電柱と話した星
私はカラスと呼ばれる黒い鳥になって町中に来た。
そして一本の大きな木に止まると、そのまま木の枝へと姿を変えた。
「しばらくここにいさせてくださいね」
私はその木に話しかける。
「どうぞごゆっくり」
おだやかに木が答える。
私が選んだ木は、街中の公園のはしにたたずんでいる。
ここなら、公園に遊びに来ている人間や、鳥たちの話を聞けそうだと思ってこの木を選んだのだ。
木の横には、電柱もいる。
私は木や電柱の様な、じっと立っているものが好きなのだ。
長いこと同じところにいるので、その場所のことをよく知っているし、色々なモノたちの憩いの場になるからか、気さくで面倒見の良いことが多い。
私が世話になる木と横の電柱も親切そうだ。
「カラスが枝になったからびっくりした!
他には何になれるの?」
電柱が話しかけてきた。
「練習したのはカラスと枝だけなんです」
私が答える。
「枝なら何の木でもできるの?」
「いいえ。街路樹に多い木種はいくつか練習したんですけど、なんでもってわけにはいかなくて・・・」
「そう!じゃあ僕を選んだのは、自信のある木だったからなんだね。うれしいよ」
おじぎのかわりに、私は少し葉をゆらした。
「次に来るときには電柱もいいかな、って思ってるんです」
私が話しかけると、電柱は少し考えるように間をおいて答える。
「次来るときには、私たちは姿を変えているかもしれないわ・・・」
少し寂しそうな答えだ。
「電柱を埋めてしまうの。もう電柱がないところもあるのよ」
「ああ、あれね。どうなるんだろうなぁ?」
「困るのよね~止まるところが減るでしょう?」
「そうそう。集会するのにちょうどいいのよねぇ」
「休むのだってちょうどいいのにね!」
「そうそう。猫や人が来ないから安心なのに」
スズメがいっせいに話し始めた。
「電柱をうめる?なんのためですか?」
私は不思議に思い聞いた。
「風や地震で倒れてしまうことがあるのよ、私たち」
立っているものなのだから、そういうこともあるだろう、と私は思う。
「そうすると危ないでしょう?」
「ああ、なるほど」
私はうなずいた。
「それから私たち・・・その・・・うつくしくないんですって・・・」
言いにくそうに電柱がそういう。
「うつくしくない・・・ですか?」
「ええ。黒い線がごちゃごちゃしているのはきれいじゃないんですって・・・」
「変だよねぇ。自分たちが便利だからって作ったのに」
木がなぐさめるようにつぶやく。
「え~人間ってイロイロ区切るのが好きだと思っていたのに」
スズメが言う。
「そうだよね!部屋に絵を飾る時にも額の中に入れるし、窓だって外を区切って見せる穴なのに」
「うん。電線もてっきり額みたいに空を区切ってるんだと思ってたよ」
スズメたちの感想は私にはちょっと理解しがたいけど、私は電柱と電線をうつくしくないなんて思わなかった。
複雑に入り組んだ配線。
たしかにごちゃごちゃしているけど、そのごちゃごちゃに無駄がない。
アナログとデジタルの入り混じったような不思議な造形。
「すごく興味深い形状だと思いますけど・・・」
ひかえ目に感想を言う。
「ありがとう。
でもそんなわけで、あなたが次に来るときには私たちはきっと地面の下だわ」
電柱は軽い口調でそういい、他の話題へと移っていった。
電柱が好きです。