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第3話① 姉妹との初デート④

 そして、日菜さんたちの買い物も一息。俺は彼女たちの代わりにエコバックを両手に抱える。


「光輝さん、ありがとうございます。重いのに持っていただいて」

「なーに、いいよこのくらい」


 俺は軽くバッグを持ち上げてみせた。……実はわりと重かったりするのだが、さすがにこのくらいは強がるべきだろう。俺なんかカッコつけても仕方がないが、あんまり情けないところも見せたくはない。


 日菜さんたちが購入したのは、本当の身の回りの日用品や消耗品ばかりだった。結月さんがこまめに値段をチェックしていたし、出した金額のわりには色々と買い揃えられたようだ。しっかりしているというか、買い物上手というか。


 なお、結月さんはまたしても敬語に戻ってしまっている。よほど恥ずかしかったらしい。……まあ、俺にもかなりの破壊力だったけど。


 なんてことを考えつつ、隣を歩く結月さんへと視線を移す。すると、彼女もなぜかぽやっとした表情でこちらを見上げていた。


 当然だが、目がばっちりと合ってしまう。


「「…………」」


 言葉がうまく出てこない。結月さんもまた無言。


 無性に照れくさくなった俺は「はは……」と愛想笑いを浮かべつつ前を向く。

 こっそり横目で結月さんの様子を窺うと、彼女もまた恥ずかしそうに明後日のほうを見ていた。


 ……な、何だこの感じ……。


 すると、反対隣りにいた日菜さんが、面白くなさそうに頬を膨らませる。


「むー。さっきから何なの二人とも。やけにあまーい雰囲気出しちゃってさ」

「そ、そんなんじゃないわよ」


 結月さんが慌てて否定する。しかしその声色はどこか堅い。


「まあ確かに、お姉ちゃんほどの美人はそうそういないけどさー。それに胸もおっきいし」

「ぶっ!?」


 俺は思わず噴き出した。


「やっぱ男って、まず顔と身体かー。特に光輝くんみたいな女にやたら理想持ってそうな男子って、お姉ちゃんみたいな黒髪で巨乳、みたいのに弱そうだし―」


「ちょ、ちょっと日菜!? 突然何言い出すのよ!? 光輝さんの前で?」


 後頭部に両手を回しながら口を尖らせる日菜さんを、結月さんが大きな声で咎める。

 ……てか、これ、俺の身の置き場は? 


「あたしだって別に小さいってわけじゃないのに。今日だって、本当は下着とかも買うつもりだったんだよ? 最近またブラきつくなってきてさー」


 日菜さんは挑発するように、Tシャツをパタパタと煽いでみせた。白くも健康的な鎖骨と胸元がチラリと見えてしまい、俺は首振り人形のごとく高速で逆を向く。


 ……確かに結構デカかったかも……。


 じゃなくて!


「あ、光輝くんどこ見てるのー? もうエッチなんだからぁ。JKの肌に見惚れるなんて完全にアウトだよねー?」


 してやったりと、日菜さんのクスクスとした笑い声が耳に届く。


「そ、それはこっちのセリフだよ! 年頃の子が気安く肌を見せるんじゃありません!」

「あはは、光輝くん、それパパみたい」

「…………」


 せめてお父さんと言ってくれ。パパだと…‥アレだ、よろしくない関係に聞こえちゃうだろ。もう遅いかもしれんけど……。


「あー、でもちょっとスッキリしたー。お姉ちゃんにばっかりデレデレするの、なんかムカつくもんねー」

「べ、別にデレデレなんてしてない!」

「あはは、顔真っ赤だよー! マジウケるー! いい大人なのにウブなんだー!」


 俺の女慣れしていないリアクションに溜飲を下げたらしい日菜さんが、今度はケラケラと笑う。


 その時。


「……あ」


 俺を指差す少女の後ろに、夜叉がゆらりと立っていた。


 ……いや、俺にはそう見えたというだけだったが。


「……日菜? さすがにやりすぎよ?」


 菩薩のような微笑みと、鬼のようなオーラを併せ持つ稀代の美女。その腰まで届く黒髪がかすかに舞い上がった。……ような気がした。


「え、えへへ……。えっと、こ……これは円満な家族関係を築くための相互コミュニケーションっていうか……」


 ……まあ、彼女の視点でもさして違いはないようではあるが。


「へえ……そう。じゃあ、久しぶりに姉妹のコミュニケーションを図りましょうか? ……じっくりとね」


 ……この後のことはわざわざと語るまでもないだろう。



 ×××



「まったく、本当にあの子ったら」


 はしゃいだ様子でモール内のテナントを見て回る妹の後姿を見ながら、結月さんは呆れたように溜息をついた。


「まあまあ。あれ以来、日菜さんもずっと大変だったんだし。ちょっとくらいハメ外しちゃってもしょうがないさ」

「それは分かりますけど、だからって、さっきから光輝さんに失礼なことばかり……」

「俺は平気だって。まだ高校生なんだし、色々と難しいところもあるんじゃないかな」


 まさにお年頃だしな。

 だが、俺の感想に不満があったのか、結月さんはなぜか怒っているような、あるいは拗ねているかのようなジト目を俺に流してきた


「……光輝さんは、日菜に甘いですよね。まだ知り合って数週間しか経ってないのに」

「え? そ、そうかな?」


 まあ、確かにあの愛想の良さと愛嬌にすぐに丸め込まれてしまう自覚はあるが。

 ただ、それもまた彼女の魅力の一つだろう。


「……ひょっとして」

「?」

「さっきの……光輝さんもまんざらじゃなかったとか?」


 彼女の訝しむような瞳がますます細くなる。


「ゆ、結月さんまで何言ってんの。そんなわけないでしょ」

「ふーん……ならいいけど」


 納得したかしていないのか、彼女はそれ以上追及してはこなかった。


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