第三十話 王城にて事情聴取
前回の後書きにも書きましたが遅れて申し訳無いです。
ひくほどリアルが忙しい・・・
「・・・どこだ、ここ」
本日二度目の気絶から復活を果たした俺は、まずそう呟いた。
手を握ったり開いたりを繰り返し、身体が動くことを確認する。
「よし、四肢の動きや視力共々特に問題なし。で、今の状況なんだが」
「それは私が説明させてもらおうか、お客様」
「うおっ!?」
いつから居たのか。
部屋の片隅には小洒落たテーブルで紅茶の様な物を嗜む女性が居た。
やや既視感のあるその女性。
「・・・魔道具屋の店主か?なんでこんな所に」
「そうだね、まずは自己紹介をさせてもらおう。私の名前はシルヴィア・オーガスト。君の友人達にはシルヴィと呼んでもらっている、君も気軽にそう呼んでくれ」
スーツ姿のその女性、シルヴィはそう自己紹介を済ませる。
「ギルドマスターに頼まれ、共に君達の捜索に来たのだけど。その道中に君の友人達に出会って助けを求められたんだ、よく頑張っていたみたいだね」
「いえ、偶然が重なった結果です」
褒められたものの決して勝利とは言えない勝利だったため、素直に受け取ることが出来ないでいると。
「いや、そうでも無いさ。実際彼らは追い詰められていたし、そうなったのは・・・」
シルヴィが視線をドアへとやるので、つられて俺もそちらを見ると。
「・・・ふるふる」
「そうなったのは、君の行った事の結果さ」
「・・・やっぱりお前が助けてくれたのか」
俺が闇魔法と思わしき物で拘束されていた際に、術者であるフェアツィヒトへと横槍を入れた謎のグランドスライム。
その時にちらと見た、何度か関わることのあったウォータースライムが顔を覗かせていた。
(確かあの上にコイツが乗ってたな。親か何かだったのか?いやでもあそこに連れて行ったの俺なはず・・・)
考えていると、シルヴィは話を続ける。
「他にも君達がグラナット君を助けなければ私達も間に合わなかった。ジレン君達に、それに勿論君の友人二人共。皆君の行動があってこそ助かったんだよ?」
「・・・そうですね、そう言われてしまえば返す言葉も無いです」
優しく諭された俺は気恥ずかしさで目を逸らしてしまう。
「そういえば。君の友人達が凄く心配していてね、諸々と終わったら直ぐに顔を見せに行くといい。ずっと君の傍に居ようとしていたんだけどね?場所が場所だから帰ってもらったよ、申し訳ない」
「そういえばこの部屋って?」
「そうだったね、状況を伝えるのを忘れていた。・・・ココは王城の一室だ。今回の件について色々と王様が聞きたいことがあるそうだよ?」
王城の一室、と聞いて冗談かと思う。だってスライム連れて来ちゃってるし。
嘘だろというふうに俺がいつもの如く震えてーーいや、心做しか緊張しているように震えているスライムを見ると。
「ああ、その子は何やら君に懐いているようでね。正直私も迷ったんだけど、幼体のウォータースライムは実質無害だ。許可を貰って連れて来た」
「ウォータースライムは大丈夫なのか・・・」
「なんせこの城には大型の虎だってーー」
「喋りすぎよ?シルヴィ」
話に割り込んできた声に、俺達は振り向く。
そこに立っていたのは、俺よりも少し年下だろうか。ドレスに身を纏った少女ーーこの国の第二王女がこちらを見ていた。
「おや、これは失礼しましたクィリア王女。・・・セア君、失礼は決してしないでね?」
「・・・マジですか」
唐突に舞い込んできた王族との謁見に冷や汗が流れる、が。
「大丈夫ですよ、セアお兄ちゃん。少しばかり関係は遠いですが従兄妹の様なものです。それにーーいえ、今は良いですね」
第二王女という立ち位置の相手にお兄ちゃん呼びされたら誰だって固まるだろう。
現に、俺は思考を落ち着かせようと必死になっていた。
(お兄ちゃん?お兄ちゃんってあの?待て、素数を数えて落ち着くんだ。・・・あ、俺数学無理だったわ)
困惑している俺を見た少女、クィリアはクスリと笑う。
「セアお兄ちゃんは相変わらずですね。今回もご友人を助けるために体を張ったのだとか」
「ありがとうございます?」
「・・・敬語はやめて欲しいです、セアお兄ちゃん。久しぶりに会ったのに悲しいです」
ムスッと頬を膨らませる目の前の少女に、俺ははて?と疑問を抱く。
(久しぶりにあった・・・?俺王城に来た事なんて無い引きこもりだったが。あれ?そういや昔ーー)
記憶の片隅にある光景。
それは、俺がいつもの様に実家にて剣の鍛錬を父とした後だった。
「はっはっは!セアよ、今日はここまでだ!!ゆっくり身体を休めておけ。ーークレス、お前に客人だ。失礼はするなよ?」
「はっ、父上!」
「・・・やっと終わった、お風呂入って寝る」
そう言って俺と兄は各々庭を出る。
当時の俺は確か十一歳くらいだろうか?
兄と仲のいい国の第一王女が家に来たのだ。
(挨拶とかした方が良いのかな?でも今まで何度か来てたみたいだけど挨拶した事ないしなあ)
まあいいか、と結論付けて部屋に踵を返したときだった。
「・・・きゃっ」
「うおっ!?」
いつから後を着いてきていたのだろうか。
振り向きざまに見慣れない少女とぶつかってしまった。
そこそこな勢いだったため、少女の軽い身体は押されて倒れそうになる。
(ーーマズい、そっちはダメだ!)
尻もちを着く程度なら良かったが、よろめいた方向には大きな花瓶。
もしも少女が倒れてきた花瓶に潰された時なんて考えたくも無い。
「チッ、しゃーねえ」
「えっ?」
俺は少女を花瓶との衝突から防ぐために、自分の身体をどうにかして滑り込ませる。
間抜けな声を出す少女。
彼女の目に俺がどう映っているのかは分からないが。
ーー少なくともその鮮やかな赤と青のオッドアイには、待ち望んでいた相手を見つけたかのような羨望の眼差しが込められていた気がした。
そして、現在。
今俺の目の前に居る少女のその瞳は相も変わらず鮮やかなオッドアイ。
「なるほどな、思い出した」
「ふふ、良かったです」
目の前の少女は屈託のない笑みを浮かべる。
(まさかあの時の女の子が第二王女だったとはな。全く気にしてなかったわ)
なんせあの後近場に居たメイドに引き渡して部屋に籠ったし。
そう意識を完全にクィリアから逸らしていた時だった。
「・・・セアお兄ちゃん、話している時はこっちを見て下さい」
「うお!?」
頬をその小さな両手で挟まれ、目を合わさせられると。
ーー少しでも動けば触れるであろう距離にクィリアの顔が近付いていた。
「話している最中にどこか上の空なのはちょっと寂しいです。なので、私から目を離さないでくださいね、お兄ちゃん?」
「・・・はい」
謎の威圧によって萎縮した俺はそう返すしか無かった。
「僭越ですがクィリア王女。そろそろ主目的を開始せねばならないのでは?」
「そうですね、そろそろセアお兄ちゃんへの事情聴取を始めようかと思いますがその前に。身体の調子はどうですか?」
「ああ、特に問題は無い。強いて言えば筋肉痛が酷いくらいだ」
空気の如く一言も発さなかったシルヴィが提案をし、事情聴取が始まった。
「ーーでは、戦った相手は『八冊の教典』を名乗りませんでしたか?」
「っああ、確かに。二人共自らを名乗る際にその前置きをしていた」
「・・・ちなみに、名前はなんと言っていましたか?」
「そうだな。仮面を被ったピエロがロノウェ、ぬいぐるみを持った少女がフェアツィヒト。そう名乗っていた」
「ロノウェっ!?・・・すみませんクィリア王女。取り乱しました」
ロノウェの名に対し、その端正な表情を歪めて過敏に反応をするシルヴィ。
「いえ、仕方ない事です。ーー道化師ロノウェ、悪辣の具現。繁栄の国リヴェルディアを一週間で地獄へと変えた男、そのような者が現れたのであれば一大事です」
「直ぐ様王へと報告をして来ます。・・・セア君、次会う時はお客様だ、魔道具屋「灯火の鈴」をよろしくね」
そう言うやいなやシルヴィは駆け足で部屋を出る。
取り残された俺とクィリア。
(・・・割と気まずいな)
なんせ相手はこの国の第二王女、そんな相手と二人きりなぞヘタな事をすれば打首だろう。
「緊張しなくても良いんですよ?セアお兄ちゃん」
「そう言われてもなあ・・・」
「ふふ、では次の質問をしますね。『八冊の教典』は一体何をしてーー」
俺の緊張なぞ蚊帳の外、静かに事情聴取は進んでいった。




