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第七話 初帰還からのテンプレ展開?



「・・・」



 俺の前で木へと背を預けて体育座りする少女。

 顔の下半分を膝と腕で隠したその表情は読めないが、耳が赤い事から羞恥(しゅうち)に未だ襲われているのだろう。



「・・・」



 視線が合わない。気まずい。

 流石に三十年以上生きてきたがこの沈黙を打破するセリフが思いつかない。


 まあこの世界では他に話した女性なぞそう多くないのだが。

 それこそ母さんとメイドのセシリー以外だと貴族の顔合わせくらいだ。


 ちなみに少女の服には生活魔法のクリーンをかけ、彼女の致してしまったものは既に土に染み込んでいるので分からない。


(まさか旅に出て早々にこんな状況になるとは)


 どう声をかけようか。はたまた立ち去るべきだろうか。

 そう考えていると。



「・・・ねえ」



 彼女から声をかけてきた。



「・・・なんだ?」



 無難な返事。

 ヘタレということなかれ、そもそも前世では彼女すらいたこと無かったのだ。



「そのっ・・・。助けてくれて、ありがとう・・・」



「あ、ああ。なんかまあ、災難だったな・・・」



「・・・っ!?バカっ!ヘンタイッ!!」



 また涙目になる少女。俺は墓穴(ぼけつ)を掘ってしまった様だ。



「・・・」



 そしてまたお互い無言。


(・・・誰か助けてくれ。この際誰でもいいから)


 そう空を(あお)ぎながら願うもここは森の奥。

 外壁のすぐ近くとはいえ街道から離れた所にある森だ。助けは期待できない。


 もう一度少女へと視線を落とすと、上目遣いで此方(こちら)を見ていた。

 少し目元に涙の跡があるが、先程まで()らしていた目には勝気な印象が少しは戻っていた。



「ねえ、アンタってもしかして昼間にギルドでぶつかった人?」



「ああ、そうだな。あの後教官に散々(いじ)られた」



「・・・あの時は、ごめん。どうしても急がなきゃ行けなかったから、凄い失礼な態度取っちゃった」



 驚いた。まさか謝られるとは。

 その謝る姿は、昼間の時とは全然似ても似つかないくらいにしおらしかった。



「・・・ああ、問題ない。素直に謝れる奴は好きだ。で、その生き急いだ結果がこれか」



「好っ!?・・・反省してるわよ、凄く」



(相当(こた)えたんだろうな・・・)


 そう思いつつ、手を差し出す。



「ほら、立てるか?帰るぞ」



「・・・うん、ありがと」



 今回は素直に手を取る少女。

 その顔は変わらず赤い。



「・・・ねえ、アンタ名前は?」



「は?名前?」



「命の恩人の名前くらい知っておきたいのっ!教えて!」



 そう(まく)し立てられる。

 

(・・・ギルドマスター達に苗字まで伝えたら騒がしかったからな。下の名前だけでいいか)


 そう結論付け、少女へと自己紹介する。



「セアだ。今は趣味で旅人をしている」



「・・・セア。セアね、覚えたわ」



 そう言い俺の名前を覚える少女。

 そんな復唱しなくても。



「・・・お前の名前は?」



「イリサ。今日から冒険者になったの」



 話を繋げつつ街の方へと歩を進める。

 聞くにこの少女は今日から冒険者になったという。



「なるほど、やっぱりお前か。ギルドマスターが言っていたのは」



「私、何か目を付けられてたの?」



「いや、少しばかり危なっかしい新人がいるってな」



「何よそれ、って言いたいけど、何も言えないわね・・・」



 ギルドマスターの懸念(けねん)がドンピシャで当たり、少ししょぼくれるイリサ。

 その顔は落ち込んでいる。



「・・・まあ、反省してるみたいだしな。これからは気をつければ何も問題ないだろ」



「・・・ありがと」



 一応フォローを入れておく。


 その後は好きな食べ物は、とか何の武器を使うか、とかの様な他愛も無い話をしつつ。

 日が暮れそうな頃、俺達二人はギルドへと帰って来ていた。


 時間も時間だからか、ギルドの中は様々な格好をした戦士たちで賑わっている。


 やはりと言うか、男女比率で言えば男性の方が圧倒的に多いが、少なからず女性もいる。

 彼らはパーティを組んでいるのだろう、お互いの肩をバシバシと叩きながら酒を(あお)る。


(パーティ、か。俺も組んだ方が依頼は達成しやすくなるだろうが、旅人の身だからな。贅沢(ぜいたく)は言えないか)


 そう心中で思いながら、カウンターへと(おもむ)く。



「あら、おかえりなさい〜。二人とも無事で何よりです〜」



 数時間前に依頼を受付して貰ったお姉さんだ。

 帰還の報告と、スライムを見つけられず狩れなかった事を報告する。



「すみません、お姉さん。全然依頼のモンスターとかが見つからなくって。これって違約金とか発生するんですか?」



「いえいえ、大丈夫ですよ〜。あの依頼、いつでも置いてある常設の物なので。だから全然問題ありませんよ〜」



 独特の間延びした口調でフォローを入れてくれるお姉さん。

 だが、ここで横槍が入る。



「オイオイ、スライム一匹すら狩って来れないのかお坊ちゃん!立派なのは服だけかあ?」



 横合いからそう笑いながら言ってきたのは、先程まで近くのテーブルにて飲んでいた男。

 酔っているのだろう、顔は赤く、息が酒臭い。


(世界が違ってもこういう輩は何処にでも居るんだな・・・)


 大学に入ってすぐの飲み会を思い出す。

 二十歳になったばかりの奴らが調子に乗って飲みすぎて、大体が潰れるかこんな感じになるかだった。

 

(酒は飲んでも呑まれるな、か。よく言ったもんだな)


 そう呑気に事を構えていると。



「おいガキっ!なんで無視しやがんだ!こっち向きやがれ!!」



 そう怒鳴りながら胸ぐらを掴んで来たので。



「・・・酒なぞに呑まれてろくに周りを見れない大人が言っても説得力の欠片も無いんだが」



 つい包み隠さない本心を口に出してしまった。

 目の前の男は一瞬フリーズする。

 直後、鼻で笑われたと感じたのだろうか。激昂した熊のごとく、此方へとその太い腕を放ってきた。


 怪我をするのは嫌なので、こうなると大人しく対処する他ない。


 まずは男の大腿部(だいたいぶ)を蹴って胸ぐらを掴まれた状態から離脱。

 俺を再度捕まえようとする腕をいなしながら、懐へと入り込む。


(教官より明らか遅いな)


 そう思いつつ、相手のすぐ近くに密着した状態で周りに見えないようにアイテムボックスから剣を取り出し、鞘の先を男の首元へと触れさせる。



「まだ続けるのか?」



「っ・・・!?」



 男は顔を青ざめさせる。

 予想外の出来事に酔いが冷めたようで、周りの視線を一身に浴びて汗をダラダラと流すその姿は実に滑稽だった。

 男は一歩引いて俺から距離をとると。



「すまん、悪酔いしてたみたいだった。・・・馬鹿にして悪かった」



 自分の非を認め、頭を下げて謝る男。

 意外に素直だなと思いつつ見ていると、男のパーティメンバーらしい二人も俺の前に立ち。



「すまない。俺のパーティメンバーが君に不愉快な思いをさせてしまった。リーダーである俺が止めるべきだった、本当に申し訳ない!」



「私も謝らせてもらうわ。アイツ、Dランクに上がったことで調子に乗ってたみたい。上なんてまだまだいるのにね・・・」



 それぞれ頭を下げてくる。

 思いの外しっかりと自分の事を(かえり)みることが出来る人達の様だった。



「いや、素直に謝っているからな。反省してるのなら問題ない、次からは気をつけてくれ」



 そう答えると、背後の方から聞いた事のある声が聞こえてきた。



「ふむ、事と次第によっては対応をせねばと考えていましたが。セア君が上手くまとめてくれた様ですね」



「ギルドマスター!?」



 気配を消したギルドマスター、フラメルが何時からかそこに立って俺達を観察していた。


(しかし凄いな、全く気づかなかったぞ・・・)


 一切の気配も察知させないその技術。

 実際、彼が現れた時はギルド内の(ほとん)どの人が驚いていた。



「それにしても良かったですね、ジレン君、でしたか。君が手を挙げかけたこの子は、ギルドの与えた試練をこの齢で完全にこなした子ですよ?」



「・・・マジですか、ギルドマスター」



「ええ、大マジです」



 ジレンと呼ばれた先程の男は目の前の少年に対して(おのの)く。

 何せ、冒険者の中でも英雄視されるAランクであり。

 何度か手合わせをお願いしたことがあるがかすり傷すら負わせることが出来なかった相手、レイヤ教官。


 この少年は、それを相手に攻撃を当てるという事を既に成しているのだ。



「不意打ちで攻撃を当てれただけだ」



「それでも合格は合格です、君の実力だ」



「・・・そうですか」



 そう褒められると悪い気はしないのでそれ以上は黙る。


 先程のイリサの様に顔が赤くなってないだろうかと思い、近くに立って傍観していたイリサを見やると。



「ただのヘンタイじゃ無かったのね・・・」



 と、凄く失礼なことを呟いていた。

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