第三十三話 フィドンナ公国で追いかけっこ
ティルクソリア王国とフィドンナ公国の二つを隔てるように立ち並ぶ山、山、山。
そんな厳しい環境の中、セア達は颯爽と森の中を駆け抜けてーー否、追われていた。
「キシャアアァァァァッ!」
「うおおおおっ!流石にコレは聞いてねぇっ!」
「セア!コイツずっと追いかけてくるわよ!?」
ミラーをちらりと見ると映るのは巨大なムカデ。とてつもなく大きなそれは、獲物を逃してなるまいとここ二十分程も追いかけてきていたのだ。
セツナとクィリアが攻撃魔法をたまに撃つが一切効いた様子が無い当たり、魔法耐性がかなり高そうだ。
アイテムボックスに待機させてある魔法を放てば後ろに座るセツナを掠める可能性がある為に使えない。
救いはヤツが遠距離攻撃を持たないことと、かつバイクに乗っていればギリギリ追いつかれないということだろうか。
何かきっかけさえあればヤツを撒けるかもしれない、そう思いながら道の先を注視すると。
(・・・アソコからは暫く道が真っ直ぐだな。あれなら運転しながらでも魔法が使えるか?)
魔力を練るのには集中を要するために今まで反撃といった反撃が出来なかった。次のチャンスがいつ来るか分からない分、ココでしっかりと決めるしか無さそうだ。
「イリサ。すぐ先の直線に入ったら魔法を使うから俺の前を走れ!」
「分かったわ、ちゃんと決めてよね!」
言われなくても、と俺は魔力を練り始める。今回に関しては魔法が効かないために妨害に特化させよう。
幸い今走っている場所は崖下、やりようは幾らでもある。
「セツナ、プロテクションを頼む」
「へっ?わ、分かりました!」
俺達の身体に光の膜が貼られたのを確認し、もう十八番となった水蒸気爆発を起こす弾丸を崖上に向かって放つ。
着弾、爆発。当たり前のように起こるのは土砂崩れ。
「おし!全速力で逃げるぞ!」
後ろを振り返る間もなく全力逃走。魔物の叫び声が段々と遠くなるのに安心しつつも、俺達が一息つくことが出来る場所に着いたのは暫くしてからだった。
逃げ切った俺達は、木陰にそれぞれ腰を下ろしていた。
木々の隙間から差し込む日差しが心地いい。なんならこのまま眠りたいまである。
「・・・凄い怖かったわ。あんな経験もう二度としたくない」
「俺もだ。危うく国を出た瞬間ゲームオーバーになる所だった」
運転組の俺とイリサは、かなり神経をすり減らしてぐったりとしていた。そもそもの話俺はああいうタイプの虫が昔から大の苦手なのだ。
先程までの光景を思い出して身震いする。もうアイツとは対峙したくない。
そう思っていると、クイクイと袖が引っ張られるのを感じる。
「セアお兄ちゃん。ーー何やらあちらに、人の気配がありますよ?それも沢山」
こんな山中に沢山の人の気配だと。疑問に思った俺は木陰に隠れながらそちらを見やる。
キャンプ地、だろうか。騎士のような格好をした人達が大きなテントを張っている真っ最中だった。
テントには城壁を襲うドラゴンに立ち向かう騎士のマーク。
なんだろうか、どこかで見たようなと疑問に思っているとクィリアが説明する。
「・・・アレはフィドンナ公国における最も規模の大きな軍隊、狩護騎士団のマークですね」
狩護騎士団。それは普通の守護騎士とは違い、国の害となる魔物を討伐するフィドンナ公国特有の軍隊。
そういえば昔隣国の事を調べた際に書いてあったが、その時に見たマークだったな。となるとあのムカデを討伐しに来たのだろうか。
「なるほどな。どちらにせよアレを倒してくれるのならありがたい、俺達は先に行こうか」
そう判断して先を急ごうとした時だった。キャンプ地の方から歩いてきた一人の女性に声をかけられる。
「・・・実力者かと思い協力を仰ごうとしたのだが。先に断られてしまったか」
「うおっ・・・。バレてたのか」
晴れ渡る空のように透き通った水色の髪の毛を一つに結わえたその女性。腰に指したレイピアには先程のマークが描かれている。
「ああ。偵察部隊から連絡があったんだが、謎の魔道具を使って逃げている子達が居ると聞いた。土砂崩れに巻き込まれそうになったとも言っていたな」
「それは申し訳ないな・・・」
俺の謝罪に対し、目の前の騎士の女性は気にする事はないとクスリと笑うと。
「そうだね、ついでに自己紹介をさせてもらう。私はフィドンナ公国狩護騎士団団長、イライザ・ライオネルだ。君達は?」
ーーどうやらまた俺達は、物凄い人に目をつけられてしまったらしい。
挨拶も程々に済ませた俺達は、もうすぐ日が暮れるからとキャンプへと招かれる。
「団長!どこに行ってたんですか、皆心配してましたよ・・・ってあれ?そこの人達は?」
「ああ、彼らか。詳細はよく分からないが不思議な魔道具を使い、強力な魔法を使うそうだぞ?危うく偵察部隊が巻き込まれるところだったらしい」
入るや否や近づいてきたのは、少し癖のある髪の毛を肩ほどまで伸ばした褐色の女性。騎士にしては露出の高めの服装で目のやり場に困る。
「彼女はディーラ、この部隊で特攻隊長を任せている。ディーラ、彼らにも食事を・・・」
「あっ、食料ならあるから大丈夫です。ほら」
そう言ってアイテムボックスからパンやスープの入った寸銅を取り出す。
四人分という事でなかなかのストックをしてある為にかなり大きな物だ。
サラリと取り出したのを見た彼女達は少しばかり驚いた顔をする。
「アイテムボックス・・・魔術師でなく商人なのか?いや、他人の天職を探るのはご法度だな。忘れてくれ」
そう言って黙り込むイライザ。顎に手を当てている辺り思案しているのだろうか。
二、三度服の袖を引かれたので振り向くとそこにはイリサが立っていた。
「ねえセア。これからどうするの?」
「そうだな、ひとまず夜が明けるまではここに居ようかと思っている。なんせ山の中で安心して寝れる機会なんてそうそう無いからな」
「分かったわ、セアがそれでいいなら私もそうする。けど何か嫌な予感がするのよね・・・」
不穏なことを呟くイリサ。
ーーこの後の出来事から、俺はイリサの勘が馬鹿にならないという考えを抱くことになるとは思いもしなかった。
俺達は狩護騎士団のキャンプではなく、その外にテントを貼りそこで就寝することにした。
「そこで本当に良いのか?我々は特に君達がテントに居ても気にしないのだが・・・」
「いや、逆に俺達が気を使う。だから気持ちだけ有難く貰っておこう、何かあったら呼んでくれ」
そう言って俺達がテントに入ろうとした瞬間だった。
「伝令、伝令っ!件の魔物、グランドセンチピードが此方へと向かっています!団長、どうなさいますか!?」
「何、それは確かなんだな?・・・すまない、君達が巻き込まれる前に先に逃げてくれ。ーー行くぞっ、狩護騎士団!誰一人として死なせるなっ!」
そう言い残して去っていくイライザの背中を見つめる俺達。
はあ、とため息をついて俺は皆へと顔を向ける。どうやら考える事は同じようだ。
「・・・仕方ないか。まあコレも一つの出会いだ、大切にしよう」
俺達はバイクに跨ると、イライザ達の後を追うことにした。
・ステータス
名前 : セア・ティルティフォン
天職【旅人】
レベル : 48
HP : 63/63
MP : 255/255
筋力 : 255
防御 : 63
魔力 : 255
対魔力 : 255
敏捷 : 495
天職スキル 鑑定
アイテムボックス
生活魔術
適応
スキル 剣術(レベル6)
体術(レベル5)
速読
スキル統合
探検家の心得(隠密、罠感知、悪路歩行、運搬)
火魔法(レベル5)
水魔法(レベル5)
魔力操作
魔力吸収




