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第2話⑤ 姉妹との初デート③

 そんなこんなで東急東横線で揺られること15分ほど。

 俺たちはみなとみらいに到着していた。


「よーし到着だね!」


 駅から外に出るなり、日菜さんは大きく伸びをする。彼女の通っている高校は、このもう少し先の中区の名門公立高校とのこと。要は地元の慣れた場所ってことだ。埼玉出身の俺は、この横浜のオサレ感にはいまだに慣れないところもあるのだが……。首都圏の神奈川>千葉>埼玉の厳然たるヒエラルキーの前にはなすすべもない。


「すみません、光輝さん。わざわざここまで付き合ってもらって。買い物だけなら新横でよかったのに……」

「いいっていいって。日菜さんの言う通り、ここのところ大変だったしね。息抜きも兼ねてってことでさ」

「……わかりました。それじゃあ今日は甘えさせていただきますね」


 俺が重ねて言うと、結月さんはようやく頬を緩めてくれた。


 日菜さんと違って、どうにも彼女は遠慮しがちだ。

 ……まあそうか。普通に考えれば、よその男に対して借りなどあまり増やしたくないだろう。妹想いの彼女のことだ。何かあれば自分が盾になろうと思っているのかもしれない。


 俺もどちらかといえば、日菜さんよりも結月さんのほうが思考タイプは近い。俺が彼女の立場でも似たようなことを考えるはずだ。


 ……でも、な。

 ……もうちょっと素直に頼ってほしいって思ってしまうのは傲慢なのかな。


「というか、もう11時半か。どうする? 先にお昼にしようか?」

「うんっ!」

「はい、そうしましょうか」


 靄のかかった思考を振り払おうと提案すると、今度は二人して頷いてくれた。


 ×××


 というわけで、買い物するショッピングモールの中のとあるレストランに向かう。

 まだ時間が少し早いせいか、たいして待つことなくテーブル席へと案内された。


「へえ、オムライスの専門店ですか。素敵ですね」

「おお、光輝くんにしてはわりとナイスなチョイス! よく知ってたね、こんなお店!」


 素直に誉めてくれる結月さんと、何かを言わずにはいられない日菜さん。そのコントラストに俺は苦笑してしまう。


「……まあ、とはいっても前に仕事のランチで来たことがあるだけなんだけどさ。会社の先輩のお気に入りの店らしくて。確かに美味しいしね」


 目の前でメニューを広げていた日菜さんが、なぜか上目遣いでちらりと俺を見る。


「……その先輩って、もしかしなくても女の人?」

「ん? そうだけど? なんで分かったんだ?」


 言うと、彼女はパタンとメニューを置いた。


「だって、光輝くんがこんなお洒落なお店に一人で入れるとは思えないし。男の人同士じゃ入りづらそうだし」

「まあそりゃそうか」


 いや、こういう店も平日のランチタイムだと意外と平気だったりするんだが。

 てか、『来る』じゃなくて『入れる』って言い方が引っかかるんだけど……。


「なあんだ。光輝くんにも一緒にランチ行くような人いるんじゃん。心配して損したかもー」

「いや、何言ってんの。ただ仕事でコンビ組むことが多いから、出張中とかにたまにご飯食べるだけだって」


 このへん、気の合う人間とだけ付き合えばいい学生にはピンとこないかもしれない。

 ……仕方ない。ちと心苦しいが、社会を知らぬ若人に厳しい現実を突きつけてやろう。


「いいか日菜さん、社会人になったらな、苦手な人だろうが嫌いな奴だろうが、一緒にメシ食ったり酒飲んだりしなきゃいけないんだ。ランチや飲み会の席なんて大半が苦痛な時間なんだぞ」


「ああ、確かにおじさんの相手とかしんどそうだよね。ニュースやドラマでしか知らないけど」


「おじさんだけじゃない。女性陣だって同じさ。権力のある女性社員のランチの誘いは断りにくいし愛想笑いも大変らしいぞ。その先輩も、そのグループのランチを断る口実が欲しいがためだけに、俺なんかを誘ってくることもあるくらいだ」


 特にあの人、すげーズケズケしてるから同性に嫌われそうだし。

 日菜さんは「ええ……」と本気でドン引きしていた。


「あたし、そういう女子同士のねっとりした付き合いってあんまり得意じゃないんだけど……。なんか不安になってくるなあ」

「へ? そうなの?」


 思わずそう返してしまうと、日菜さんはジト目で俺を睨んできた。


「何よ光輝くん、あたしをそんな目で見てたわけ?」

「あ、いや、そうじゃなくて……好き嫌いは別として、日菜さんはそういうのうまく立ち回れそうな気がしたから。器用そうだし」

「まあ苦手ってわけでもないけど。でもあたし、単独行動とかも結構好きだよ。……どっちかっていうと、そういう陰湿さとか腹黒さとかはお姉ちゃんの領分……」


「……日菜?」

「……ごめんなさい」


 結月さんは「ふふっ」と笑い、ひと睨み。そして日菜さんはあっさり陥落。

 その姉妹の絶対たる上下関係に俺が若干顔を引きつらせていると、結月さんが笑顔のままこちらに視線を移した。


「えっと……さっきの話をまとめると、つまり光輝さんはその女性の先輩が苦手ってことなんですよね?」


 ……あれ? なんだか背筋が……。


「え? えっと…‥あ、いや、どうなんだろ。そう言われると、その人に関しては別に得意ってわけじゃないんだけど、苦手とか嫌いかっていうと……」


 仕事は超優秀なんだけど、ちょっとパワー気質あるしなあの人……。だけど、俺なんかが相手でも面倒見もいいし、かっこよくて尊敬もできる。なんとも判断し難い。おまけに……。


「なるほど。美人なんですね。ふーん……」

「えっ!? 俺そんなこと言ってないよね!?」


 心読まれた!? いや当たってるけどね!?


「やっぱお姉ちゃんめんどくさ……」


 日菜さんがぼそっとつぶやいた。


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