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怪奇4

チベット全土を平和地域とする。

チベット民族の存続を脅かす中国の人口移動政策を放棄する。

チベット民族の基本的人権および民主主義に基づく自由を尊重する。

チベットの自然環境を保護し、回復させる。チベットでの核兵器の製造、核廃棄物の投棄をしない。

チベットの将来の地位について、また、チベット人と中国人との関係について、真剣な交渉を開始する。


チベット人による本当の自治権が得られれば(チベット人は自分達の)独立は求めない。


(1987年、アメリカ議会の人権問題小委員会での「チベットに関する5項目の和平案」より)



チベット人は、オリンピックには参加しない。

それを知ったのは、数年前のことだった。

どういうきっかけで、その話を知ったのかは忘れた。

他人が聞けば、記憶に残らない程度のことだったのだろうと思うだろう。

だが、少し違う。


「その話はしないで!」


責めるような、怒った声。

いつもは大人しい、中国人の友達であるロウから言われた言葉。


「それを中国人の前で、してはいけません・・・・!」


怒った後で、注意するような口調で諭された。

彼女に押し切られ、首を縦に動かしながらロウの言葉に従う姿を見せた。

それを見てロウは、安心したように微笑む。

しかし、そんな彼女の後ろで、複雑そうな表情でこちらを見る女性がいた。


それが――――――


「どうぞ。」


記憶が遮断される。

声のする方を見れば、小皿をこちらに差し出す女性がいた。


「どうしたんですか?ボーとして。」

「あ・・・?ス、スイチャ?」

「あなたの分のパスタですよ。冷めないうちに、召し上がってください。」


小さく笑うと、やわらかく丁寧な口調でスイチャは言った。

彼女は、留学時代に知り合った友達の中で、一番礼儀正しくて温厚な女性だ。

初対面の時、スイチャは日本語で話しかけてきてくれた。

留学当初、すぐに言葉を覚えた玲子とは対照的に、片言の中国語しか話せなくて苦労していた自分。そんな自分に、日本語で話しかけてくれ、緊張と焦りを消してくれたスイチャ。

発音を間違えても笑うことなく、親切に真剣に優しく対応してくれた。とても好感が持てた。しかも、日本人本来のきれいな発音で話すスイチャ。最初に日本語で話しかけられたこともあり、出会ってからしばらくは日本人だと思った。


「そういえば、今日でしたね?みなさんでお手伝いに行くのは?」


そう言うと、彼女は店の時計に目をやった。

昼時ということもあり、店内は人であふれていた。

ただ、西洋風の洒落た店ということもあり、中国特有の熱気と活気はそれほどなかった。


「うん。渋滞に引っかかってなかったら、もう着いてるだろうね。」

「大丈夫ですよ。オリンピック対策として、交通規制を行っていますから。」

「そうなの?」

「ええ。ロウさんから聞いてませんか?政府は、車の所有者に、ナンバープレートの数字の奇数と偶数に応じて、使用していい日と悪い日を決めているんですよ。」

「そんなことしてるの!?」

「ええ。だから、従来の半分の交通量のはずです。ちなみに今日は、偶数の日です。」

「そ、そうなんだ・・・。」


(また一つ、新たな中国を発見した・・・)


スイチャの言葉に苦笑しながら思った。


中国に来てから、一週間が経とうとしていた。

久しぶりの大陸ということもあり、懐かしい友達の元へ挨拶回りをしていた。

オリンピック開催間近ということで、南米や欧米、中近東の友達も中国に来ていた。

そんな留学時代の仲間達と連絡を取り、一緒に観光したり、遊んだり、食事をしたりしていた。みんなが中国に来た理由は、オリンピックの観戦や新しくなった街を見ることだけではなかった。

彼・彼女達もまた、おかゆ屋台の青年と親しくしていた友達だったのだ。

つまり、弔いの意味も込めて、中国へと来ていたのである。


「皆さん今頃、趙さんのアパートで、お父様と会われているのかしら。」

「会ってると思うよ。趙さんのお父さん、少しは立ち直ってればいいんだけど・・・。」


実は今日、世界各国から集まった友達は皆、趙さんが住んでいたアパートに行っている。

それと言うのも、趙さんの父親が、息子の荷物を取りに上京してくるからだ。

彼の父親は、息子の遺言に従い、泣く泣く郷里へと帰っていた。

ところがその際に、息子が住んでいた部屋の契約を、解約せずに帰ってしまったのだ。

それも、趙さんの私物を残したまま。

通常ではありえないことだが、彼の父親の精神状態を考えれば、起こっても当然のミスである。

けっきょく、事情を知っている趙さんの同僚を通して、大家さんが解約の手続きを行い、荷物を引き取るように、趙さんの父親へと連絡がされた。その際に、仲のよかったロウ達にも連絡が来たのだ。その知らせを受け、玲子やロウ、ティエン姐さんといった留学時代の仲間が、引越しの手伝いに行ったのである。


「私にかまわず、行けばよかったじゃないですか。」

「気持ち的に無理だよ。遺品とか見たら、泣いちゃいそうだもん。そうなったらきっとロウが泣いちゃうだろうし、それを見て趙さんのお父さんまで泣いちゃいそうだし。」


小皿の中のパスタを巻きながら、照れ隠しのようにして笑った。

だって本当だもん。きっと泣いてしまう。

引越しの手伝いを断ったのも、心のどこかで、友達の死を認めたくないからだろう。

だから、スイチャに会うという口実で、行くのを拒んだのだ。


「それに、アルバートだって行ってないよ。」


陽気な西洋人を思い浮かべながら言った。

アルバートもまた、職業上のことを考え、不参加を表明した。

陳情村での死者の肉親と、西洋人ジャーナリストが接触することは、中国人の友達の命を脅かすことだということを、彼は十分に理解していたのだ。


「スイチャは・・・・行かなくてよかったの?」


グラスに口付けている友達に問う。


「いけませよ。」


短く彼女は言う。


「今の国際状況を考えれば、いけませんよ。友人達の中には、私に不信感を抱いている人もいます。それに、趙さんのお父様だって、困惑しそうですからね。」


少し寂しそうに彼女は笑う。

話し方が、丁寧でやわらかいスイチャ。

初対面で、彼女は日本に話しかけてくれた。

だから、日本語で話しかけられた時、日本人だと思った。


でも、彼女は日本人ではなかった。

韓国人でも、台湾人でも、中国人でもなかった。

彼女は―――――


「・・・・・・チベット人の私が行けば――――――――」


チベット人だった。


そして、


「それを中国人の前で、してはいけません・・・・!」


ロウが私にキツく注意した時、後ろで寂しそうな顔をしていた人物だった。



元々スイチャは、ゴロクというチベット自治区に住んでいた。

出会った頃は、学校に通うために、故郷を離れて一人暮らしをしている状況だった。

そして卒業後は、シンガポールへと行った。

故郷や中国で就職するよりも、得意な外国語を活用できる異国の地の方が彼女にはあっていたのだ。


差別されることもない。


「スイチャ。」

「ごめんなさい。私の話はやめましょう。」


チベットの話はやめましょう。


彼女の目が、そう語っていた。


中国人は、チベット関係の話をしない。

毛沢東の妻・江青の話題のごとく、その話はタブーとされている。

以前、ロウから注意されたのも、ロウが国際的な考えを持っていただけではない。

口に出さない方が、無難だからだ。

『触らぬ神にたたりなし。』

日本の言葉で言えば、そういうことなのである。


「それよりも私、ずっと気になっていたことがあるんだけど・・・?」

「え?なに?」

「あなたの口元のバンソウコウ。」


スイチャの視線は、自分の口へと注がれていた。慌てて、口元を押さえる。


「どうしたんですか、それ?どこかでぶつけたの?それとも、食べ物を食べている時に噛んでしまったんですか?」

「あ、いや・・・うん、そうなんだ〜」


心配そうに見るスイチャに、笑みを作りながら答える。


「実は、熱い海老スープをすすったら、熱い上に、海老の甲羅が刺さって。」

「海老の甲羅が!?」

「いや〜痛いし、熱いしで、散々だったよ。アハハハ!」

「・・・・・・・本当に、やけどですか?」


マジマジと顔を見ながらスイチャが問う。


「傷からして・・・・殴られたように見えるんですけど?」

「ああ!熱くて、器を放して、席を立った時に、よろめいて壁にぶつけたんだよ。だから、頬のあたりも赤いんだよ!」

「本当ですか?」

「本当だよ!恥ずかしいから、あまり言わせないでよ!」

「あなたがそう言うなら信じますが・・・・。」


疑いの目で見つつも、彼女はそこで納得した。


(相変わらず鋭いな・・・。)


相手の洞察力に感心しつつ、己の嘘の下手さに呆れる。

こっちにきてから、海老のスープなど食べていない。(フカヒレは食べちゃったが。)

甲羅のついた料理など口にしていない。(点心はいっぱい食べたけど。)

顔面を壁にぶつけてもいない。(そんなドジはしてないないない!)

口元を切ったのは、自分の不注意ではない。

スイチャの言うとおり、殴られて出来た傷。

それも、善意を行った結果なのだ。


(とんだ御礼を受けたものだ・・・・。)


目の前でパスタを食べるスイチャに聞こえないように、小さくため息をついた。



事の発端は、アルバートの発言が原因だった。


「四川省の取材はひどかった!だけど、チベット問題はもっとひどかったよ!」


ワインを飲みながら、若いジャーナリストは言う。

昨夜、久しぶりの再会を祝って、ホテルの部屋で宴会を行った。

屋台やスーパー、ファーストフード店で調達したお酒や食べ物で乾杯した。

メンバーは、仕事で来れないというティエン姐さんを除いた全員と、中国・韓国人の友達も加わった。一度は自分のホテルに荷物を置きに帰ったアルバートも、留学時代の友人を数名連れて戻ってきた。

その彼が、ギョーザをつまみに言ったのである。


「食品問題、北との関係、以前から言われていた偽ブランド問題に、チベット人への差別問題ときて、オリンピックだ!少しは、物分りの良い国を演出しないと!」

「それはおかしいわ、アルバート!チベット人は、中国人と同じ人民よ!?差別なんてしてないわ!」


アルバートの言葉を一人の女性が否定した。


「アーシャ!」

「チベットは、毛沢東様のおかげで、中国と一つになってから良くなったのよ!」


不機嫌そうに、彼女はアルバートを見た。

アーシャと呼ばれた女性は、留学時代の友達の中国人である。

行動的で気の強く、物事を白黒させなければ気がすまない性格の持ち主だった。


「チベット人が住むチベット自治区は、四川省・青海省・甘粛省・雲南省の一部ですから、立派な中国の領土なのよ!」


アルバートの意見に真っ向から反発した。お酒が入っているせいか、いつもより声が大きかった。


「違いますぅ〜!僕の意見が正しいんですぅ!元々チベットは独立国でしたぁ!それを中国共産党の毛沢東氏が強行侵略をして、現在に至るんですぅ!」


アーシャの怒りをあおるように、軽口をたたくアルバート。


「チベットではぁ〜ダライ・ラマ14世の写真はおろか、その名前を口にすることさえ禁じられていますぅ!それを破った人は、銃で頭を撃ち抜かれまーす。」


バーンと、効果音をつけながら彼は言う。


「それでも人々は、良さそうな観光客を見つけては尋ねまぁす!『ダライ・ラマの写真を持っていたら、譲っていただけないでしょうか?』と、内緒で懇願しまーす!でも、中には私服警官がいて、間違って声をかけた哀れなチベット人は、連れて行かれた、嬲り殺されまーす!」


ギャーと、舌を出しながら、苦しむ様子を見せる。

そんなアルバートの態度に、アーシャは怒りをぶつける。


「茶化さないでよ!あなたのそういう軽いところが、私は昔から気に入らないの!」

「そうさ、僕は軽い男だよ?だけど、嘘はついていない!君が知らないだけだよ、アーシャ。」

「アメリカ人は大げさだと言うけど本当ね!?私達を、そこまでひどく侮辱するなんて!」

「僕は、アーシャを侮辱したことは一度もない!」

「今したじゃない!?」

「君のことじゃない。僕が見聞きした、現地の中国人のことだ!」

「それが侮辱よ!中国人が、そんなひどいことをするわけないじゃない!?」

「やめて!アーシャ、アルバート!」


とめるロウの言葉を遮るようにアルバートは言う。


「君が知らないだけだよ、アーシャ。知ってしまえば、その考えだって変わるさ。多くの中国人は、迷惑な善意と行為をチベット人に押し付けている。それに気づかない方が、ひどい侮辱になるんじゃないか?」

「中国人のおかげで、チベット人は自由になれたのよ!?アルバート、あなたチベットで、なにを取材してきたの!?」

「中国人に弾圧されるチベット人を見てきたよ!もし、我慢比べ大会があったら、間違いなくチベット人が一位だね!」

「あなたの意見はチベット人優位なものね!?いい、アルバート!現地には600万人近くのチベット人がいるの!中国人なんて、数万人程度じゃない?数で考えても、中国人が馬鹿をできるわけないわ。」

「槍と鉄砲なら、話が別だろう?スペインが、インカ帝国を滅ぼせたのはなぜか知らないのかい?簡単に人を殺せる道具を、少数のスペイン人が持っていたからさ!」

「中国人が、チベット人を殺すとでも言うの!?」

「『民族浄化』だとわけのわからないことを言って、根絶やしにしようとする動きがあるぞ!」

「ふざけないで!中国人は、チベット人と仲良くしてるわ!」

「仲良くするさ。しなかったら、チベット人は中国人に殺されるんだから?」


途端に、甲高い声が上がる。アーシャが、近くにあったつまみやお酒の缶などを、アルバートに投げつけ始めたのだ。


「ちょ、やめなよ!」


さすがに見ていられなくなり、慌ててアーシャを抑えた。そこに、ロウをはじめとした数人の友達が続いた。


「やめて、アーシャ!食べ物を投げてはいけないわ!」

「ほら!そうやってすぐに、暴力を使うのが、中国人の悪い癖だ!」


韓国人の友達に抑えられながら、ほらほら、と、アルバートはアーシャを指差す。


「アルバート!アーシャをあおるようなこと言わないで!」

「僕は間違ったことなんていっていない!君だって、真実を知っているだろう!?」

「アルバートの大うそつき!」

「嘘じゃないさ、アーシャ!そう思うなら、みんなに聞いてごらんよ。僕と同じことを言うか、話をそらすはずさ!」


そう言って、話をこちらにふるアルバート。

これには、誰からともなく、互いに顔を見合わせた。


「違うよね!?アルバートの言ってることが違うでしょう!?」


興奮気味に、同意を求めるアーシャ。

この部屋にいる全員が、金縛り状態になった。

部屋にいるのは、中国人はもちろん、アルバート同じアメリカ人や韓国人、カナダ、シンガポール、スウェーデンと、多種多様な民族がいた。日本人も二名ほどいる。

本来なら、あまり集まることのないメンバーである。


「ロウならわかるでしょう!?」


アーシャが、最初に意見を求めたのはロウだった。


「中国人とチベット人が不仲だと思われるのは、ダライ・ラマ14世が原因だよね!?」

「アーシャ・・・。」

「チベット自治区は、清時代以前は中国の領土だったのよ!それを取り返して、なにが悪いの!?変な独立国家で、ダライ・ラマの支配下にあるより、民主的な共産党に、近代的な文化のもとで教育を受ける方が幸せじゃない!」

「洗脳教育が幸せかい?」

「アルバート!?」


アーシャの言葉を茶化すアルバート。

しかし、その言葉で怒ったのは彼女だけではなかった。


「洗脳教育とはどういうことだ!?」

「いくらなんでも、アルの言い方は悪意があるぞ!?」


アルバートを抑えていたヒョウとホウだった。

二人とも中国人で、留学時代からの友達だった。


「アルバート、チベットに行って感化されたのはわかるぞ。だが、アーシャへの発言は、言いすぎないか!?」

「そうよ、ヒョウ!もっと言って頂戴!」

「やめてよアーシャ、あおらないで!」

「アーシャの意見に俺は賛成だ。中国人がチベットを保護したおかげで、チベット人の暮らしは良くなってるんだぞ!恨まれるはずがない!」


真顔で言うホウに、ヒョウも言葉を続ける。


「そうだ!ダライ・ラマは、自分の宗教が認められないから、中国政府に嫌がらせをしているんだぞ!?俺達は、弱い者いじめなどしない!」

「じゃあ、僕が見たのはなんだい?お坊さんを、銃で叩くのは、弱い者いじめにならないのかい!?」

「あれは一部の血の気の多い軍人がしていることよ!私はテレビで見たわ!チベット人にお店を壊されて、泣いている中国人の姿を!」


アーシャが真っ赤な顔で叫ぶ。


「チベットは、中国の領土なんだから、他人が国政に余計な口出しをしないでほしいわ!他の国は、中国人はひどいというけど、私はそうは思わない!チベット人が大人しいと言うけど、大人しい顔をして騙してるのよ!世界を騙してるの!」

「無欲な彼らがかい?」

「無欲なふりをしているだけよ!温厚なふりをしているだけなんだから!」

「じゃあ、スイチャもそうだと言いたいのかい?」


その言葉で、部屋の中の空気が変わる。


「スイチャを見ても、同じことが言えるのか?」

「アルバート!」

「僕はね、職業柄、中立な立場でいたいんだよ。」


真面目な表情で彼は言う。


「だから、スイチャ一人を基準にして、チベット人の人間性を決めるつもりはないよ。だけど、現地で取材をして、人々の話を聞くうちに、スイチャをその基準にしてもいいと思った。」

「あなた単に、スイチャのことが好きなんでしょう?それなら、そう思っても当然じゃない!?」


皮肉を込めてアーシャが言う。


「もちろん好きだよ。人間的に優れているから、好きになれるんだ。」


アーシャの嫌味を、軽くかわすとアルバートは言った。


「彼女は熱心な仏教徒であり、母性あふれる温かい女性だ。争いごとも望まないし、『非暴力』を忠実に訴える真のチベット人だよ。ここにいるみんなだって、彼女の良さを知っているだろう?」


この問いかけに、誰も反発はしなかった。

スイチャ、性格は驚くほど温厚で温和な優しい女性だった。

人と争うことを好まず、喧嘩になる前に、自分から折れてしまうタイプの子だった。

熱心な仏教徒であり、ダライ・ラマ14世に対しては、心の底から尊敬していた。

怒っている彼女など、一度も見たことがない。

いつも、穏やかな顔をしていた。


「温厚だし、声も荒げないし、誰かさんとは大違いだ!焼きもちも、そこまでくると汚くて醜い!」


思いっきり顔をゆがませながら、アルバートは言った。

その瞬間、大きな音が部屋に響いた。


「アーシャ!?」


なにかを叫びながら、アーシャがいすを振り回していた。

女性陣が、慌てて彼女を止めるが、その暴走はとまらない。

女性だけでは手に負えず、男性陣も止めに入るが収まらない。


「スイチャがなんだって言うのよ!?」

「やめてよ、アーシャ!」

「アルバートなんて大嫌い!!」


椅子や机を投げながら、怒る友達。


「アーシャ!もうやめて!」


電話が顔の横をかすめた時、酔いはさめていた。


これは本気でとめないと!!


アーシャが癇癪を起こして、椅子や電話を投げる。

アルバートも、相手をあおるような暴言を繰り返す。

それをとめようと、間に入ったものは皆、あざや擦り傷を作ってしまった。

もちろん自分もその一人。

しかし、事態は、修羅場はひどくなる一方。


「アーシャ!お願いだから怒らないで!」


アーシャの破壊行動をとめよと、声をかけたのだが、


「うるさい!!」


右頬に強い衝撃を感じる。意識が遠退いていく。

遠くで、自分の名を呼ぶ声がした。

グーで、殴られたのだと気づいた時、騒ぎは収まっていた。


「アルバートもアーシャもいい加減にしなっ!!」


知っている声が怒っている。

体を起こせば、全員部屋の中で座り込んでいた。

部屋の中央に、玲子がいた。

玲子の前に、アルバートとアーシャが座っており、カナダ人の友達が二人の間を挟んで座っていた。

アルバートは不機嫌そうにしており、アーシャは体操座りで顔をうずめていた。

アーシャの隣には、心配そうな表情のロウがいた。


「あんた達の性格はよく知ってる。でもね、これ以上喧嘩しても無意味だからやめなさい。」

「私は悪くない!それなのに、なんで玲子は殴ったの!?」


顔をうずめていたアーシャが叫ぶ。そう言った彼女の頬は赤くなっていた。


「殴ったんじゃないわ。引っ叩いたのよ。」

「暴力に変わりないわ!謝ってよ!」

「玲子を謝らせたいなら、アーシャも謝らないといけないよ!君が殴り飛ばして、気絶させた相手にね!おや、噂をすれば―――――・・・」


こちらに気づき、アルバートが声を上げる。

それにより、全員の視線を受けることとなった。


「大丈夫かい?癇癪持ちは、手加減をしないんだから。」

「なんですって!?」

「だからやめな!あんた達二人を見ていたら、カタールのテレビ局を思い出したわ!このままじゃ、どちらか片方が帰らない限り、喧嘩は続きそうね。(※カタールのテレビ局では、対立する民族の代表を呼び、互いの意見をぶつけ合う様子を放送している。時間に制限はなく、どちらか片方が、怒って帰るまで番組は続けられる。テレビ局の目的は、両者をとことん喧嘩をさせて、すっきりさせて仲よくさせるというものだが、実際はなかなか難しい。)」


そう言うと、戸口の方に視線を送る玲子。


「外に変なのがいるのに、アーシャかアルバートのどちらかを、一人で帰すなんて怖いことはしたくないの!」


その言葉で思い出す。アルバートが、公安関係者に尾行されていたことを。

玲子の言葉を察し、ロウに視線を送る。すると彼女も、同じようにこちらを見ていた。


「今夜はこれでお開きよ!」


不機嫌そうに玲子が言う。その言葉で、誰ともなく部屋を後にする。

アルバートとアーシャは、一度も視線を合わせなかった。

特にアーシャは、玲子を睨みながら部屋を後にした。

荒れた部屋には、二人の日本人が残されたのだった。



食事を終えると、スイチャ達の泊まるホテルに行った。

都心に近い、一般用の中流のホテル。そこに、南米人の友達と二人で泊まっていた。

オリンピックが間近なこともあり、値段は通常よりも高かった。

近くの店で、飲み物とお菓子を買い、夕飯まで時間をつぶすことにした。

スイチャの案内で、部屋へと入る。想像していたよりも広く、きれいな部屋だった。

適当な場所に腰掛けると、たわいない話を始めた。

その時だった。スイチャの携帯が鳴る。


「今日はキャロル、帰らないそうです。」


画面の表示を見ながら、スイチャは告げる。

キャロルとは、スイチャと一緒に泊まっている友達だ。

どうやら、趙さんのお父さんと盛り上がってしまい、酒宴になっているようだった。

ルームメートが帰らないということは、スイチャが一人になるということである。


(チベット人のスイチャを一人でホテルに残す?)


チベット批判が増えている中、彼女を一人にしていいのだろうか?


「ここに泊まってもいいかな?」


心配が言葉となって発せられる。


「スイチャ一人じゃ、その・・・つまんなくない?キャロルが戻らないなら、きっと玲子も戻らないし。そうなったら、私も一人じゃさびしいから。」


苦笑いしながら言えば、小さく笑いながらスイチャは言った。


「じゃあ、お願いします。私も一人はさびしいですから。」


穏やかな表情で彼女は微笑む。

スイチャと話しながらよく思う。非暴力はいいことなのかと。

日本は、憲法九条があるので非暴力主義にはなると思う。

だが、それが本当に正しいのだろうか。

チベット人が受けてきた屈辱を思えば、心が揺らいでしまう。


「そうだ!テレビでも見ない?」


悲しく、切なくなった気持ちを変えるために、リモコンを手に取る。

何気なく、スイッチをオンにする。

写った映像を見た瞬間、己の行動を後悔した。


「このように、チベット人による破壊行為は、日々激しさを増しています。」

「やはり、ダライ・ラマが原因なのでしょうか?」

「そうですね。わが国の人民を、悪い方へと導いているのです。」


チベット人の暴動を、批判している番組だった。思わず、リモコンを落としそうになった。


変えなきゃ!


スイチャの姿が気になったが、見るわけにはいかなかった。


「やだな〜ニュースばっかりだよ!」


茶化しながら言って、チャンネルを変えた。程なくして、安全な番組を見つけた。


「あ〜これ、楽しそうだね。最近の中国も、いろいろやってるんだね。」


当たり障りのない会話をする。触れないように、誤魔化して、誤魔化して。


「私は、争いごとが嫌いです。」


ふいにスイチャは言った。その声があまりにもはっきりしていたので、思わず彼女の方を見た。言葉とは裏腹に、そこにはひどく穏やかな表情の友達がいた。


「気にしなくてもいいんですよ。」


そう言って、気遣いの言葉をかける。


「私が生まれる前から、みんなそうでした。私達チベット人は、大事な神様へお祈りができて、ダライ・ラマ14世様を尊敬していると、声に出すことができれば、十分なのです。」

「スイチャ。」

「中国共産党が、大事な仏像を持ち去り、それを溶かしたり、壊したりしてしまったことを、ほとんどのチベット人はもう怒ってはいません。そういうことをした人達のほとんどが、21世紀では生きていないからです。」


彼女の言葉を着た瞬間、胸が締め付けられた。

確かに、生きているわけがない。もう半世紀近く前の人なのだ。

死んでしまった犯罪者を、責めるつもりはないというの?

日本で言うところの『罪を憎んで人を憎まず』ということなのか?


「でも、壊されてなくなったんだよ?心の支えにしていた物を、何百年も守り抜いてきた国宝を・・・。」


納得ができなくてそう言えば、スイチャは穏やかな表情で言った。


「仏像にしても、姿を変えただけだと思っています。姿かたちは変わっても、その尊さだけは、変わらずに残っていると考えています。」


スイチャの言葉には説得力があった。

仏教徒であれば、共感できる考え方だ。


「仏は、信じるものの心にいます。それを形にしたものが仏像です。日本にもあるでしょう?『罪を憎んで、人を憎まず。』という言葉が。憎しみや戦争からは、なにも生まれないのです。」

「だから許すの・・・?」


そんな問いに、無言で彼女はうなずく。

このような彼女の考え方は、日本人と近いものがある。

日本に古くからある宗教は神道だ。

でも、神道と同じくらい広く浸透してきたのは仏教だ。

民族は異なるが、信仰は同じものを持つ日本とチベット。

だから彼女の考えが、日本人の道理に合うと思えるのだろう。

スイチャがそう考える気持ちはわかる。わかるけど・・・


「・・・・・あんなことされたのに、許せるの。」


わかるけど、許せない。

チベット人が受けた行為を知っているから、許せない。


「共産党のしたことを許せるの?」

「―――――――いけません!そんなことを言っ――・・・!!」

「許しちゃいけないことじゃないの!?」


言わないでと言われていた。

言わない方がいいと言われていた。

だからなに?


(言う言わないは、個人の自由でしょう!?)


「壊されたのは、仏像だけじゃないでしょう?人間だって、ボロボロに壊したじゃない!?」


今までの我慢が、なんとも言えない怒りが爆発した。


「共産党は『チベット開放』なんて立派なことを言って、チベット人に対して殺りくの限りを尽くしたじゃない!?そんな押し付けがましい親切の名の下で、チベット人の人権を徹底的に無視した!」


押し込めていた暗い記憶がよみがえる。


「共産党の人間が、一般のチベット人やお坊さんや尼さんになにしたか知らないの!?私知ってるよ!?」

「え・・・?」

「人の命を奪う殺りくも許せない!!だけど、人の体を弄んで侮辱しつくした行為はもっと許せないよ!!」


気になったら、調べずにはいられない。

そんな己の性分。

人に聞くことが出来ないなら、自分で調べてしまえばいい。

ロウが、なにか隠していたのは知っていた。

だから、自分で調べた。

チベットと中国に関する歴史を調べたのだ。

そして、初めて歴史を知ることを『後悔』した。


「共産党軍は、チベット人の大半が仏教徒であることに目をつけた!さらし者に、みせしめにするために、逆らう仏教徒を捕まえて拷問にかけた!それも普通の拷問じゃなかった・・・!そうでしょう・・・?」


聞いてはいけないことをスイチャに聞いた。

相手は、驚いたように目を見開く。

しかしそれは一瞬のこと。

彼女は、深い瞳をさらに深くし、悲しそうにこちらを見る。

日本人の言葉に傷つき、顔を曇らせているのではない。

チベット人のことで傷つく日本人に対して、嫌な思いをさせてしまったという顔をしていたのだ。


「・・・・・・調べたんですね?」


馬鹿な日本人の問いに、スイチャは律儀にも答えた。


「ごめん・・・。」

「・・・いいえ。人間の探究心は抑えられませんよ。」

「ごめんね・・・。」

「謝らないで。あなたは、知ってしまったんですね・・・?」

「うん・・・知ってるよ。」


知ったよ。


「共産党が、チベット人を一方的に殺したこと、知ってるよ。」


調べてしまったから。


「共産党が、チベット人が何百年も守ってきた仏像とか、書物とか、問答無用で奪って、壊して、燃やして捨てたことをも知ってるよ。」


そして、調べたことを後悔したよ。



「中国共産党が、チベット仏教徒の男女達に、無理やり性行為を強制したことを・・・・!」



怖かった。

インターネットでその事実を知った時、怖いという思いと単語しか浮かばなかった。


「お坊さんや尼さんの家族や弟子を人質にとって・・・『セックスしろ』って命令したんでしょう?拒めば、家族や弟子を身がわりにするって・・・・!」


性的暴力。

それが一番怖かった。

読むのをやめればよかったかもしれない。

パソコンを閉じればよかったかもしれない。

でも、それができなかった。


「尼さんとお坊さん同士に無理やり性交渉させたんだよね・・・?それを共産党軍は笑いながら見た・・・!『これがチベットの尊い、お坊様や尼様の立派な教えだ!』って・・・拳銃を突きつけて、性交渉させたんでしょう・・・・!?脅しに使った銃の玉だって、強奪した仏像を溶かして作った玉だったって・・・!」


怖くて、つらくて、悲しい。痛い。

中国という国が、共産党が怖かった。


「それだけじゃない!無理やり、お坊さんに一般の女性を襲わせたんだよ!?弟子を人質に取られて、そのお坊さんは泣きながら、謝りながら、一般女性を何人も強姦したんだよ!?それを命じた共産党は、『不貞な僧侶だ』って、そのお坊さんも人質にしていた弟子も、まとめて殺したんでしょう!?」


こんな怖い思いをしながら、歴史の勉強をしたのは初めてだった。


「男性の僧侶もひどかったけど、女性の、尼さんはもっとひどかった・・・!尼さんはみんな、共産党軍の慰安婦にされた・・・!強姦・輪姦されて、妊娠させられて・・・!妊娠させられた尼さんは、『不貞な尼だ』って言われて、さらし者にされて、けっきょく殺されてしまったじゃない!?中には、生きたままおなかを開かれて殺された母子もいたのに・・・!!」


見るのを、知るのをやめてしまえば、負けのような気がした。

怖かったけど、逃げたら負けだと思った。


「ひどいよ・・・!そりゃあ・・・それりゃあ、日本も戦争でひどいことをしたと思う!でも、仏教徒にこんなひどいことはしない!やりすぎだよ!」


真実を知るうちに涙が出た。気分が悪くなって、吐きそうになった。


「開放だなんだって言って、チベット人を虐殺しただけじゃない!?半世紀たった今でもそうだよ!」


自分達が一番正しいと思い、そのためには、異なる民族を殺していい。


「それを批判すれば、『中国国内のことだから、口出しするな!』でしょう!?国民に嘘を教えて、味方につけて、それでよく、国際社会っていう神経が異常よ!人を人思わない!国民の人権さえ踏みにじる連中に、よい国を名乗る資格はないわ!!」


人権がないのはチベット人だけじゃない。

中国人でさえない。

人権さえあれば。

人権さえあれば、友達が死ぬことはなかったのに・・・・。



「泣かないで。」



目の前に、スイチャの顔があった。憂いをこめた表情の彼女。

清潔なハンドタオルで、情けない日本人の涙をぬぐってくれた。


「私達は、中国共産党が約束を守ってくれるなら、彼らが国を支配してもかまわないと思っています。でも・・・彼らは、何一つ守ってくれません。」

「約束って・・・ダライ・ラマ14世様に関すること?」

「それが一番です。ダライ・ラマ14世様の写真はおろか、お名前さえも口にすることを中国共産党は許してくれません。故郷を離れなければ、ダライ・ラマ14世様を好きだとも言えません。会いに行こうとすれば、弾丸で命を奪ってきます。」


その言葉で、アルバートから教えてもらった話を思い出した。二〇〇六年に起きた事件。中国人兵士が、民間のチベット人を的のようにして撃ち殺した事件。その発砲理由が、ダライ・ラマ14世に会おうとしたからという、実に馬鹿げたものだった。誰が誰に会おうが、個人の自由である。それを口うるさく言うということは、人権が守られていないということだ。


「チベット人は、『人権を保障し、守ってくれるなら、不満は言わない』と言っているだけです。賃金が安くても、遊牧地が奪われても、中国語が話せないと差別されても、許すと言っています。人権さえ、『チベット人を人間だ』と認めてくれれば、中国共産党を許すといっているのです。それなのに、中国共産党はその言葉を信じてくれません。それどころか、ダライ・ラマ14世様が、チベット人を惑わしているのだと思って弾圧をするのです。」

「それは・・・・。」


疑うなという方が無理かもしれない。

多くの人間は、なにか裏があるのではないかと思うだろう。

でも、チベット人を知っていれば、そうは思わない。

だから、彼女の言葉は信用できた。


「私達は、ダライ・ラマ14世様に弾圧なんて受けていません。私達を弾圧しているのは、私達を疑っている中国という国そのものでしょう?私は、中国人の気持ちが知りたくて、公用語の以外の言葉も学びました。北京はもちろん、広東、上海など癖のある言葉もすべて覚えました。必死で勉強して覚えました。覚えて、話をして、考えを聞いたけど・・・。」


少し間をおいてからスイチャは言った。


「やはり、わかりませんでした。」


わからないだろう・・・。

習慣や風習、文化や価値観が違うのだから。

勉強したからといって、簡単にわかるのなら、戦争など起こるはずがない。


「なぜ、中国人がそう思うのか、わからなかった。」

「大丈夫、日本人だってわからないから。」


真顔で答えれば、冗談だと思ったのだろう。小さく声を立てて彼女は笑った。


「そうですね・・・異文化を理解するのは難しいです。でも、勉強したことが無駄だとは思いません。人生に無駄などありません。今は、異国の地で暮らしていますが、いずれは、生まれ故郷のゴロクに帰りたいです。」

「・・・それがスイチャの夢なの?」


初めて聞かされる友達の夢に、それまでのつらい気持ちが収まる。


「そうです。シンガポールで働いて、お金をためて、チベット人のための学校を作ろうと思います。職業学校というものが、日本にあるのでしょう?私も、それを作りたいのです。」


楽しそうに言う彼女の言葉に、こちらもワクワクする。

あまりに嬉しそうに言うので、気持ちがつられたのだと思う。


「貧しいチベットの子供を対象に、中国語はもちろん、正しいチベット語やチベットの歴史を伝えたいのです。チベット語を話せる人は、私達の世代ではほとんどいませんから。」


スイチャの言うように、チベット語を話せる若者は少ない。

彼女の家はそうでもなかったが、ほとんどの場合は、親が教えないそうだ。

チベット語の代わりに中国語を教える。

中国語が話せないと、良い仕事に就けない。就職できない。貧しい生活しかできない。

それが、チベット自治区の現状。


「希望すれば、大人にも、おじいさん、おばあさんにも教えます。すべてを知った上で、これからチベットについて考えていきたいのです。」

「いいね、それ。」

「なんか・・・いいね、それ。」

「はい、いいですよ!仲間と一緒に、勉強を教えます。講師として、日本人・アメリカ人・イスラム人・イタリア人・韓国人・ドイツ人などはもちろん、中国人にも、先生を頼みたいです。」

「中国人も!?」

「ええ。」

「・・・差別されるかもしれないよ。今だって・・・」

「いいんですよ。」

「え?」

「そんな小さいこと、気にしなくていいんです。あなたが、私に話したことにしても、わかるんですよ。」

「・・・なにが?」

「あなたは、本当に中国人が好きなんでしょう?だから、共産党のしたことが許せないのです。漢民族や他の民族の代表として、中国の代表として、ひどいことをするのが許せないのでしょう?」


前向きなスイチャの姿に、何かが抜けていくのを感じる。


「過去のことをいつまでも蒸し返すよりは、先のことを考えた方がいいんです。」


ドロドロとした怒りや悲しみが消えていった。


「あなたが言ったとおり、私達は卑劣な扱いを受けました。完全に許すことは出来ませんが、どちらかが折れなければ、永遠に続いてしまうんです。」

「スイチャ。」

「さあ、ややこしい話はここまでにしましょう。私はあなたと、民族の話をするために、引き止めたのではありません。楽しく過ごすために、ここに泊まっていただくんですから。」


そう言って笑った彼女の表情は、菩薩のように神々しかった。




















チベット問題は・・・・・・・・・・・・・・・難しい問題です。

北京オリンピックの際、日本である仏教系のお寺が、オリンピックに関する協力を辞退しました。これについて、作者として仕方がなかったと思います。仏教徒として、ダライ・ラマを悪く言われては傷つきます。中国の人だって、毛沢東の悪口を言われたら、すごくいやな気持ちになりませんか?

チベットに関する報道を見ていると、矛盾を感じてしまいます。

なぜ、漢民族のことしか報道しないのでしょうか?

暴動のおかげで怪我をしたといいますが、チベットの人やその他の少数民族も、怪我をしていますよ。喧嘩をして、一方だけが怪我をするなんてことはありえません。

『民族浄化』とかかげているのならば、浄化されたチベット人についても、触れるべきではないでしょうか??きれいにして仲間入りしているというなら、なおさら不思議でなりません。

チベット人がオリンピックに参加しないと言われていますが、その理由もかなり複雑なようです。

ただ、チベット人の我慢も限界に来ている気がします。近年、温厚とされるチベット人おなかで、特に、争いごとを嫌うお坊さんが暴動を起こしたのです。

中国軍隊とチベット人民衆が激突したという話を聞くだけでも、作者的には深刻だと思います。だって、普通は鉄砲を持っている相手に、なんの武器も持たない者が戦いを挑んだりしません。自殺するようなものですから。それなのに、暴動を起こして戦うのです。

日本でいえば、西郷隆盛が新政府と闘ったのと同じ感覚ではないでしょうか?

負けるとわかっていても、自分達の訴えを聞いてほしい。命と引きかえに、大事な何かを守りたい・貫きたいと、そんな気持ちがあるような気がします。


日本でも反日について、メディアで放送がされますが、中国人のみんながみんな、デモに参加しているわけではないことは知っています。

デモに参加している者、若者の中には、『流行っているので、とりあえず参加している』感覚で、デモに参加していたりします。なので、場所によっては、メーデー感覚でやっているみたいです。だから、テレビで見るような激しいデモばかりでなく、穏やかなデモもあるとのこと。

ただ、中国では、日本に関するデモは禁止されていないので参加しやすし、やりやすいという面もあります。だから、余計に目立つのです。


ですが、ここで一言、中国の方に言いたい。

日本人は戦争について深く反省しています。それから、貿易で得た利益を、すべて軍用機の費用に当てていません!!そんな金があるなら、福祉や介護の方にまわしてます!!ただでさえ、防衛費の削減だといって、現在の自衛隊は金欠なそうですから。


そして、日本の方に言いたい。

中国人全部が全部、反日感情は持ってませんよ。デモに関しても、秩序を乱した破壊行為をする同胞に、怒りと悲しみを感じている人がいます。暴力によって、相手の謝罪を求めることを恥としている人もいます。


・・・・『お前は何様だ!?』的なことを書いてすみません。


ダラダラ書いてしまいましたが、今言いたいのは、民間中国人の考えと中国政府要人の考え方は、必ずしも同じではないということです。


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