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第4話④ 好みなどわかるはずがない、なぜなら…

 お気に入り、ねえ。


「別にそんなことないと思うけど。あの人、誰に対してもあんな感じだし」


 不満げな表情を隠さない日菜さんに、俺は言った。


 日菜さんは変な勘違いか妙な思い込みをしているようだが、俺だけが美里先輩と特段親しいわけではない。ああいう性格だし、誰にでも遠慮せずカラッとしている感じ。結月さんのことを頼んだのも彼女のそういった性質が信頼できるからだ。要は相手に合わせて態度を変えない(というより変えられない不器用な人だ)ところが、俺みたいな疑り深い性格の人間には安心できる。


 ていうか、同じくさっぱりした性格の神楽坂(さすがにこの二人は実は同性に嫌われる自称サバサバ系女子には該当しないだろう。いや知らないけど)にはめっちゃ懐いてたのに、なぜ先輩は警戒するんだ?


 そんな俺の心の内を読み取られたわけではないだろうが、


「……光輝くんってさ、もしかしなくても、かわいいよりかっこいい女の人ほうが好み?」

「え」


 唐突にめちゃくちゃ答えにくい問いをぶん投げられた。

 好み? と聞くくらいなんだから、ここでの“かっこいい”には当然先輩だけじゃなく、神楽坂も含まれているんだろうな。


 しかも、無邪気に楽しげな声を上げている結愛ちゃんを抱き締める日菜さんの瞳にはやけに真剣な色が宿っていて、いつものようにからかっている雰囲気でもない。なんか温度……じゃない、湿度が高い。


 まあ、答えにくいのは恥ずかしいからだとか、図星だったからだとかってわけではないんだけど。


「さあ? よくわかんないな」

「………。そうやってはまたぐらかすんだー? いいじゃん、好きなタイプくらい。どっちが好きかって聞いてるわけじゃないんだし」


 日菜さんはぷくっと頬を膨らませる。だが、なぜか普段のあざとさはなく、どこかぎごちなさを感じた。

 しかも「どっち」って……。


「いやなんで真面目に答えなきゃ……って言いたいとこだけど、本当によくわからないんだよ」

「え?」

「こんな年になって、好きな相手どころか自分の女の人の好みもわかんないなんて引くよね」

「そ、そこまでは言わないけど……」


 自分から尋ねたはずなのに、日菜さんは口ごもる。まあドン引きだよな普通。


 でも、実際にそうなんだから仕方がない。

 そりゃ俺だって顔やスタイルには好みはある。色々とうるさい世の中なので詳細は伏せ字とさせてもらうが。まあ少なくとも日菜さん、結月さん、神楽坂、美里先輩の4人はみな好きと言い切ってしまって差し支えない。


 ……あれ? もしかして俺ってめっちゃ面食い? いやいやそんなわけない。日菜さんにも否定したじゃん。別に顔重視じゃなくてもそう評価してしまうくらい、彼女たちが美人で可愛くて綺麗ってだけだ。うん、俺は悪くない。


 ……話を戻そう。


 よく、付き合うなら『顔より性格。内面。中身』と誰もが言う。

 俺もその意見自体に異論はない。理想論や夢物語だと咎めるつもりもない。実際そう思うし、こんな面倒な性分の陰キャが相手の人格を重視しないわけがない。


 じゃあ内面や性格ってなに? 定義は?

 そう問われて正しく答えられる奴がいるだろうか。いやいまい(こんなことを考える時点でめんどくさい。恋だと愛だのにまるで向いてない)。


 大人になってみてわかったことでもあるが、この年になれば俺のような非リア陰キャでも、面と向かって露骨にバカにしたり気持ち悪がったりする人間などそうはいない(陰では言われているだろうが)。


 むしろどの女性も、常識的に、行儀よく、適度に愛想よく接してくれる。たとえ俺などアウトオブ眼中な美人であってもだ。それがマナーだから。大人の社会とはそういう場所だ。


 学生の頃のようにちょっとしたことで不機嫌さを表に出したり、むやみに他人を傷つける言葉を吐く人間もそうはいない。


 そしてここが大事なポイントだが、そんな上っ面で薄膜を張ったような付き合いだけでも世の中は十分回るものなのだ。よくリア充ばかりが登場する青春アニメや昔のトレンディードラマにあるような、他者と本音をぶつけ合って傷つけ合う必要など実社会ではまったくない。


 すでに現代社会では、心の内や秘めた本音を明かさずとも問題なく生きていけるシステムが構築されている。


 つまり、普通に生きていてその人の本当の内面や価値観、美点、そして欠点を目にすることなどないのである。


 だから俺のような人間は、『女ってめんどくさいよなー』なんてわかったような口を利ける資格もない。誰も俺に面倒くさい部分を見せてくれる女性などいないのだから。俺なんかと接しくれる女性はみな性格が良くて優しい(もちろん自虐だ)。


 だが、基本警戒心が強い俺は、そこを知らないまま他人に好意を持つことなんてできない。

 しかし一方で、俺は他人に本心を知られるのが嫌だし怖い。結論、ただのガチのヘタレ。女性不信にさえなる資格がない。


 ……やっぱ詰んでんじゃん。一生独身だなこりゃ。

 日菜さんと結月さんを無事送り出せたら、世捨て人にでもなってどこかで隠居でもするかな。


 ……おお、たった今パッと思いついた妄想だけど、意外と悪くないかもな。自分の子孫を残せなくても、将来有望な若者を二人も掬えればお天道様や人間の神様だって大目に見てくれるだろう。


 ……はあ。なんてな。妄想にしても痛い。主に心が。


 自分としては内心のつもりだったが、どうやら現実でも漏れ出ていたらしい。

 日菜さんは申し訳なさそうに視線を逸らした。


「……やっぱ今のナシ。嫌だったよね。ごめん、あたしまたやっちゃった」

「いや、今のはそれが嫌で出た溜息ってわけじゃ……」

「今のあたし、ちょっと……ううん、かなりめんどくさい子だったよね。ごめん、忘れて!」


 日菜さんはごまかすように笑った。


「…………」


 ……誰もいないなんて言ったけど、そういやいたな。目の前に。

 俺にもめんどくさい一面を見せてくれる子が。


 ま、“家族”なら当然だけどさ。


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