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第三十七話 英雄って呼ばれ方はやはり慣れない

「さてと。キャンプに戻るか・・・って、どうしたエミルス?」



 足元のぷにぷにとした触感に目を向けると、彼・・・性別はどっちなのだろうか?まあいいか。彼、エミルスが気づいて欲しそうにその身体を揺らしていた。


 ・・・コレは着いてきて欲しいのか?もぞもぞと俺を案内する様に歩いているからそうみたいだな。

 俺はふるふるとしている彼を抱き上げ、導かれるままに移動する。


 少し歩くと何かが落ちていた。魔物の死骸か?

 エミルスを地面に下ろすとその中の一体に近づき、縦に伸び縮みして何かをアピールし始めた。



「あー。その魔物、さっきエミルスが頑張って倒してたわね。褒めて欲しいんじゃない?」



「・・・マジか」



 あの戦闘力が皆無だった赤ちゃんスライムが、か。進化って凄いな。

 アピールを終えて再度俺の足元に近付こうとする彼を抱き上げ、そのぷにぷにした身体を撫で回す。



「ふふ、エミルスが凄い喜んでますよ?お姉ちゃん達も護衛、ありがとうございました」



「えへへー。私もイリサちゃんの援護、頑張ったんだよ?」



「セツナも最近攻撃系の光魔法を練習してたからな。手数が一人分増えるだけで前衛の負担がかなり目減りする筈だ、よくやった。もちろんイリサも」



 そう言って俺はアイテムボックスから皆にコップを配り、生活魔術で水を注いで火魔法で飲みやすい程度に冷やす。

 ・・・改めて思うと便利だな、生活魔術。飲料水に困らないのは旅において重要だ。塩分もあればなおのこと良いが、それはまたキャンプに戻ったらでいいか。


 皆疲れていたのだろう、それを一気に飲み干す。

 あー、火照った身体に水分が染み渡るな。生き返るわ。



「そういえばクィリア。ギルドってフィドンナ公国にもあるんだよな?」



「はい、ありますよ?無いのはそれこそ帝国くらいでしょうか、あそこは独裁国家なのでそう言った物には排他的ですから」



「なるほどな、分かった。ありがとう」



 ならば魔物の死骸は換金できるだろう、イリサ達が狩った魔物達を持っていくとしようか。


 ロックリザードがそこそこの数に、フォレストウルフがオマケ程度に少しだけ転がっている。

 あらかた回収した俺は、エミルスが倒したという魔物の所まで向かい収納。


 そこで少しばかり違和感。

 エミルスが倒したフォレストウルフの死骸、なのだが。

 アイテムボックスに仕舞う際、他にも一緒に何かを仕舞った感覚があった。


 一緒に仕舞ったであろうソレを取り出してみると、一つの指輪。何やら紋様と共に文字が掘られているな、何処にあったのだろうか?



「えーと・・・。ディロック・マイアス?」



 それが誰かは分からないが、一応後でイライザにでも届けておくか。貴族のだったら面倒だし。


 俺はセツナ達が待つ場所に戻り、回収し終わった事を告げる。



「あっ、セアくんおかえりです!生活魔術で汚れ、取りますね!」



「ああ、ありがとな」



「えへへー」



 そういえば服が土埃で汚れていたな、失念していた。

 何気に氷杭を落とした際の衝撃波で物凄い量の砂が飛んで来たからそりゃ汚れるか。



「諸々後片付けが終わった所で、だ。クィリア、帰りも風魔法頼めるか?」



「はい、任せて下さいお兄ちゃん!」






 暫くして俺達は崖下、氷杭が深々と地面に刺さっている場所に降り立つ。



「・・・これ、セアがやったの?」



「みたいだな」



「セアくんってやっぱり凄いですね・・・」



「クィリアに強化をかけてもらったからな、俺一人じゃまだ無理だ」



「まだってことはそのうち出来るようになる気じゃない・・・」



 魔法の行使を見ていなかった二人は、俺が作り出した巨大な氷杭に唖然としていた。

 近くで見るとその大きさがより分かる、俺もビビった。ヘタな一軒家を軽々超える大きさだ。


 よく見れば貫通など生易しい物ではなく、グランドセンチピードの身体を真っ二つに両断している。



「やっぱり君がこの魔物を倒してくれたのか」



「うおっ!?・・・ってイライザさんか」



 背後からいきなり声をかけられ驚き振り向くとそこには狩護騎士団長の姿。この人いつも背後を取るな?


 俺がどうしたものか、と頭を悩ませていると彼女は笑いながら言葉を続ける。



「何、そう気を遣わなくても良い。・・・正直、我々だけでは確実に倒せていなかった。最悪全滅、良くて半壊と言った所だったからな」



「・・・俺が倒したって言うのは語弊があるな。狩護騎士団が足止めして無ければ多分当たらなかったからな?何より、パーティメンバーが居てこその結果だ」



「成程な、君はそういう男か。・・・ではせめて祝宴に招かせてもらおう、英雄様」



「そんな柄じゃ無いんだけどな」



 まあ英雄と呼ばれて悪い気はしない、目立つのは嫌だが。

 俺達はそのままイライザに連れられ、祝宴の準備が進められているキャンプへと向かった。






「あっ、団長〜!また直ぐに何処か行っちゃって、心配したんですよ!?」



「すまないな。英雄達を迎えに行っていた」



「英雄・・・って、やっぱりキミ達だったんだね。何したのか分からないけど、倒してくれてありがとうね!」



 着くやいなや話しかけてくるディーラ、その健康的な素肌にはいくつもの擦り傷があった。



「あわわ、回復しますね!」



「えっ?・・・って、回復魔法か!セツナちゃんだっけ、ありがとうね!」



「えへへー、大丈夫ですよ!」



 お礼を言われ、セツナは可愛らしくはにかむ。

 そんな時だった。空気をぶち壊す奴が現れたのは。



「オイ、こんなガキが英雄サマだ?団長も見る目がねえな!」



 ディーラを押しのけて現れた騎士団員。

 その鎧を身につけた姿はずんぐりとしていて、本当に鍛えているのだろうかと思ってしまう程に脂肪を身に纏わせている。



「ルラム、口を慎め」



「はははっ、嫌に決まってるだろ?あんなガキがあのグランドセンチピードを倒したとかいう与太話を信じる団長なんて見たくなかったね!」



 その丸い腹を抱えながら下品に笑う男、ルラム。

 イライザが諌めるも聞く耳を持たない。



「現地を見に行っていない者が何を言う。それに貴様は何をした?少しでも貢献はしたのか?」



「してたに決まってるでしょう、ずっとヤツのブレスを耐えていたんですから。なあお前ら!」



 ルラムが周りの騎士団員に同意を求めるが誰も目を合わせようとしない。

 ・・・本当に貢献していたのだろうか?いや、コレは出来てないな。



「チッ、どいつもこいつも団長が居るからって日和やがって!だからテメェらは約立たずなんだよ!」



「その口を閉じろ。私に剣を抜かせたいのか?」



「団長も団長でなんでそんなガキを庇うんだ、まさか俺よりもソイツの言う事が信じられるとでも?」



「ああ、彼には十分な実力が備わっている。貴様と違って信じるに値するさ」



 その言葉を聞いた瞬間、ルラムは顔を真っ赤にする。

 って、なんだ?こっちに向かってきたぞ。



「おい聞けガキ!このルラム様が決闘を申し込む!」



「え、めんどいし嫌なんだが」



「場所はテント前・・・って、はあ?」



「めんどいし嫌だ」



 うわ、真っ赤な顔をしわくちゃに歪めてやがる。まるで子供だ。

 正直な所魔力の過剰な消費で頭が回っていないんだ、休ませて欲しいって言うのが切実な思いだ。


 そんな俺の思いなど露知らず、目の前の男は激昂してその剣を抜こうとする。・・・って剣?



「もういい、ここで俺直々に処罰を下す!泣いてももう遅・・・があっ!?」



「おい豚。セツナが怯えてんだろ?剣を仕舞えや」



 俺は気怠い身体を動かし、ソレを抜かれる前にセツナから遠ざけるように地面に叩きつける。

 ・・・この体格で普通に転ばされるとか。一切鍛えてないなコイツ?


 頭を強かに打ち付けたルラムは一瞬で気を失い、キャンプ場は静けさを取り戻した。


 さて、飯でも食うか。

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