第八話 仮パーティ、そして再会
「こちらが換金分の八千メルから解体分の代金を引き抜いて、合計七千八百メルです〜。
初めてですよ、最初に狩って来た魔物がこんな鮮やかに倒されたフォレストウルフ、それも四体だなんて〜」
そう受け答えしながら俺へとお金を渡すのは 、ローザ・ティタルニアさんだ。
まさかのギルドマスターの妹らしく、髪に隠れたエルフ耳を見せてくれた。
「運が良かっただけです、全員イリサに標的を定めてましたから。それに、一匹逃がしましたから」
「謙遜しちゃって、可愛いですね〜」
「謙遜なんかじゃ無いですね、事実です。あとこのお金は半分に分けて、片方をイリサに渡してくれませんか?」
「はあっ!?そんなの貰えるわけないでしょ、アンタが倒した魔物よ!?」
横で会話を聞いていたイリサに凄い勢いで拒否られた。
そこまで拒絶されると普通にヘコむからやめて欲しい。
「・・・お前、お姉ちゃんとやらのためにお金が居るんだろ?素直に受け取ってくれ」
ギルドまでの帰り道、少しばかり身の上話を聞いた。
曰く、同じ孤児院出身の姉がいて。
毎日頑張って暮らしていた中、院長が亡くなり住む場所を失って。
二人でこの近くの森を彷徨っていた所を魔物に襲われ、その姉がイリサを庇って大怪我をしたらしい。
今は、外壁近くにある空き家を勝手にこっそり住ませて頂いてる状態の様だ。
(そんな話聞かされちゃなあ・・・)
その姉は今、外へ出るのが難しい状態らしい。
「でも・・・」
「でも、じゃない。受け取れ。じゃないとこのお金捨てるぞ」
「ダメに決まってるじゃない!?・・・分かったわ、有難く受け取らせてもらう。けど、同情されたくて話た訳じゃないから・・・」
「そんな申し訳ない、なんて気持ちは心に留めておけ。俺はしたいからしてるんだ、笑顔で貰ってくれた方が嬉しいだろ?」
「だろ?って言われても・・・。ま、ありがと」
「さて〜、ここでお二人に提案です〜」
俺達のやり取りを微笑みながら見ていたローザさんは、ここぞとばかりに身を乗り出して来る。
何かしら伝えたい事があるようだ。
「提案?何かあるのか?」
「はい、お二人にはですね〜。ぜひぜひ、パーティを組んでもらいたいな〜、とのギルドマスターからの提案です〜」
「パーティね・・・」
パーティ。それは俺の知識が正しければ、共に同じ依頼を受けて協力して達成、一蓮托生の仕事仲間みたいなもんだ。
お金を稼いだり、より何度の高い依頼を受けたりするのであればそちらの方が良いかもしれないが。
(なんせ、俺はずっとこの街にいる訳じゃ無いからな。イリサの姉のこともあるし無理だろう)
そう、俺は旅人だ。
ずっと一箇所に留まる訳にもいかないので、イリサに迷惑をかける。
それに、コイツには大怪我をした姉がいるみたいだからな。
「パーティ!良いじゃない、ア、アンタとなら組んであげても・・・」
「いや、パーティは無理だ。俺は旅人だからな。」
一刀両断。
流石に無理だろう、いくらお金を稼げるとはいえ優先順位がある。
「そ、そうよね・・・。アンタなら一人の方が良いわよね・・・」
俯いてしまうイリサ。
(そんなに悲しまれたら罪悪感が凄いな・・・。けどどうしようも無いしな)
そう考えていると、救いの手が。
「そんなお二人に即席パーティというのがあってですね〜。これは何もずっと組む、というものではございません〜。もちろん、冒険者ランクにも影響はしませんよ〜」
ローザさん曰く、即席パーティなるものがあるらしい。
説明を聞くに、普段はパーティを本決まりさせる前に作る仮の様なものらしく。
普通のパーティと同じで、複数人で依頼を受けられる他、パーティ専用の依頼も人数さえ揃えば受けれるという物だ。
それを聞きなるほど、と思ってしまう。
確かにそれならば、イリサに必要以上の迷惑がかからないから良いかもしれない。
「・・・イリサ。即席パーティでいいなら組むか?」
一応判断を委ねる。
イリサは不安そうにしながら。
「・・・いいの?アンタの迷惑にならない?」
「迷惑だなんてとんでもないな。寧ろ一人旅よりも友達と旅する方が好きだからなんの問題もない」
そう言うと、イリサは目に見えて喜び、直ぐに咳払いをして取り繕う。
「決まりましたね〜。即席パーティなのでパーティ名は付けれませんが、登録しておきます〜」
「はい、お願いします」
「同じパーティになったからにはアンタにもたっくさん働いてもらうんだからね!」
そう言って、八重歯を見せて太陽のような笑顔を向けるイリサを見て。
(旅の仲間が増えたな。暫くだがよろしくな、イリサ)
そう、これからの旅の事を考えて俺は胸を弾ませるのだった。
あれから数日。俺はイリサと、もう既に顔馴染みになってしまったローザさんの座る受付まで向かっていた。
「えーとですね〜。スライム二体とフォレストウルフ一頭、そしてワイルドボア四頭分を換金させて頂いて合計19800メルです〜」
「わ、すっごい大金じゃない!」
「思いの外稼げたな。ローザさん、いつも通り半分ずつお願いします」
「分かりました〜。では、お二人それぞれ9900メルになります〜」
ここ最近は、二人以上が推奨されている簡単な依頼を色々とこなしていた。
この前の東の森に続き、西の森、南の平原、北の山。
北の山だけは麓までしか行けなかったが、色々な場所を観光出来た俺は大満足だ。
今日は西の森へ行き、ワイルドボアと呼ばれる食料となる魔物を狩って来ていた。
「そう言えば、お二人にお伝えしたいことがあります〜」
と、ローザさん。
なんだろうかと耳を傾ける。
「えっとですね、ギルドマスターから直々に依頼がありまして〜。どうも、セイラク草という薬草を取ってきて欲しいそうなんです〜」
「セイラク草、ですか?ギルドマスター直々に?」
「はい、所謂解毒作用のある薬草なんですが〜。この暖かくなり始めた時期に取れる物が最も効果が高いみたいで、なるべく沢山取ってきて欲しいみたいです〜。もちろん報酬は弾みますよ〜」
「良いじゃない、セア!ギルドマスター直々に依頼だなんてすっごい事なのよ!」
そういい目を輝かせるイリサ。
多分ギルドマスターの依頼というよりも報酬の方が目的の気がしないでもないが。
(採取依頼か。鑑定のスキルもあるから楽そうだし良いかもな)
そう結論付け、依頼を受諾する。
「はい、ではお願いしますね〜。納品期日は三日後で、生えている場所等は此方に書いてあります〜」
「ありがとうございます、行ってきます」
「行ってきます、ローザさん!」
セイラク草の情報が書かれたブックレットを手に、ギルドを後にする俺とイリサ。
とりあえず情報共有をする。
「この時期に東の森の少し入った所くらいに、木の根元によく生えているみたいだな。見た目は・・・他の草と余り変わらんな」
「持っていく時は根っこごとって書いてあるわね。・・・」
急に黙り込むイリサ。
何か考えている事があるようなので、暫く待っていると。
「・・・ちょっと来て欲しい所があるんだけど」
そう言って連れてこられたのは外壁近くのボロボロの平屋。
(ここ、多分イリサが言っていた家、だよな)
その予想を裏付けるようにイリサは玄関から普通に入って行く。
「ちょっと待ってて、セア。・・・よし、大丈夫なはず。良いよ、入って」
「お、お邪魔しまーす?」
言われるがままに俺も入る。
中はしっかりと綺麗にされていて、外からでは想像のつかない居心地の良さを醸し出している。
「お姉ちゃん、ただいまー」
そう言って俺を連れて行くイリサ。
なるほど、この先に件の姉がいるらしい。
(・・・失礼の無いようにしなきゃな)
「あれ、イリサちゃん。今日は早かったね、お疲れ様!・・・あれ?お客さんかな?」
奥から聞こえる朗らかな声。
「すみません、お邪魔してま・・・す・・・?」
目の前に居たのは。
艶やかな黒髪を伸ばし、穏やかなはにかみを見せる女性。
キャスケット帽は被っていない上に、俺の知っている人よりも幾分か少女に近い年齢だろうが。
「・・・柊、か?」
「・・・?ヒイラギって誰です?私はセツナだよ、よろしくお願いしますね!」
そこに居たのは、昔と変わらない笑顔で俺を迎え入れた。
一一柊雪菜、その人だった。