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第4話⑦ 結月の進路相談

 最初のうちは結月さんに引っ張られていた俺だったが、当然、彼女はどこに行くかは知らないので、自然と順番は入れ替わることになる。


「あの、光輝さん、どこまで行くんですか? ここ、もう隣のキャンパスですよ?」


 本キャンパスの正門から出て徒歩5分程度。主に文学部が入っているキャンパスだ。

 ……しまった、思わず連れ出してきちゃったけど、よく考えたら日菜さんも一緒でよかったな。彼女、文学部志望だし。やはり俺がカッコつけるとロクなことにならない。


 ……怒ってるかなあ。怒ってるよね……。


 まあ、それはあとで謝り倒すとして。というか、用事に入ったら二人も呼び出しておこう。

 なんてことを考えているうちに。


「よーし、着いたよ」


 たどり着いたのは、何の変哲もない1棟のガラス張りの学舎。


「ここは……?」

「学生会館だよ。うちの大学の」

「学生会館?」


 まあ、入口に書いてあるしな。

 俺は結月さんを促し、中に入ってエスカレーターで上の階へ昇る。

 そして2階ぶん昇った先に、今回の目的地があった。


「ここは……」


 結月さんは目をパチパチと瞬きを繰り返している。だが、この施設自体はさしあたって珍しい場所というわけでもない。結月さんの大学にだって当然あるだろう。


「キャリアセンター……ですか」

「うん」


 キャリアセンター……いわゆる、ものすごく昔風に言えば『就職課』という場所である(今時の人に伝わるかは知らん)。



 ×××



 俺は結月さんを先導しながら、まずは受付に声をかけた。


「今日、こちらに事前の連絡を入れていた桜坂という者なのですが……。丸山さんはいらっしゃいますか?」


 受付の女性は「丸山ですね。わかりました」と一礼し、当人を呼び出すべく奥に引っ込んでいく。ゴールデンウィークの真っただ中だが、施設内には学生の姿もちらほら見える。就活シーズンも後半ではあるが、まだ活動を続けている学生もいるのだろう。


 そして待つこと数分。目的の人物が奥の事務室から現れた。


「おお、桜坂君。久しぶりじゃないか」


 眼鏡をかけた恰幅の良い男性が姿を見せる。年の頃は40過ぎ。人好きのする優しい微笑みは、将来に迷える学生が集うこの場所にはぴったりだ。


「こちらこそご無沙汰しています、丸山さん」


 俺は丁寧にお辞儀をした。



 ×××



 そして、俺たちは学生たちも利用するミーティングスペースに案内された。

 俺は、今回の訪問の主旨を丸山さん……このセンターのベテランキャリアカウンセラーに説明した。


「なるほどねえ。親戚の子の進路相談か……。てっきり彼女かと思ったよ」


 丸山さんはワハハとその少し出たお腹を揺らして笑う。彼女、という単語に結月さんはボッと顔を赤くした。……俺もちょっとばかり恥ずかしい。


「いや、彼女を他校の就職課に連れてくる男がどこにいるんですか……」


 俺がそう軽く反論すると、丸山さんはそりゃそうだ、また声を上げて笑う。


「えっと、でも私、この大学の学生じゃ……。それに……」


 結月さんはチラリと俺に目配せをした。もちろん、これはさっきの『彼女?』に照れたゆえのリアクションとは違う。

 しかし、さすがはこの道のベテラン。丸山さんは穏やかな声で言った。


「心配しなくても、君のバックグラウンドやプライベートに深入りしたことは聞かないよ。他校の学生だあることも気にしなくていい。桜坂君の紹介だからね」

「え?」


 自らの懸念に、先回りされた答えを言われて結月さんは驚く。

 俺もフォローを加える。


「こういう仕事をしてる人だからね。プライバシーは絶対に守ってくれるさ」


 例えば産業医だとか、この手の職業の人は口が堅い。それが仕事の根幹にある彼らのアイデンティティーだからだ。

 ……うちの銀行の産業医は人事に洗いざらい情報を売り渡しているとの噂は聞こえてくるけど。……主に美里先輩から。


 おっと、話が逸れた。


「それで水瀬さん。君は今、大学3年生。就職について悩んでいるということだったね?」

「は、はい……。これから就職活動が本格化するのに、志望する業界も職種も、全然イメージできていなくて」

「ふむ……」


 かしこまりながら現在の状況を説明する結月さんに、丸山さんは顎に手を当て考え込む。


「では、これをちょっと書いてもらえるかな?」


 そう言って差し出されたのは、1枚の用紙。


「……これは?」

「君のプロフィールを簡単に記入してもらうシートです。この内容で割り当てるアドバイザーを決めますから」

「アドバイザー、ですか」

「そんなに肩肘張る必要はないですよ。君と話が合いそうな学生や社会人を選ぶってだけだから。思った通りに書いてくれればいいし、わからないところは空白で構いません」

「は、はい……」


 とは言いつつも、手渡された用紙を見る結月さんの表情は真剣そのもの。力を抜いていいとは言われても、やはり生来の生真面目さが顔を出してしまうらしい。


 さて、どうなりますかね。


 ×××


 そして5分ほどかけて、結月さがきっちり内容を埋めると、丸山さんは「ではお預かりします」とシートを丁寧に封筒に入れ、「ちょっとお待ちくださいね」と軽く笑って部屋を出ていった。


 結月さんは緊張が解けたようで、ほうっと大きく息を吐く。


「光輝さん、あの方は……」


「あの人は俺の就職活動をサポートしてくれた人だよ。前もちょっと言ったけど、俺、就活の最初のうちはお祈り喰らいまくっててさ。慌ててここに泣きついたら、丸山さんが担当になってくれて、色々と親身にアドバイスしてくれたんだ。それでどうにかこうにか内定取れたってわけ」


「そう、だったんですか……」


 結月さんが神妙な顔つきになる。そんなシリアスにならないでほしい。

 もう、昔のことだからな。


「そして、これは俺からの一つ目のアドバイス。本当に困った時は『周りを頼る』!」


 そんな空気をぶち壊そうと、俺はドヤ顔で言うのだった。


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