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第2話② 好みのタイプ?

 ~Another View~


 光輝がレンタカーの手続きを済ませている間のこと。

 借りた小型車の外で、灯里は頬を膨らませていた。


「それにしても、わたしのパッとした思い付きとはいえ、二人には甘すぎじゃない? お兄ちゃん」


「お姉ちゃんの浴衣姿持ち出したらあっさり意見を翻したもんねー。『やれやれ、しょうがないなあ』とか『どうしても行きたいって言うなら……』とか、仕方ないオーラ出してぶつぶつ言い訳してたけどさ。普段はカッコつけて仙人ぶってるけど、やっぱ光輝くんも男の子なんだねー」


 一方の日菜も、自分でけしかけたにもかかわらず、微妙に納得しきれていない態度である。

 その二人の不満げな態度を見た結月は、おろおろとした様子で言った。


「こ、光輝さんは私がどうのこうのとかじゃなくて、みんなのお出かけしたいって気持ちを組んで折れてくれたんだと思うけど……。光輝さん、優しいし」


 その優等生な回答を聞いた灯里と日菜は、互いに顔を見合わせ、やがて「はあ……」と息を吐いた。


「やっぱ男って、こういう奥ゆかしさっていうか、立てるっていうか、一歩後ろに下がる女子に弱いのかなあ……」


「それわかるよ、灯里ちゃん。この間も、クラスで一番のイケメンが全然目立たないけど実は可愛い文芸部の子と付き合ってるのが発覚してさあー。『あー……普段はさわやかで女慣れしてるイメージ演出してたのに、結局そうなんだー』って、なんか微妙な気分になったばっかだよ」


「そうそう! わたしも去年から大学院の研究室で助手として手伝ってるんだけどさ。先輩たちは『どんな忌憚のない意見も歓迎だよ!』とか口では言うくせに、結局人気があるのは、いつもニコニコしてて甲斐甲斐しくフォローして人の考えを全肯定するコなんだよー! 研究なんて議論しなきゃ前に進まないのにさー。自分に都合のいい意見にしか耳を貸さないなら、最初から綺麗ごと言うなってカンジ!」


「わかるわかる! 学校の先生もさ、『みんな違っていいんだよ』とかもっともらしく説教するくせに、結局は従順な子を贔屓するんだよねー! 特に男の先生! ああ、なんか思い出したらムカついてきたー!」


 最初はただの女子らしい嫉妬から始まった二人の愚痴だったが、次第に社会性(?)を伴った批判が入り込み、少しばかり具合の悪い盛り上がり方を見せ始める。


「まあ、お兄ちゃんなんてその典型だよねー。ああいう女子が苦手なタイプにはありがちだと思うけど。ね? 結月ちゃん?」


 だが、意識してかしていないかは別として、灯里は兄をターゲットに据えることで危うい方向に傾きかけた話を軌道修正する。

 しかし、当の話を振られた結月は、


「……そんなことないと思いますけど」


 どういうわけか、わずかにムスっとした表情で灯里の言を否定した。


「えっ?」

「光輝さん、おとなしくて空気を読みがちな女性より、むしろ少しくらい我が道行くような人のほうが好みみたいですけど。女性に振り回されたり、困らせられたりするのが嫌ではないみたいですし」


「へ? そうなの?」

「あー……」


 灯里は嘘でしょとばかりに目を丸くし、思い当たる節がある日菜は言葉はなくとも態度で同意する。

 やがて、灯里もまた鋭く勘付き、ポンと手を叩いた。


「ひょっとして、“愛海さん”?」

「………」

「あ、あはは……やっぱり気づいちゃうよね。昨日の朝、あたしがあんなに騒いじゃったし」


 “その人”の名前を聞いた結月はかすかに顔を伏せ、日菜は気まずげに苦笑する。


「え、ま、まさか……お兄ちゃんの……彼女? そ、そんなわけないよね」

「灯里ちゃん!」

「え、な、なに?」

「その話の続きは温泉の中でしよう! 女子会だよ女子会! ほら、光輝くん、そろそろ戻ってくるよ!」

「そ、そっか、そうだよね。じゃあ、もう乗って待ってよっか」


 光輝の動きを察知した日菜に促され、灯里はごく自然と助手席に乗り込もうとする。

 その瞬間、結月がわずかに手を伸ばした。


「あっ……」

「? どうしたの? 結月ちゃん?」

「……い、いえ、何でもないです……」

「?」


 それきり何も言わなくなってしまった結月に、灯里は何事かしらと首を捻った。

 そして、日菜がめざとく「ははーん」と意地の悪い笑みを浮かべる。


「お姉ちゃん、助手席に座りたいんでしょ?」

「え……ち、違うわよ」


 否定はするものの、まさに図星だった結月の反応はいまひとつ勢いがなかった。

 隣に座って、真剣に車を運転する光輝の横顔を少しでも見ていられたら。そんな乙女な妄想がよぎってしまったのだ。


「えー? そうなのー? もう、結月ちゃんったら健気なんだからー!」

「……そ、そんなんじゃないです。いいですよ、別に」


 灯里が楽しそうにからかうと、結月は拗ねたようにぷいと顔をそむける。


「あ、お姉ちゃんがいいんだったらあたしが座りたーい! 灯里ちゃん、代わってー!」

「え……」

「ふふ……それは甘いよ日菜ちゃん。居場所が欲しければ己が勝ち取れ! さすれば与えられん! ってなわけで勝負に勝ったら譲ってあげよう!」

「ちょ、ちょっと……」

「じゃあ普通にじゃんけんでいい?」

「うん、いいよー。文句なしの一回勝負ね!」

「や、やっぱり私も……!」


 ×××


「はい、こちらがキーとETCカードです。お戻りの際にガソリン代は精算させていただきますね」

「わかりました。ありがとうございます」


 ようやく手続きが終わり、受付の女性からキーやらカードやら保証書やらを受け取った俺はショップの外に出る。

 すると、


「じゃあ行くよー! 最初は」

「「「グー!」」

「じゃんけーん……!」


「「「ポン!!!」」」


「…………」


 大の大人3人(うち1人は未成年だが)、なぜかめちゃくちゃ真剣な表情でジャンケンに興じていた。


 大丈夫かなこの子たち……。色んな意味で……。


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