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第三十一話 新たな仲間?

 事情聴取も終わり、俺は特に何も無く解放された。


(・・・王様との謁見とか無いんだな、無駄に緊張しちゃったじゃねえか)


 今現在、俺はウォータースライムを連れてイリサ達の家に向かっている最中である。


 城下町のマーケットは相も変わらず賑わっていて、誰一人として昨日の出来事を知らずに平和を満喫している。


(クィリア曰く。どうやら市民に不安を与えないように今回の出来事は伏せておくみたいだが)


 国の決断として、俺やイリサ達には口止め料として決して少なくないお金が渡された。


 最初は口止め料なぞ必要ないと断ったが、建前上渡さねばいけないらしい。

 額を見て顔を引き()らせてしまったのは言うまでもない。

 

(ーー口止め料と謝礼・・・だろうな、あの額は)


 イリサ達にはどう言って渡したものかと考えていると、横から聞き覚えのある声で名前を呼ばれる。



「おおい、セア!無事だったか!?」



 振り向くとそこには昨日共に死地を潜り抜けた戦友、ジレンとマチルダ。

 ーーそして。



「セアくん、怪我は無いですか!?・・・良かったです、凄く心配だったんですよ?」



「・・・セア、私が弱いせいで危険に晒しちゃったわ。ごめん」



「セツナ、イリサ・・・」



 目に涙を浮かべながら心配をするセツナと、悔しそうに俯きながら謝るイリサ。



「セツナ、特に目立つ怪我はしてないから大丈夫だ。・・・イリサ、弱かったのは俺もだ。コイツがグランドスライムを連れて来なければ確実に死んでたしな」



「・・・ふるふる」



 そんな事ないよ、と言わんばかりに横に身体を震わすスライム。


(ーーコイツにも名前を付けてやらなきゃな)


 基本的に魔物をペットとするのは専門の資格のようなものが必要になるらしいが、この子なら大丈夫だろうと国が許可。

 結果、俺達はこのスライムを旅の仲間にする事になった。



「俺達が旅に出たらもっと危険な目に合うかもしれない。だったらもっと強くなるしか無い、どんな事が起きても対応出来るように。・・・そして、大切な奴らを護れるように」



 これはイリサに対する慰めでは無く、俺に対しての(みそぎ)だ。


 旅に出たならば俺達は更なる危険に晒されるかもしれない。

 ーーその時に、また全員生き残れるかも分からない。


 俺の決意を聞いたイリサは俯かせていた顔を上げ、その深紅の双眸を俺に向けると。



「もっと強くなるわ、セア。私も皆を護れるように!」



「私も一緒だよ、イリサちゃん。護られてばかりはダメだからね、旅の仲間なんだから!ね、スライムくん?」



「・・・ふるふる」



 どうやら気持ちは全員同じの様だ。

 この世界で安全な旅をするには強さが必須、となればやる事は定まった。



「さあ、行こうか。旅のスタート地点だ、しっかりと準備を済ませるぞ」



 見ず知らずの土地ばかりで何が起こるか分からない。

 新たな出会いの中には前世では有り得ない様な敵も出てくるであろう。


 ーーだが、不思議と不安はない。


(この頼もしい仲間達とならどこまででも行ける気がするな)


 思わず口元がにやけ、それを見た皆は不思議そうな顔をする。



「・・・私達も強くならなきゃね、ジレン」



「ああ。グラナットも同じ気持ちだろうよ、それに後輩達に負けてばっかじゃいられねぇ、アイツが回復したら直ぐにでも修行だな!・・・俺達よりも先にくたばんじゃねえぞ、セア!」



「当たり前だ。俺達は誰一人として欠けやしないさ」



 瞳に闘志を宿したジレンと俺は拳を合わせる。

 

 お互いのパーティをライバルとして認め合った俺達はそのまま背を向け、それぞれの目標へと向かうのだった。






 ーーあれから数日後。



「さて、これでパーティランクCへと昇格です〜。ここまでの速度でランクが上がるなんて普通ありませんよ〜?」



「そうなのか。・・・それにしても、良いもんだなパーティってのは」



「ですね!一蓮托生、真の仲間って感じがしてすっごく心踊ります!」



「お姉ちゃん、仮設パーティじゃ無くなったからってはしゃぎすぎよ・・・」



 そう、俺達は正式にパーティ契約を結んだのだ。


(正直、遅すぎた気もするけどな)


 仮設で無くなったことによりパーティ名を正式に決める事となった。


 皆に強制的に着かされたパーティリーダーの座。

 その際に代表として決めた俺達のパーティ名は。



「『LIKE ALICE』、貴方達の活躍を期待していますよ〜。・・・もう少しでこの国を出るんでしたっけ〜?」



「ああ、そのつもりだ。その為に色々と準備をしたからな、抜かりは無い」



 『LIKE ALICE』、それが俺達三人と一匹のパーティ名。


 直訳すると"アリスの様に"となるソレは、前世の世界でも有名であった童話から取っている。


 ーー少女は不思議な世界へ迷い込み、沢山の冒険を経て色々な出会いをしていく。


 そんな風に俺達も様々な世界を見て回りたい、そんな思いを込めた。


(そもそもイリサ達はこの童話を知らないし、内容的にも最後は夢から覚めるんだがな。俺はネーミングセンスが無いんだ)


 そう心中呟くも、実を言うと俺も皆も結構気に入っている。

 その証拠としてその名をローザさんが出した際に、皆して思わず口元が緩んでしまっていた。


(特にセツナの喜びようが凄い。・・・ひとまず最終的な目的地はアルヴィナ大陸、そこへ行ってセツナの記憶を取り戻す)


 アルヴィナ大陸へ向かうには、国をふたつ(また)いだ先にある大海を渡らねばならない。

 が、そんな距離の問題なぞ俺達の前では関係無い、ぜひ楽しませてもらおう。



「えへへー。楽しみですね!セアくん、イリサちゃん!」



「分かったから離れてってばお姉ちゃん!周りの人皆見てるからぁ!!」



 妹へと無邪気にじゃれつくセツナに、羞恥で顔を赤くするイリサ。

 そんな彼女達の胸元では、ペンダントの紋様が旅の門出を祝うように光を反射させ輝いていた。






 旅立ちの日。

 この言葉を聴くと思わず卒業ソングが頭を(かす)めるがそれはさておき。



「準備はいいな、二人共?」



「うん、勿論だよ!」



「問題無いわ。()()()()も準備万端っぽいわよ?」



「・・・ふるふる」



 ウォータースライム、エミルスはイリサの発言に呼応するように身体を縦に伸び縮みさせる。


 少年少女とスライム、と言って差し支えの無いこのパーティ。

 しかしそれを応援してくれる人は沢山居るようで。



「おい、坊主!帰ってきたら面白い話聞かせてくれよ!」



「お姉ちゃん達も頑張ってねー!」



「君達の無事を願っているよ。・・・また直ぐに合うかもしれないけどね?」



 防具屋「熊の手甲」のガランとレヴィに、魔道具屋「灯火の鈴」の店主シルヴィ。



「セア、お前達が帰ってきた頃には俺達も強くなってるからな!うかうかしてたら背中からたたっ斬ってやるぞ!!」



「ジレン?回復したばかりの俺にお前を殴らせないでくれ」



「・・・三人共頑張ってね?お姉さんも応援してるから」



「ふはは!彼等なら心配無いぞ、なんせギルドマスターのお墨付きだ!!」



「まあそのギルドマスターである私の兄は仕事で居ないのですがね〜。あ、これ差し入れです、頑張って下さい〜」



 グラナットのパーティ『森の守護竜』の三人に、ギルドの教官レイヤと受付嬢ローザ。


 ーーそして。



「セア、本当に行くのね?・・・心配だけれど、貴方の母はずっと待っていますから。いつでも帰ってくるのよ?」



「はっはっは!俺達の息子だ、心配は・・・心配は、しているが。だが、セアなら大丈夫だ!・・・たまには顔を見せに帰ってきてくれよ?」



「セア様。クレス様からも剣術学院よりメッセージと餞別のアクセサリーがございます。

 ーー目的地は知らないがきっと遠い所なのだろう。だが、兄さんはセアが何処に居ようと無事を願っている。

 ・・・僭越ながら私、セシリーめが伝えさせて頂きました」



 俺の家族も皆、俺達を送り出すために駆け付けてくれた様だ。


(今生の別れじゃないが、やっぱり涙腺に来るものがあるな)


 そう思いながらも俺達は駆け付けてくれた皆へと礼を言う。

 ーーそんな事をしている時だった。 



「セアお兄ちゃん!私も着いて行きます!!」



 母の背後から現れて俺へと抱き着く少女。

 その特徴のある俺の呼び方をする少女は一人しか俺は知らない。



「・・・は?クィリア?」



 一瞬フリーズするもなんとか声を絞り出す。

 イリサはわなわなと身体を震わせ、セツナに至っては固まってしまっている。



「ちょっ、セア!誰その子!?」



「・・・」



「・・・俺が聞きたい。なんでこんな所に居るんだ、第二王女サマ?」



 えっ、と驚く周囲の人達を無視して彼女は話し出す。



「第二王女じゃなくてクィリアと呼んでください!・・・だって、セアお兄ちゃんが国から発つとなると寂しいものがありますし。あ、お母さんは了承済みですよ?お父さんは知らないですけど」



 シラっと言ってのけるクィリア。

 その姿はドレスではなく、セツナのようにローブを被りその華奢な体躯をスッポリと隠している。


 えへ、と悪びれも無く笑う少女に俺がため息をついていると。



「はっはっは!セアよ、クィリア王女・・・おっと、今はクィリア殿か。とにかく彼女は逸材だぞ?」



「そうね、セツナちゃんと合わさればセアが助かること間違いなしよ?」



 両親の言葉に放心状態だったセツナがピクっと動く。



「ええ、クィリア様ならきっと助けになるでしょう。それにーー」



 シルヴィがイリサ達の耳元で何やら囁くと、彼女達の頬が赤く染まる。



「・・・だが、クィリアを連れて行くと色々とマズイんじゃ」



「そんな事ないわ、セア!私達は四人と一匹でしょ!」



「ですです!皆で旅、しましょう!!」



 その言葉を聞いてニッコリと微笑むクィリアを後目に、俺は渋々納得するしか無いようで。


 俺達『LIKE ALICE』の門出には、新たな仲間を一人加えて出発する事となるのだった。

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