表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/111

第4話⑪ 今日の反省会 ~結月編~

『はああ!? デート中に昔の女とばったり鉢合わせしたぁ!? しかもまた連絡先を交換っ!?』

「ちょ、ちょっと麻美! 声大きいって!」


 結月は慌ててノートPCのイヤホンジャックにヘッドセットを差し込む。別に日菜に聞かれても問題のない内容になるだろうと特に音を消していなかったが、こういう話題になれば話は別だ。


 改めてヘッドセットを装着し、結月はマイクを口元に持っていく。


「別に昔の彼女ってわけじゃ……。あとデートでもないし。妹も一緒だったのよ」


 三人で帰宅して夕食を取り解散、風呂にゆっくりつかって時間はすでに夜遅く。結月、麻美、薫の同級生三人組はリモートでのおしゃべり会に興じていた。

 もちろん、今の彼女たちにとっての最も旬な話題は。


『だが水瀬の話を聞く限り、そのお相手の女性も数年ぶりの再会にまんざらでもなさそうじゃないか』

『それよりも問題はその桜坂さんのほうよ。どう聞いても未練タラタラじゃない。しかも一度絶った連絡先をまた交換したって……。これ、絶対またちょくちょくと会い始めるパターンじゃん』


 ゼミの男たちの誰もが溜息をつく美貌の持ち主、水瀬結月の初のスキャンダル……もとい、唐突に降って湧いた恋バナ。


 最初は嫉妬込みでからかってやろうとちょっかいをかけていた麻美と薫だったが、結月の話が長くなるにつれ、そしてその内容の雲行きが怪しくなるにつれて、二人は次第に真顔になり、今や完全に真面目な議論の場へと変貌しつつあった。


『結月っ! これはモタモタしてられないじゃん! ガンガンいかなきゃダメよ!』

『ふむ……私も賛成だな。力づくではあるが、ゆえに効果的だと思う。その引きずっている女性の存在感を薄くさせるには、水瀬と接する回数を増やすべきだね。単純接触効果というやつだ』


 と、友人たちの鼻息は荒いが、


「えっと……でもガンガンいくって言われても、どうしたら」


 肝心の結月の答えはやや頼りない。


『そんなの、あんたの得意な料理で、毎日甲斐甲斐しくご飯でも作……って、それはもうやってるのか。だったらもっとたくさんデートするとか』

「デ、デートって……。で、でも光輝さん、平日はお仕事忙しいし。夕飯の買い物ならよく一緒にしてるけど……」

『してるのかよ……』

『なら趣味を共有するのはどうだ? ベタだけれども王道でもあるし』

「うーん……でも、私って基本的に料理以外無趣味だし……。趣味が合ってるのはどちらかといえば妹のほうなの。今日はたまたま同じ本を一緒に肩を並べて読んだけど」

『……微妙に聞き捨てならないことを聞いた気もするけどとりあえずスルーしてあげる。なら悩み事を相談するとか、将来の夢を語ったりとか、少し深い会話をするよう心がけたらどうよ? 重いと思われるリスクもあるけど、あんたに関しちゃ今さらだし。桜坂さんもそういうので引く人じゃないんでしょ? 情にほだされてくれるかも』

「……じ、実は、それもしてるかも。今日も、私の進路の悩みにずっと付き合ってくれたの」


 結月が三つ目の問いに答えた瞬間、麻美はひくっとこめかみを引きつらせると、机をバンとを勢いよく叩き、


『あんたねえ! その半分同棲みたいな生活してて、それで形勢不利ってどういうことよ!? ていうかなに!? ノロケ!? ノロケなの!? 別れたばっかのあたしへの当てつけかっ!?』


 猛烈にエキサイトする。結月は思わずPCのボリュームを下げた。


『まあまあ、落ち着きなよ矢田。つまり、その状況でも分が悪いということは、単純に桜坂さんの気持ちが、水瀬よりその神楽坂さんのほうに強く向いているということだろう』

「………そう、ね」


 薫の冷静な分析に、結月の声が沈む。わかっていることではあるのに。


『もうこうなったら寝室に押しかけろ! いやむしろ連れ込め! そして押し倒せっ! それが一番手っ取り早い!!』


 対する麻美はこれ以上ないくらいシンプルで動物的、かついっそ清々しい提案を叫ぶ。

 当然、この手の会話に免疫のない結月は、真っ赤になって否定する。


「あ、麻美!? い、いきなりなに言ってるのよ!? そんなことできるわけないでしょ!? 妹だって一緒に住んでるのに!」

『その言い方だと、妹さんがいない時ならOKとも聞こえるな。ならばホテルにでも連れ込んでしまえばいいのでは?』

「ホ、ホ、ホテル!? か、薫までなにはしたないこと平気で言ってるのよ!?」

『いや、確かに上品ではないけどさ……。でも、半分冗談で言ったつもりだったけど、正直アリな気がしてきた』

「ど、どこがアリなのよ!?」

『だから、まあいきなりベッドインはともかく、色仕掛けとか誘惑とか? あんた顔だけはいいし、何といってもでかいし。……やっぱムカつくわね』


 幾度かの上品でないやりとりののち、麻美はカメラ越しにじーっと胸元を凝視する。


「ど、どこ見てるのっ!?」


 結月は慌ててフレームアウトする。その本気な様子を見た麻美はやれやれと矛を収め、


『ごめんごめん。でも女の魅力も見せるのはホントにアリじゃない?』

『水瀬が魅力的なのは月が地球の周りを回っていると同じくらい事実だしね』


 薫はまるで口説き文句のような事実を述べる。

 しかし、結月は、


「ダメ、だよ……」

『『え?』』


「光輝さんにそんなこと、できない……」


 マイク越しでさえやっと聞こえるくらいの小声でつぶやいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ