第五話 初依頼はどれにしようか?
「試験開始だっ!!」
そう言い、構える教官。あちらからは攻める気は無いようだ。
(・・・父さんとは真逆だな。父さんはいつも訓練の時はガンガン攻めてくるタイプだったから、どう出るか)
ひとまず牽制のために横薙ぎの一閃。が、当たり前のように躱される。
(ま、そりゃそうだよな。教官って言うくらいだからこんな一撃くらい躱してもらわなきゃ困る)
続けて二振り。どちらとも紙一重で躱す教官。
「はっはっは!筋が良いぞ少年、だがまだ足りんな!もっと踏み込め!!」
屈託のない口調でこちらを煽ってくる。
(どうやら教官は避けるだけで攻撃をする気は無いようだ。なら、言われた通りこちらから踏み込むのが一番か)
そう判断し、教官の方へとより深く突っ込む。
「むっ?ふっ、はっ、ははは!良いぞ、良いぞその意気だ少年っ!!」
斬り以外にも蹴りや肘など体術を織り交ぜていく。が、それでも相手は教官。
そういった手合いは何度も相手をしてきたのだろう、全て紙一重で回避する。
(なら、こうだ)
まだ余裕を残している教官。
このまま普通に攻撃を続けても埒が明かないと判断した俺は、バスケットボールでいうチェンジオブペースの様に一気に攻勢へと出る事にする。
まずは袈裟斬りの際に手の力を緩め、剣を教官へと飛ばす。
「ぬおっ!!?少年、危ないなっ」
一瞬。ほんの一瞬だが、飛んでいく短剣に気を取られた教官。
(ここだっ!!)
アイテムボックスにしまっていた予備の短剣を手に取り、トドメと言わんばかりの殺気を放つ。
教官は殺気に気付き、遅れてこちらを向いた。
彼の目に映るのは、先程投げたはずの短剣を手に持ち、上段から振り下ろそうとする俺の姿。
「くっ、ふはは、中々やるな少年!今のは危な一一」
焦りながらもギリギリの所で回避する技術は流石と言えよう。が、これで終わりではない。
振り下ろしの際に屈みこんだ反動でもう一度下から切り上げる。
「ぬうおおおっ!!?」
ノータイムで二度目の剣戟が来ると思っていなかったのだろう。
ガキィンッ!!と教官の軽鎧と俺の短剣がぶつかる音がする。
「・・・合格ですか?」
一身一刀。
昔、漫画で読んだ技を再現してみた。
前世住んでいた日本にて伝わっていた一刀流の剣術。
それを急所に直撃させられた教官は、両手を上げ。
「ああ、合格だ!ようこそ少年、冒険者ギルドへ!!」
と言い、はっはっは!と朗らかに笑うのだった。
その後俺は会わせたい人がいると言う教官の後ろを着いて行く。
「・・・で、本来は攻撃を当てれなくても戦闘能力があると判断されれば合格できる試験を突破したのが君か」
教官に連れられて入った部屋。
そこには、デスクの上に山積みとなった書類の処理をこなす一人の男性がいた。
耳が尖っているのはエルフだからだろうか。
それよりもだ。
「教官。どういう事ですか?」
今目の前のエルフの様な男性は攻撃を当てれなくても良いと言った。
その説明を、俺を嵌めた張本人。レイヤ教官へと問う。
「少年、君は期待の新人と言う事だ!さあ、ギルドマスターへと自己紹介を!!」
そう言われ、ギルドマスターと呼ばれた男性を見る。
その表情は読めないものの、理知的な顔付きをしているためか話しかけづらい印象だ。
俺が躊躇っていることに気づいたのだろうか。
彼は手を止めてこちらの目をじっと見た。
「まずは此方から自己紹介をさせてもらうとしよう。フラメル・ティタルニアだ。・・・ここ、冒険者ギルドのティルクソリア支部全てを統括させて頂いている」
「・・・俺は、セア。セア・ティルティフォン。今は旅をし始めた所です」
そう自己紹介をすると、フラメルとレイヤは驚いた表情をする。
「ティルティフォン家の御子息か。それなら納得だ。何せ当主が彼だからな」
「少年、筋がいいと思ったが団長殿に手合わせをして貰っていたのか!合点がいった!!」
二人とも頷きながら言う。
「ティルティフォン家の次男坊と言えば滅多に表に顔を出さないと有名だが。まさか旅に出ているなんてね」
「そんなイメージ着いてるんですか俺」
「ああ、だがあの団長の息子だ。きっと武者修行にでも出ているのだろうと言われていたよ」
(・・・父さん、一体何をしたんだ)
ティルティフォン家の者として剣術を使えるというだけで剣の腕に納得される。
そういえば父さん、一度ドラゴンを倒したとか言っていたか。
その時は父さんの実力よりも、ドラゴンがいるというこの世界に対して興味を引かれたから気にしなかったが。
「そういえば、だが。つい今朝も君と同じぐらいの子が試験を受けてね」
ほう。つい今朝、俺と同じぐらいの子。
頭の中に先程ぶつかった少女を思い出す。
「その子なんだが少し危なっかしくてね・・・。なんだか訳アリのようだが、生き急いでいるようにしか見えない」
フラメルは手元で何かを書いて俺に渡してくる。
「これが君のギルドカードだ。・・・もし同期くらいの子を見かけたりしたら、それとなく助けてあげて欲しい」
受け取ったギルドカードは鉄製の物で、どういう原理か俺の名前とGとランクを表す文字が浮かんでいる。
「ありがとうございます。・・・で、俺は登録したもののどうすればいいんですか?」
「そうだね、ひとまずは依頼書という物があるのだけれど、それを見て自分にこなせそうな依頼を見つけたらカウンターで受注して貰う。
そしたら受けた依頼をこなして帰ってきてもらう形かな。
ちなみに証明品としてそのモンスターの一部を持って帰ってきてもらう必要があるね」
「少年、モンスターによっては換金出来る素材も獲れるからな。持って帰って来れるのであれば、そうして貰っても一向に構わないぞ!!」
二人が説明をしてくれる。
つまり、指定された場所へ行って指定されたモンスターを狩ってこいという事だ。
(・・・昔携帯ゲーム機でやったな、そんなゲーム。俺はずっと双剣を使っていたか)
だってかっこいいし。
赤いオーラを纏う攻撃なぞ中学生男子には心に刺さったものだ。
それはさておき、説明をしてくれた事に礼を述べる。
「分かりやすい説明ありがとうございます。では、俺は依頼を受けに行ってきますね」
「ああ。期待しているよ」
応援の言葉を受けつつ、一礼をして部屋を出る。
(・・・やっぱり敬語は慣れないな)
下手な敬語でギルドマスターの気分を害していないか。それだけが気がかりだった。
「彼、面白いね。精霊達が騒ぐ訳だ」
一一フルメルの呟きは、部屋に残ったレイヤ教官のみが聞いていた。
広間へと戻った後。
まず俺は、先程説明を受けた依頼書を探した。
「さて、依頼書はと・・・これだろうな」
でかでかと壁一面を使って貼られたそれは圧巻だった。
(魔物討伐関連、採取関連・・・どちらを受けようか)
Gランクでも受けることが出来そうな依頼を探す。
(・・・ああ、これとか良さそうだな。東の森のスライム退治)
一一スライム。プルプルとした丸い透明な物体で、偶に酸性の液体を飛ばしてくる。
ほとんど戦闘能力は無いが、野放しにしておくと他のスライムと融合して危険なグランドスライムになる・・・と父さんが言っていた。
ちなみに訓練相手と称して父さんに連れてこられたスライムは、素手で鷲掴みにされて連れてこられていた。
あの時のふるふると震えていたスライムを斬る時ほど心を痛めた事は・・・無いわけでは無いが。
当時まだ五歳だった俺でも殺せるほどの弱い魔物だ。
初心者にはうってつけだろう。
「よし、これを受けよう」
依頼書をカウンターへと持って行く。
「スライム退治ですね、頑張って下さい〜」
間延びした声で話す、美人なお姉さんに見送られてギルドを後にする。
(・・・東の森か。初めて入る場所だな、そもそも街から出ること自体初めてだが)
初めて行く場所、それは新たな出会いが待ち受けている可能性が高いということだ。
胸の高鳴りを抑えきれない。
「さて、思い立ったが吉日というからな。直ぐに向かうとするか」
そう言った俺は、上機嫌にアイテムボックスから取り出した短剣を腰に携えるのだった。