月ぐらい前からだね」
「ちなみに階級を聞いても良いですか?」
「予備大佐っていう階級だよ」
「それって、普通の大佐とはなんか違うの?」
「基本的には普通の大佐とそんな大きく違う点はない。だけど正規大佐と予備大佐では正規大佐の方が権限が上だし、それに若干だが、役割も異なったりするが、トワの場合は特別にその役割が免除されている」
「そうなんですか?あの、それって私達も所属しては駄目なのでしょうか?」
「今の段階では、筆記試験はともかくとして、実技試験で間違いなく不合格となるだろうな。トワは君達よりも実力があったから合格出来たが、もし君達が仮に合格しても良くて兵長か伍長というほとんど権限を持たない上等兵から下士官あたりの階級になると思うぞ。そうなってしまうと、私の方からもトワのように特別扱いっていうのは難しくなるから、少しでも私が対応出来る階級までの実力を身に付けてもらってから試験を受けさせるつまりだ」
「なら、その実力に似合うまで鍛錬あるのみです」
「それじゃあ、その時まで楽しみに待ってるとするよ。あ、そろそろ行かなくちゃな。あいつらをこれ以上待たせるわけにはいかないし。トワ、行くよ」
「あ、はい」
そうして、私達は地下の会議室へと向かった。
会議室の扉を開けて席へと座る。トワの分の席は、端の方ではあるが、簡易的な椅子を用意してそこに座ってもらった。
「この子がすまんな」
「いや、構わんさ。彼女もスターズ幹部という意味では、この会議への参加権は一応あるからな。では、そろそろ会議を始めよう」
今日はいつもと違って、くだける様子は一切なく緊張感を持っていた。
「それで、今回ここで会議をすることになったかの経緯を説明してくれ」
「でしたら、私から説明します」
「頼む」
春奈がことの経緯を説明し始める。その内容によれば、次元の歪みから異世界人が出現し戦闘になったが、転移魔法と思わしきもので逃げられてしまったとのこと。
「カプラやベラトリックスならともかく、サルガスやアケルナーまでもが取り逃してしまうとは珍しいな。そんなにもその異世界人は強かったのか?」
「シリウス。その言い方だとまるで私達が無能みたいな言い方よね?」
「べつにそこまでは言っていないだろ。私が言いたいのは、サルガスもいて取り逃すっていう状態が珍しいと感じただけだからそう悲観するな」
「いや、私達はべつに悲観はしてないんだけども……」
「それはそうと、その異世界人に関しての情報は何かないのか?」
「お前みたく鑑定系の魔眼やスキルを持ったやつなんて他にいないから詳しいことは分からないが、恐らくアイツは様々な世界を自由に行き来することが出来る『次元の旅人』ではないかと最終的に結論付けた」
「『次元の旅人』だと!?そもそもこの世界へと来ること自体が珍しいだろ。それにもし『次元の旅人』だったとしても、そのほとんどは温厚的な者が多かったはずだなんだが……いったい何故そんな戦闘状態になったんだ?」
そう疑問に思っていると、それぞれが私から目を逸らした。まさか……。
「なあ。まさかとは思うが、お前達から仕掛けたってことはないよな?」
目を逸らした状態が続く。その様子を見て、思わずため息を吐く。
「そりゃあ、あっちも本気で戦って逃げるわけだ。なんで戦う方面になったんだよ?そもそも最初は会話からが決まりだったろうが。それなのにそれを無視して戦闘になったのか?」
「いや、違う。あっちが逃げようとしたからそれを止めようとしたら戦闘になった」
「なるほど。大体は分かった。逃亡の阻止のために戦闘になったってことで良いのか?」
「ああ、それで間違いない」
「ならば、一応スターズ憲章の内容を無視したことにはならないから問題はない思うが、今はまずその逃走した異世界人の行方を追うことが第一優先だな」
「その件に関してだが、まず、これを見てくれ」
そう言ってソーラルは、全ての液晶モニターに映像を出す。
「これは、戦闘データの解析記録だ。その結果、ヤツの強さは生まれ持った種族特性だということが分かった。そして、適応力が凄まじくほとんどのことを後天的にも身に付けることが可能だということも分かった」
「相手の様子はどうだったんだ?相手は苦戦していたか?それとも余裕そうだったか?」
「少し苦戦気味に見えました」
「ならば、今の状況で戦闘になったとしても負けるということはないだろう」
そうして会議はまだまだ続いた。
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