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第二話 旅先、新たな家族との出会い

 誰かに呼ばれているような気がして、意識が急速に復活するのを感じた。


 ゆっくりと目を開く。

 ここは病院なのだろうか。見慣れない天井が視界に映る。


(助かった、のか・・・?あの状況から?)


 朧気に蘇る記憶。確かに俺は、あの警官を装った男に滅多刺しにされたはずだ。


(奇跡的にナイフが急所を全部外したとか・・・そんな訳ないだろ)


 そう思い、刺されたはずの胸を見ようともがく。が、起き上がることが出来なかった。

 それこそじたばたとは出来るが、全身の筋肉が抜け落ちたかのように力が一切入らないのだ。


(ぐぬぬぬ、全く起き上がれない。やっぱり身体がズタボロなのか?まあそうだろうが、せめて周りの確認だけでもしたい)


 そう思い。ふんぬっ、と気合を込めた声を上げたつもりだったのだが。



「おぎゃあぁっ、おぎゃああっ!」



 口を開いても出た声は、まるで赤ん坊の泣き声のようで。


(・・・は?)



「おぎゃあっ、おぎゃあぁっ!」



 口を閉じようにも脳からの信号がそれを邪魔する。

 部屋に響く自分のものらしき泣き声。


 一体これはどういう事だ、まさか刺されたショックで幼児退行でもしてしまったのか。と困惑していると、ガチャリ、と部屋の扉が開く音がした。



「こんなに泣かれて。どうなさったのでしょうか?」



 声が聞こえると同時に、一人の女性が俺の顔を覗き込んで来た。

 動かしづらい首を無理やりにでも懸命に動かして、その女性を確認する。


 看護師だったら良かったのだが。

 その女性は、何故か俺には見慣れない服一一メイド服を着ていた。


 その黒い髪を邪魔にならないように肩ほどで切り揃えたメイドは、俺を()()()()()()俺を持ち上げる。

 首から背中にかけて感じるメイドの腕は、明らかに俺のものよりも大きく。


(いや。・・・俺が小さくなったのか?)


 そう、自分が赤ん坊になってしまっている事を察するまで、少なくない時間を要してしまったのは仕方の無いことだろう。






 一一さて、メイドによって運ばれた先に待ち構えていたのは。



「あらあら、セア。こんなに泣いちゃって。そんなにお母さんに会いたかったの?」



 そう微笑む、俺の母親だと(のたま)う女性だった。


(誰だ。この絶世の美女は)


 こちらを覗き込むその双眸(そうぼう)は、綺麗な金色の瞳をしていて。

 三つ編みにして肩から前に下ろしている金の髪束は、まるで上質な絹の様に淡く光を反射させていた。



「クラリスタ様。ご子息様がお泣きになっていたのでこうやって連れてきた次第ですが・・・」



「大丈夫よセシリー、ありがとう。ほら、セア。おいでなさい」



 そう言い、クラリスタと呼ばれた女性は俺を抱きかかえる。

 俺をそっと離した、セシリーと呼ばれたメイドは一礼をして部屋を出る。


 一一こうして俺はこの絶世の美女と二人きりになった訳だが。


 少なくとも俺の母親は、金髪ではないし。ましてや失礼だがここまで美人では無かった。


 なにより、俺の状況を決定づけてしまったのは。



「セア。そんなに泣いては折角の貴方の綺麗な顔が台無しよ?」



 そう頭を撫でながら微笑む彼女の瞳には、赤ん坊が。

 正確には、赤ん坊となって抱きかかえられている俺の姿が映っていた。


(・・・やっぱり俺、生まれ変わったのか!?)


 少しは覚悟していたとはいえ、衝撃は大きい。

 余りの衝撃にまた脳から信号が発されたのか、口からは先程までと同じ泣き声が出てしまう。



「あらあら・・・ご飯はさっきあげたから、眠いのかしらねぇ・・・」



 俺を泣き止ませようと、あやすように身体を揺らしながら、彼女はその穏やかな声で歌う。



「一一一♪一-♪」



 その歌を聴くと、俺は何故か急な眠気と絶大な安心感に襲われる。

 そして、そのまま深い眠りに着くのだった。






 あれから約一ヶ月。俺は、最初に目が覚めた時にもいた部屋でゴロゴロとしていた。

 正確にはゴロゴロとしているしか出来ないので渋々とそうしているだけなのだが。


 この一ヶ月間はかなり辛かった。主に精神的に。

 考えてもみてほしい。俺は肉体は生後数ヶ月としても、精神年齢的にはもう20歳の頃合だ。


 その思春期も終えた頃の感性で、泣く気も無いのに夜泣きをし。

 トイレがしたくても動けないため、美人なメイドにおしめを変えられ。

 極めつけには、お腹が空く度にクラリスタさんから母乳を頂く。


 俺のメンタルはもう既に賢者のごとく悟りを開いていた。


(無心だ・・・無心になるんだ。物心がついて自分の意思で身体を動かせるようになるまで、俺の意識は奥底に眠らせよう・・・)


 そう考えていると、部屋のドアが勢いよく開けられた。



「おお!セア!元気にしてたか!!」



(誰だこの騎士のオッサンは)


 そこには。兜を小脇に抱えた、鎧に全身を包んだ筋骨隆々、金髪の大男が立っていた。


 明らかにゴツゴツとしたその鎧を来た男は、兜を窓際に置くと俺の方へと手を伸ばして一一


(待て待て待て、コイツその鎧を着たまま俺を抱きかかえる気か?当たり所が悪かったら普通に血塗れになりそうなんだが?)


 俺の第二の人生、ここまでか。ふと諦観に近い物を抱いた時、救いの声が。



「お父様、抱きかかえる際は鎧を脱いで下さい」



 その声がする方へと視線を向ける。

 そこには、まだ小学生くらいだろうか。幼いながらも剣を携えた男の子が俺を守るかの如く大男を手で制していた。


(ああ、この大男の息子か。大変そうだな、頑張れよ)


 図らずとも救いの神となったその少年へと微笑みを向ける。



「・・・っ!お父様、セアが僕に微笑んで下さりました!」



「何っ!?セア、ほら、お父さんだぞ!俺にも頼む!!」



 スン、と真顔になってしまう。


(嘘だろ、この明らかに脳筋な大男が俺の父親か。下手なハリウッド俳優なぞ目じゃないくらいのコイツが?)


 となるとこの少年は俺の兄か。

 しっかりと両親の血を継いでいて、綺麗な金髪に端正な顔つきだ。立派な立ち振る舞いからも気品の高さがうかがえる。


 さぞ将来は引く手数多だろうな。等と考えていると、いつも俺のお世話をしてくれているメイド、セシリーがドアを開けやって来た。



「お帰りなさいませ。リカルド様、クレス様。此度(こたび)は長らくの遠征より無事帰還したこと、心よりお祝い致します」



 いつも通りの優雅な一礼。



「セシリーか。ここ最近のセアの調子はどうだ?全く俺に笑ってくれないのだが、立派な騎士になれそうか?」



「ええ、毎日しっかりと食事、排泄、入浴、睡眠。どれも特に嫌がることも無くこなしてくれています」



「そうか。・・・ちなみに、セシリーはセアの笑顔は・・・」



「大変愛らしい笑みを浮かべていました。将来が楽しみでございますね」



 残酷な一言を聞いた大男、リカルド・ティルティフォン。彼は膝から崩れ落ちた。

 その瞳からはさめざめと涙を流している。


(この人達が俺の家族か。なんとも明るい家庭だな)


 そう自然と感じてしまうのも無理はない。



「あっ、お父様!セアが笑っていますよ!」



「何、本当かっ!?ああ、セアよ、お前は(さと)いな!きっと立派な騎士となれるぞ!いや、宮廷魔導師でも良いかもな!!」


「リカルド様、セア様を抱きかかえる際は鎧をお脱ぎ下さい」



 騒がしいな、と思うが不思議と悪い気持ちはしない。

 それよりも俺は、この第二の生を。


(ああ、柊。お前の言っていた通りだ、新たな地には出会いが付き物だな。俺、頑張るな)


 そう、今は見えない地に居るであろう俺の人生を変えた彼女へと誓うのであった。



・ステータス

 名前 : セア・ティルティフォン

 天職【旅人】


 レベル : 1

 HP : 1/1

 MP : 1/1

 筋力 : 1

 防御 : 1

 魔力 : 1

 対魔力 : 1

 敏捷 : 2


 天職スキル ???

       ???

       ???

       ???

 スキル なし


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