第四話 教官、登場
「そうか、セアの天職は旅人か。・・・聞いたことがないな?」
「いいんじゃないかしら?セア。貴方にピッタリだと思うわ。生活魔術を使えるなんて冒険者の中では引く手数多と聞くわよ?」
「ああ。これで多少は安心して旅に出ることが出来るよ」
家に着いてから、家族へと報告をする。
馬車で父さんに見せようとしたが、父さんは家に着いてから聞くから問題ない、それよりも旅をするならば。と様々な冒険時の知恵を時間の許す限り教えてくれた。
「セアにピッタリだと俺も思うよ。・・・一緒に騎士として戦えないのは残念だけど、応援してるよ」
「セア様。よろしければ明日の出発前までに炊事の仕方等を教える事は出来ますが・・・」
「ありがとう、兄さんも頑張って。応援してるよ。セシリーも気遣いありがとう、じゃあ後で軽く教えて貰おうかな?」
騎士学校へと通っている兄さんも、寂しそうに顔を伏せてはいるが応援してくれている。
セシリーは心配そうだ。彼女も俺からすれば母親のようなものだ、心配を無下にすることはせず、礼を述べる。
「さて、明日はセアが一歩を踏み出す日だ。本当はもっと一緒に過ごしたかったが・・・。いや、水臭い話は今は無しだ。聞き流してくれ」
そう幹事をつとめるのは我が家、ティルティフォン家の当主であり王国軍団長でもあるリカルド。
相変わらずの親バカの様で、本音を隠しきれていない。
「大丈夫よ、リカルド。セアもたまには戻って来てくれると言っているのだし。それに、貴方と私の子供でしょう?何も心配することは無いわ」
ね?という風に俺の兄、クレスへと微笑みを向けるクラリスタ。
「そうですね、父上。俺も立派に成長しています。でしたらセアに対して心配することは何もありません。・・・それに、セアはとても賢い子ですから」
兄さんの俺に対する予想以上の評価に、俺は思わず照れてしまう。
「ああ、父さん。兄さんだって今、学園で一緒になった王女様といい感じなんだろ?他にも心配することあるんじゃないか?」
照れ隠しと言わんばかりに捲し立てる。
「・・・それを言われると、な。よし!では今夜は全てを忘れて飲むぞっ!祝い酒だっ!!」
いつもの調子に戻った父さんを見て微笑む俺達家族。
(この光景も、帰ってくるまではお預けだな)
母さんが酔いつぶれた父さんと兄さんを連れていったのは、雲の一切かかっていない満月が丁度天窓から見える程の時間だった。
翌日、早朝。
「じゃあ行ってくるね。セシリーも、俺のいない間お部屋の管理よろしくね」
「はい、お任せ下さい、セア様」
優雅な一礼。
「何かあったら騎士学校の男子寮へ来て、俺を呼んでくれ。必ず助けに行くから」
兄さんは相変わらず俺に甘い。
「セア、お金は持った?剣は?・・・そういえばそんなスキルがあったのね。なら心配いらないわ」
旅立ち前に少し心配性になる母さんに対し。
昨日の誕生日で手に入れた天職によるスキル、アイテムボックスから心配いらないという風に、剣やお金の入った袋を取り出す。
「・・・その金は、お前が俺との訓練中に狩ったモンスター共を換金した分だから好きに使うといい!セアよ、また会った時、どれだけ強くなっているかが楽しみだ!!」
(別に武者修行に行くという訳じゃないんだが・・・)
そうツッコミたいが、もう出発の時間だ。
ああ、とだけ答えて家族へ背を向ける。
「一一さて、これからどんな出会いが待ってるだろうか」
久しぶりの旅だ。
これから起こるであろう様々な出来事を想像しながら、俺は心を踊らせるのであった。
あれから二日ほど経ち。
俺は、アイテムボックスから取り出した堅パンを齧りながら歩いていた。
一一ティルクソリア城下町。ここならば何度か以前に来た事がある。
ティルクソリア王国の中でも最も大きな町である、王国の顔とも言えるこの場所。
ここは国王が直接治める場所であり、国民達が開くマーケットや服屋、飲食店等で賑わっている。
何故俺がここに居るかと言うと。
「えーっと、ギルド、ギルド・・・ああ多分あれか?」
そこには竜の首へと槍を突き刺すかのような紋章。
いわゆる「冒険者ギルド」と呼ばれる場所である。
(父さん曰く、モンスターを狩って生計を立てるのであればここへ行けって事だけど・・・)
荒くれ者達が集う場所。
どうしてもそのイメージがあるのは前世の記憶のせいだろう。
(果たしてまだ十五歳になったばかりの俺が入っても良いのだろうか)
等と考えていると、目の前の扉が勢いよく開いた。
直後、何かが俺の身体と正面衝突。
「うおっ!?」
「いったあっ!?」
一一訂正。何か、では無く誰か、だった。
いくら俺が男とはいえ不意の出来事。
女の子を抱きとめる、なんてイケメンな行動は出来なかった。
「ちょっと、そんなとこでボーッと突っ立ってんじゃないわよ!」
受け身を取れず目の前で尻もちをついたその女の子は、苦言を呈する。
一つに結わえた艷のある銀髪に、勝気な印象を与えるつり目には赤い瞳。
線の細い白い手足には似合わない、無骨なブロードソードを腰に携えていた。
「・・・ああ、すまない。立てるか?」
「なっ・・・手なんて貸してもらわなくても立てるわよ!残念だけど、アンタに構ってる暇なんて無いわ!バイバイ!」
そう言った彼女は、プイっと照れた様な顔を背けて走り去って言った。
彼女に差し出したものの、気づけば嵐のように立ち去り。
その結果、虚空へと差し伸べている手。
「・・・さて、冒険者ギルドに入るとするか」
気恥ずかしくなった俺は直前の出来事を無かったことにして扉をくぐる。
その一連の流れは、開け放たれたままのギルド内からは丸見えであった。
「はっはっは、少年!振られてしまったな!」
「・・・そもそも告白なんてしてないんですが」
そう軽口を言いながら俺の肩をバシバシと叩いてくる爽やかボイスのお兄さん。
・・・笑い方が父さんに似ているのは気のせいか?
俺がギルドの中に入るや否や、すぐに気さくに話しかけて来た。
「で、だ。見ない顔だが、登録でもしに来たのか?」
「まあそんなところですね、カウンターへ行けば良いですか?」
そう俺が言うと、目の前のお兄さんはふははと笑った。
「少年、俺が教官だ。テストを受けたいのであれば今からでも闘技場へと向かうぞ!」
この軽いお兄さん。まさかの教官だった。
お兄さん、もといレイヤ教官に着いて行く。
カウンターの横の廊下。そこには地下へと続く階段があった。
ある程度下った先には開けた場所。
「少年、ここが訓練所・・・もとい、闘技場だ!どうだ、凄いだろう!」
はっはっはと笑うレイヤ教官。
連れられて入った闘技場。
そこに足を踏み入れると、目の前にはだだっ広い円形の空間が広がっていた。
空間の真ん中には巨大な円形の台座。
それを囲むように設置された柵に、更にそれを囲むようにぐるりと配置された観客席。
(なんか漫画で見た事あるなこういうの。地下闘技場って言うんだったか)
前世で読んでいた漫画を思い出す。
確か、世界最強を決める様な漫画だったか。
「よし。では少年、試験だ!武器を持ってあの台に上がるんだ!!」
溌剌とした声を上げる教官。
アイテムボックスから剣を出し、指示された通りの位置に着く。
虚空から取り出された剣に教官は少し驚くものの、直ぐに気を取り直してこちらを向く。
「よし。では試験の内容を発表する!俺に、一撃でも入れてみろ!!」
気がつけば目の前に仁王立ちする教官は、ふははと笑いながらそう言った。
「少年、行くぞっ!試験開始だ!!」
一一その頃、とある神殿にて。
「神父様。今日、二人の新たな天職が確認されました」
神官と思しき男性が上司と思われる男性へと報告をしている。
「そうですか。きっとそれも神の思し召しでしょう。どのような物でしたか?」
「天職、【旅人】。一人は貴族のご子息様、もう一人は普通の・・・いえ、記憶喪失の少女です」
【旅人】だという記憶喪失の少女。
セアがその事を知るのは、ほんの少し先。